事業所名

株式会社エルアンドエー

所在地

福岡県田川市

事業内容

一般衣類のクリーニング・しみ抜き・靴とバックのリペア・クリーニング・着物のクリーニング・コインランドリーの運営

従業員数

50名

うち障害者数

2名

 

障害	人数	従事業務
視覚障害
聴覚・言語障害
肢体不自由	1	しみ抜き専門
内部障害
知的障害	1	乾燥機への衣類の出し入れ、商品に平面パックをかける
精神障害
発達障害
高次脳機能障害
難病等その他の障害

目次

1. 事業所の概要、障害者雇用の経緯
2. 障害者の従事内容
3. 具体的な取組
4. 取組の効果について、今後の課題と展望

事業所外観

1. 事業所の概要、障害者雇用の経緯

（1）事業所の概要

1. 事業所の特徴

   株式会社エルアンドエーは、創業から69年（平成26（2014）年1月現在）の歴史を持つ。田原誠治社長は2代目で、平成20（2008）年にはそれまでのクリーニング業だけでなく、「すべてのきれいがここにある」をコンセプトにリニューアルオープンを果たした。リニューアルオープンしたショップの特色は、コンセプトに沿って5つの専門ショップを集めたことである。この5つの専門ショップは、①一般衣類のクリーニング店、②しみ抜きの専門店、③靴とバッグ専門のリペア＆クリーニング店、④着物のクリーニング店、⑤スタッフ常駐のコインランドリーから成る。

2. 経営方針

   同社では、「会社はチームである」との共通認識を掲げ、パートも含めた全従業員に対し経営計画書についての説明を行っている。同じ目標を社内で共有することでチームとしての結束力が生まれているようだ。さらに、やる気のある従業員に対しては、成果だけでなく努力も評価の対象とし、一人ひとりの能力を引き出すことにも力を入れている。

（2）障害者雇用の経緯

同社の障害者雇用は、2年前に一人の知的障害者を雇用したことから始まった。そのきっかけは、田原社長の友人の妻が障害福祉サービス事業所（就労移行支援事業）に勤務しており、後に雇用することとなった障害者を紹介されたことであった。もともと、企業は「社会のために存在する」、「社会に貢献する責務を負う」と考えていた田原社長は、障害者を雇用することを決めたのだ。

その後、肢体不自由のある障害者を1名、さらに知的障害者を1名雇用した。障害者雇用のきっかけとなった知的障害者は、新たに自分のやりたいことを見つけることができたとの理由により平成26（2014）年1月に退職となったが、他の2名は現在も同社に勤務していて、一従業員として活躍している。

2. 障害者の従事内容

同社では、個人の能力（得意なこと、できること）によって業務を振り分けている。

まず、肢体不自由の男性は、衣類のしみ抜き専門の技術者として週3日～4日従事している。しみ抜きと一言でいってもしみの種類は様々で、しみによって落とすための薬品も使い分ける必要がある。よって、しみの種類を見分ける知識や経験も不可欠である。

また、大切な品物を傷つけることなく、預かった状態から最良の状態に変えてお客様の手元へ返すことが使命であるため、しみ抜き専門の技術者としての責任感や、他店では落ちなかったしみが落ちた時の達成感、やりがいといった感情が、より彼の技術力に磨きをかける原動力となっている。

次に、知的障害者の主な従事内容は、洗い終わった衣類を乾燥機へ入れること、乾燥が終わった衣類を商品別に並べること、クリーニングのすべての工程が終わった商品に平面パック（ビニール）をかけることの3つである。周囲の状況を自分で判断して行動することは難しいが、作業を適宜指示することで十分に仕事をこなすことができる。また、平成26（2014）年1月末まで勤務した障害者は、上記に加えプレス（アイロンがけ）も行っていた。丁寧な作業で仕上がりも綺麗だったため、技術者として十分に能力を発揮していた。このように、障害によって従事内容を振り分けることや、障害種別だけでなく障害者個人の得意なこと、好きなことを上手に活用する視点が大切である。

仕事風景

3. 具体的な取組

（1）特別扱いはしない

同社は、障害者を障害者だからといって決して特別な扱いはしないとのことである。しかし、これは障害を配慮しないということではない。彼らにできることを率先してやってもらう、役割を果たしてもらう（仕事を奪わない）ということだ。例えば、洗い終わった衣類を乾燥機に入れている間、少し手が空いている時間があった場合に、通常業務ではないがハンガーを運び、それぞれのアイロン台の脇へ並べる等である。知的障害のある彼女にとって、臨機応変に判断し、行動することは難しいが、適切な指示があれば行うことができる。また、繰り返し行うことによって身につけることができる。そうしたきめ細かな指導を要するが、その指導を行うのは社員の仕事と位置づけて、田原社長は社員にも厳しく指導を行っている。

また、このように障害者に率先して仕事をしてもらうことで、従業員間の不平等感を減らし、障害者自身にも自分も役に立っているという感覚ややりがい、従業員の一員としての誇りを持ってもらうことにつながっているという。

（2）誰もが安全に働くために

しみ抜きの技術者である肢体不自由の障害者に対し、専用の机と機械を新たに設置した。これは、車いすでも使いやすいように通常より机を高くしたものである。また、クリーニング後の衣類にかける平面パックの機械も、知的障害者でも使用できるようにより安全で簡単に平面パックがかけられる最新の機械の導入を行っている。このように障害者が安心して安全に働き続けることができるよう環境の整備に努めている。しかし安全なことと作業の簡素化は、その他の従業員が行う際にも同様に保たれることであり、全従業員に保証されているのである。障害者が安全に働くことができる環境は、すなわち障害のない者にとっても安全に働くことができる職場なのだ。

同社ではこの他にも従業員出入り口へのスロープの設置をすでに行っており、さらに今後は、車いす用のトイレの設置、車いすでも自由にしみ抜き工房と靴とバッグ専門の工房とを行き来できるよう工場内の改装等を検討中である。

（3）売上目標を社内で共有する

専門ショップごとに毎年売上目標を掲げ、その目標は従業員にも示される。これは障害者も例外ではない。とくにしみ抜きの専門ショップは肢体不自由者が主に一人で行っているため、彼の実績がそのまま売上となって直接目に見える形で現れる。これはプレッシャーにもなるが、モチベーションの維持・向上につながり、これまで成果を上げている。

4. 取組の効果について、今後の課題と展望

（1）取組の効果について

工場内を見学して印象的だったことは、障害者である2名がとても自信に満ち溢れた表情で仕事に従事していたことである。これは、「3.具体的な取組」の中でも述べたが、従業員の一員という自覚や、役割をもつことで得られる自信の回復からではないだろうか。また、他の従業員の中にも、「障害者」ではなく、「障害のある○○さん」という意識の変革や、「○○さんがいてくれるから、仕事の流れもスムーズに運ぶ」といった出来事の積み重ねから障害に対する偏見や思い込みを軽減する機会となっている。

次に、障害者自身の変化としては、働くことの楽しさややりがいを感じることができ、さらに社会の一員として貢献することができているという感覚が、失いかけていた自信の回復ややる気につながっているようだ。加えて、経済的に安定することにより、心身ともに余裕が生まれ、体調も安定しているとのことである。特にしみ抜きを専門にしている障害者については、しみ抜きの技術や知識の向上、これまで以上に仕事を任されるようになりたいという目標もでき、充実した職業生活を送っている様子である。

（2）今後の課題と展望

徐々にではあるが、今後も障害者雇用を増やしていく予定であるとのこと。そのためにはまず、最低賃金以上払える仕事を創り出していかなくてはならない。具体的な計画には至っていないが、新たに布団洗い専門のショップを展開する構想もあるとのことだ。

さらに将来的には、ここで培った知識や技術を活かして、障害者が独立して起業することも応援していきたいと田原社長は語っている。

クリーニング業者としてだけでなく、同社の今後の障害者雇用の動向が楽しみである。