障害を持っても定年まで勤められるよう、努力する職場
- 事業所名
- 株式会社伊予鉄髙島屋
- 所在地
- 愛媛県松山市
- 事業内容
- 百貨店業
- 従業員数
- 553名
- うち障害者数
- 7名(うち重度4名)
障害 人数 従事業務 視覚障害 聴覚・言語障害 肢体不自由 4 販売・事務・点検他 内部障害 2 事務・点検他 知的障害 精神障害 発達障害 高次脳機能障害 難病等その他の障害 1 サービスカウンター業務他 - この事例の対象となる障害
- 肢体不自由
- 目次
![]() 事業所外観
|
1. 事業所の概要、障害者雇用の経緯
(1)事業所の概要
本事業所は、昭和46(1971)年7月5日、松山市の交通の拠点である松山市駅に誕生したターミナルデパートである。「愛媛に生まれた地元の百貨店」として地域の皆様から愛され、創業6年目にして年間売上四国No.1を達成した。さらに、平成13(2001)年10月に「松山市駅前周辺地区再開発事業」の一環として増床、それに伴い全館をリニューアルし、現在に至るまで売上・売場面積ともに四国最大を誇っている。
平成14(2002)年3月、株式会社髙島屋と資本提携し、全国で20番目の髙島屋として新たなスタートを切った。髙島屋グループの『‘変わらない’のに、あたらしい』という企業メッセージの下、事業を展開している。
≪経営理念≫
- 伊予鉄髙島屋は、百貨店事業を中核とし、未来を拓く生活文化創造産業をめざす。
- 企業は社会の一員であることを自覚し、その責任を全うするとともに、事業を通じ地域社会の生活文化の向上に貢献する。
- 常にお客さまの立場にたって考え、行勤し、お客さまに満足と喜びを提供する。
- すべてのお取引先と、相互信頼を基盤とした強固な協力関係を築き、共存共栄を図る。
- 社員の個性と生きがいを尊重し、人材の育成に努め、生き生きとした社風づくりを行う。
- 相互信頼を基調とする労使の協力関係をより強固なものとし、生産性の向上を通じ、会社の永続的発展と、社員の豊かな生活の実現をめざす。
昭和45(1970)年 | 創立 店舗オープン |
昭和51(1976)年 | 年間売上高四国一位を達成 |
昭和53(1978)年 | 本店増床オープン(四国一位の売り場面積となる) |
昭和55(1980)年 | 伊予鉄市駅西駐車場、トラベーター 竣工 |
昭和57(1982)年 | 本店(6・7階)増築オープン |
平成 2(1990)年 | 北藤原別館竣工 |
平成 3(1991)年 | 南館新築オープン |
平成13(2001)年 | 髙島屋ハイランドグループ加盟 株式会社伊予鉄百貨店へ社名変更 増築増床グランドオープン |
平成14(2002)年 | 株式会社伊予鉄髙島屋へ社名変更 |
(2)障害者雇用の経緯
当社で働いている障害者の殆どが中途障害者である。入社の際に障害はなく、その後、事故や病気が原因で障害を持つようになった人ばかりである。しかし勤続年数はどの障害者も20年以上と非常に長期にわたっている。
「事故や病気を理由に会社に勤務することをあきらめざるを得ない状況は多くあるが、たとえ障害が残ったとしても一人も欠けることなく、この会社で働くことができるよう、それぞれの障害に合った職場の確認や配置転換、仕事の分析を行い、障害者の働けるインフラの整備に努力した。もちろん障害者本人の、この会社で働きたいという強い意思と努力は言うまでもない」と総務部人事グループの真柴さんは語っている。
![]() 人事課長 真柴さん
|
2. 取組の内容
(1)仕事内容
○Aさん(下肢障害) (営業第三部制服チーム)
ルーティンワーク | 不定期な仕事 |
|
|
![]() Aさん
|
○Bさん(下肢障害) (総務部施設・商品管理・物流グループ)
ルーティンワーク | 不定期な仕事 |
|
|
![]() Bさん
|
○Cさん(上肢障害) (外販統括部外販統括グループチームマネージャー)
ルーティンワーク | 不定期な仕事 |
|
|
![]() Cさん
|
○Dさん(下肢障害) (経理部会計グループ)
ルーティンワーク | 不定期な仕事 |
|
|
![]() Dさん
|
(2)配慮事項
障害者を雇用し続けるにあたり、障害の部位や程度を考慮し、本人が障害をあまり意識せず周囲と同じレベルで能力を発揮できる職場を探し、整備することを重要視した。
まずハード面に関しては車いすでの勤務も可能になるよう、スロープの設置はもちろんのこと、細かい段差もできる限りなくし、机の配置等、レイアウトの変更を行い通路を広く取った。結果、車いすでも何の不自由もなく動くことができるようになった。
また、自己申告制度や人事面談制度があり、年に一度は人事担当と自分の状況や仕事の内容について申告し、相談できるようにしている。その話し合いの機会だけでなく、普段から自由に話のできる関係づくり、雰囲気作りを行っていることは言うまでもない。
社内においては障害者理解のために、全社員に対してコンプライアンス教育(CSR教育も含む)を行い、障害者および障害者採用への理解が深まるよう啓蒙を行っている。
障害のない社員と同じ制度で、昇給・昇格も行っている。障害があっても同じ基準で評価している。実際、ここで取材、紹介した障害者の中にも役職者がいるが、役職に昇格したのは障害を持った後のことである。
障害のない社員と同等に責任ある仕事を持たせ、評価することがモチベーションの維持向上につながっており、勤続年数の長さとなって表れている。4名の障害者にインタビューすることができたが、どの障害者も愛社精神が強く、日々の仕事にやりがいを感じながら働いていることが伺えた。またそのように懸命に働いている姿が、周囲にも大変良い影響を与えていると思われる。
病気や事故により長期入院となってしまい、職場に復帰することができるかどうかわからないという人もいたが、せっかく何らかの縁で会社に入ってきた人達である。一人も欠けることなく長く働いてほしいという強い思いから、根気良く、できる限り会社も「待つ」という選択をした。そして職場に復帰してからも、これまで以上にやりがいを持って働くことができるよう適性業務を慎重に見極め、不安なく継続できるようフォロー体制を整えてきた。その結果が現在までの長期にわたって、会社に感謝をしながら毎日元気に働くということにつながっているのではないだろうか。
(3)障害者へのインタビュー
- Aさんの場合
Aさんは学校制服の販売業務を行っている。「お客様から感謝されることが多く、それがやりがいになっている。時には名前を覚えてもらっていて、ご本人からのリピートはもちろん、その妹さんや子供さんが制服を購入する際、指名をされることもある。若いお客様とお話することが多く、自分も若さと元気をもらって働くことができる」と顧客との関わりで、直接感謝の言葉などをいただくことがモチベーションの維持につながっているようである。積極的に歩いて仕事を見つけては業務遂行している。穏やかで、とても気さくな人柄であり、顧客からリピートの指名が多いことも頷ける。「お客様からのご意見を参考にしながら、学校と家との中間の空間づくりを心掛けたい」と前向きにこれからの仕事についても抱負を述べてくれた。
同僚と受注の確認をするAさん - Bさんの場合
Bさんは伝票点検の業務を行っている。「この仕事は自分に合っている。長期に働かせてもらって嬉しい」と率直に話された。車いすでの生活、勤務であるが体力の維持管理のためにテニスをされているそうで、仕事中もきびきびと動いており、毎日元気に働いている姿がとても印象的であった。「体調を崩して仕事を休むことがない様、健康管理には充分配慮している。風邪を引いたこともない。これからも仕事を続けていきたい」と、とてもポジティブであった。
- Cさんの場合
Cさんはカード顧客管理事務を行っている。「障害があっても働くことができる。役職に就いて、部下の指導をする立場となり、今はそれがやりがいとなっている」と語っている。職場は電話がひっきりなしに鳴っており、とても忙しそうであった。そのなかでもCさんは上司としてとても頼られているようである。「事務として後ろ盾となりながら、営業をフォローできる体制を作っていきたい」と活き活きと話してくれた。
- Dさんの場合
Dさんは経理事務を行っている。「皆さんと一緒に働くことができることが嬉しいし、毎日充実している」と明るく笑顔で答えてくれた。職場のムードメーカーであり、上司とのコミュニケーションもうまくいっているようである。「これからもどんどんスキルアップをして会社の役に立ちたい」と上司と打ち合わせの途中であったが快く、和やかに話してくれた。
上司と打ち合わせするDさん
3. 今後の課題と展望、最後に
(1)今後の課題と展望
- 障害者に求めたいこと
「与えられた仕事に満足することなく、今以上にできることを貪欲に求めてステップアップを続けて欲しい。そのために必要なサポートはどんどんしていくつもりです」と真柴さんは語っている。しかしながら、「この会社で働きたい」という愛社精神に満ち溢れた人が多いからこそ、弱音を吐きにくいことや、無理をして頑張りすぎてしまうこともあるのではないかと逆に心配になることもあるそうだ。
- 会社として考えなければならないこと
障害者の新規採用を考えているのだが、まず、勤務場所、業務の開拓が急務である。
百貨店の職場は接客を伴う販売や営業の現場が大部分を占めるが、お客様を満足させるだけの接客能力や行動力を備えた人材を求めざるを得ず、実際に募集しても障害者の応募はまったくないのが実情である。
一方、運搬・包装・施設管理等の後方作業部門においては大部分を他社へ業務委託しており、比較的雇用が容易な職場が社内には少ないのが現状である。
また在職する障害者は長期にわたって働いているため、加齢に伴う問題も発生している。すでになされていることではあるが、障害者の定年後の再雇用の際、担当職務の見直し、再配置なども行い、少しでも長く働くことができる様配慮していかなければならない。
「新規採用を考えるとき、障害のない人と同等の能力を発揮する障害者を求めるのではなく、障害者が無理なくこなすことができる仕事を探し、集め、積極的にポストを作ることも検討しなければならない」と真柴さんは力強く語った。
(2)最後に
今回、当社の取材を通じて感じたことは、働く障害者と会社との厚い信頼関係である。インタビューした皆さんには、この会社で最後まで頑張るという強い意志を感じた。また人事担当の真柴さんにも障害者を思う熱い気持ちと溢れんばかりの愛社精神を感じた。こういう、双方の気持ちが相互信頼を生んだ好事例であると思われる。
平成25(2013)年4月から障害者の法定雇用率が引き上げられた。また、ここしばらく障害者の新規採用が行われていないことから、会社としては前述のような取組を考えているようだ。百貨店特有の事情もあり困難は多いと思われるが、関わる人たちの熱い思いが、必ずや障害者の新規採用に結びつくことであろう。
新たに採用された障害者も、現在勤務中の諸先輩に見習い、会社との信頼関係を構築し、安定して長く勤務していってもらいたいと願う。
伊予鉄髙島屋の今後更なる障害者雇用拡大に期待したい。
准教授 苅田 知則
アンケートのお願い
皆さまのお役に立てるホームページにしたいと考えていますので、アンケートへのご協力をお願いします。
なお、事例掲載企業、執筆者等へのお問い合わせや、事例掲載企業の採用情報に関するご質問をいただいても回答できませんので、あらかじめご了承ください。
※アンケートページは、外部サービスとしてMicrosoft社提供のMicrosoft Formsを使用しております。