経験から積み上げてきたものを活かし、会社自身も支援力を高めていく
- 事業所名
- 株式会社油屋(ダップス)
- 所在地
- 島根県浜田市
- 事業内容
- 食品・日用雑貨卸
- 従業員数
- 39名
- うち障害者数
- 2名
障害 人数 従事業務 視覚障害 聴覚・言語障害 肢体不自由 内部障害 知的障害 1 鮮魚、商品管理 精神障害 発達障害 1 パソコン業務、商品管理 高次脳機能障害 難病等その他の障害 - 目次
![]() 事業所外観
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1. 事業所の概要、障害者雇用の経緯
(1)事業所の概要
明治20(1887)年の創業当時は、今とは違う別の屋号があったが、行燈に入れる油を売っていたこともあって、地域の皆さんからは自然と「油屋」と呼ばれていたため会社名を【油屋】と改め、現在に至っている。
現在、浜田市の中心部に本社を置き、スーパー、盛籠、青果加工、卸し業を展開している。
経営しているスーパー2店舗では、「地域一の品質と鮮度を目指し、どこよりも安く常にお客様の気持ちになり、心から喜んでいただけるよう、親切丁寧に笑顔でキビキビと対応する」をモットーに地産地消で新鮮な食材を提供している。
(2)障害者雇用の経緯
障害者雇用に関しては、以前から身体障害者の雇用をしていた経緯はあったものの、知的障害者や精神障害者の雇用については「働けない」といったイメージがあり、全く考えてもいなかった。
そんな時、障害者福祉を熱心に勉強し活動していた人とのつながりが契機となり、地域の障害者就業・生活支援センター「レント」(以下「レント」)を紹介され、障害者雇用の具体的な説明や他企業での事例を教えてもらい、実習の受け入れ等に積極的に取組んでいくこととなった。
社長も自ら一緒に働くうちに、いかに自身が障害のある人と接していなかったのかを感じ、できる限り障害者雇用をしていこうと触発され、今まで認識のなかった知的障害者や精神障害者の雇用に取組むこととなった。
以下では、スーパー部門における知的障害者Aさん、発達障害者Bさんの実習から雇用、職場定着までの事例をご紹介する。
2. 取組の内容
(1)Aさんの取組
Aさんは、特別支援学校在学時に数回、当社スーパーにおいて実習を行い、卒業後の平成23(2011)年4月に採用となった。しかし入社当初、Aさんが一人でできる業務にも手を出してしまう、ミスをしても見過ごし許してしまうなど、担当する従業員が、Aさんに対して過度に気を遣い、配慮し過ぎた対応になっていた。そのためか、周囲の従業員からは特別扱いと捉えられ、次第に部門内での良好な人間関係が保てなくなってきていた。
そこで、「レント」とグループホームで生活場面の支援を担当している機関を交え、Aさんに接する対応を改めて社内で検討することにした。職場での状況と生活場面の状況などをお互いに話し合い検討した結果、Aさんを特別扱いせず注意すべきところは注意する、Aさんの担当する業務は最後まで責任を持って取組んでもらいできない場合のみフォローするなど、他の従業員と同じ様に対応するように部門内での対応を統一することとした。
また、定期的に仕事面と生活面の支援機関との連絡調整の場を持つことなども実施し、現場における具体的な支援方法についてのアドバイスも受けることも行った。
Aさんが行う「商品に貼るバーコードのシール作成作業」においては、漢字を覚えられないことが原因となり、仕事の面で行き詰ってしまうことがあった。現場からは、「この業務をやってもらわないと困る」との声があったため、Aさんが取組める方法を検討してみた。
魚に関する漢字は似たような形で数も多くあるため、とても覚えることが困難であると判断し、読み取り易いひらがなバージョンの一覧表を作成してみることにした。その結果、Aさんも容易に読み取ることができ、商品シール作成作業が行えるようになり、新たな職域の拡大へと繋がることになった。
できなかったことができるようになったことで、Aさんは意欲的に業務に取組む姿勢が随所に表れ、社会人としての自覚も芽生えてきたと思われる。また、今では仕事上でミスをした時などは現場の従業員が自然とAさんをフォローするなど職場内における人間関係も良好になってきている。グループホームでも同様に安定した生活態度で過ごせるようになっていった。
入社当初は、鮮魚部門のみの業務だったが、現在では商品管理業務にも従事するなど、Aさんの担当する職域が広がってきている。
![]() 午前中の仕事:包丁で魚の下処理をしているAさん
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![]() 午後からの仕事:商品前だしをしているAさん
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(2)Bさんの取組
発達障害のあるBさんは過去、就職に失敗し5~6年間引きこもっていたところを「地域生活支援センター」と島根県西部発達障害者支援センター「ウィンド」(以下「ウインド」)の支援により、生活保護の受給、住まいの確保等、まずは生活の面での立て直しを行った段階後に就職を目指すことになった人である。
当社では、地域の支援機関であるウィンドとレントからの依頼によりBさんの実習を受け入れることが、初めて発達障害のある人との関わりになった。
現場実習、障害者特別委託訓練、トライアル雇用を経て、比較的長期間にわたりBさんの状況把握を支援機関の協力を得ながら取り組んでいった。
当初は勝手に休むことも多く、無責任と思われる行動も度々目についていた。会社としても対応に困り、その都度、支援機関とのケース会議を行い、発達障害の特性についても学び、根気強く長い目で見るように対応を心がけていった。
しかし、体調不良で休むことや勤務中も体調不良(頭痛や下痢)を訴えることが度々あることなどは、半年以上経過してもあまり改善することがなく、医療機関も交えて相談に乗ってもらい服薬の調整を行った。
また、Bさん自身が勝手に判断して休むことも多くあったためフローチャート図を作成し、自己判断で勝手に休まないルール決めにすることとした。
作成したフローチャート図は次のようなものであった。
- 体温を測定する。
- 熱があれば通院・なければ連絡する。
- 通院しないときは連絡する。
このルール導入後から徐々に休む日が減少していくと同時に、その結果として給料が増えていったことも、最終的にBさんの仕事における意欲につながっていったのではないかと考えられる。お蔭で、無断で勝手に休むことは現在ではほとんどなくなっている。
過去の就労経験時にPC業務に従事していたこともあって、得意なPCを使った業務では他の従業員であれば半日かかる入力業務を、Bさんが行えば2時間で終了することができ、作業効率も上がり自信を持つことができるようになっていったが、その一方で、作業効率やスピードにムラがある、ミスが多い日があることが課題となっていた。
その課題の原因を検討した結果、Bさんの業務中に他の従業員や上司から突然の指示や声掛けが入ってしまう時に、ミスが多く能率が下がってしまうことが把握できた。Bさんの集中力が途切れない方法として、作業中には途中で他の業務指示を出さないことを社内で統一し、複数の業務を行う際には指示書を使用するなど、Bさんが混乱しない伝え方の工夫も必要だということが理解できた。
今日までの障害者雇用・実習の受け入れの経験から、今では社長自らが積極的に声をかけ、コミュニケーションのきっかけづくりを行い、反応を見て状況把握にも努めている。
また、会社として障害者雇用に取り組むうえで、下記の4項目を意識している。
〇本人の得意なことを仕事にする。
〇特性に合わせた環境や対応を行う。
〇職場内で孤立させない。
〇他の従業員・周りとの調和をはかる。
![]() パソコン業務をしているBさん
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![]() 商品補充をしているBさん
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3. 取組の効果、今後の展望と課題
(1)取組の効果
Aさんは、職場での充実した仕事振りだけでなく、グループホームでの2年間の経験を活かし、目標だった単身生活へ移行することが決まった。
Bさんは、働くことによって安定した収入を得ることができるようになり、今では、生活保護からの一日も早い経済的自立が目標だと言っている。
会社においての二人の存在は、貴重な戦力になっていることはもちろんだが、現在では二人とも仕事を通じて、周囲から信頼・評価されている。自信がつき、前向きで責任感も伝わってくるようになった。そして何よりも、社会生活全般における幅が広がってきていることが大切なことではないかと考えられる。
雇用や実習の受け入れを積極的に行ってきたことで、今までの失敗事例や成功事例を基に会社、従業員の障害者雇用に対する基盤ができてきたと思われる。時間をかけ指導し理解していくことで会社に必要となる力になっていく。職場の上司の理解はもちろん、現場で共に働く従業員と支え合いながら働ける関係を作ることが最大の定着に繋がることだと考えられる。
(2)今後の展望と課題
雇用している人が現在従事している業務だけではなく、できる仕事の幅を広げていきたいと思っている。今後は、接客やレジ、仕入れといった難しいと思われる業務にも挑戦できる機会を設けていきたい。
また、中小企業であっても、障害者だけではなく、若者の雇用の場としての門戸も広げ、地域活性の一躍も担っていくため、会社としても、更に事業の展開、充実をはかっていかなければならないと考えている。
就労支援機関のアドバイスやフォローはもちろん、様々な制度や支援は必要であり、活用していきたいと思っているが、限りがあることも理解している。これまでの失敗や成功など、実際の経験から積み上げてきたものも活かし、会社自身も支援力を高め、自立を図っていきたいと考えている。
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