社会福祉法人だからこそできる自立支援と職場提供を進める取り組み
- 事業所名
- 社会福祉法人香南会
- 所在地
- 高知県香南市
- 事業内容
- 社会福祉事業及び公益事業
- 従業員数
- 563名
- うち障害者数
- 31名(就労継続支援A型事業所「維新工房きらり」職員23名含む)
- 就労継続支援A型事業所「維新工房きらり」職員23名内訳
障害 人数 従事業務 視覚障害 聴覚・言語障害 1 チルド加工 1名 肢体不自由 1 クリーニング 1名 内部障害 知的障害 15 クリーニング 8名 チルド加工 7名 精神障害 1 クリーニング 1名 発達障害 5 チルド加工 5名 高次脳機能障害 難病等その他の障害 - 目次
![]() 事業所本部外観
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1. 事業所の概要、障害者雇用の経緯
(1)事業所の概要
社会福祉法人香南会(以下「当会」という。)は、平成3(1991)年3月29日、高齢者や障害者を対象とした福祉サービスの提供を行う事業所として設立された。当初は本部所在地の香南市を中心に事業を進めていたが、現在は、県内及び県外にわたり社会福祉事業を展開している。
事業内容は、老人ホームの経営・デイサービス事業・居宅介護・障害福祉サービス・グループホーム・訪問介護等で、高齢者福祉関連を43事業所、障害者福祉関連を6事業所運営している。
「すべての人々に希望と光、心のやすらぎを」の基本理念を揚げ、公益的立場にある社会福祉法人として「事業で得た収益は可能な限り利用者やサービスを必要とするできるだけ幅広い層の人々の為に、そして、地域の活性化や地域福祉の充実の為に還元する」ことを事業運営の目的として、社会貢献のできる法人を目指している。
(2)障害者雇用の経緯
当会では、当初から障害があっても障害のない人同様にその持てる能力と適正に応じ、地域で自立した生活が送れる社会の実現を目指してきた。新規事業の立ち上げ時には障害のある職員の常用雇用ができないかをその都度に課題とし、就労できる環境づくりや職員間の協力体制づくりを積極的に行ってきた。その結果、障害者の常勤雇用は平成25(2013)年3月末時点で、後述する就労継続支援A型事業所「維新工房きらり」で当会と雇用契約をして利用する利用者(23名)を含めて当会全体で31名(実雇用率5.49%)までになった。
最初の障害者雇用は視覚障害者だった。バリアフリーから始まる環境整備も手探り状態で行った。障害があっても頑張る様子に周囲が徐々に環境整備の必要性を認める結果となった。
そして、福祉事業を推進する中で職員にも、障害者のためにもっと仕事のできる環境が必要との気運が自然に高まってきた。
こうして、当会において障害者の受け入れ態勢を整備し、障害者雇用の推進を図っていくこととなった。
その結果、平成21(2009)年5月、香南市に設立したのが障害者の自立支援を目的とした就労継続支援A型事業所「維新工房きらり」(以下「A型事業所」という。)である。
設立に当たっては、当会が運営する各事業所から出るシーツ等のクリーニング及び事業所の清掃業務に10名の障害者を雇用した。
その後、平成22(2010)年7月に高知市長浜に同A型事業所を新築移転し、平成26(2014)年1月現在、23名(定員25名)が当会各事業所のリネン関係のクリーニングとチルド加工業務に従事している。今回は、障害者雇用の取組として、このA型事業所での取組について紹介する。
2. 取組の内容
(1)障害者の業務内容
A型事業所内ではクリーニング業務とチルド加工業務の2カ所の配属先に分かれている。各部署への配属は個々の障害特性や本人の適性を考慮した上で決定した。
【クリーニング業務】
当会各事業所のリネン類のクリーニング業務に10名の障害者が勤務している。1日平均350枚(敷きシーツ、掛けカバー、枕カバー)を仕上げ、各事業所に届けている。
業務の専門的支援には、クリーニング師の支援員(1名)が対応しているが、技術向上だけでなく、納入するリネンが清潔で安心できる仕上げになるよう指導している。
【チルド加工業務】
13名の障害者が勤務している。当会利用者の食材製造を業務としている。
障害者の配置業務は、下処理室では食材のカットに6名、中処理室では7名が計量・真空パック作業に従事している。これまでに毎日の食事に合わせてレシピ数も100を超えるほどになり、1日3〜4品目を約2,700食生産している。
業務の専門支援は栄養士・調理師各1名が当たっている。
(2)雇用管理
障害のある職員の募集・採用は、公共職業安定所を介して行っている。当初の募集は、時給700円としたが、応募者がいなかった時もあった。10名でスタートした定員は、現在25名まで増員している。
雇用契約は1年度毎の更新で、雇用形態は常勤パート職員である。月20日勤務で勤務時間は9時15分から16時45分までとし、原則時間外労働はない。12時から13時は休憩時間で実働時間は1日6時間30分としている。
休日は勤務表により調整はあるが、週休2日とし、労働基準法に従い有給休暇もある。また、無料送迎バスで当会運営のグループホームオレンジハウスからの7名を含め21名が通勤している。自家用車使用の2名には通勤手当を支給している。
賃金形態はA型事業所設立当初から時給700円を設定している。これは地域で自立した生活ができるように最低賃金を超える金額としている。障害者年金と合わせれば自立生活資金が賄える。
社会保険・雇用保険・労働保険の福利厚生は法定どおりで、当会各事業所との忘年会や互助会活動等で従業員間の交流を図っている。
健康管理としては、健康検診を年1回実施している。また、業務上、衛生面には特に気を付けており、手洗いの励行から始まりマスクや手袋・ヘッドカバーの着用等厳しく指導している。これは食品を扱うチルド加工だけでなく、クリーニング業務でも同様の予防対策である。
![]() クリーニング/朝礼
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![]() タイムカード
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(3)取組の具体的内容
事業所開設当初は、不景気による解雇等前職場で嫌な思いをした障害者が多く、不安で沈んだ様子が見られたが、「働く姿勢を養うこと」をモットーに支援活動等をしてきた結果、よく会話ができるようになり、明るい表情が見られるようになった。
ただ、障害に理解ある職場であるがためメンタル面で働きやすさが身につくと、現状維持が楽で一般就労を考えにくくなるという雰囲気になることもあった。しかし、雇用契約を交わし、一定賃金が保障された職場環境とは言え一般企業の就労とは違う。
A型事業所はあくまでも訓練の場であり、「働く力」を身に付けて各人にあった職場に就職して欲しい場である。法人内の研修でヘルパー資格を取得し、一般就労に結びついた者も出始め、就労に対する姿勢が全体的に変わってきており、積極的な研修参加希望者が出ている。
業務分担は、個々の障害特性や本人に適した部署を見極めて配置しているので仕事はまじめであるが、金銭管理面や職員間でのトラブル等の相談は結構ある。対応するに当たり、個々が登録している支援センターや家族・友人等と連携を密に図りながら問題を共有し、ケア会議を開くなどして解決している。
業務を遂行する能力は支援員から指導され時間と共に上達したが、あいさつや衛生観念を習得するには、仕事の指導以上に繰り返しが必要であった。
虐待防止や感染症予防の研修も繰り返し実施し、当会も事前準備として障害の特性を十分学習することで、双方の理解が深くなることがわかった。特に、グループホーム等で共同生活支援や援助を受けている場合は、障害特性に合わせた個別援助が必要となる。
家族と同居している場合は、家族と連絡を密にすることが大切である。
(4)教育支援
当会では、業務に必要な資格を取得する研修や訓練等を実施しているが、このA型事業所の職員も希望すれば教育のチャンスは同様にある。働きながら資格を取得できる体制が整備されており、A型事業所の職員の中からも介護職員初任者研修(旧ヘルパー2級)の受講を受け、これまでに2名が資格取得し、1名が受講中である。
なお、ヘルパー2級を取得した職員のうち1名は、現在グループホームで教育員とマンツーマンで現場研修中である。資格取得だけが目的ではなく、介護職として就労できるよう支援を受けている。
![]() チルド加工/下準備
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![]() チルド加工/調理
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あと1名は資格取得後、実際にグループホームに一般職員として就職し、夜勤も受け持っている。
現在は介護福祉士資格を目指し、働きながら実務者研修を受講している。このA型事業所では一般就労を目指す職員を積極的に支援するための研修や訓練を行っている。
(5)活用した制度や助成金等
活用した助成金は次のようなものである。
- 第1種作業施設設置等助成金
- 第2種作業施設設置等助成金
- 通勤用バスの購入助成金
- 障害者福祉施設設置等助成金
3. 取組の効果、今後の展望と課題
(1)取組の効果
- 取組み実施による効果
平成21(2009)年開設以来、A型事業所の勤務を経て、5名が一般就労に移行している。
内訳はグループホームの介護職員2名、就労継続支援A型事業所の支援員1名、施設清掃職員1名、造船業1名である。
社会福祉法人だからできる支援だが、働きながら初任者研修や実務者研修を受講し、資格を取得するだけでなく介護職員として就労できるように職場の提供が実現している。
今後も一般企業で働くための「通過事業所」としての役割を果していくため職員の就労能力を高めていきたい。
- 障害者のコメント
- Aさん(適応障害)
車で通勤している。以前は別の仕事をしていた。ここではクリーニング業務に従事しているが「シーツを機械に通す作業は、立ちっぱなし。この仕事に慣れるには時間がかかった。夏は暑いが冬は暖かいよ」とのこと。一般就労を目指しているが、実際にはどうしたらいいのか自分では判断できないので、どうしようかと悩んでいるようだ。
- Bさん(自閉症)
ここで働く前は、清掃をしていた。3年前からここで働いている。チルドの下処理の調理準備をしている。この頃慣れてきて他の人とも楽しくやっている。毎日、体調管理に気をつけている。うれしいことは、自分の気持をよく分かってくれる人がいること。味方してくれる人が一人でもいると気持が楽になるとのこと。
- Cさん(知的障害)
ここでは洗濯してローラーで乾燥させる仕事をしている。「あちこちから来る洗濯物をやっている。もうベテランよ。この仕事は、まあ気に入ってる。今後は自立して他の仕事をして結婚したい。一人住まいをしてみたい」と将来の夢を話す。
- Dさん(自閉症)
特別支援学校を卒業して入社した新人。仕事はチルド加工の真空パックの中処理をしている。「同期の人が2人いるので安心。この頃仕事が楽しくなった。オレンジハウスに住んでいる。職場には送迎バスで通勤しているけど、土日は実家に帰るよ」と明るい声。
- Aさん(適応障害)
(2)今後の展望と課題
障害者の能力を支援員の見極めによってさらに発揮させ、生産性を高めたいと考えている。
現在は定員25名である。事業所が大きくなればさらに定員を増員できるが、収支の壁もある。事業として単独で成立するのは難しいが、各種制度や助成金の活用も十分検討しながら採算性に繋がる運営を目指したい。スムーズな業務運営は勿論のこと、私生活の相談にものれるシステムを充実させることであり、家族・友人・支援センターの支援員とのコミュニケーションを取れるように問題の共有を更に図っていく。
当会は、社会福祉法人として介護施設を運営しているが、介護職員は人材不足である。
そんな最中、法人独自の介護職員養成システムを利用し、このA型事業所の職員の中から介護に向く人材が育ち、施設の介護職員としてやっていければと期待は大きい。その場合、業務分野が介護職員と限定されるが、一般就労の支援にも繋がるし、機会も増えるはずである。
一方、福祉サービスにおける周辺関連事業の拡大も考えられる。
自立支援や介護保険の見直しによって求められる分野、特に介護現場は重度化しているといわれる。今後、在宅でのサポート事業の必要性は高まるはずである。新分野進出や職域拡大は簡単なことではないが、生活する上では、様々な仕事があるので障害者雇用の可能性にもチャレンジしたいと思っている。
障害といっても特性に違いがあることを踏まえて、個々の能力を見出して仕事を模索していきたい。例えば、知的障害の場合、臨機応変を求めるのは難しいが集中力は持続できる。新規作業を身につけるには繰り返しの連続で時間はかかるし、支援員の指導や周辺の職員の大変さはあるが、本人に合った仕事を見つければ、それ以上の作業をすることが可能である。
当会として、サービス業務の範囲を拡大すると共に、障害があっても独自の教育や訓練により、一般就労へ移行することとしている。さらに施設近隣から採用することで地域に根ざした社会貢献ができるのではないかと考えている。
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