精神障害者の素直さに惹かれ、新たな雇用をし続ける
- 事業所名
- 株式会社ティージー
- 所在地
- 本社工場 静岡県浜松市
- 事業内容
- 各種部品の組立・加工
- 従業員数
- 61名
- うち障害者数
- 23名
障害 人数 従事業務 視覚障害 聴覚・言語障害 肢体不自由 6(うち重度3) シートベルトの組立等 内部障害 知的障害 8(うち重度3) シートベルトの組立等 精神障害 9 シートベルトの組立等 発達障害 高次脳機能障害 難病等その他の障害 - 目次
事業所外観
1. 事業所の概要、障害者雇用の経緯
(1)事業所の概要
株式会社ティージーは浜松市西区大山町の、畑に囲まれた静かな環境の中にある。主に自動車部品の組立を行う会社で「モノづくりを通じて地域に密着し関わる人達を幸せに」をモットーに、常に高品質・低コスト・短納期を目指し、顧客ニーズに応えるモノ作りを行っている。
当社の歴史は、先代が営むパン屋から始まった。その店では次第にパン以外に生活用品なども売るようになり、よろず屋的な存在で地元の人々に親しまれたが、昭和41(1966)年3月、「高林合成工業」を設立して大きな方向転換をはかった。設立当初の就業者数は、先代、現在の代表取締役である高林氏、近所に住む女性従業員の計3名であった。
当時の事業内容はプラスチックの研磨であった。浜松という土地柄、ピアノの黒鍵の表面を研磨し、つや消し加工をするという作業を行っていた。そのほかにも、自動車のチェンジノブ、ドアノブの研磨も行っていた。研磨の技術は現在の代表取締役である高林氏が習得し、親でもある先代に教えたという。その後、女性従業員が十数名に増えたが、いわゆる3Kの仕事であることや、金型が進歩し、研磨の必要がなくなり、仕事が減ってきたことに不安を感じ、誰でもできる仕事にシフトしていこうと考え始めた。ちょうどそのころ、国内で生産される普通乗用車にシートベルトの設置が義務付けられることになったため、研磨の仕事をやめて、オートバイのスイッチやシートベルトの組立を行う決意をした。
そして、昭和52(1977)年4月「有限会社高林合成工業」を設立し、昭和60(1985)年6月「株式会社ティージー」として生まれ変わった。社名のティージーは、‘高林合成’の頭文字をとったのだという。その後、従業員が増え、手狭になったことや、所在地が市街化調整区域であるため、増築がかなわなかったことなどの理由で、新たな工場の建設にふみきり、平成2(1990)年11月、浜松市北区細江町に敷地面積が本社工場の4倍ほどある細江工場を設立した。
現在株式会社ティージーで生産している製品は、自動車ウォッシャーノズルやウォッシャーホースが6割を占め、次いで、二輪のスイッチ関係が2割を占める。その他には、トランス組立、エアコン室内機などの家電部品の組立、印刷物仕分け等を行っている。
(2)障害者雇用の経緯
障害者雇用については、30年ほど前に聖隷三方原病院の相談室から精神障害者の社会復帰のためのリハビリ(3年間、昭和57(1982)年「通院患者リハビリテーション事業」として創設、平成7(1995)年から「精神障害者社会適応訓練事業」)を依頼され、精神障害の女性を受け入れたことがきっかけだった。そのとき当社では障害者に関する知識はほとんど無かったため、病院主催のセミナーに積極的に参加し障害特性の理解を深めることに努めた。リハビリ訓練中は頻繁に病院側のフォローがあり、困ったことがあるとすぐ相談できた。最初に受け入れたその女性は正社員として事務職を担当し、定年まで働いたという。その後も病院からの依頼は続き、依頼されるがまま受け入れていた。会社側ではまずは毎日出社して1~2時間でも仕事ができるようになることを目標とし、徐々に勤務時間を延ばして行くなどの配慮をした。しかし、受け入れた人の中には仕事中寝てしまったり、頻繁に離席するなどいろいろと問題がある人が多く、1ヶ月くらいで辞めてしまう人がほとんどであった。そんな状態が続くと、障害者の受け入れを敬遠してしまいそうであるが、高林氏は障害のある子を持つ親御さんから「少しの時間でもいいから親元を離れて過ごす場所がほしい」という切実な願いを聞いたこともあって、対象となる人がこの会社を気に入り、ここで働きたいという意思があるならばできるかぎり受け入れようと思ったのだという。
現在、当工場で働いている障害者は肢体不自由者6名(うち重度3名)、知的障害者8名(うち重度3名)、精神障害者9名の計23名で、精神障害者の雇用が一番多い。採用はハローワークや「障害者就業・生活支援センターだんだん」からの紹介等や合同就職面接会で行っているが、その際の採用基準は3つあるという。一つ目は休まず出勤できること。二つ目はゆっくり作業すること。これは、作業スピードを重視するあまり正確さに欠けると不良品が出て後々大きな問題に発展するおそれがあるからである。そして、三つ目は面接後に実際の作業を体験した後、本人がやってみたいという意思を持つことである。
2. 取組の内容
当社は、障害のある人のために社内の仕事を切り出すのではなく、障害のある人にできそうな仕事を外部から見つけてくるというスタイルをとっている。したがって、障害者の仕事を絶やさぬよう障害者の担当者は営業活動にも力を入れている。担当者の努力で得られた仕事の中には部品の組立の他、カレンダーの袋詰め作業などがある。筒状に丸めて袋詰めされたカレンダーは全国に向けて出荷されている。
自動車部品の組立作業に関しては、随所で障害者に配慮した工夫が見られる。それは昔、小さな部品をひとつひとつ数えながら13個箱に入れることが難しかった障害者のために13個しか入らない箱を作り、箱がいっぱいになるまで詰めるよう指導したところ、この作業を任せられるようになったという経験から工夫次第でできなかった作業ができるようになるということに気づいたからであろう。
彼らの作業台の壁には、作業で実際に扱う部品が型番とともに見本として掲示されており、一目でどの部品なのか判別しやすくなっている。また、部品を組み立てる一連の工程を一人が担当するのではなく、工程を分割しその一つ一つをそれぞれの障害者に担当させることで作業の効率化を図っている。
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片側に麻痺がある人の作業台には、シートベルトのバリ取り作業が片手でもできるように作業台にシートベルトの金具を差し込む台が設置されている。溝にシートベルトを差し、固定してからカッターでバリ取りが行えるようにしたことで、一人でも安全に作業することが可能となっている。
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当社は、障害者雇用納付金制度に基づく助成金を活用し、障害の種類や程度に応じた適切な雇用管理を行うために必要な援助、および指導の業務を担当する業務遂行援助者を配置しており、障害のある人が安心して働ける環境づくりに力を入れている。精神障害者の特性として体調に波があることを考慮し、電話連絡をすれば休みをとることを認めており、彼らに必要以上に無理をさせないよう配慮がなされている。
障害者の中にはリーダー的な存在の人がおり、指示を出したり注意をしたりするそうだが、障害者同士のトラブルは無いという。現場では皆黙々と自分の作業に集中しており、面接時には「ゆっくり」と言われていた作業のスピードも、熟練すると自然と迅速かつ正確に作業できるようになっていく。中にはものすごいスピードで作業をこなす人もいた。当社では、自身の工場で障害者を雇用する他にも、浜松市内の複数の障害者支援施設に、内職作業を提供している。地元の特別支援学校からの実習も積極的に受け入れており、株式会社ティージーは地域の福祉施設にとってなくてはならない存在となっている。
3. 取組の効果
当社では、採用された障害者のほとんどが本社工場生産第7課に配属される。この課に所属する障害のない社員は10名足らずである。障害者をひとつの部署に集めることにはさまざまなメリットがある。まず障害者の立場から見ると周りに同じ障害を持つ人がたくさんいるので安心感があり、働き続けるうちに仲間意識が芽生え協調性が高まるという点である。彼らの職場には、適度な緊張感を保ちつつも落ち着いた空気が流れている。よって、新規に入社した障害者も孤立することなく短期間で職場の雰囲気になじめるという。
彼らを指導する側にとってもメリットはある。例えば、一人の障害者に対して注意したことを職場全体で共有することによって、注意された障害者の精神的ダメージを軽減し、なおかつみんなが気をつけるべきこととして注意を受け入れやすくなることである。また、生産第7課には2名の業務遂行援助者が配置されているが、障害者がまとまった部署にいるので一人の業務遂行援助者が複数の障害者を援助することが可能となる。社員ひとりひとりに目が届きやすく、それぞれの能力や特性についてきめ細かく把握することが可能となり、特性を見極め長所を生かせる作業を担当させることができる。得意分野を生かせる職務を与えられた彼らは、自信が生まれ、仕事に対するモチベーションが高まるのである。
業務遂行援助者の永井氏はこれまで、障害者に対してより条件の良い会社への転職や勉強するための退職を奨励してきた。当社でスキルを磨きステップアップすることは喜ばしいこととの考えのもと、一人前に育てる指導を行ってきた。もちろん、ずっとここで働きたいと願う人たちのためには少しでも長く就労できるよう努力している。常に障害者の身になって考え、就労に関するモチベーションアップや技術の向上、社会的ルールやマナーの指導等を行ってきたからこそ、彼らはこの会社を巣立ってもそれぞれの場所で生き生きと働くことができるのだと感じる。
4. 今後の展望と課題
永井氏は、業務遂行援助者として、障害者の業務の遂行や雇用管理のために必要な援助、および指導の業務を担当する一方で、彼らの仕事を絶やさぬための営業活動も行ってきた。そして今後も、仕事さえあればもっと障害者を雇用していきたいという前向きな考えを持っている。そのためにはいろいろな企業とのネットワークを広げ、障害のある人たちができる仕事を探していきたいと考えている。
「精神障害の人は、素直でいいよ」と永井氏は目を細める。それは、常に障害者の声に耳を傾け、彼らが抱える困難さに寄り添い励まし続けてきたからこそ言える言葉ではないだろうか。作業場の隅には社内の親睦会の写真が貼られており、そこにはここで働く障害者たちの楽しそうな笑顔があふれていた。写真の横には「社員を幸せに」という言葉も添えられていた。この会社が彼らを単に労働力としてだけでなく、一人の人間として認め、働く喜びや生きる喜びを分かち合っていこうとする愛情が感じられた。静岡県西部の方言で「やらまいか」という言葉がある。「やってみよう」という意味である。この言葉は何ごとにもチャレンジしてみようという前向きな言葉として使われる。株式会社ティージーは、現在に至るまでの障害者雇用において壁にぶつかったとき、「やらまいか」を合言葉にその壁を乗り越えてきたのだと思われる。そのチャレンジ精神が、今後も障害者雇用を継続する大きな力となっていくであろう。
サブコーディネーター 保坂 真理
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