障害者一人一人が会社の一員として自分の仕事に責任を持つようになるまで
- 事業所名
- 社会福祉法人寿楽園 老人保健施設あおぞら
- 所在地
- 佐賀県三養基郡
- 事業内容
- 福祉・介護サービス
- 従業員数
- 133名(法人全体588名)
- うち障害者数
- 5名(法人全体12名)
障害 人数 従事業務 視覚障害 聴覚・言語障害 肢体不自由 内部障害 1 介護業務 知的障害 2 環境整備(清掃、介護補助) 精神障害 2 環境整備、事務補助 発達障害 高次脳機能障害 難病等その他の障害 - 目次
![]() 老人保健施設あおぞら 事業所外観
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1. 事業所の概要、障害者雇用の経緯
(1)事業所の概要
三養基郡基山町は佐賀県の東端部に位置し、中でも園部地区は九千部山系の契山の麓であり、春には5万本のつつじで有名な大興善寺の観光客で賑わいを見せる。その緑豊かな町に昭和27(1952)年10月、戦争で身寄りを失った高齢者の生活を支えることを目的に社会福祉法人寿楽園が設立された。設立から60年、めまぐるしく変化する時代の中で、高齢者に対する考え方も大きく変わり、高齢者を取り巻く環境も著しく変化してきたが、その時代の流れに合わせ、寿楽園は総合的な高齢者施設として発展してきた。
法人本部がある基山町では、養護老人ホーム寿楽園の設立に始まり、特別養護老人ホーム、ショートステイ事業、デイサービスセンター、在宅介護、老人保健施設あおぞらが順次開設された。また他県での事業展開も行われ、平成26(2014)年現在では福岡県にケアプランセンター3か所、デイサービスセンター5か所、北海道札幌市にケアプランセンター2か所、デイサービスセンター2か所、大阪府寝屋川市にケアプランセンター1か所、デイサービスセンター1か所が開設されている。また、神奈川県川崎市ではケアハウスや訪問看護ステーション、クリニックといった多機能なサービスを展開している。平成25(2013)年12月からは、基山町と神奈川県川崎市に就労継続支援A型事業所が開設された。
(2)障害者雇用の経緯
当法人の障害者雇用については、平成18(2006)年頃から常に1~2名の障害者が勤務している状況であったが、障害者雇用で問題が生じた例として、家族の介入が強すぎたケースがある。この場合では、障害者本人は他人との距離の取り方が難しく、それが要因となり勤務時間外であっても家族からの事業所への問い合わせ等が増え、雇用継続が困難となった。
その後も厨房内での知的障害者の雇用は継続していたが、平成20(2008)年に身体障害者を雇用するにあたり、部署内で受け入れ体制を整えることとなった。当法人では長年高齢者福祉に携わってきたが今後は障害者福祉についても貢献していくという考え方に立ち、スタッフが障害者に関する研修に参加する等、意識の改革を図っていった。身体障害者の仕事内容はパソコン事務や電話応対業務であったが、車いすを使用していたためトイレや昼食時等業務以外についても補助が必要であった。本人の就職への強い意思や家族の協力があり、また段々と受け入れ環境が整っていくにつれて、初めはスタッフから聞かれていた本来業務以外でも補助をするということについての疑問や不満も解消し、現在は元々の本人の希望であった相談業務に従事している。
現在、当法人全体の障害者雇用は、短時間雇用が8名、短時間以外雇用が4名となっており、身体障害や知的障害にのみならず精神障害者の雇用も進んでいる状況のなか、当事業所においては、5人の障害者雇用が継続中である。以下、当事業所の障害者雇用について紹介していくこととする。
2. 取組みの内容(老人保健施設あおぞらでの雇用事例)
(1)知的障害Aさんの事例
Aさんは平成23(2011)年2月から2週間、障害者職業センターの職務試行法による実習とその後3か月のトライアル雇用を経て正式雇用となった。業務内容は施設及び在宅利用者の介護業務として、リネン交換や清掃の環境整備業務が主である。
Aさんは普通高校在学中の3年生の時に療育手帳を取得したことから、進学か障害者雇用での就職かという選択で迷いがあった。手帳取得後に障害者就業・生活支援センターに登録し、障害者職業センターでの職業評価、知的障害者授産施設での職業基礎訓練などを経験し、段々と障害者雇用での就職という選択になっていった経緯がある。そのため、実習先であった当事業所では「就職自体について迷っているのではないか」という見解が上っていた。
2週間という短期間の実習であったために、業務内容を一人で終了できる段階までは至らなかったが、「特にシーツ交換の習得には個人差もある」という当事業所の考慮もあり、業務の組み換えの検討とジョブコーチ制度の利用をもって、トライアル雇用から正式雇用へと繋がっていった。
入社して2年半が経過した現在のAさんの仕事内容は、エプロン・おしぼり洗い、車いす磨き、トイレ・洗面所清掃、手すり・床頭台拭き、シーツ交換等である。
シーツ交換では他のスタッフと一緒に業務を行うが、その他の仕事は予定表を見ながら自分で行動している。実習中やトライアル雇用中の予定表は支援機関で作成していたが、現在は当事業所で支援機関と相談を重ねながら随時作成・変更している。また、Aさんは毎日自分のノートにその日の業務内容や反省点等を記入しており、「なかなか仕事に自信が持てない」と話しているが、予定表やノートを活用しながら一日の業務を予定時間内に終了させること、勤務時間を延ばすことを目標として、毎日業務に励んでいる。
(2)精神障害Bさんの事例
Bさんは学生の頃からてんかんの発作があったが、当事業所に就職するまでは障害をオープンにせずに就職してきた。しかし障害に起因した問題が多く、長く継続勤務することが困難であった。自分の生きがいとしての仕事を見つけるために専門学校へ通ってヘルパー資格を取得し、障害者雇用での就職を決意してハローワークに相談した際に、障害者就業・生活支援センターを紹介されて支援を受けることになる。その後、ハローワークで当事業所の求人を見て応募し、実習を経て平成24(2012)年から正式雇用となっている。
当事業所に就職後、通勤中に2回ほどてんかん発作により怪我をしたことがあるが、本人に怪我した際の記憶が無いということがあった。このためてんかん発作に至らないよう、当事業所が常に体調面に気を配っており、毎日の体調チェックから服薬管理、食事をきちんと摂ること等、細目にわたって声掛けをしている。
Bさんは、自分の障害について、「見た目で分からないから障害を持っていることが相手に伝わらず、困る時がある」と話す。当事業所ではAさんと同じ環境整備業務で勤務しているが、高齢者のグループホームでの勤務経験もあるため、業務内容で特に難しい部分は無かった。ただ障害特性からなかなか人の名前を覚えられず、また忘れることもある。何より人間関係が難しく、特に一緒に働く他の障害者の個性の強さに驚くこともあった。初めのうちこそ対応に困ることもあったが「相手はそこが障害の部分」と切り替えて仕事をしている。
Bさんについては、ジョブコーチ制度は利用しておらず、障害者就業・生活支援センターの支援員が定期的に職場定着支援で訪問している。
![]() 車いすの清掃
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![]() おしぼりの準備
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(3)知的障害Cさんの事例
Cさんは、就労移行支援事業所利用中に障害者就職面接会で当事業所の求人に応募、平成24(2012)年11月より2週間の職務試行法による実習を行った。特に明るい挨拶や元気な勤務態度が評価され、ジョブコーチ制度を利用しての3か月間のトライアル雇用を経て正式雇用となった。
CさんもAさんやBさん同様に環境整備業務で勤務しているが、シーツ交換技能の習得で特に評価された。Cさんは元々細かい作業を得意とし、特に折り紙が上手であったためか、シーツの角を三角に折る、枕カバーの余り部分を中に入れ込む等、通常は習得に時間のかかる作業がすぐにできるようになった。本人の得意分野が意外な部分で仕事に繋がり、支援者が驚いた事例である。現在は、単独で1ベッド30分程でシーツ交換ができるようになり、作業スピードについては全く問題が無い。
Cさんは、4時間の勤務からスタートしたが、就労移行支援事業所では7時間勤務だったこと、当事業所での勤務評価も高かったこともあり、当事業所や関係機関、本人や家族と話し合いながら勤務時間の延長を図っていった。しかし、6時間になった頃からCさんの勤務態度に変化が現れ、いらいらした様子やジョブコーチの支援を素直に聞き入れない態度、急に泣き出したりすることが増えていった。原因がよく分からなかったため、ジョブコーチと障害者就業・生活支援センターが本人の気持ちの確認をしていくと、6時間勤務に対する負担が感じられたため、5時間勤務に戻すことを提案し、意思確認をした上で家族や当事業所と相談して5時間勤務へ変更すると、また以前の元気なCさんに戻っていった。
Cさんが普段は元気なおしゃべりができていても、「なぜ今自分は元気がないのか。何がきついのか」等を、自分で考えて判断し誰かへ伝えることが難しいということを改めて感じさせられた一件である。現在のCさんは、「嫌な気持ちの時に泣き虫にならない。固まらない」と言いながら毎日の勤務を頑張っている。当事業所も毎日の声掛けやCさんの持って来る小さな手紙を読むことで、体調や気持ちの動きを注視している。
(4)精神障害Dさんの事例
Dさんは、平成23(2011)年に開催された障害者就職面接会を通して採用となったが、ハローワークの精神障害者雇用トータルサポーターが支援者として入った点が他の事例とは違っている。
採用決定までDさんはまず3日間当事業所で実習し、障害者職業センターでの職業評価を受け、当法人の病院の中にある模擬会社にて、売店業務の実習に週に3日のペースで通った。模擬会社での実習で周囲に自分から声をかけることやそのタイミングを計る練習ができ、就職後に大変役立ったと話す。その後に障害者職業センターで1か月間職業準備支援を受け、平成24(2012)年3月、当事業所に採用になった。雇用に際しては、ジョブコーチ制度とトライアル雇用を利用した。
勤務については週3日出勤から始め、徐々に時間と日数を増やして行き、現在では1日4時間の週5日勤務になっている。Dさんとしては勤務時間について、今後もっと仕事に自信が付いてきたら延長したいと話している。
業務内容はパソコンでのデータの入力、書類ファイリング、シュレッダー処理等に加え、最近では事務や医務からの飛込みの業務も増えてきている。パソコン入力は入社時から問題は無かったが、座位での仕事のせいか、集中力が欠けて居眠りをすることがあった。そういう時は、立ち上がって体を伸ばしたり、間にファイリング作業を入れたりするよう助言をしていたが、現在は任される仕事の量や種類が増えて、それが集中力に繋がっているようである。
Dさんは精神障害があるが、精神面での落ち込みがあってもそれが欠勤や遅刻に繋がることは無く、勤務態度にムラが出ない点は特に当事業所に評価されている。またジョブコーチの定着支援に加え、障害者就業・生活支援センターから月1回のペースでの相談を続けて行くことが不安解消になっていると考えられる。
![]() シーツ交換(Cさん)
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![]() データ入力(Dさん)
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3. 取組みの効果、今後の展開と課題
(1)取組みの効果
当事業所では、平成23(2011)年のAさんの雇用から、次々と4人の障害者が雇用されたが、事務職Dさん以外の環境整備業務に就く3人の関係性が問題となった時期がある。お互いを意識するあまり上下関係ができてしまい、業務に支障をきたすこともあったため、現在では3人の持ち場を階ごとに分け、仕事中は接触がないようにしている。
当事業所では短時間での障害者雇用が多く、本人が希望したとしてもすぐに勤務時間を長くするということはしていない。障害者も他の従業員と同じく一戦力として考えており、その点から厳しく検討される。障害者という視点で見るのではなく、一従業員として、同じ職場の仲間として見ることが、事業所ひいては法人での障害者雇用に対する意識が高まっていくことと推測される。
(2)今後の展開と課題
当法人は、特に今後も増加が考えられる精神障害者の就労支援を目的とした就労継続支援A型事業所を平成25(2013)年12月から新たに開設した。A型事業所でスキルを身に着けた障害者は当法人の従業員としての雇用も検討する予定である。障害者雇用で事業所の負担ばかりを増やすのではなく、一従業員として戦力になるよう成長を促していく。この取組みが従業員と障害のある従業員双方にとってより良い関係が保てる障害者雇用へのアプローチとなるはずで、今後の多くの障害者が雇用へ繋がることに期待をしている。
- 執筆者:
- 社会福祉法人若楠
障害者就業・生活支援センター もしもしネット主任就業支援員 執行 めぐみ
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