支援機関との協働による知的障害者の雇用・職場定着の取り組み
- 事業所名
- 株式会社めのや
- 所在地
- 島根県松江市
- 事業内容
- めのう・半貴石の輸出入、製品加工及び販売、アクセサリーの企画制作及び販売
- 従業員数
- 653名
- うち障害者数
- 8名
障害 人数 従事業務 視覚障害 聴覚・言語障害 1 商品作成 肢体不自由 2 労務事務管理、店舗販売 内部障害 1 店舗販売 知的障害 4 商品の仕分け、ピッキング等 精神障害 発達障害 高次脳機能障害 難病等その他の障害 - 目次
![]() 事業所外観
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1. 事業所の概要、障害者雇用の経緯
(1)事業所の概要
当社は創業明治34(1901)年で、松江市嫁島町に本社、東京都渋谷区に事務所を置く。
神話の国・出雲に脈々と受け継がれる「めのう」の加工技術を受け継ぎ、由緒正しき勾玉づくりに長年携わってきた“石屋”としてのバックボーンを持っている。
事業内容は、めのう・半貴石の輸出入、製品加工及び販売、アクセサリーの企画制作及び販売である。郊外型ショッピングセンターにインショップ形式で出店している「アナヒータストーンズ」、都市型ショッピングセンターや駅ビルに入っている「Karasade(からさで)」、観光地の路面店「たまゆら」と「みすまる」、と店舗業態は現在4つである。全国各地、海外では中国でも店舗を展開しており、合計で約100店舗を数える。
当社の経営理念は「この店があってよかったありがとう」、「この店にあなたがいてくれてよかったありがとう」である。また、行動指針として「私たちは、単にモノを売るのではなく、このお店がお客様の人生に一瞬でも“安らぎ”や“愉しさ”を提供する事ができたなら…そんな店づくりをめざします」を掲げている。
(2)障害者雇用の経緯
障害者雇用に関して特別な意識は持っていない。会社の理念がベースにあることと、現在の専務取締役自身が障害者であることもあり、当たり前に雇用を進めてきたというのが実際である。また、著書『日本でいちばん大切にしたい会社』で知られる、法政大学大学院政策創造研究科の坂本光司教授から受けた影響も大きい。当社は平成24(2012)年に第2回「日本でいちばん大切にしたい会社」大賞、審査委員会特別賞を受賞している。
また、障害のある人たちとの関わりとして、雇用するだけでなく訓練の場の提供を行っている。松江市内にある障害福祉サービス事業所から施設外実習を受け入れており、毎日4~5人の障害のある人が支援員とともに来社し、本社の一角にある研修室のなかで石の袋詰め等の作業を行ってもらっている。
障害者雇用の現状としては、会社全体で8人の障害者(重度障害者を含む)を雇用している。そのほとんどの人は松江にある本社において就労している。募集・採用やその後の職場定着支援に関しては、ハローワークや障害者職業センター、障害者就業・生活支援センター、特別支援学校等の支援機関と連携しながら行っている。
以下では、本社の商品部・物流グループにおける知的障害者2名(Aさん・Bさん)の採用・職場定着の事例をご紹介する。
2. 取り組みの内容、効果
(1)募集・採用
Aさんは、ハローワークの紹介で採用した。面接の印象で十分力があると判断したため、職場実習やトライアル雇用等の制度は利用していない。
Bさんは、特別支援学校の在学中に職場実習を3回程度、当初は短い期間から始め最終的には半月程度の期間行った。職場実習を重ねるなかで、疲れ具合等をみながら勤務時間を決定している。
(2)障害者の従事業務、職場配置
Aさん、Bさんはともに本社の商品部物流グループに所属している。Aさんは9時から18時で1日8時間、週5日の週40時間勤務である。Bさんは9時から15時で1日5時間、週5日の週25時間勤務である。2人とも有期契約を結んでいるが、原則的にずっと更新していく形をとっている。
![]() 商品部物流グループ
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(3)具体的な業務内容
Aさん、Bさんにはそれぞれの興味や得意なことを活かして、いくつかの業務を担当してもらっている。
- ピッキング作業
ピッキング作業は、全国の各販売店から届く発注書をみて、たくさんの商品が収めてある棚から必要な商品を必要な個数集めて、発送できるように準備するという作業である。現在は主にAさんが担当している。入社当初は簡単な作業から始めたが、日々様子を見ながら徐々にレベルアップし、ピッキング作業を任せることができるようになった。
この作業には総勢15人程度の社員が従事しているが、Aさんは他の社員と全く同じ内容の仕事をしてもらっている。誤った商品、誤った個数を出荷してしまう「誤出荷」をいかに少なくするか、ということがピッキング作業の一番大切なポイントであるが、Aさんは他の社員よりも誤出荷の割合が低い。ミスが非常に少なく集中力の高さを活かしてくれている。休んだ社員の応援に入ってもらうことも多く、貴重な戦力となっている。
ピッキング作業 - 送り状作成作業
送り状作成作業はピッキングした商品を各販売店に発送するための送り状を絶やすことなく事前に作成、印刷するという作業である。毎週火曜日と金曜日に行う作業で、現在はAさんが担当している。まず、棚に収められた各販売店に発送する商品を入れる専用ボックスを見て、送り状の残数を確認する。次にパソコンの専用システムを開き、残数が不足している店舗の電話番号を入力し店舗を検索、決定する。さらに出荷予定個数を入力し、全ての店舗について入力が終わったら印刷する、という手順である。Aさんがパソコンを扱うのが得意だということを活かし、段階的に業務として設定した。
送り状作成作業 - サンプル品の袋詰め・テープ貼り作業
サンプル品の袋詰め・テープ貼りの作業は、3種類の石を3つずつ袋に詰め、テープでとめるという作業である。地味ではあるが、根気と集中力が必要な作業である。現在は主にBさんが担当している。当初は、袋に入れてどの部分で折るのか、テープをどのくらいの長さで切るのか、というコツが掴みにくく、作業に時間がかかってしまっていた。対策として、ジョブコーチの助言を受け、治具を工夫(袋の折り目が分かるよう線を引いた付せんを手元に貼っておく、適切な長さに切った紙をテープカッターに貼り、テープの長さの目安にする。)したことにより、現在では作業能率が向上している。
サンプル品の袋詰め・テープ貼り作業 - 計量作業
計量作業は、水晶等の石のなかから異物や不適格なものを選別した後、グラム数を計って袋に詰めるという作業である。現在は主にBさんが担当している。選別をするには、かなり神経を集中させることが必要であるが、Bさんは石に触れることが好きなようで、集中してコツコツと、根気強くやってくれている。
計量作業
その他には、ハーブ(ホワイトセージ)の袋詰め、ブレスレット等の不良品の分解、切断、商品のタグ付、梱包等、様々な作業がある。
(4)指導上の配慮・支援機関との連携
Aさん、Bさんともに、最初は簡単な作業からしてもらい、日々様子をみるなかでレベルアップできると判断すれば、徐々に担当してもらう作業を増やしていっている。興味や得意なことを活かしつつ、適性に応じて業務を配分している。職場定着支援に関しては障害者職業センター、障害者就業・生活支援センター、特別支援学校等の支援機関と協力して行っている。
当初Aさんは順調にやっているように見えたものの、気遣いをし過ぎてストレスをためていたようである。Aさんから障害者就業・生活支援センターに相談がありそのことが判明したため、障害者就業・生活支援センターに仲介してもらいAさんの気持ちを聞き、作業に集中してもらえるように配慮・改善した、ということがあった。
また、Bさんの支援に関しては、障害者就業・生活支援センターだけではなく、障害者職業センターのジョブコーチ支援を活用している。作業を指導する際の工夫や、障害特性に対してどこまで配慮すべきか、どのように接したら良いかということについての助言、家族調整等をお願いしている。
支援機関の職員とは、現在でも定期的に集まって話し合う機会を持つようにしており、情報共有をしながら継続して定着支援を進めている。「常に支援機関との協力体制がとれている」という安心感は非常に大きい。
(5)Aさん・Bさんが入ったことによる効果
Aさん、Bさんが入ったことによって、周りの社員が変わってきたことを強く感じている。Aさん、Bさんと一緒に仕事をするうちに、社員が人に対する気遣いをより意識するようになったし、気を遣えるようになってきたように感じている。AさんやBさんに対しても、声をかける頻度が増えてきている。
またAさん、Bさんの働きぶりを見ていると、コツコツと真面目に仕事に取組むという姿勢、わからないことを積極的に聞き、知らないことを知らないままで済ませないという姿勢、他者への気遣いもきちんとできること等、社員一人ひとりが見習うべき点がたくさんある。総じて、周りの社員たちに良い影響を与えていると考えている。
3. 今後の課題、展望等
Aさん、Bさんに関しては、今後も長く働き続けてほしいと考えている。障害があったとしても、将来的に、いずれは自立して生きていかなければならない。そのためにもAさん、Bさんに対しては、社会の厳しさも含めて、厳しいことも伝えていかないといけないと考えている。嫌なことも含めて色々と経験し、それを乗り越えて、自立して生きる力を身につけてもらえるようサポートしていきたい。
障害者雇用を進めていくためには、本人の努力だけではなく、家族や特別支援学校、障害者職業センターや障害者就業・生活支援センター等の支援機関等、まわりの人たちの協力が欠かせない。会社だけでは限界があり、本人も会社も疲弊してしまい、お互いにメリットが無くなってしまいかねない。永遠にとはいかないが、ある程度長期的なスパンで、みんなで協力してフォローしていく必要があると感じている。当社の事例では過去に、異動等の事情により支援機関の担当者が変わった際、支援がうまく継続されず途切れてしまう、といったことがあった。属人的ではなく、組織としてきちんと支援体制を固め、一貫したフォロー体制を継続的に確保することが大変重要だと考えている。
「障害がある」ということだけで、雇用の門戸が閉ざされてはならない。当社としては今後も、もっともっと障害のある人たちの力を借りたいと考えている。
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