職場の環境整備を推し進め、活気ある障害者雇用を定着
- 事業所名
- 株式会社キイテック
- 所在地
- 和歌山県西牟婁郡
- 事業内容
- ボタン成形、プリンター用トナーのリサイクル、Tシャツプリントの加工等
- 従業員数
- 49名
- うち障害者数
- 5名
障害 人数 従事業務 視覚障害 聴覚・言語障害 1 Tシャツ等プリント部門 肢体不自由 内部障害 知的障害 精神障害 4 Tシャツ等プリント部門1名
カートリッジリサイクル部門3名発達障害 高次脳機能障害 難病等その他の障害 - 目次
![]() 事業所外観
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1. 事業所の概要、障害者雇用の経緯・背景
(1)事業所の概要
- 事業所経歴
- 平成7(1995)年:株式会社キイテック設立。服飾釦(ボタン)成形加工事業を始める。
- 平成8(1996)年:Tシャツ等プリント部門を始める。
- 平成9(1997)年:レーザープリンターカートリッジリサイクル部門を始める。
- 主な事業内容
ボタンの成型、プリンター用トナーのリサイクル、プリントTシャツの加工の3事業を3つの柱として、多角的な事業展開を図っている。
(2)障害者雇用の経緯・背景
- 障害者雇用までの経緯
平成10(1998)年、社会福祉法人やおき福祉会の生活相談員だったK氏から、一人の若者を紹介された。一見、障害のない若者のような印象を受けたが、精神障害のある人だった。K氏は20分程度にわたり、やおき福祉会としての障害者に対する考え方や取組について次のように熱く語った。
「彼等に自分の力で働き、生活ができる自立性、自己の形成を図らせたい。そして、そのことについて地域の人々に理解してもらい、少しずつ人づくり、職場づくりをしていきたい。」
かねてより、障害者雇用について関心があった、当社の代表取締役社長である山崎大平氏は、即座に、1回トライしてみようと決断することになった。
まず、障害者雇用については、初めての試みであったため、この障害のある若者を採用するに当たって受け入れ態勢づくりのために、職場の働いている社員やパートの皆さんの理解と協力を取り付けた。以上の万全の態勢のなかで障害者雇用をスタートさせたが、わずか2か月足らずでその若者は退職してしまい、結果的に失敗してしまった。
その失敗の原因として2つのことが考えられる。まず、そのひとつとして、障害者の特性とも言える言動、行動等について、認識不足であったこと。また精神障害者の服用する薬の副作用による特徴ある症状(作業上、機敏な対応や動作が一般の作業者より劣る)について理解できなかったことであった。二つ目として、障害者の心(気持ち)への対応のまずさがあった。服薬の影響により機敏な対応や動作ができず、一人で苦悩していたことが分からなかったこと。新しい職場に対する緊張、不安、孤独の心を周りがくみとることができなかったことが挙げられる。
それから1年後、再びK氏から2人の若者の雇用依頼があり、前回の失敗の轍は踏むまいとの決意をもって、K氏との役割分担を決めた。
まず、会社としては社内における社員、パートの皆さんとともに精神障害者の特性等や薬を服用した時の状況を話し合い、どうすれば彼等と共に楽しく仕事ができるかを議論した。K氏には障害者の心のケアについて全面的に委任することにした。また、前回の失敗から、一人ではなく、複数の障害者を雇用することの提案がK氏からあった。つまり、複数の障害者が同じ職場で働くことにより、緊張、不安、孤独な気持ちがやわらぐ効果に期待し、さらに、心のケアの補強として、職場でやおき福祉会の職員が付き添うことによって、より心が落ち着くのではないか。また、職員が現場の仕事を覚えて、作業の仕方や手順を指導することによって、少しでも早く仕事に慣れてもらうことができるのではないかとの提案もあった。現在では、ジョブコーチ制度が確立されており、その任に当たっているが、その時は、はじめての試みであった。
現在では、1名の身体障害者と4名の精神障害者が働いている。当初の失敗を乗り越え、現在の障害者雇用の基盤を固めた今、多くの事業者が当社の職場の視察・見学に来られ、障害者雇用の実際の状況に触れられている。
(3)事業所としての姿勢
当社の障害者雇用は当初、社会福祉法人やおき福祉会の生活相談員だったK氏との出会いからスタートしたが、K氏が言う「自立」という意味については、次のように考えている。
「自立」とは、自らの意思によって生きていくことで、つまり自分でできることは他人の力を借りずに自分ですること。
そして、この「自立」を形成する要素に「自律」という大変重要なものがあると考えられ、これは他からの規制などによって行動するのではなく、自らの意思によって自らの規律に従い行動する、という「自由」と「厳しさ」との表裏一体の「自立」=「自律」を障害者雇用の基礎に置くべきであるとの思いがある。
障害者の特性等をしっかりと見定め、彼らが貢献できることを今ある作業の中から見つけ出し、また、新しくできる作業を洗い出し、作業として仕事としてできることを創意工夫のなかで考えていく努力をすることが肝要と考えている。当社ではボタンの成型、プリンター用トナーのリサイクル、プリントTシャツの加工という、3つの事業を行っているため、障害者の個々の特性によってその3つの中から最適な作業場=職場を選択している。障害者雇用は適性を見極め、個々の力を「戦力」とすることが重要であり、障害者にとって働くことは重要な社会参加であり、経済的自立を達成する手段であると考えている。
このような障害者雇用面等で評価を受け、「平成25年度障害者雇用優良事業所等表彰式」に於いて和歌山県知事から表彰されている。
2. 取組の内容
(1)業務内容及び障害者の業務
- Aさん:身体障害者(聴覚障害)
勤続年数 5年 年齢 25歳 従事業務 Tシャツ等プリント部門 勤務形態 フルタイム勤務 当社の障害者雇用は、精神障害者雇用が基本であるが、Aさんは聴覚障害者である。従事業務部門は、Tシャツ等プリント部門であるが周りの方のあたたかい理解があり、また、仕事を行ううえで、様々な工夫を作業工程で行い、作業効率を向上する『改善』を行っている。勤続年数も5年が経過し、Tシャツ等プリント部門で、中堅として同部門の重要な「戦力」となっている。同部門の職場の皆さんも手話で挨拶するなどコミュニケーションも図れ、職場の雰囲気もいい。
Tシャツの汚れ等検査、見落としのないよう確実に - Bさん:精神障害者
勤続年数 12年 年齢 30歳 従事業務 カートリッジリサイクル部門 勤務形態 フルタイム勤務 Bさんは、当社のカートリッジリサイクル部門で就労しており、Cさん、Eさんと同じ職場で、年齢は30歳、勤続年数は12年になる。仕事もカートリッジの分解→トナーの清掃→組立まで一連作業を確実にマスターし、自分自身の「体調」にも自己管理を徹底され日々の業務に取組むなど、Cさん、Eさんのよいお手本となっている。
- Cさん:精神障害者
勤続年数 2年 年齢 41歳 従事業務 カートリッジリサイクル部門 勤務形態 フルタイム勤務 Cさんは、当社のカートリッジリサイクル部門で就労している。年齢は41歳であるが、勤続年数はまだ2年と短い。
カートリッジリサイクル部門には、精神障害者が3名在籍している。精神障害者が同じ職場にいるので安心感があり、お互いに切磋琢磨して就労を続ける大きな要因のひとつになっている。
カートリッジの汚れ落とし(マスクは必需品) - Dさん:精神障害者
勤続年数 1年 年齢 23歳 従事業務 Tシャツ等プリント部門 勤務形態 フルタイム勤務 Dさんは、当社の障害者では一番若く、年齢は23歳である。また、勤続年数が1年を経過したところである。障害者の働く部門は、その方の適性等を十分に勘案して決定している。Tシャツ等のプリント部門で、先輩のAさんも含め他の諸先輩から積極的に仕事を覚えようとしており、今後が楽しみである。
プリントの製版の洗浄(換気に注意) - Eさん:精神障害者
勤続年数 3ヶ月 年齢 48歳 従事業務 カートリッジリサイクル部門 勤務形態 フルタイム勤務 Eさんは、当社の障害者では一番年齢が高いが、勤続年数はまだ3ヶ月を経過したところである。
カートリッジリサイクル部門にて就労を元気に続けている。精神障害者が、その職場に馴染むのに1年ほどかかるのが一般的であるといわれているが、同じ職場に精神障害者が本人を含めて3名在籍しており、一人ではないといった安心感があり、順調に職場や仕事に慣れ、毎日元気に明るく業務に励んでいる。
(2)就業以外のフォロー
当社は、3つの事業内容(①服飾釦成形加工部門 ②Tシャツ等プリント部門 ③レーザープリンターカートリッジリサイクル部門)をもって構成されている。そのうち、レーザープリンターカートリッジリサイクル部門で就労されている障害者は5名のうち3名になる。残りの2名がTシャツ等プリント部門にて就労している。
当社は当初、平成10(1998)年に障害者雇用を初めて行ったが、結果的に失敗に至った原因のひとつとして障害者が一人だけの職場であったことが常に脳裏にあった。よって、基本的には障害者が複数いるのが理想的であるとの認識がある。複数いると就業以外でもお互いに話し相手になり、お互いの不安感等を共有でき就業以外でもお互いのコミュニケーションを取ることができ、それがまた職場の周りの人とのコミュニケーションとつながっていくことが期待できると考えている。
また、障害者の適性を十分に認識することが大事であると考えており、障害者ができるであろう業務(職務)を徹底的に事業所のなかで洗い出し、その中から実際に就いていただく業務(職務)を再発見、又は、創出することが重要であると考えている。
3. 障害者の処遇、今後の課題と展望
(1)障害者の処遇
5名の障害者の勤務形態は下記の通りである。
所定労働時間 | 休憩時間 | 始業時間 | 終業時間 | 勤務形態 | |
---|---|---|---|---|---|
A | 8時間00分 | 60分 | 8:30 | 17:30 | フルタイム勤務 |
B | 8時間00分 | 60分 | 8:30 | 17:30 | フルタイム勤務 |
C | 8時間00分 | 60分 | 8:30 | 17:30 | フルタイム勤務 |
D | 8時間00分 | 60分 | 8:30 | 17:30 | フルタイム勤務 |
E | 8時間00分 | 60分 | 8:30 | 17:30 | フルタイム勤務 |
当社は、基本的には、フルタイム勤務できる人を採用しているため、5名の障害者の勤務形態は、現在、所定労働時間が8時間のフルタイム勤務になっている。しかし、当初は、職場に慣れるための短時間勤務から始め、6時間ぐらいの勤務時間から徐々に所定労働時間を延ばしていく方法を採っている。
(2)今後の課題と展望
当社の障害者雇用は精神障害者を特に重視して推進している。精神障害者は適正に職場環境を整え、また精神障害者の特性=「薬」の正しい服用の管理(適正な体調管理を徹底する)等を理解し、職場の周りの人もその理解を深めることにより、精神障害者の職場での活躍の可能性を十分な「手ごたえ」をもって体得することができた経緯がある。
ここ数年の障害者雇用の経験として、精神障害者は上記の状況を事業所が整備することにより、その職場での活躍を期待できるということを実際の職場現場のなかで実証できた。このことは、ちょうど当社が平成10(1998)年に障害者雇用を試行した時の社会福祉法人やおき福祉会の生活相談員だったK氏が熱く語っていたこと、そのものであった。
その想いは現在に繋がっており、当社では精神障害者の雇用について、様々な障壁をひとつひとつ解決していくことが精神障害者の「働く」ということに大きく貢献できると確信している。
企業は「社会の公器」であるべきことが求められており、まさに障害者雇用もその使命を具現化としたものであり、今後とも障害者雇用推進に力を傾注していきたいと考えている。
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