本人の働く意欲を何よりも大切にし、その人その日の体調やペースに合わせ、
事業所全体で受け入れることで継続雇用が実現した!
- 事業所名
- 有限会社やすらぎの郷
- 所在地
- 千葉県館山市
- 事業内容
- 認知症対応型共同生活介護サービス
・訪問介護ステーション
・有料老人ホーム
・居宅支援事業所 - 従業員数
- 19名
- うち障害者数
- 2名
障害 人数 従事業務 視覚障害 聴覚・言語障害 肢体不自由 内部障害 知的障害 1 介護士(介護業務全般) 精神障害 1 介護士(介護業務全般) 発達障害 高次脳機能障害 難病等その他の障害 - 目次
![]() 事業所外観
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1. 事業所の概要・障害者雇用の経緯
(1)事業所の概要
有限会社やすらぎの郷は平成15(2003)年2月「高齢者と障害者との共同」を理念に開設された。ホーム長の地元である地域に家庭的環境の中で身体的処遇と心の活性化、そして家族の心身の休息を目的に、ゆっくり、いっしょに、たのしく「一歩、いっぽ」と励まし合える笑顔で「利用者の笑顔が得られる最善のサービス」の提供に努め事業を展開している。
訪問介護ステーション、有料老人ホーム、居宅支援事業所が主な事業内容で施設内には認知症の高齢者10名が暮らしている。私たちが年齢を重ねた時に家庭的な環境の中で変わりない暮らしがしたい、誰もが思う願いを実現できるようサポートをしている。
(2)障害者雇用の経緯
ホーム長は、平成2(1990)年7月から平成11(1999)年11月まで知的障害者の施設(当時の更生施設)において職員として勤務しており、事業所設立の原点はこの施設での勤務だったという。この頃より高齢者(認知症)と障害者とのコラボレーション(共同や協力)を描き、あらゆる分野で活動の枠が広げられたら素晴らしいことではないだろうか、就労の場を築き障害者の自立向上に貢献していきたいという展望を持っていた。
施設という枠の中で安心した生活を送っていくことは、本人や家族にとっても安心だとは思うがそこに自立心は芽生えにくい。心地よい環境に慣れ過ぎると社会へ踏み出すことを躊躇し勇気が薄くなり、不安ばかりが大きく膨らみ、就労意欲が欠ける可能性も考えられる。一歩踏み出す勇気と支援員も後押ししてあげる勇気を持ち、本人の潜在能力を引き出すきっかけ作りも大切なことだと感じていた。
そもそも障害者も一人の人間である。地域で自立し生活するためには一般企業に就労することも大変重要である。
障害者が一般就労して能力を発揮し職業活動に参加するためには障害の種別や程度、希望や適性、職業経験などの条件に応じた職業指導や訓練、職業紹介や就労後のアフターケアなど、今では当たり前に考えられる内容ではあるが、当時からホーム長はその必要性を感じ「老人」と「障害者」の共存を考えながら事業展開をしていくこととなった。
当事業所を開設後、筆者が勤務する法人の知的障害者施設とは緊密な連携が生まれ、施設の利用者の社会体験の場として、当事業所において清掃、洗濯、食器洗いといった業務内容で、常に障害者3名が土日も含めシフトでアルバイト勤務をするといった取組みを行い、多くの人が貴重な体験をするようになった。
2. 施設職員の障害者雇用への理解
ホーム長は、障害者の受け入れについて、難しく考える必要はないと考えていた。その人の働きたいという意欲さえあればいいという考え方がベースにあり、当然、他の職員の理解が得られるように意思の疎通を図ることとした。
障害者が一人の社会人として自立に向け就労することは、雇用する側も雇用される側の立場に立ち、対等な関係でまずは信頼関係を構築することである。また、働きやすい職場作りを心がけ、就労する人の何事にも責任を持たなければならない。怪我が無いように通勤経路を確認し、勤務時間内の仕事の把握や働く意欲と能力の向上が目指せる環境作りや、「障害者だからこれくらいしかできないだろう」といった考えではなく、一社会人としての人権(人間が人間として生まれながら持っている権利)を尊重することがもっとも大切として、職員に施設として取り組んでいくことの理解を図った。
事業主として、職員と障害者との良好なコミュニケーションを図れるように休憩時間を共に取るように調整し、職員との会話もしやすいような体制も考えていた。「できること」ではなく「できないこと」に目が行きがちになるが「していること」「できていること」に目を向け、本人の能力に合わせて一緒に行ってみることや、判断力が欠けている時には助言や情報を提供し障害者自身の自主性向上も併せて事業所として取り組んでいきたいと考えていた。当事業所として大切にしていたことは「仕事への意欲」「途中で諦めず最後までやり通す」「失敗してもまた挑戦する」である。
3. 障害者の就職までの経緯と業務内容について
(1)障害者の就職までの経緯について
当事業所の障害者雇用は2名で、知的障害者Sさんと精神障害者Iさんである。
Sさんは施設入所しながら当事業所で清掃のアルバイトをして経験を積み就職し、その後ヘルパー2級の資格を取り、自立した生活を送るようになった。
Iさんは介護福祉士の資格を取得し、一般雇用で就職をしたが、その後に統合失調症になり離職。その後障害者就業・生活支援センターに登録をし、支援を受けて就職した。
- Sさんの経緯
Sさんはアルバイトとして清掃業務を1年間行い、その後就労意欲があることからパートとして当事業所で勤務するようになった。ヘルパーの資格取得を目指し、1年かけて勉強に励み、特に実技に関しては難しいようであったことから、事業所内で練習も重ね資格を取得するようになった。
また、勤務時間は9時30分から16時ではあるが、通勤は事業所職員が業務で市内に出る際に自宅近くで同乗させ、帰りも職員の業務に合わせて帰宅するため終業時間が前後することもある。火・木・土の週3日勤務である。生活は家族と今は同居で、通勤面での自立という点ではまだまだという部分ではあると思うが、自立に向けての一歩は踏み出したと言えよう。
- Iさんの経緯
もう一人のIさんについて詳しく触れたいと思う。筆者がIさんと関わりを持つようになったのは平成24(2012)年の3月である。Iさんの母親から電話相談があったのが始まりで、「仕事を始めてから病気を発症し仕事を辞めた。介護福祉士の資格もあり介護の仕事をしたいと言っている。障害を理解してもらえる中での就職を望み、施設利用ではなく就職させてほしい」との内容であった。Iさんからも早く就職がしたいという希望だった。
まず筆者は、Iさんが利用中の就労継続支援事業B型事業所に問合せを行った。また、通院先の担当医を交えて就労に向けて協議を行う中で、Iさん独自で介護系にこだわらず就職活動を行うも実らず、筆者が勤務する障害者就業・生活支援センター(中里)へ相談してきたとの経緯を知った。そこで、Iさんが利用中のB型事業所と相談し、本人の意向を踏まえて実習から行うこととし、当事業所に職場実習の受入について相談を行った。
当事業所からは働きたいという意向なら受入れを検討していただけるという回答をいただき、後日、本人と母親と共に当事業所を見学した。自宅から車で1時間近くかかる場所ではあったがやってみたいとのことで、実習の期間はあえて設けず本人の状況に応じて決めていくことにした。
実習では、出勤はするも体調不良で帰宅することや仮眠をとりながら行なうこともあり、Iさん自身考えこむこともあった。しかし1日のスケジュールをこなすことができなくてもホーム長は「全て本人の思うとおりにやらせてあげることもいいのでは」と実習日や実習時間も本人の要求を受け入れながら進めた。
また、実習を進める中で「本人との距離」を意識して対応するようにした。本人が実習中のできごとをその場ですぐ家族に電話をしていたことを知り、仕事中に起きたことは職場の人に相談し職場内で解決するように助言し、私もあえて訪問の時間や日数を少なくして職場へ対応を一任した。入居者と接するだけでも徐々に自信がつくだろうし、今はそれ以上求めずに周囲も静かに「見守る」ことにし、仕事に関する質問がなくても職員の行動を追いながら徐々に覚え、自ら動き、質問をしてくるようになるまで周囲は「見守る」ことを続けた。
実習も1カ月を迎え、筆者は今後について、事業所側と相談した。当事業所は小さな事業所で時間に追われることもないから、ここで自信をつける意味で本人の意思次第で雇用したいとのことだった。Iさんは6月からステップアップ雇用で月・水・金の11時~16時の1日4時間、週12時間勤務でスタートすることになった。
就職後も実習の時と同様に「本人のやりたいようにしてもらう」が基本であった。時間延長については3カ月が過ぎた9月から終了時間が17時までと1時間延長で週15時間勤務になった。そしてこの頃から少しずつIさんに変化が見られるようになってきた。
入居者との会話に笑顔が多くみられ、他職員の考えや意見を聞いて業務を進めるようになったのだ。定着支援に行ってもその変化にはすぐに気付くほどであった。ホーム長に対しても「~してもいいですか」と問いかけを行い、仕事に対する「自主性」が見えるようになった。11月からは日暮れが早く通勤面を考慮して9時から16時とし、週18時間勤務となった。始業時間が早くなったが体調を崩すこともなく翌年の2月からは16時半までの週19.5時間勤務になり、4月からは9時~17時までの週21時間勤務となった。現在は8時半から17時まで勤務しており、土曜日に出勤することもある。
ホーム長は、もうどこに行っても通用するだろうと、当事業所を卒業して自宅に近い他の事業所へ転職も勧めたが、Iさんは1時間の通勤があってもここで働きたいと希望を述べた。いまや、職員誰もが認める立派な介護士である。
Iさんは入居している高齢者の方達から信頼され、そのことがIさん自身に「自信」を持たせ笑顔が絶えないことにつながっているようにも見える。また、周囲も喜んだのは定期的な通院は行っても薬の処方がなくなったことだった。
(2)業務内容について
Iさん及びSさんはともに同じ業務内容である。2人一緒に業務をすることは今のシフトではほとんどないが、今後勤務日数が増えると共に行うことが出てくるかもしれない。
下表にある運動支援は入居者から体を動かしたいというリクエストがあり、Iさんが座ったまま体操や運動のできる内容を考えて支援をしている。また、施設内には多くのネコがいて家庭的な雰囲気をより感じさせてくれている。
≪IさんとSさんの一日の流れ≫
8時半~9時15分 | 業務日誌の確認 朝食のために食堂への誘導・食事介助 食事後の服薬・ディールームへ誘導 |
9時15分~10時30分 | 検温と血圧測定 測定後ディールームで運動支援や余暇支援 |
10時30分~12時 | 喫茶活動 午後の入浴支援の準備(浴室の準備と着替えセット) 喫茶活動の片づけ |
12時~13時 | 昼食のため食堂へ誘導・食事介助 食後の服薬・ディールームへ誘導 |
13時~14時30分 | 入浴支援 |
14時30分~15時30分 | 喫茶活動 喫茶活動の片づけ |
15時30分~16時15分 | 更衣介助 ディールームで運動支援や余暇支援 |
16時15分~17時 | 夕食準備・配膳準備 |
17時 | 退勤 |
![]() 食事介助の様子
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![]() ネコによる癒やしⅠ
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![]() 運動支援の様子
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![]() ネコによる癒やしⅡ
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4. 今後について
Sさんは通勤に関して、自主通勤を目指し今後取り組んでいきたいとのことである。ホーム長も当事業所でのアルバイト勤務から資格を取って自立し、自ら考えて業務をこなしていくようになったことと、高齢者と積極的に向き合っている姿は何よりもうれしく思うと言っている。
Iさんは週5日8時間勤務ができるようになりたいし、これからもここの事業所で仕事をしたいと言う。また以前は失敗をすると周囲から責められるのでないか、常に周囲を気にしていたというが今は安心感があるという。その安心感があるから周囲からは自信を持って仕事をしているように見えるのでないか。
筆者自身、当事業所と関わりを持つようになってから多くのことを学んだ。障害者雇用をするうえで相手の考えや意見を受け入れ見守ることの大切さ。また、その間に答えをすぐに求めないことである。言葉では簡単であるが我慢がしきれずに、つい結果を支援者自身が先走って求めてしまう。そうではなく、就労支援をしながら支援者自身も共に学び、共に歩み続けるのであると改めて気付かされた。
執筆者: | 社会福祉法人 安房広域福祉会 障害者就業・生活支援センター中里 就業支援員 金木 隆裕 |
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