障害者の経済的自立を目指して
~作業工程の細分化・単純化により、より多くの障害者に働く機会を提供する~
- 事業所名
- 社会福祉法人鶴の会
- 所在地
- 福岡県豊前市
- 事業内容
- 就労継続支援A型事業所(菌床きのこの栽培・収穫・加工、農機具・自動車用ワイヤーハーネスの製造)
- 従業員数
- 86名
- うち障害者数
- 56名
障害 人数 従事業務 視覚障害 1 菌床きのこ栽培 聴覚・言語障害 4 菌床きのこ加工 肢体不自由 10 菌床きのこの栽培・収穫・加工、
農機具・自動車用ワイヤーハーネスの製造内部障害 知的障害 26 菌床きのこの栽培・収穫・加工、
農機具・自動車用ワイヤーハーネスの製造精神障害 15 菌床きのこの栽培・収穫・加工、
農機具・自動車用ワイヤーハーネスの製造発達障害 高次脳機能障害 難病等その他の障害 - 目次
![]() 事業所外観
|
1. 事業所の概要、障害者雇用の経緯
(1)事業所の概要
社会福祉法人鶴の会は、菌床きのこの栽培により、障害があっても働くことのできる環境を作ることを目的として、平成22(2010)年9月6日に法人設立、翌年6月1日に開所した障害福祉サービス事業所(就労継続支援A型事業)を展開する法人である。現在、栽培棟2棟、ビニールハウス2棟で、しいたけ、きくらげ、ひらたけ、なめこを栽培していて、最寄りの道の駅、直売所、スーパーなど合計19店舗に出荷している。
きのこの栽培を通して、きのこを育てる喜び・収穫する喜び・お客様においしいと言って買ってもらえる喜びを障害者と職員が共有し、品質の良い安心安全なきのこの栽培に取組んでいる。
(2)障害者雇用の経緯
法人の橋田理事長は、当会設立以前、自動車部品の製造を行う会社を経営していた。障害者雇用率制度の対象規模ではなかったが、社会貢献の一環として障害者雇用について興味・関心があり、活用できる制度やサービス、障害の種別について考えていたという。そのような中、平成20(2008)年のリーマンショック以後、日本においても大規模なリストラ、派遣社員切り、新卒者の内定取り消し等がいたるところで起きていたように、橋田理事長の経営していた会社も厳しい状況下に置かれてしまった。
さらにこの時、関係先の会社で、長年勤務していた肢体不自由のある障害者が解雇されたことを知り、とても残念に思い、彼の心境を考えると悲しい気持ちが込み上げてきたという。このことをきっかけに、障害者の雇用を守ることや障害者が安心して働ける職場作りに一層の関心をもち、自ら障害者雇用に取り組むことを真剣に考え始めたそうだ。
はじめに、橋田理事長は地域のハローワークへ出向き、障害者雇用の現状を調べた。その結果、豊前市、京築地区、大分県中津市地域に在住の275名が就労待機者として就労することを望んでいることがわかった。しかし同時に、実際に就職することができた障害者は過去2年間では0人という現状を知ることとなった。
障害者雇用は、雇用する企業側の課題として、障害者が安心して安全に働ける職場環境を整備することがないとその目的は達成しえないこと、障害者もただ経済的に裕福になるだけでなく、働くことにより社会に出て色々なことを吸収したい、毎日の生活に何か目標や目的を持ちたいといった気持ちや希望を持っている者が多いことを知った。このことから内閣府の市町村障害者計画策定指針の中にある「ともに働きともに暮らす」を柱として、障害者の生活基盤や社会環境への順応、所得の保障、働きがいを持つことを事業の目的として当会を設立することとなったのである。
現在、前述の関係先の会社を解雇された障害者も同法人で元気に働いている。
2. 障害者の従事内容
当会は、豊前市内と行橋市内に各1か所、2事業所を運営している。豊前市の事業所(きのこセンター翼)ではきのこの栽培を、行橋市の事業所(就労支援センター希京)ではきのこ栽培と農機具・自動車用ワイヤーハーネスの製造を行っている。
以下に事業所ごとの障害者の従事内容をまとめた。
○豊前市 きのこセンター翼
作業工程
|
作業内容
|
障害種別
|
作業者数
|
きのこ栽培
|
栽培室・ビニールハウスへの菌床の搬入・搬出、収穫、芽欠き、水やり、菌床調整(収穫後、次のきのこが発生するようにするための作業) | 知的障害6名 精神障害7名 視覚障害1名 肢体不自由4名 |
18名 |
収穫後の
きのこ調整 |
きのこの洗浄 加工品用の仕分け・準備 |
知的障害1名 精神障害4名 聴覚・言語障害2名 |
7名 |
加工作業
|
機械で乾燥スライス製品用に裁断 乾燥器への出し入れ 作業補助 |
知的障害2名 | 2名 |
出荷作業
|
大きさ・品質別に選別 袋詰め・パック詰め 出荷店舗毎に振り分ける 出荷日を記入したシールを貼る |
知的障害2名 肢体不自由3名 聴覚・言語障害1名 |
6名 |
○行橋市 就労支援センター希京
作業工程
|
作業内容
|
障害種別
|
作業者数
|
きのこ栽培
|
栽培室・ビニールハウスへの菌床の搬入・搬出、 収穫、芽欠き、水やり、 菌床調整(収穫後、次のきのこが発生するようにするための作業) |
知的障害3名 精神障害1名 |
4名 |
ハーネス
|
電線の切断 電線チューブ通し グロメット入れ作業 テープ巻き作業 回路検査 ハーネス合体作業 その他 |
知的障害12名 精神障害3名 肢体不自由4名 |
19名 |
![]() きのこ収穫
|
![]() 出荷
|
3. 具体的な取組
(1)作業工程の細分化・単純化
知的障害者や精神障害者は、複雑な作業工程や不規則な作業を苦手とする者が多い。作業工程を細分化することにより、一つ一つの作業を単純化しわかりやすくすることで、誰もが作業工程を行えるよう工夫している。前述の従事内容の表を見てもわかるように、きのこの栽培という工程だけでも菌床の搬入・搬出、収穫、芽欠き、菌床の移動、水やり等、5つの工程に分かれている。このように単純化することで、一人の障害者が複数の作業工程を覚えることができ、その日の作業によって臨機応変に作業場に配置できるのだ。現在同法人では、一人につき作業工程2つ以上をこなせるよう指導している。
(2)社会人としての基本的なマナーを身に付ける
これは職業人として基本的なことだが、同法人では特に重んじていることである。その中でも挨拶は笑顔で元気よく行うよう指導している。さらに、毎朝の朝礼では、月刊誌『職場の教養』(一般社団法人倫理研究所発行)をみんなで音読し、職場でのマナーや教訓を学んでいる。このように毎朝行うことで、徐々に社会人としての姿勢やマナーを身に付けることができ、誰にでも挨拶できる、どこに出しても恥ずかしくない社員として育っているところである。
さらに、最初はなかなか声が出なかった障害者も、毎朝行うことで少しずつ声が出せるようになり、音読することで社内の一体感、連帯感が育まれているようだ。また、みんなで声を出すことで、自然と各々が意見を言えるような環境になってきている。これが当会で感じた“家族のような”温かい雰囲気につながっているのかもしれない。
(3)経済的な自立を目指す
当会では、最低賃金減額特例を行うことなく、全ての障害者に最低賃金を保障している。これは、一定の収入を得ることで経済的な自立を促すとともに、仕事に対する責任感を持ち、社会人として精神的にも自律してもらうことを目的としている。経済的に不安定な状態が続くと誰しも精神的にも不安定になり、余暇を楽しんだり、新しいことに挑戦しようとする気持ちを持つことは難しい。よって、経済的にも安定することは社会人として生活していく上で必要不可欠であり、まず経済的に自立することが社会人として営む上で重要であると考えているのだ。
その甲斐もあって、障害者の中には次の具体的な目標を持って将来のことを考えられるようになってきている者もいる。今後も、障害を持っていても障害のない者と変わらない生活ができるように障害者雇用の継続に努めていくと橋田理事長は語っている。
4. 取組の効果について、今後の課題と展望
(1)取組の効果について
当会は障害者雇用納付金制度による障害者雇用報奨金を受給している。この報奨金の受給は、働く障害者の収入低下に対する不安を和らげることにつながっている。また、作業を細分化したことで、分かりやすく覚えやすくなり、そのことが仕事に対する不安感の軽減になっている。2つの事業所の平均出勤率は91%、職場定着率は80%となっていて、安心して働き続けることができる職場であることが数字からも読み取れる。
さらに、経済的に安定(自立)すること、次の目標を見つけることができた具体例として、実際に働いている障害者2名のコメントを以下に掲載する。2名のコメントから、仕事をすることで経済的にも精神的にも余暇を楽しむ余裕ができたこと、さらには恋愛や結婚についても本人たちが決められるのだということを改めて感じることができるだろう。
- Aさん:男性(精神障害者)
「きのこセンターが開所した平成23(2011)年6月から利用を始めましたが、長い間働いていなかったことで体力がなく、障害で体調が悪いことも多く、早退や休む日が多かったのですが、同じ事業所で働く女性と趣味のことで話が合い、博多で公演されていた宝塚の芝居を観に行ったりドライブするようになりました。自分は障害があり、結婚できないと諦めていましたが、彼女と付き合い始めて気持ちが前向きになり、仕事を休むことも少なくなりました。二人とも障害者同士の為、反対されるかもしれないと悩みましたが、お互いの両親に結婚したいと話し、10月10日に結婚式を挙げました。
結婚して、喧嘩も時々しますが、毎日お互いの体調を気遣いながら、将来の為に夫婦で仕事も頑張って暮らしていきたいと思います。」
Cさん(Aさんの妻)のコメント:「結婚して本当に良かったです。」
- Bさん:女性(知的障害者)
「平成23(2011)年6月1日から働き始め、すぐにみんなと仲良くなって、休みの日にも遊びに出かけるようになりました。みんなと一緒に遊ぶうち、いいなと思っていた人と7月から付き合うようになり、母に反対されましたがルールを決めて守るようにしたら、交際を認めてくれるようになりました。交際が続き、一緒に暮らしたいとお互いが思うようになり、結婚したいと橋田理事長に相談して、色々なことについてどうしたら二人で生活していけるか、お互いの両親に理事長さんから何度も話をしてもらい、両親から許しがもらえ平成25(2013)年11月24日に結婚式を挙げ、ヘルパーさんや多くの人に助けてもらいながら結婚生活ができています。結婚してからも、仕事は休まずに、みんなとも仲良く働いて、これからも二人で暮らしていきたいです。」
Dさん(Bさんの夫)のコメント:「いつか資格を取って一般就労も目指したいです。」
(2)今後の課題と展望
農業生産品を中心にした栽培・加工・販売、特にきのこ料理・加工品を事業とした直売店の営業強化を図り、事業の6次産業化を定着させていきたいと考えている。平成27(2015)年4月にはビニールハウスの増設を視野に入れ、より安定した収穫高を目標に掲げ、障害者雇用の場として活用していきたい。また、作業内容については、しいたけ班・ひらたけ班・なめこ班など種類によって班分けを行い、作業の効率性や収穫高を上げるにはどうしたらいいのか等、班ごとに責任をもって管理してもらうことを検討している。これは、より自分たちの仕事に対する責任感や誇り、自信をもってもらいたいという想いと、将来的には障害者に独立して起業してもらいたいという橋田理事長の想いが出発点となっている。
このように、今後も障害者の経済的自立を図るとともに、より多くの障害者雇用の機会を創り出していきたいと橋田理事長は語っている。
アンケートのお願い
皆さまのお役に立てるホームページにしたいと考えていますので、アンケートへのご協力をお願いします。
なお、事例掲載企業、執筆者等へのお問い合わせや、事例掲載企業の採用情報に関するご質問をいただいても回答できませんので、あらかじめご了承ください。
※アンケートページは、外部サービスとしてMicrosoft社提供のMicrosoft Formsを使用しております。