「知的障がい者雇用が職場にもたらしたもの」
- 事業所名
- 医療法人社団有心会 有田病院
- 所在地
- 新潟県新発田市
- 事業内容
- 診療科目(精神科・神経科・内科、入院定床 220床、精神科デイケア)
- 従業員数
- 187名
- うち障がい者数
- 2名
障がい 人数 従事業務 視覚障がい 聴覚・言語障がい 肢体不自由 内部障がい 知的障がい 2 厨房内の環境整備、盛りつけ、下準備、仕込み等 精神障がい 発達障がい 高次脳機能障がい 難病等その他の障がい - 目次
![]() 病院外観
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1. 事業所の概要
当法人有田病院は昭和33(1958)年、新発田市街五十公野の田園地帯を潤す加治川の上流に開設された。以来、今日まで数次の増築、増床を重ねてきた。
医療の倫理に基づき精神科病院の使命である「障害者の人権の尊重」、「社会復帰の促進」を大きな目標として運営を進めている。平成12(2000)年の病棟の改築により、病棟を症状に応じ機能分化させ、充分な専門性が確保されることにより一段と生活の質(QOL)の向上が実現できるものと考えている。
(1)有田病院 理念
地域に密着した精神医療の実践を通し、住民の医療・福祉の向上に寄与する。
(2)基本方針
- 障害者の人権・プライバシーの保護
- 障害者の社会復帰の促進
- 医療の安全性・公平性の確保
- 地域の関係組織との連携
- 職員の自己研鑽の推進
2. 障がい者雇用の経緯と経過
「地域に密着した精神医療の実践を通し、住民の医療・福祉の向上に寄与する」という事業所理念に基づき、企業の社会的責任の一環として障がい者の雇用を進めるべく、ハローワークなど関係機関の協力も得ながら取り組みを開始した。
障がい者雇用の進め方としては、
- 職域の選定
- 事業所内職員への啓発
- 採用活動
- 職場定着
- 勤務時間延長
と段階的にステップを踏みながら計画的に進めた。
当院として、障がい者雇用を計画的に進めるのは初めてなので、職域の選定の段階で検討を重ねた。検討において、栄養管理科の職域での雇用が候補に挙がった。
栄養管理科は、障がい者雇用という位置づけはしていなかったが、以前にも、調理補助員(パート職員)として数名が就労していた経緯もあった。また、業務内容の中で補助的な仕事が見つけやすいこともあり、職員の配置人員の状況から栄養管理科での雇用が決定された。
栄養管理科は、有田病院の入院患者、デイケアセンター通所者と併設の介護老人保健施設いいでの里の利用者の食事を提供しており、食事内容も多岐にわたり、一般食・軟菜食・キザミ食・ゼリー食、特別治療食等があり、一日延べ850食を調理し配膳を行っている。栄養管理科の職員の内訳は、調理師13名、調理補助員(パート職員)10名、栄養士3名、事務員1名の構成で毎日交代勤務での作業を行っている。
2人は調理補助員(パート職員)として平日の1日5時間勤務での採用となった。
当初、知的障がい者2名を採用し受け入れることに対し、コミュニケーション面など不安もあったが、新潟障害者職業センターや障がい者就業・生活支援センターアシスト、就労移行支援事業所などの支援機関と幅広く連携し職場実習、トライアル雇用と段階的に進めたことで順調に職場定着することができている。
(1)取組の具体的内容
- 担当窓口の設置
障がい者を雇用するにあたって、臨床心理士を改めて担当者として配置した。これにより、2名の当事者と勤務する栄養管理科へのサポート、ハローワークや障がい者就業・生活支援センター、ジョブコーチなど関係支援機関の窓口役となり、相談や問題点などの解決へ向けて取組む「かけはし的」な役割を果たすことができた。
- 受け入れのための職員研修会
職場実習に入る前に、栄養管理科の現場で受け入れるにあたり、障がい者への対応方法を学ぶため、新潟障害者職業センターの主任障害者職業カウンセラーを招き、障がい者雇用を進めていくための研修会を開催した。
実習開始後は、2人が就労移行支援事業所を利用していた頃から良く知るジョブコーチから、2人の障がい特性や性格、有効的な指示の出し方などの具体的な接し方など情報を共有するために科内全体の研修会を実施した。
2人に対しても、1ヶ月に一回程度、定期的に時間を設定しジョブコーチを交えて栄養管理科の科長や主任と話し合いの場を設け、現状の確認や今後に向けた検討を行った。
- 常用雇用へ向けた指導体制
採用に向け、まずは『新潟県職場実習制度』を活用して1ヶ月程度の実習期間を設定し、その後、3ヶ月の『トライアル雇用』を経て常用雇用となった。
実習期間中は、調理主任が指導役となりジョブコーチの現場での支援も得ながら重点的に指導した。
トライアル雇用期間は、指導役が調理主任から他の職員へと代わり、ジョブコーチの訪問回数も徐々に減らしていった。
栄養管理科の勤務は交代制なので、指導する側も毎日代わり、時間帯によっても異なる職員になるので、2人には指導する職員を番号で決め、番号を覚えてもらい仕事を行った。初めは番号や、名前と顔を覚えるのが大変で、その都度調理主任が勤務表を基に番号と名前を教え、確認しながら進めた。
- 作業習得に向けた工夫
作業習得に向けた工夫としては、2人の一日の流れの作業工程表を厨房内に大きく貼り、誰が見てもわかるようにした。また、複雑な仕事内容などは、マニュアル化するなど2人に理解できるように紙に書いて厨房内に掲示した。
作業工程表配膳セットマニュアル
(2)障がい者2人の中心的な作業
- 環境整備
厨房内を消毒液で拭く掃除と床掃除。
- 盛り付け
昼食で使用する食器を数えてセットする。ゼリー食を食器に盛り付けるなど。
- 仕込み
下処理された野菜を、フードスライサー等の器械にセットしさらに小さくカットする。カットした野菜の洗浄作業や、収納も行う。
- 下膳作業
昼食の食べ終わった食器を、同じ種類に仕分け、分別する作業。
盛り付け作業①盛り付け作業②
3. 取組の効果と今後の課題
(1)取組の効果
2人が働き始める前は現場に不安もあったが、支援機関と連携しながら段階的に進めたことで現在まで順調に勤務することができている。また、職場内も雇用する前に比べ、職員が周囲に対し気配りできる雰囲気で働きやすい職場となってきており、2人の元気の良い挨拶が他の職員の仕事への意欲にも繋がっている。
仕事内容も、最初は小さな切り傷や、火傷などもあったが、今ではそれもすっかり減り、現場サイドからも2人は十分な戦力として認められている。
2人の雇用から、職員は「指導や教育をきちんとしなければならない」、「お手本となるような仕事をしなければならない」という意識が芽生え、良い意味で緊張感が生まれ、職員全体のレベルアップにも繋がった。
また、2人が栄養管理科にとって増員という形で入り、補助的な作業に徹してもらっているため、現場が効率的に機能し調理にも余裕ができ、より良い食事提供が実現している。
![]() 仕込み作業①
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![]() 仕込み作業②
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![]() 洗浄作業
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(2)今後の課題
今後も継続して雇用していくために、2人を自立した職業人として職場に必要な人材となるように育てていきたい。そのためにも、状況に応じた指導方法など、もっと障がい者についての知識を深め、お互いに理解しあえるようになる必要があると考えている。
4. 最後に
今回2人を同じ就労移行支援事業所から雇用し、ジョブコーチも同じ事業所から支援に入っていただいた。年齢は2人とも20代前半で、同じ事業所からということもあり、「一人ではない」という安心感があったことと思う。
当院としても、若い2人を焦らずに時間をかけてゆっくり育てて、末永く雇用したいと考え、まずは休まず元気に出勤できることを目標にし、安心して働ける職場環境を目指した。
栄養管理科は比較的年配の職員が多く、ついつい親のように接してしまうことも多く、2人に優しく接することはできたが、どこまで厳しく指導して良いのかわからず、注意するという部分は、ジョブコーチに頼りっぱなしになってしまった。
2人ともトライアル雇用の頃までは、体調不良等で早退なども多かったが、ジョブコーチや障がい者就業・生活支援センターアシストの職員に話をしてもらい、今では多少の体調不良では休まないほどの精神力を持ち合わせてきており、早退等はなく毎日元気に出勤し、勤務時間の延長も決定している。
執筆者: | 医療法人社団有心会 有田病院 栄養管理科 調理主任 船山 慎悟 |
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