障害者雇用の定着、障害者の戦力化はジョブコーチとの密な連携にあり
- 事業所名
- 甲斐食産株式会社
- 所在地
- 山梨県笛吹市
- 事業内容
- 食鳥の処理・加工及び販売、食肉及び加工食品の販売、ブロイラーの雛・飼料・動物医薬品・燃料・飼育器具機材の販売
- 従業員数
- 124名
- うち障害者数
- 8名
障害 人数 従事業務 視覚障害 聴覚・言語障害 肢体不自由 内部障害 1 ライン作業 知的障害 7 ライン作業、清掃、カゴ洗浄 精神障害 発達障害 高次脳機能障害 難病等その他の障害 - 目次
![]() 事業所外観
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1. 事業所の概要、障害者雇用の経緯等
(1)事業所の概要
- 事業内容
昭和62(1987)年7月に創業し、山梨県内外28カ所の生産農場から生鳥の供給を受け、屠鳥、解体、加工作業を通して鶏肉およびその関連商品を販売できるまでの一貫した生産工程を持つ。
- 企業理念、品質方針等
「顧客満足」、「法令遵守」を基本理念として、品質マネジメントを構築している。
「品質方針」は、「顧客のニーズと期待、および法規則等の要求内容を把握し、私たちが商品を作りこむ際の要求事項を明らかにし、これに満足する商品を提供し続ける」である。これらを基本として、工場、生産農場に次のような措置を実施している。
- ○工場
「衛生管理マニュアル」を柱に、従業員の健康管理から工場周辺管理まで「食品の安全・安心」を確保するために工場管理、製品管理をシステム化し運用の徹底を図る。
- ○生産農場
「生鳥の品質についての基準書」に基づき、以下をクリアしている。
「家畜伝染病予防法」、「家畜飼養衛生管理基準」、「飼料安全法」等の関係法規を遵守し、家畜の衛生管理と飼料の適切な供給を通して消費者に安全を保障する。
また、生産農場には次のような社内基準を設けて、対応してもらっている。
- 当社指定資材による飼養
- 当社計画および指示の遵守
- 飼養状況のトレーサビリティシステムによる定期報告
「適切な衛生管理の下に、健康に育った鶏肉が最も美味しい鶏肉である、と考えて管理する。」
- ○工場
(2)障害者の雇用の経緯およびその背景
今回の事例収集に当たって対応してくれた人事担当者が当社に入社したのが平成17(2005)年である。その時すでに在職していた障害のある社員1名はもともと障害のない社員として入社したのだが、業務外のスポーツ中に心肺停止状態に陥り緊急手術を受け、その後ペースメーカーの装着を余儀なくされることになった。職場復帰後はペースメーカーの作動に影響を及ぼさない環境下で通常の業務についている。
当社の具体的な業務内容は、生きた鳥を屠殺して加工処理し、鶏肉商品として販売することができるまでの一連の工程である。したがって当社の求人票を見て応募してきた人には当然のこととして仕事の内容を具体的に説明し納得したうえで入社してもらうが、実際に就業すると短期間で離職してしまう人も多く、人事担当者としてはいつも要員の確保に頭を悩ませている。
現在当社には7名の知的障害者が働いているが、彼らの就労機会が増えていったきっかけになったのは、ある日突然かかってきた一本の電話だった。電話の主は、障害者の就労支援をしている福祉施設の職員で、話の要点は「知的障害者を雇用してもらえないか?」という内容であった。電話があったのは、人事担当者として安定した人材確保のために東奔西走していたときだったこともあり、その電話の主には「仕事は教えるが会社としては一定以上手をかけられない」という前提で面談の機会を持つことになったのである。
面談に当たっては、電話の主である障害者の就労支援施設の職員も同行して来たが、その職員からは職場実習を受け入れてみてもらいたいことと、その際には山梨障害者職業センターのジョブコーチ支援事業の活用を紹介された。ジョブコーチ支援の内容がちょうど「一定以上手をかけられない」という人事担当者の気持ちに合致することがわかり、まず山梨障害者職業センターにジョブコーチの活用について相談した。相談に当たっては、当社の障害者雇用に係る基本的な考え方を理解してもらい、実習段階から就労希望者に対して関与してもらうことを要請した。この要請をうけ、ジョブコーチは受け入れ当初に本人と一緒に作業現場に入ってもらい、その中で障害のない社員が指導しながら本人の能力や適性を見極めることになったのである。
実習指導の結果、本人の意向や仕事に対する気持ちを確認し、就労の適性についてジョブコーチからの助言も参考に判断し、トライアル雇用に移行することになった。さらに3ヶ月のトライアル雇用期間を経て期間終了時には、再度本人を交えて本人の仕事に対する意気込みや本人の仕事に対する適性および社会人としての適性を総合的に判断し直接雇用に移行することになったのである。このように実習段階から本人とジョブコーチそして当社が三位一体となって徹底して指導・育成を行った結果、トライアル雇用に至った障害者はその期間終了時においてほぼ全員が正規雇用へ移行している。
2. 取り組みの内容とその効果
当社の製造ラインは、生きた鳥の屠殺から始まって鶏肉製品としての出荷までさまざまな工程がある。その中で障害者が主に携わっている仕事は、各工程でのライン作業や使用するかご(コンテナ)の洗浄作業および作業現場での清掃作業が中心となる。新たに採用した障害者が作業現場に配置され、実習に始まり、トライアル雇用から正規雇用に移行するまで、戦力の一員となるために本人の努力もさることながら、障害のない社員やジョブコーチをはじめとした周囲の支援・協力があって就労が実現している。障害のある社員に対しては一社会人としての常識をわきまえるための指導も社内において併せて行っている。
また、障害のある社員は日々の通勤の問題も克服しなければならない。現在就労している知的障害者7人の就業時間は一日8時間。当社の立地条件は交通の便が悪く、比較的近間から通勤するものは自転車を使用しているが、中には電車、バスを乗り継いで通勤している障害者もいる。これら障害のある社員にとって慣れない公共交通機関を利用しての通勤もジョブコーチらのフォローもあり、一人で間違いなく通勤できるようになっている。
さらに、知的障害のある社員の特性として障害のない社員と比較すると作業能力が不足していたり、新しいことがなかなか覚えられなかったりというハンディキャップもある。そのため、本人に過大な負荷がかかることがないように、作業内容や量を検討しながら徐々に増やすなどの配慮をしている。また、当社では障害者に対する業務上の指示や注意、伝達等は本人たちの上司にあたる班長以上の職責のものに限定することで指示が複雑にならないよう、社内でも徹底を図っている。現在、同僚とのコミュニケーションも円滑にできており、仕事の手順を覚え、会社にとって非常に貴重な戦力となっている。すなわち知的障害のある社員も会社の指示する仕事ができ、通勤もきちんとできれば障害のない社員と比べても会社の一戦力として決して遜色はないと断言できる。
<カゴの洗浄作業の様子>
コンテナ洗浄作業では、ローラーコンベアにカゴを載せ、自動的に洗浄機の中に移動し機械の中で高圧水で洗浄される。カゴは用途によってさまざまな高さのものがあり、機械に付属するハンドルをまわして投入口の高さを調整するが、右に回したハンドルを逆に左に回すときに左側についている黒い取手のレバーを下に下げながら回さなければならず、レバーを下げながらハンドルを左に回す作業が障害者にとって覚えにくいが、立派に覚えて問題なく作業をこなしている。
![]() コンテナ洗浄作業の様子
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![]() 用途によってさまざまな高さがあるカゴ
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![]() ハンドルをまわして投入口の高さを調整
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当社の賃金制度においては、社員区分によって正社員用、パートタイマー用、外国人用それに障害者用の4種類の制度がある。これらの区分は就労形態や携わる業務内容、仕事の遂行能力等が異なるため設けている。しかし、人事考課制度は社員区分のいずれも問わず全社員に対して毎年実施しており、障害のある社員もその例外ではない。障害者の賃金制度に限定すると、賃金は時間給制である。しかも障害者に対する最低賃金の減額の特例許可制度は利用しておらず、従前より採用時の時間給は最低700円からとしている。この700円からのスタートは数年前当県の最低賃金が650円台だった頃から適用していたが、山梨県の平成25(2013)年10月18日発効の最低賃金は、前年の695円に対し11円アップして706円となったため、700円の時間給者に対しては即日710円以上に改定した。人事考課については、比較的障害が軽いものについては、本人評価と班長および課長の3段階で評価される。それに対し障害の程度が重いものについては、本人評価はせず班長と課長だけの評価となる。上位評価者には数十円単位で時間給が改定され本人に社長からその旨の通知書が交付される。他の社員同様に障害のある社員に対しても評価することによって、本人にとってはかけがえのない仕事上の励みになり、勤労意欲の向上にもつながっている。
3. 今後の課題と展望
前述したように当社は食鳥処理という業種ゆえに安定した労働力の確保が企業経営において当然のことながら必要不可欠である。現在従業員数124名のうち外国人労働者は36名と約3割を占め、障害者8名を除く80名が障害のない日本人の社員およびパートタイム社員ということになる。海外にこの事業の生産拠点を設けることは不可能であることは明白であり、事業形態を今後も継続していくとなると業務量に応じた安定した従業員の確保が現時点においても、更にはこれから先将来に向けても重要である。
障害者雇用について、ジョブコーチ制度等を有効に活用しながら、社員同士コミュニケーションを密にとり、また指導及び育成をはかることで障害のある社員の就労定着がはかられ、長期にわたって安定した戦力になりうることが今回の取材を通して確信になりつつある。当社としては、ますますこのジョブコーチとの連携による障害者雇用を継続することとし、障害のある社員が会社に定着してくれることを期待したい。
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