成長志向をベースにWin-Winの関係を築く
- 事業所名
- 株式会社コスモネット
- 所在地
- 京都府京都市
- 事業内容
- 携帯電話等のモバイル通信の販売ショップ運営、法人向けビジネスフォンシステム等の提案営業等、情報通信のトータルコーディネート
- 従業員数
- 1,736名(平成25(2013)年12月31日時点)
- うち障害者数
- 42名
障害 人数 従事業務 視覚障害 聴覚・言語障害 1 事務業務 肢体不自由 4 事務業務・接客業務 内部障害 3 事務業務・接客業務 知的障害 8 清掃業務 精神障害 15 事務業務・接客業務・清掃業務 発達障害 9 事務業務・棚卸業務 高次脳機能障害 1 事務業務 難病等その他の障害 1 営業ならびに事務業務 - この事例の対象となる障害
- 肢体不自由
発達障害
高次脳機能障害 - 目次
![]() 業務支援チーム事務所入口
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1. 事業所の概要、障害者雇用の経緯
(1)事業所の概要
株式会社コスモネットは情報通信のサービスプロバイダーである。昭和54(1979)年、高島音楽放送(滋賀県高島市)の開局を起源とし、その後、電気通信自由化を機に通信業界へ参入した。独自の販促活動を継続する中で移動体通信への参入を果たし、平成3(1991)年に株式会社コスモネット(CNC)を設立した。
事業内容は主に、①店舗営業(携帯電話販売・サービス事業)と、②法人営業(情報通信システム事業、企業向けソリューション事業)の2つに分けられる。
①の店舗営業は個人ユーザーを中心に、携帯電話の販売、ならびにそれに付帯するすべてのサービスの提供を行っている。各キャリアと代理店契約を締結し、平成25(2013)年12月末時点、全国で567店舗(パートナー店舗含む)を運営している。
②の法人営業は法人ユーザーへの携帯電話販売、ならびにそれに付帯するすべてのサービスを提供している。各種ビジネスフォン導入やネットワーク構築をはじめ、映像配信コミュニケーションや位置情報サービス等、情報通信に関わる多くの商品を取り扱っている。いずれも価値ある情報・通信サービスを通じて人々のコミュニケーションライフに貢献し、通信のトータルコーディネーターとしてお客様に感動と安心を提供することを目指している。
(2)障害者雇用の経緯
障害者雇用の経緯を示すにあたり、当社の「経営理念」(一部)を紹介したい。
「ベストカンパニーでありたい。国でいうなら文明国家、文化国家を目指す。」
企業の社会的使命である障害者雇用について、企業規模が拡大・成長する中で当社としても大きな意味(=課題)を持つようになった。上述の経営理念にもあるように、ベストカンパニーの実現を果たすべく、従業員数が1,200名を超えた平成23(2011)年8月、組織内に「障害者雇用拡大プロジェクト」を立ち上げた。
同プロジェクトはトップダウンで組織内に広く展開され、人事部門をはじめとする「管理本部」と、営業部門をはじめとする「事業部」が一体となって取組がスタートした。そのため、いわゆる頻出しがちなケースである「現場と人事部門との方向性・考え方の乖離」が生じず、「障害者雇用=全社的な取組」という共通理解のもと、主体的に障害者雇用について意識化・行動化することができた。
この「共有」こそが、その後の当社における障害者雇用の充実につながったといえる。計12回にのぼるプロジェクト会議にて、障害者を受け入れ、企業の戦力として育成することを念頭に、「受入態勢(ハード面・ソフト面)の整備」や「新規業務の創出」等を検討した。その結果、障害者雇用に係るマネジメント(雇用管理・募集採用・指導育成・能力開発・外部機関との渉外等)に特化した新規部門「業務支援チーム」の発足を決定した。
2. 業務支援チームとは
(1)業務支援チームの目的・意義
業務支援チームとはその名称の通り、当社事業(販売・営業・管理等)の業務を「支援すること」をミッションとするチームである。たとえば、店舗における「質の高い接客サービスを提供したい」というニーズに応えるべく、業務支援チームに所属する障害のある社員が一部の店舗業務を担うことにより「時間外勤務の削減(時短)」や「接客サービス時間の創出・確保」に貢献する。すなわち、業務支援チームが担う業務は「障害者のために過剰なまでの無理をしてわざわざ創り出した仕事」ではない。既存の仕事をベースに、誰もが取り組みやすいように配慮・工夫を加味したうえで、障害のある社員が会社の戦力として貢献できることを大前提としている。ここに、当社の障害のある社員が成長志向を軸とした責任をもって働き続けられる環境がある。つまり、業務支援チームの目的・意義を端的にいえば、「企業(=組織)成長のため」であり、業務支援チームは組織の一部門として、「組織の満足」と「個人の満足」をともに目指す高い目標をもったチームである。
(2)業務支援チームのあゆみ
業務支援チームは上述の「障害者雇用拡大プロジェクト」を経て、平成24(2012)年2月に発足、平成24(2012)年4月に京都市中京区にて開設・稼働した。当初は障害者7名と管理者3名で構成され、複数の業務を担っていた(業務内容の詳細は後述)。その後、主に近畿圏を中心に西日本エリアで募集採用活動を展開し、これまでのところ良好な定着率(84%)で推移している。
また、平成25(2013)年8月には千葉県市川市に関東事業所を新たに設立。東日本エリアにおいても障害者雇用の展開を順次進めている。なお、平成25(2013)年12月末日時点での業務支援チームに所属する障害のある社員の人数は32名であり(その他の部署で勤務するものを含め企業全体では42名)、今後も積極的に採用活動を展開していく予定である。
(3)業務支援チームの受入体制
発足時における受入体制について、ハード面とソフト面に分けて各々述べる。
ハード面としては業務支援チームの拠点整備が挙げられる。当社の京都本社(京都市中京区)は業務支援チーム全体を常駐させるためのスペース確保が困難であった。将来的な新規雇用者数の拡大、および障害特性によって必要となるであろう環境整備等も考慮し、業務支援チーム専用の新たな拠点物件を確保することとした。その際、拠点所在地については京都本社と隣接(徒歩5分程度)とし、不測の事態を含め適宜連携が可能な場所を選定した。
次に、多様な障害に対応するため、所有者の承諾のもと事務所の改築を複数施行した。フロアには段差があり、その解消のため「①スロープ」を設置し、車いすを利用する者も快適に移動できるように整備した。また、既存の和式トイレを「②ユニバーサルトイレ」へと変更し、身体障害者を広く受け入れられるように整えた。同じ理由により、事務所ドアを押し引き戸から「③半自動扉」へ作り替え、誰もが少ない負荷でスムーズに往来できる環境を準備した。その後も、外的要因(音・光等)に過度な反応を示す発達障害者のために照明器具や座席レイアウトを工夫したり、車いすを利用する者でも簡単に操作できるように複合機の高さを改造するなど、メンバー一人ひとりが自身の力を最大限発揮するため無用な障壁を取り除いている。
ソフト面としては、企業的観点から障害者雇用のマネジメントを実践でき、かつ専門分野にも精通した知識・経験の豊富な人材や、第1号職場適応援助者として活動していた社会福祉士を採用し、常に障害理解を基盤としたうえで適切な管理・指導育成を行える体制を構築した。外部より新たな専門性を導入することにより障害者雇用が全社的に広く速やかに浸透する効果もあった。また、障害のある社員における「信頼と安心」の関係構築、および支援機関など社会資源の円滑な活用にもつながっている。
3. 障害者の従事業務
業務支援チームのメンバーが担当する業務は大きく3つの部門(①一般事務部門、②営業事務部門、③清掃部門)によって異なる。以下、部門ごとに「業務内容」と「効果・実績」について述べる。
(1)一般事務部門
一般事務部門では以下Ⅰ~Ⅳの業務を担っている。
- 経理系業務
■業務内容
業務管理統括本部の経理・会計グループより、5種の業務を受託している。
業務名業務内容ジャーナルチェック各店舗のジャーナル(レシート)に記載された現金在高と、管理システム(PC)に入力された現金入金額を照合する作業 受領証チェック各店舗の受領証に記載された商品券引渡額と、管理システム(PC)に入力された明細金額を照合する作業 領収証添付作業各店舗の現金精算時に生じる領収証を整理・保管するための帳票を作成する作業 受領証分類作業各店舗の受領証と納品書を分類・整理する作業 本社便開封作業各店舗から本社へ届く郵便物を開封し、内容を分類する作業
■効果・実績
経理・会計グループの負荷軽減をはじめチェック機能の強化により、ミスの早期発見・未然防止、および不正の抑止に効果を発揮している。継続する店舗数の拡大により、作業ボリュームも引き続き増加中である。
集中力とその持続力が求められる業務である。黙々と作業に取り組むことを得意とするメンバーが、その特性を存分に発揮している。一方で、そのような特性を持つメンバーは、往々にして「対人コミュニケーション」に苦手意識を持つ場合が多い。ただし、仕事は決して一人でできるものではないため、仕事を通じて、「他者への思い」の大切さを実感し、それに必要な能力を身に付けるため、まずは「伝達力」から少しずつ磨いているところである。
受領証チェック - PDF系業務
■業務内容
業務管理統括本部の人事・総務グループより受託している。
業務名業務内容各種帳票のPDF化店舗の賃貸借契約書や従業員の提出物等、法定保存の必要な書類を電子化し、専用のPCソフト上に格納・整理する作業
■効果・実績
本業務は業務支援チーム発足を機に誕生したものである。本業務を適切に進めることにより、管理の徹底(法定保存期間の遵守・紛失の防止等)、および書類保管スペースの削減が図られた。また、専用のPCソフトに格納・整理することで、全国どこからでも簡単に書類を閲覧できるようになり、結果、全社的に書類確認作業の円滑化が実現した。
作業工程が一定しているため、変化に弱い障害特性を持つメンバーもマニュアルに基づいて安定的な作業遂行を継続できている。定められた期間内に莫大な量を処理するスピードが求められるが、障害特性によっては手順理解後の処理速度向上がめざましく、これまで納期に遅れたケースは一度も発生していない。
一見、単純なスキャン作業に捉えられることが多いが、高次脳機能障害のあるメンバーの一言がそれを打ち消す。「どんな方法でスキャンしたら相手は見やすいかなぁ。」本業務は快適に閲覧できるように他者を意識して処理する必要がある。表出こそしにくいが、担当者の「心配り」が培われた仕事でもある。
PDF系業務 - 販売促進ツール作成業務
■業務内容
事業部(店舗)より依頼を受け、各店舗で使用するPOPやチラシを作成している。
業務名業務内容販売促進ツール作成業務店舗掲示ポスターや新聞の折込チラシ、街頭配布のティッシュ広告等を作成する作業
具体的には、原稿データ校正、印刷、梱包、発送等
■効果・実績
店舗スタッフの負担軽減をはじめ校正力のスキルアップにより、販売促進ツールの品質が全社的に向上した。また、会社内部で作成を完結できるため、外注費用の経費削減にも貢献している。
業務支援チームが担う業務の中でもっとも「期限(=納期)」を意識する必要のある仕事である。校正作業に係る高い専門的スキルと面接や短期間の実習では推し量りにくい「胆力(=ストレス耐性)」がメンバーに求められる。その点、現在の主担当者(身体障害)はチームを俯瞰的に見る目を徐々に養いつつあり、実務(校正・印刷等)と進捗管理を滞りなく進めるため、メンバー間の連携に細心の注意を払っている。作成物の質の高さが浸透するにつれ依頼数も増加の一途をたどっている。「急な依頼ですまない!至急、20,000枚を頼む!」今日もどこかの店舗から作成依頼が届く。
販売促進ツール作成業務 - 棚卸業務
■業務内容
事業部より依頼を受け、各店舗における商品の棚卸作業を実施している。
業務名業務内容関連商材棚卸業務各店舗の携帯電話関連商材(携帯ケース・充電器等)を専用のハンディターミナルで勘定し、実際の商品数と管理データ上の商品数を照合する作業
■効果・実績
現在、近畿圏の38店舗の棚卸業務を担っており、今後も順次、拡大予定である。従来は店舗スタッフが閉店後に実施していたが、業務支援チーム担当後はその必要がなくなり、当該店舗における時間外勤務の削減が図られた。かつ、一層正確な在庫管理が徹底されるようになっている。
本業務における腕の見せ所は「①正確性」、「②スピード」、「③移動」である。多い店舗では約2,500アイテムの商品を一つ漏らさず勘定する。また、扱っている商品は類似品も多数揃っているが、たった一つの間違いで業務の意味がなくなるためミスは許されない。その点、現在の担当者は、「几帳面さ」や「一途さ」という発達障害の特性を自身の強みに転換し、正確性、スピードともに申し分ない実績をあげている。また、決められたことをきちんと守ろうとする職務姿勢は上司の目が直接行届かない移動場面(場合によって、直行・直帰も含む)にも発揮されている。近畿一円(遠いところでは片道約2時間30分程度)の移動に際して、一切の心配が不要である。時折、公共交通機関の乱れによって戸惑いが生じるケースがあるが、それは想定の範囲内であり、上司の適切な指示・フォローの継続によって独力で対応できるようになってきた。適切な指示・フォローは、上司に求められる一つの能力である。
(2)営業事務部門
■業務内容
業務支援チームの管理者は営業事務部門のメンバーと毎日顔を合わさない。彼(女)らは就業場所が先述までのメンバーと異なり、京都市の事務所ではなく各店舗だからである(所属は業務支援チーム)。実際に就業しているエリアを挙げると、京都、大阪、兵庫、滋賀、奈良、広島、といった具合である。彼(女)らは、そうした各店舗において、当社独自の販売管理システムの入力業務を主業務とし、日々変動する売上・仕入や精算内容の入力を担当している。また、入力業務以外にも店舗補助業務として、ファイリングや店内清掃、店舗備品管理や販売促進ツール作成補助、ポスティングなど店舗ごとに求められるニーズは多岐に及ぶ。中には、店長の片腕として各種データ様式を作成するなど店舗スタッフでも難しい仕事を担っているメンバーもいる。就業場所の地理的要件と本人のスキルとが合致するケースでは、一人で複数の店舗を同日中に兼務するメンバーもいる。所属は業務支援チームであるが、勤務形態(シフト制)や職場環境は店舗スタッフと同様であり、接客業務を除くすべての場面で活躍している。
■効果・実績
上述の棚卸業務と同様、従来は店舗スタッフが閉店後に追われていた入力業務を業務支援チームのメンバーが担うことにより、時間外勤務の削減につながっている。また、店舗補助業務も含め、業務支援チームのメンバーが取り除いた負荷や時間を、店舗スタッフは接客に費やすことができ、結果、質の高いサービスと売上向上を図ることができている。時には業務支援チームのメンバーの公休日には店舗スタッフから悲鳴が聞こえるほどで、彼(女)らの貢献度の高さが伺える。高いアウトプットを発揮・継続することにより、メンバー自身で「仕事の価値」を創出し、店舗に欠かせないポジションを確立している。加えて、正確な作業遂行力は管理会計の精緻性を上げ、事業部にとどまらず管理本部への貢献も果たしている。実績の積み重ねは全社的な障害者雇用における理解の浸透の一つの源泉となっている。
(3)清掃部門
■業務内容
店舗は終日お客様の来店が途切れないため、店内清掃に取り組む時間の確保に難しさがある。一方で、お客様には気持ちよくご来店いただきたいと願う。そこで清掃部門の登場である。清掃部門は当社が運営する各店舗の「清掃作業」を主業務としている。概要は以下の通りである。
清掃対象地域
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関西一円、関東一円 |
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チーム数
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4チーム(関西2チーム、関東2チーム) |
チーム編成
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4名1組(1名:清掃管理者/3名:障害者) |
清掃対象店舗数
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207店舗(関西102店舗、関東105店舗)※順次拡大中 |
清掃箇所
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床・窓ガラス・什器・トイレ・バックヤード・建物周囲等 |
清掃所要時間
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1店舗につき約1時間20分程度 ※ 店舗坪数により相違あり |
一日につき2店舗の清掃を実施している(遠方店舗の場合は1店舗)。関東は千葉県市川市を起点に千葉県、東京都、神奈川県、茨城県、埼玉県の店舗を、関西は京都市中京区を起点に京都府、大阪府、兵庫県、滋賀県、奈良県の店舗を網羅している。店舗の満足度を測る指標として「清掃作業品質評価表」を作成し、実施店舗から日々、評価のフィードバックが届くように整備している。この清掃作業品質評価表は、いわゆる現場の「生の声」である。そのため、メンバー自身による達成度の確認や課題の明確化、意欲増長にも効果的であり、朝礼終礼時の申送りや週に1回の定期ミーティング等でも活用している。なお、清掃作業以外にも店舗のリクエストに応じて「ポスティング業務」を担うケースもある。チラシを周辺の集合住宅等へ投函し、店舗の販売強化へ一役買っている。
■効果・実績
店舗の美化維持はもちろんのこと、店舗の売上向上とお客様の購買意欲増進に寄与している。店舗においては普段、手の行き届きにくい箇所のニーズが大きい。壁面テープ痕除去や家具類シミ抜き、駐車場の草抜き等、あらゆる要望に対して可能な限り応えている。品質の高い清掃作業を軸とした信頼関係の構築によって、店舗スタッフからも「美観を売上向上に直結したい!」という言葉が聞かれ始めた。また、メンバーのスキルアップに伴い、少しずつ新たに取り組める作業も拡大している。エアコンフィルター清掃や廃棄物回収等、これまで取り組めなかったことを自らの成長によって着手できる喜びは、彼(女)らのやりがいに一層の厚みをもたらしている。
![]() 清掃作業①
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![]() 清掃作業②
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4. 当社で大切にしていること
最後に、当社が障害者雇用を取り組むにあたって大切にしていることを紹介する。
(1)募集・採用
当社では「仕事を人に合わせる」のではなく、「仕事に人を合わせる」ことを基本スタンスとしている。その言葉だけを切り取ると、一見、冷淡に聞こえるかもしれない。しかし、「仕事は必要があるからこそ仕事」なので、現実に対応していく上では至って当然のことと考えている。一方で、当社では障害のある多くの社員が、採用後も働き続け、日々成長を遂げている。人材の採用も人材の成長も、現実にいかに対応できるかがすべてといっても過言ではない。
- 「仕事」を柔軟に考えること
一般的に、募集時点で仕事(=職務)は決まっている。そのとき、応募者に適性や能力があるにもかかわらず、障害特性ゆえにその発揮が困難でマッチングに結び付かないケースは珍しくない。
このような場合、当社では障害者に求める役割を柔軟に捉え、可能な範囲で適性や能力の発揮を妨げる事象の除去、あるいは、職務内容の見直し・選定等を行う。それは柔軟な配慮と換言できるかもしれない。この時に留意したいのは、決して目的の変更ではないということだ。上述の通り、当社は「仕事に人を合わせる」ことをベースとしている。すなわち、障害のある社員の仕事に求めるアウトプットの価値を低くは設定しない。柔軟な配慮を甘えと混同してしまうと、応募者の適性や能力に蓋をしてしまいかねないケースもある。
求める結果に至るまでの道筋やスピードは千差万別であることを常に心得たうえで、個々の仕事を柔軟に考え、個と組織が互いに高い成果を実現することを目的とした募集採用活動を実施している。
- 求める人材の採用基準を明確にすること
これまた一般的に、募集時点で採用基準は決まっている。ところが今一度、採用担当者が胸に手を当ててみると「決まっているようで、実は決まっていない」というケースも珍しくない。就業意欲が高い人?PCスキルが秀でている人?ストレス耐性がある人?案外、決め手が右往左往したまま話だけが進んでいくこともある。結果、障害程度の軽重だけが基準となってしまうこともないことではない。つまり、会社が求める人材像の明確化こそ、募集採用時の必須条件と考える。
当社の採用基準を示すことは控えるが、応募者に求める事項は職種やタイミング(既存社員とのバランス等)によって細かく設定されている。それに基づいて面接や職場実習、各種支援機関の協力を活用し、採否を検討する。ここで留意したいのが、必ずしも応募時点のスペックだけで判断しないことである。
組織の源泉であるヒトは、働くことを通じて成長する。すなわち、働き続けることで成長する見込みがある人材(=成長したいと考えている人材)を求め選考している。
(2)職場定着
「職場定着とは働き続けること」しばしば耳にする言葉である。末永く自身の力を発揮できる仕事に従事することは、満足を得る条件の一つと言えるかもしれない。
さて、当社では、もう一歩踏み込んで「個人の満足」と「組織の満足」の両方を満たす、いわゆるWin-Winの関係構築を職場定着に求めている。
組織の満足とは、社員が働き続ける中で自立成長し、会社への貢献を高めることである。つまり、成長のない現状維持は定着ではなく停滞と考える。成長の速度や角度は人によって多様である。また、障害特性に留意し、中長期的視点が必要なケースも非常に多い。ここに障害者雇用の職場定着に係る管理・指導の醍醐味(=ポイント)があると考えている。
必要な配慮なく早急に結果を求めるような軽率な行動は差し控えつつ、障害の有無によって特別視することもしない。その理由は、彼(女)らの就職後の持続的意欲・成長が存在してこそ、より適切な職場定着が実現できると考えているからだ。ひとつエピソードを紹介する。
発達障害があるA氏はその障害特性ゆえ、変化への対応に苦手意識が強く、複数の指示を同時に理解し実践することが困難だった。この時、指示者(店舗スタッフ)に対して、はじめから変化の除去や指示事項の限定化をお願いする(あるいは強制する)ことはしない。もちろん、「指示は、ひとつずつ、端的に」といったポイントはアドバイスする。
いったい、それはなぜか?それは、ズバリ、変化のない仕事はこの世に存在しないからである。A氏には、複数の指示を理解し、遂行できる力は十分に備わっており、その発揮までの過程を整理することが必要であった。その整理をゆくゆくは自分の力で実施できるように、メモの取り方の練習・工夫を重ね、少しずつではあるが、変化に対応できるようになった。
当社では、障害特性による苦手さや課題が存在することを「×」と評価しない。課題があることを本人と周囲が認め、共有し、その課題克服のため行動し続けることのほうが何倍も価値があることと考えている。
「就職がゴールではない」これもよく耳にする言葉である。そのため、常にメンバー一人ひとりと向き合うことを大切にしている。
当社では、傾聴と承認の反復(スモール・ステップでの成功体験)を軸に、定期的な面談実施や日次の業務内容確認を継続している。それは、「自分を愛し、大切にする心(=自愛)の精神」を培い、自己肯定感を高めて欲しいと考えているからである。また、社会資源(各地域の障害者職業センター等)へ協力を仰ぎ、会社・上司では不足する多方面のフォローをお願いしている。
いずれの目的も、仕事+生活におけるセルフコントロールの実現であり、メンバー自身の成長志向を損なわない(助長する)ための「ナチュラルサポート」を大切にしている。業務支援チームに所属する障害ある社員すべてが、自ら「ベストカンパニーの一員でありたい!」と考え働き続ける先に、今以上に可能性に開かれた多様な景色が見られる日を思い、「あきらめず」、「おごらず」、「投げ出さず」、やり続けるだけである。
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