経験なし・知識なしではじめた障がい者雇用
- 事業所名
- 山九(サンキュウ)株式会社 神戸支店
- 所在地
- 兵庫県神戸市
- 事業内容
- 物流事業(港湾運送事業、構内物流事業 他)
- 従業員数
- 神戸支店 399名
- うち障がい者数
- 8名
障がい 人数 従事業務 視覚障がい 1 貿易事務 聴覚・言語障がい 肢体不自由 1 作業手配業務 内部障がい 知的障がい 1 清掃業務 精神障がい 1 倉庫事務 発達障がい 4 経理事務・倉庫事務・貿易事務 他 高次脳機能障がい 難病等その他の障がい - 目次
![]() 山九株式会社 神戸支店
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1. 事業所の概要、障がい者雇用の経緯
(1)事業所の概要
山九株式会社は、物流事業(ロジスティクス)・機工事業(プラント・エンジニアリング)・構内事業(オペレーション・サポート)を有機的に結びつけるという世界でも類を見ない事業モデルを構築しており、国内及び海外に多くの拠点を持つ大手企業である。
平成30(2018)年には創業100周年を迎えようとしており、この100周年という節目、さらにその先のあるべき姿を見据えるため「経営理念」の再定義、また「行動規範」の制定などいわゆる『企業理念』の再整理を行い、更なる社業の発展を目指している企業である。ちなみに山九という社名は「ありがとう」という感謝の心から由来しており、社訓三原則の中にも「感謝」“自分を取り巻く様々な人たちに常に感謝の念を忘れてはならない”とある。
今回紹介する神戸支店は、神戸港を拠点とした港湾物流事業(船内・沿岸荷役、コンテナ荷役、倉庫作業、乙仲・通関業務など)を中心に事業展開しており、他に一般物流事業や構内物流事業なども展開している。神戸支店事務所(神戸市中央区)には、安全環境、経理、人事・労政の他に、営業や輸出入業務に関わる社員が在籍している。また、その他にもポートアイランドや六甲アイランドを中心に多くの事務所を設置している。
山九グループとしては、山九株式会社東京本社内に特例子会社株式会社サンキュウ・ウィズを平成19(2007)年5月に設立しており、山九グループ全体においても障がい者雇用の推進に取り組んでいる。
(2)障がい者雇用の経緯
先述した『企業理念』の基本理念である「人を大切に」の基、地域社会に密着した企業として、障がいを持つ人が生き甲斐をもって働ける職場創出と構築を行い、障がい者の自立支援を行うなど、企業としての社会的責任を果たすべく、障がい者雇用を推進してきた。
神戸支店における平成23(2011)年度以前の障がい者雇用状況は1名のみで、それまでは障がい者の採用や指導・育成の経験が無く、当初はどう取り組めば良いか分からない状態、すなわち“経験なし・知識なし”であった。
平成23(2011)年度にハローワーク神戸の専門援助部門に出向き、採用・雇用検討の相談からはじめ、一般募集により約20名の面接を行ったが、“経験なし・知識なし”では何を確認したら良いか分からず、ハローワークの担当官や支援機関の援助者から助言をもらいながら面接を行う場面もあった。この面接において、最終的には3名の障がい者を採用した。
3名の採用以降、ハローワーク神戸及び神戸市西部地域障害者就労推進センターとの連携を強化し、支援を受けながら障がい者雇用を推進した結果、現在は多くの障がい者が活躍する事業所となった。また、ハローワークおよび支援機関と連携して講演を行ったり、他企業や関係行政・支援機関との意見交換を行うなどしたりし、その経験と知識を深めている。
【新規採用状況】
平成23(2011)年度採用 視覚障がい者1名 知的障がい者1名 発達障がい者1名
平成24(2012)年度採用 発達障がい者2名
平成25(2013)年度採用 発達障がい者1名 精神障がい者1名
2. 雇用障がい者の紹介
平成23(2011)年~平成25(2013)年度採用障がい者のうち、発達障がい者3名を紹介する。
(1)平成23(2011)年雇用のAさん(20歳代男性)
当初は発達障がいの特性を考えて、「仕事にかなりの制限があるのでは?」、「できないのでは?」という固定概念から担当業務を絞っていたが、Aさんの高い能力(理解力やPCスキル)と可能性を信じて、難易度の高い仕事を任せることとした。
業務内容は現金・小切手の入力処理(データ入力)、専用機器での小切手作成、受取手形の送付、借受金の消し込みなど多岐に亘る業務を行っており、今では退職者(障がいのない者)の後任として活躍している。また、会社で取得推奨されている資格を誰から言われることも無く自身で勉強して一発合格している。
その上で、社内活動である改善提案活動にも積極的に参加するなど、モチベーションは高い。ただ、障がい特性でもあるコミュニケーションが苦手な面については、挨拶などの定型的な言葉には問題無いが、イレギュラーな会話などを振られると少し時間が掛かることがある。その場合、周囲の人は、お互いに時間を掛けて会話するようにしている。
(2)平成24(2012)年雇用のBさん(20歳代男性)
Bさんはポートアイランド内にある物流センターで専用端末への在庫・入出荷データの入力や出荷貨物の送り状及びラベル作成、荷札チェックなどの業務を主に行っており、出荷商品の簡単な梱包や梱包貨物の結束作業も行っている。
ただ、前述のAさんと同様にコミュニケーションが苦手である。真面目に黙々と仕事をしているが、明らかに仕事をこなすスピードや集中力が低下している様子が見て取れることがある。
支援機関の担当者に相談したところ、そういった様子は疲れのサインであり、疲れにうまく対応したり、周囲に伝えたりすることができないことからくるものであるとのことであった。そういったサインが出た場合は、周囲の人が気分転換を促すなどのサポートを行っている。また、端末入力が長時間続くことがないように、他業務を行わせるなどの工夫も取り入れた。
(3)平成24(2012)年雇用のCさん(20歳代男性)
Cさんは輸出入貿易に関わる部署でマニュアルに基づき顧客データを専用端末に入力する業務を行っている。顧客との対面業務(電話など)は行わないが、定形文でのメール作成業務なども行い、顧客からの返事に対しては指導担当者の指示に基づき対応している。
また、Cさんも自身のスキルアップを図るため、業務上必要である貿易実務検定などの資格取得を目指している。当初は自身が行っていることに対し自信が持てず、繰り返しの指導を受けていたが、困った事をノートに書き出させるなど、連絡や指導方法の工夫を図った結果、順調に業務を習得し活躍している。
ただ、障がい特性によって、1対1のコミュニケーションは問題ないが、とっさに言葉が出ない時がある。また、当初は疲れの具合を担当者が確認して気分転換の小休憩を取らせていたが、最近は自分自身で疲れの判断を行い気分転換を行うことができるようになっている。
![]() ポートアイランド輸出入センター
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3. 雇用を通して得た“経験・知識”
“経験なし・知識なし”ではじめた障がい者雇用活動で習得したポイントは、
- 障がい者雇用はハローワークへの相談からはじめる
- ハローワークを通じて支援機関との連携を図る
- 障がいをオープンにして就職するならば行政・支援機関を活用すべき(入社後の就労支援があるため企業も安心)
などが挙げられ、テーマでも挙げた“経験なし・知識なしの障がい者雇用”の事業所にとって、これらが重要な要素であることは間違いないと判断している。
その他採用活動等で習得した事項は以下の通り。
- 求める人物像
社会人としての基礎となる要素を重視する
- 挨拶がしっかりできる(障がい特性は考慮)
- 真面目
- 規則や約束をしっかり守る
- 知っているふり、できるふりをしない(わからない、できないことをハッキリと伝えることが大切)
- したくない仕事や嫌な仕事も行うことができる
- 障がいへの配慮
※下記は雇用した発達障がい者対応の記述
- 障がい特性に応じて、対人対応や電話対応はさせていない
- メールでの意見交換を積極的に活用する
- 慣れるまでは、小休憩(約2~3分)のルールを決め、声掛けを行う
- 長時間のPC操作は疲労が蓄積するため、ラベル貼り付けなどの体を動かす作業も取り入れる
- 障がい者の職場配置で得た成果
- ①職場の生産性向上
- 他社員の業務負担軽減、所定外労働の軽減
- 他社員が資格(社内人事制度)に見合った業務に専念(仕事の質が向上)
- ②職場雰囲気の向上
- 挨拶、仕事への姿勢・意欲、周囲への気遣いなど
- ①職場の生産性向上
最後に山九株式会社神戸支店 人事採用担当者のコメントを紹介する。
「障がい者雇用に取り組む前、採用する側としての「不安」や「偏見」がありましたが、取り組みを通して、障がい特性・専門能力や知識を活かし、大きな戦力となる優秀な人がいることを知りました。障がい者自身の努力、事業所の工夫と配慮、行政や団体の支援の3つが組み合わさることにより、障がい者が活躍する場や仕事は必ずあります。」
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