多種の業務の中から障害特性に合った業務を選び、雇用に結びつける
- 事業所名
- 株式会社ユアーズ静岡
- 所在地
- 静岡県静岡市
- 事業内容
- ビルメンテナンス業・警備業務・設備管理業務・人材派遣・ビル管理業・アウトソーシング・建築業(一般・内装工事)・貸しビル業・駐車場経営・スポーツクラブ運営・日帰り温浴施設運営 等
- 従業員数
- 505名
- うち障害者数
- 18名
障害 人数 従事業務 視覚障害 聴覚・言語障害 肢体不自由 12
(うち重度3)清掃業務・有料道路料金徴収業務等 内部障害 知的障害 3 清掃業務・駐車場管理業務等 精神障害 3 清掃業務 発達障害 高次脳機能障害 難病等その他の障害 - 目次
![]() 事業所外観
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1. 事業所の概要、障害者雇用の経緯
(1)事業所の概要
株式会社ユアーズ静岡は、昭和61(1986)年9月1日、静岡県静岡市にビルメンテナンス・保安警備の専門会社として誕生した。ユアーズ静岡の社名は、お客様皆様の「あなたの」財産、「あなたの」資産、「あなたの」考えを第一に考え、今ある価値を維持し、より価値を高めていくことを目標として創業したことに由来している。
当社は、多岐にわたる人材の豊富な経験を基礎に、総合ビルメンテナンス(建築物総合管理・人材派遣業務・委託管理業務・建築営繕工事)・車両運行管理・有料道路料金所管理、駐車場管理・医療関連サービス・健康事業を主としたファシリティーサービスといった、様々な分野でのサービスを展開してきた。それと同時に、地球環境の保全が人類共通の最重要課題であるとの認識のもと、二酸化炭素の発生削減や化学物質使用量の削減、発生ゴミや水道水量の削減など、ビルメンテナンス業として、より地球環境に配慮した事業活動を行ってきた。「揺るぎない企業であり続け、社員の物心両面の幸せを目指し、多様化する顧客のニーズに対応したきめ細やかなサービスを提供して社会に貢献する」という経営方針のもと、人の関連する業務=ヒューマンビジネスサービスを提供する企業として静岡県を中心に山梨県・神奈川県・首都圏の企業、そして地域社会に貢献している。
(2)障害者雇用の経緯
当社が障害者を始めて雇用したのは15年前にさかのぼる。当時求人はハローワークを通じて行っており、一般求人のみ募集を出していたそうである。そこへ身体障害4級の男性Aさん(現在62歳)からの応募があり、面談したところ、清掃作業が可能であると判断し、平成11(1999)年7月に採用に至った。彼は採用されて以来ずっと当時と同じ静岡市常磐町にあるビルの清掃を担当している。Aさんの勤務時間は7時から11時までと、13時から16時までの計7時間勤務である。障害者の中には、疲れたり、体調が悪いことを自分で認識することができず、具合が悪いのに無理して頑張りすぎてしまう人がいたり、障害の状況や加齢によって体力面で配慮が必要になる人がいたりするので、Aさんのように、午前と午後の作業のあいだに2時間の休憩時間を入れることは、体力や集中力の回復を図るうえで非常に効果的である。このように、障害のある人でも無理せず働き続けられる環境設定を行うことが、就労を継続させる大きなポイントといえる。
![]() Aさんの作業の様子
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当社では彼の雇い入れをきっかけに、障害があっても作業が可能と判断されれば、障害の種類や程度に関わらず積極的に雇用を進めてきた。その結果、現在では身体障害者12名(うち重度身体障害者3名)、知的障害者3名、精神障害者3名の計18名の障害者を雇用している。彼らの従事する業務は、清掃業務、駐車場管理、有料道路の料金徴収業務など、多岐にわたる。清掃業務では、同じビルを担当する人もあれば、数箇所を巡回する人もおり、それぞれが自分の担当する現場に直接赴いて作業している。障害特性を生かした業務に就くことで、彼らの能力が充分に発揮され、会社の戦力となっている。
![]() 駐車場管理業務
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2. 取組の内容
採用が決まったら、障害特性に合った業務に配置することを心がけている。苦手なことを克服させるより、苦手な部分は周りの人がフォローし、得意なことを生かす方が、作業が定着しやすいからだ。ときには、最初に配属された部署では特性を生かしきれず、他の業務に配置換えしたこともあったという。こうした事業所側の適切な見極めと柔軟な対応が、職場への定着率を向上させている。当社は作業現場が多方面にわたるので、障害者の勤務状況を把握しにくい。そこで、本社の担当者がそれぞれの現場を巡回し、彼らの様子に気を配っている。万が一トラブルや問題があれば、そのつど現場の担当者から本社へ連絡が入り、対応できる体制がとられているので、障害者と共に働く従業員にとっても、障害者本人にとっても安心だ。
当社で働く従業員は、勤続5年、10年、20年の節目で表彰され、記念品が贈呈される。社内報にも掲載されるそうで、静岡市呉服町にある当社が運営するフィットネスクラブで清掃業務に従事する知的障害の男性Bさん(52歳)も平成25(2013)年に勤続5年の表彰を受けた。彼は、就労支援施設担当者と企業が一堂に会し、施設利用者を就労へ結び付けるというイベントがきっかけで採用された。彼は当時のことを良く覚えており、表彰の際、自分を採用してくれた担当者に感謝の気持ちを述べたとのことである。
その彼と実際に会うことができた。彼の仕事は、共用スペースのモップがけや掃除機がけ、壁のすす払い等の清掃業務である。自宅からバスに乗って30分で作業現場に到着し、週5日、7時から14時までの計6時間勤務をこなしている。彼は障害のない従業員とペアを組んで仕事するのではなく、任されたエリアを一人で作業している。社名入りの作業着を身にまとい、てきぱきと働くその姿からは、お客様に喜んでいただけるようにという想いで業務に励むひたむきさが感じられる。
彼に勤続5年表彰の話を伺うと、「時計をもらいました」と嬉しそうに報告してくれた。その様子は、株式会社ユアーズ静岡の従業員としての誇りに満ちていた。Bさんに作業の感想を聞くと、「ビルの3階から8階を3名の従業員で清掃しているため、範囲が広くて大変です」との答えが返ってきたが、その表情には爽やかな笑みがこぼれ、働く喜びを感じているようだった。彼は、共に働く従業員に温かく見守られながら、今後も充実した就業生活を送っていくだろう。
![]() スポーツクラブ外観
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![]() Bさん 作業の様子
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株式会社ユアーズ静岡は、従業員の技能検定受験、研修環境の整備、資格取得の支援など、人材育成の推進にも積極的に取組んでいる。なぜなら、現場の生産性を上げ、質の高いサービスを提供し、顧客満足度を高めるためには、従業員ひとりひとりのレベルアップを図ることが重要と考えているからだ。平成21(2009)年に採用されたあしたか職業訓練校卒業の知的障害の女性Cさん(26歳)は、第32回アビリンピックのビルクリーニング部門に出場した経歴を持つ。アビリンピックとは障害者技能競技大会のことで、アビリティ(ABILITY=能力)とオリンピック(OLYMPIC)を合わせた造語である。障害のある人が就職して自立するという考え方を広めるとともに、雇い主や社会全体に理解してもらうことを目的に、毎年開催されている大会で、洋裁、建築CAD、喫茶サービス、コンピュータープログラミングなど様々な競技種目がある。このような大会に出場し、職場で培った技能を大勢の人の前で披露したという貴重な経験は、今後彼女の自信となり作業のスキルアップに繋がっていくだろう。
3. 取組の効果、今後の展望と課題
(1)取組の効果
当社では一時期、障害者就労支援施設等から職場実習の受け入れを依頼されたことがあったが、職場実習の考え方にバラつきがあったり、彼らを配置できる部署がなかったため、雇用には結びつかなかった。それ以後、施設や特別支援学校からの実習受け入れはしていないが、ハローワークと連携し障害者合同面接会に参加するなどして、就労を希望する障害者に門戸を開いていた。しかし、最近は、障害者を雇い入れる職場に空きがないことや、以前諸般の事情でお断りをした障害者が、何度も面接に来るケースがあり、人情的にも申し訳なく思う気持ちもあり、合同面接会への参加は見合わせている。
当社はすべての従業員に、永年勤続者表彰を行ったり、スキルアップの機会を与えており、それが従業員の仕事に対するモチベーションの維持・向上に繋がっている。また、障害者雇用の場合、個々の障害特性が異なるため、長所を見出し、その能力を生かせる職場に配属することは、継続雇用の大きな要因の一つに挙げられるだろう。そして、一人の戦力として周囲から必要とされることで、彼ら自身の中に仕事に対する責任感も生まれるようだ。障害者の働きぶりを伺うと、「大変真面目で手抜きをしないところが素晴らしい」という評価であった。当社においては、特に大きな問題も起きていないので、家庭や支援機関とのやり取りはほぼ無いのだという。本社から離れた現場で作業している彼らであるが、事業所が彼らを一従業員として信頼している様子が伺えた。実際に障害者の採用を担当した人は、「彼らを雇用することは、彼らの生活の一部を支えていることであり、そこに喜びを感じている」と話してくれた。
(2)今後の展望と課題
今、日本は世界最速で少子高齢化が進み、障害者の生活を福祉が支えきれない時代になってきている。これからの日本にとっては、一人でも多くの人が意欲と能力を活かして働き、社会を支える一員となることが重要な課題であり、そのためには、障害者が働きやすい環境を構築し、全員参加型の社会を築いていくことが必要だ。そんな中、株式会社ユアーズ静岡は、コンプライアンス・CSRは社会的使命であるとの考えから、多種・多様の業務があることを活かし、積極的に障害者を雇用してきた。当社の平成26(2014)年1月1日現在の雇用率は法定雇用率を大きく上回る3.27%に上る。現在、当社の顧客は200社を超えており、今後も拡大していくことが予想される。それに伴い、これからは、障害者が従事する職域の拡大も検討していこうと考えている。たとえば当社のビル管理業務の中にはホテルのベッドメイキング業務があり、障害者の作業可能な業務として期待されている。しかし、限られた時間内で作業を完結させるにはスピードが要求されることもあり、ハードルは高い。請負先の事業所によっては障害者に対する偏見を持つ事業所もあり、障害者雇用を増やすのは容易なことではない。だが当社は、「障害者雇用に積極的な企業として名前が挙がるのは名誉なこと」と考え、障害者の自立に貢献するために、これからも更なる雇用に取組もうとしている。従業員が仕事と生活を調和させ、能力を最大限に発揮できるような雇用環境を目指して努力し続ける当社の将来に期待したい。
サブコーディネーター 保坂 真理
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