継続する障害者雇用・気負わずに「自然体」で向き合う
- 事業所名
- 株式会社MSTコーポレーション
- 所在地
- 奈良県生駒市
- 事業内容
- 工作機械用のツーリングなどの精密機械とFAシステムの開発製造販売
- 従業員数
- 228名
- うち障害者数
- 6名
障害 人数 従事業務 視覚障害 聴覚・言語障害 肢体不自由 内部障害 知的障害 2 加工補助・洗浄・梱包 精神障害 4 加工補助 発達障害 高次脳機能障害 難病等その他の障害 - 目次
![]() 事業所外観
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1. 事業所の概要、障害者雇用の経緯と状況
(1)事業所の概要
いにしえから、大阪と奈良を分けてきた生駒山の麓に奈良県生駒市がある。市の北部には関西学研都市の高山地区があり、奈良先端科学技術大学院大学が立地していることで有名だ。同時にあまり知られていないが生駒市高山地区は茶筅(ちゃせん)の産地であり、全国シェアは90%以上を占めている。その高山地区に隣接して北田原工業団地があり、昭和40(1965)年に本社工場を移転した。緑豊かな環境の中、周辺の風景に溶け込むハイクオリティな建物が、当社の本社・工場だ。
歴史をさかのぼると、当社は昭和12(1937)年3月15日に株式会社溝口鉄工所として福岡県宗像市で創業した。昭和40(1965)年に福岡県宗像市から本社・工場を奈良県生駒市に移転し、平成3(1991)年に株式会社溝口鉄工所より現社名に商号が変更された。
平成17(2005)年に本社新1号棟及び新工場が完成し現在に至っているが、海外展開の拡大や事業の発展に伴い、本社・工場の隣に現在建設中の新工場が平成26(2014)年のゴールデンウィーク前後には全面稼働する予定となっている。
(2)障害者雇用の経緯と状況
- 雇用の経緯
当社での障害者雇用の歴史は今からおよそ20年近く遡る。以前は養護学校(現在の特別支援学校)を通じた採用が行われてきたが、ここ最近の数年間は奈良障害者職業センター(以下「センター」)を通じての採用が多くなっている。
在籍者6名中、常勤の雇用は5名となっている。
KMさんとTさんは養護学校からの採用、2名とも平成8(1996)年7月の入社で勤続18年になる。
また、Hさんは平成23(2011)年7月、Sさんは平成24(2012)年7月、KNさんとYさんは平成25(2013)年2月の入社で、いずれもセンターを通じての採用である。
- 仕事の状況
業務の内容は主として機械加工の補助や機械のセッティング、加工前準備、寸法の確認、加工品の洗浄作業及び各種清掃業務となっている。
仕事は概ねルーティン化していて、仕事の流れの中で人手の足りないところや応援を要する作業を追加でこなすこともある。
常勤の5名中、一部の人は最近では機械加工の仕事を任されている。中でもKMさんとSさんは仕事のスキルも相当なものだ。
機械のセッティングや洗浄作業も大事な仕事だ。加工補助や抜き取り検査等一連の作業がスムーズに進められている。製品の点数はおおよそ100点以上存在し、日々の作業の中で忙しいときには残業する場合があるが、そのような時も含めて、会社の中では大事な戦力と捉えられている。
2. 取組の内容
(1)仕事の環境
工場内の製造部は「生産グループ1」、「生産グループ2」の2チームに区分され、それぞれチームごとにA、B、Cの3つのセクションにわかれている。作業工程はセクションごとの管理で進められている。
生産グループ2のAセクションでは毎朝8時20分から朝礼が行われる。ラジオ体操とその日の業務連絡が中心だ。意思の疎通を円滑に進めることは勿論だが、毎日の朝礼を継続することで、社員個々のその日の体調や、コンディションを把握することができるようになってくる。障害者雇用を継続する上では、実はこれが重要な要素なのである。明るく元気に朝礼時のラジオ体操に参加できているか否かがひとつの目安になることがあるのだ。
同チームで働くHさんの担当は機械加工や検査の補助業務が中心となる。機械加工の場合、準備として作業前処理が必要となる。製品をジョイントのために洗浄・乾燥し、そして寸法確認をする一連の作業だ。これらは全ての一般の従業員と全く同じ仕事である。また、レーザーマーキングという作業工程がある。業務に習熟をしてくると、機械を使う仕事も自ずと担当しなければならない。ベテランのKMさんはこの仕事に大変やりがいを感じている。
- 生産グループ2Aセクションリーダーの井上正博さんに話を聞いた。
「気を付けている点は、過重な目標は設けないということです。朝8時半から夕方5時15分迄の勤務時間で、定時で仕事が終わる場合もありますが、繁忙期では残業をすることもあります。障害のある人でも無い人でも勤務時間等での区別はありません。それどころか、KNさんとSさんなどは、好んで残業に取り組む時があります。今日は残業がありませんと伝えると、本当に残念な表情をするのです。長い場合で3時間、短い場合でも2時間程度の残業をしなければならない場合があリます。その際に、決められた時間が来ても、こちらからストップをかけないと、さらに延長してしまうような傾向があります。決して受け身の姿勢ではありませんね。共通して言えることは、自分もこの組織の一員だ、というふうに思ってもらいたいという気持ちがあるのではないでしょうか。そのような思いが仕事へのひたむきさに現れているのだと考えられます。」
- 同チームの樽谷育子さんは次のような体験を語ってくれた。
「Hさんは仕事に関しては本当に積極的なんです。例えば一日の終りに、何か問題点が見つかった場合、彼女との間で『ノートに書いてみよう、メモを取ってみよう』と言って改善策を話し合うことがあります。ノートに記した改善策を翌日に実行し、役立つことも多いのです。彼女は体調が悪くて検査入院した時があったのですが、退院してから会社宛に、入院時のフォロー等に対するお礼の手紙を持って来られました。『会社の中では忙しいから、お話ができないかもしれないので手紙を書いた』と私に話してくれました。彼女は勤務をしてまだ2年ほどのキャリアですが、かけがえの無い人材です。意欲を持って働くことが継続につながり、仕事へのひたむきさに変わっていくのだと思っています。」
加工補助(機械のセッティング)加工補助(加工前の準備)加工補助(抜き取り検査)加工補助(レーザーマーキング)洗浄梱包
(2)自然体が必要
障害者雇用の現場を見てみると多くのことが解ってくる。教育や育成は継続的に行わなければあまり意味を持たなくなる。同社では、障害のある社員への育成、指導は特別なことではなく、全ての社員に対するものと何ら変わらず「自然体」で「あたりまえに」行われているのだ。
当初は戦力と考えてよいのか、安心して仕事を任せて良いのかどうか、等々については試行錯誤のところもあったようだが、現在ではこれについても、かなりのところまで改善が図れてきていると聞く。
必要な人材とされていることが、社員のやりがいにつながる。障害の有無に関係なく、仕事にひたむきに取り組み、一生懸命やっていくことが周囲の信頼を得ることの近道ではないだろうか。
3. 取組の効果
(1)より高い付加価値の仕事を目指す
当社では「手作業30パーセント、機械化70パーセント」が全社の基本姿勢であり、目標となっている。無人化・機械化は今後も加速をしていくと考えられていて、すべて社員は自動加工の機械に習熟をしていく必要がある。学習する機会を増やして、機械を操作する業務がこれからも増えていかざるを得ない。
無人化と自動化に対応するため、新工場の建設が進む中、商品の特性に応じて手作業で生産に取り組む部分と、機械化で取り組む部分の線引きがますます重要となっている。同社の中では従来も今後も、障害のある人という意識を持つ必要性は殆ど無いと言っても過言ではない。
大事なのは工場の中で作業をする時に、真面目にそして誠実に目標に向かって仕事をする姿勢だけなのだ。
(2)必要とされる人材
製造部生産管理グループマネージャーの溝口浩さんは、次のように語る。
「機械を使う仕事に対応のできる人、できない人がおられるのは事実です。できる人にはそのような仕事をしてもらうし、できない人には担当してもらっていません。KMさん、Sさん、Hさんにしても最初から機械を使う前提で当社に来て頂いていたわけではありません。各種の仕事をしてもらう中で、最初は本当に手作業からということになります。そして、いろんなレベルでできると判断した場合は簡単な機械作業から担当してもらっています。極端な言い方にはなるかもしれませんが、手順とか内容等の仕事を説明したら、違わずにやる人はきっちりやってもらえる、すごいですよ。」
「機械加工をお任せできるのは、ある意味我々にとっては大きなメリットです。そのような人には現在のセクションでの担当作業から、場合によっては他のセクションのところでの仕事に廻ってもらえる可能性が高くなります。柔軟な動きができるという点では非常に有難いと思います。」
さらに、「共通して言えることは、自分自身が必要な人材だという意識が強いのかもしれません。言い換えれば必要とされていることに喜びを感じているのだろうと思います。仕事ですから、誰しも不平・不満を言うことがありますが、全く違うんですよ。仕事が無い、或いは仕事量が不足だという不満があるだけで、仕事がきついとか、疲れたなどはないのです。こちらからストップをかけないと、延々と仕事を続けている場合があります。決められた時間を働けば良いという感覚ではありませんね。」
また、井上さんは障害者という言葉が好きではないと言う。長時間、同じ仕事を丁寧にこなすことが相互信頼の元となる。キャリアを積んでゆく中で、機械を扱うことができるようになり、ステップアップをしていくと考えられる。雇用が継続することでみんな成長するのではないだろうか。自然にそして当たり前に、上司・部下・同僚として接していくことこそ肝心なのかも知れない。
4. まとめ
(1)生涯現役の可能性
高齢化の問題は共通の課題だ。東京オリンピックが開催される2020年には65歳以上の人口が全人口中3割以上を占めると予測されている。障害者雇用の中でも高齢化と生涯現役の問題はさけて通れないだろう。
当社の人事制度では、定年年齢を過ぎても希望すれば継続雇用が保障されている。設備面での特別な工夫や、障害のある人を支援する格別の決まりごとなどは特には定められていないが、これが逆に負担感が無いということにつながっている。
重要なのは「自然体」であるということだ。このことが、長期雇用を実現している大きな要因の一つと考えられている。昨年入社されたKNさんは現在50歳をいくらか超えているが「希望すれば60歳の定年後も継続して働くことができる職場があり、自分はすごく幸せだ」と語っているほどだ。
(2)今後の展望~人に優しい社内環境の整備
この世には、すでに障害を持ってしまった人と、いまだ障害を持っていない人の2種類しか存在しないという話がある。人はすべて年齢とともに何かしらの障害を持ってしまう。例えば老眼になる、或いは入れ歯をする、内臓や体の機能が低下をする、などの老化現象とされるものも、障害の一部であると言ってもいいのかも知れない。そう考えると一緒に仕事をしてみて一番感じられることは、障害のあるなしに関わりなく、それぞれがみんな違う個性を持っているということではないだろうか。
考えてみれば、これは当然であって、他の人とすべて同じという人はいない。顔や体型あるいは血液型や、その他すべてが違っているのと同様に、その個性も全く違って当たり前だ。
そうであるならば、まだ障害のない人たちが、思い込みで勝手に障害のある人の像を作っているのではないか。「働く事に一定の制約がある」とか「誰かの保護が必要だ」「手助けをしてあげなければいけない」などというステレオタイプ的な観念は、もはや必要がないと考えても差支えがない。
企業の社会的責任という言葉がよく聞かれる。確かに障害者雇用率の目標値を達成することも、社会的責任の一つではあるだろう。しかし、そのことが障害者雇用の最終目標ではない。当社では、肩肘を張らずに自然体で雇用が継続している。その上で、障害のある人もない人も、あらゆる可能性を尊重し、人が快適に働ける環境を実現することこそが、今までも、そしてこれからも大事な課題となっているのだ。
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