社協が取り組む地域づくりと障害者雇用
- 事業所名
- 社会福祉法人天草市社会福祉協議会
- 所在地
- 熊本県天草市
- 事業内容
- 社会福祉を目的とする事業の企画および実施
- 従業員数
- 330名
- うち障害者数
- 4名
障害 人数 従事業務 視覚障害 聴覚・言語障害 肢体不自由 1 事務職 内部障害 2 ホームヘルパー等 知的障害 1 清掃等雑務 精神障害 発達障害 高次脳機能障害 難病等その他の障害 - 目次
![]() 事業所外観
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1. 事業所の概要
(1)事業所の概要
平成18(2006)年3月27日に本渡市、牛深市、天草郡有明町、御所浦町、倉岳町、栖本町、新和町、五和町、天草町及び河浦町の2市8町が合併し、熊本県天草市が誕生した。同日、これら2市8町の社会福祉協議会(以下「社協」という。)が合併し地域福祉を推進する中核的な団体として、誰もが安心して暮らすことのできる福祉のまちづくりを推進することを使命として社会福祉法人天草市社会福祉協議会が発足した。現在、五和町に本所を置き、旧市町10ヶ所の支所をネットワークで結んだ。法人経営部門、地域福祉活動推進部門、福祉サービス利用援助部門、在宅福祉サービス部門の事業に取組んでいる。
天草市は、人口約85,000人である。熊本県の西方に浮かぶ島嶼で、周囲を豊かな海で囲まれる漁業の町であり、キリシタン伝説や天草四郎、天草五橋で知られる観光の町でもある。しかし、過疎と高齢化の進行は著しい。昭和30(1955)年に人口約170,000人であったが、人口減少によって現在では半減し、65歳以上の人口比は全体の33%を超えている(「国勢調査」より)。
また、同市の就業人口は約38,904人で、うち農林業が3,573人、漁業が2,206人である。しかし、最も多い業種は医療・福祉分野の6,956人で、卸売業・小売業の6,249人をも上回っている。農林漁業の衰退と高齢人口の増加が産業構造に反映されている(平成24(2012)年調査)。
平成18(2006)年の市町村合併以前、地域の社協の職員合計は約240名であった。しかし、現在は330名と約100名程増加している。増加の理由は天草市の介護施設の指定管理業務等を積極的に受注し、業務拡張による人員増加が行われたからである。その背景には地域の高齢化の進行によって福祉サービスの需要が増加している一方、過疎化等によって地元企業・団体が減少し、同市が指定管理者を募集しても応募がない。しかし、その事業が市民にとって必要と考えられる場合には、当社協が引き受けざるを得ないという現実がある。
中尾総務課長は語る。
「指定管理業務を積極的に受託してきた。といっても、地元事業所が手を挙げている事業に競合する必要はないというのが当社協の考えです。しかし、市や市民が必要としている事業で手を挙げる事業所がない場合には、当社協が受け皿となるべきである。例え、赤字になっても地域が求める事業に対しては、積極的に取り組んでいくべきである、ということです。」
(2)天草市の今後と社協の展望
前述したように天草地域は高い高齢化率を示しているが、今後は人口減少が進み、高齢者数も減少していくだろう。すると、高齢者を対象にする介護サービスの需要も減少し、これらに対応する事業者も新たには生まれてこないと考えられる。その為、当社協に期待される役割もその重要性も増していくものと推測される。
だからといって、介護サービスは「量」をまかなえばよいというのではなく「質」が求められる。施設設備や人数が十分あればよいというのではなく、地域の住民から選ばれる事業所でなければ生き残れない。それは、どの介護サービス事業所であっても社協であっても同様である。訪問介護であってもデイサービスであっても、「質」の向上に取り組まなければ住民から選ばれなくなり、結果的には社協の事業から消えてしまうことも考えられる。
当社協の経営理念は住民参加・協同による福祉社会の実現、地域における利用者本位の福祉サービスの実現、地域に根ざした総合的な支援体制の実現、地域の福祉ニーズに基づく先駆的な取り組みへのたゆまない挑戦である。
高齢者になっても要介護者になっても、あるいは障害があっても地域の誰かの手助けを受けながら安心して暮らせる仕組みを地域に根付かせていくことが大切であり、その「地域の誰か」のひとつでありたいと当社協は考えている。
例えば現在、社協が全国的に取り組んでいる成年後見制度の体制づくりもこの使命感に沿ったものである。当社協でも「あまくさ成年後見センター」の運営を行っている。年金を受給して直ぐに使ってしまうのではなく、金銭管理をすることによって安定した生活を送る。定期的に金銭的支援を行いながら少しずつでも蓄財していけるようなサポートシステムである。つまり、認知症があっても知的障害や精神障害があっても地域で暮らせる体制づくりを目指している。この成年後見制度のほかにもデイサービス及びホームヘルプサービスがあり、さらに様々な仕組み、各種のサービスを複合化することによって誰でもが長く地域で安心して生活ができる。当社協が目指す地域福祉の有り方とは、このようなイメージと思われる。
2. 障害者雇用の現状と経緯
(1)障害者の配置と従事業務
当社協の職員数は約330名、うち障害をもつ職員は4名である。その内訳は、身体障害者が3名、知的障害者が1名である。なお、身体障害の内訳は、下肢障害1名、内部障害(心臓)2名となっている。
従事業務は、下肢障害者が本所事務職に従事、また、内部障害者2名は当社協が運営している訪問介護事業所でのホームヘルパーとグループホームでの介護職にそれぞれ従事し、知的障害者が天草市から指定管理者制度により管理運営している「在宅介護支援サテライト施設」での清掃業務に従事している。


(2)障害者雇用の経緯と背景
当社協では、以前から障害者雇用を行ってきており、いつからといった記録はないという。その理由は、障害者を特別の枠を設けて雇用してきたわけではないからと中尾総務課長は次のように語る。
「障害者の方を特定して募集・採用してきたわけではありません。職員募集に応じて来られた方が、たまたま障害を持っていた。ただそれだけのことです。身体に障害があっても、心疾患があっても、求められる仕事ができるのであれば排除する必要は全くない。やる気があって働ける心身であるのなら、若い人でも65歳以上の方でも、障害を持っている方でもよいではないか、というのが当社協の基本的な姿勢です。」
例えば、当社協では介護人材の育成にも取り組んでおり、熊本県指定介護職員初任者研修を実施している。これには高校生の受講も認めており、高校在学中でも研修を受けることができる。2年前、この研修を受けた高卒者を4名採用した。4名とも現在も小規模多機能ホームに勤務している。
また、雇用する知的障害者はハローワーク天草からの依頼により採用した人であるが、障害者雇用納付金制度の助成金を活用し、業務遂行援助者を配置して手厚い援助及び指導を行っている。
3. 取り組みの概要
(1)障害者雇用にあたっての環境整備
当社協においては、障害者雇用に際して特別に環境整備のために事務所の改修やルールづくり等は行っていない。当社協本所は現在、天草市役所五和支所の中に事務所を構えているので、もともと玄関にはスロープが設置され、建物内の通路もフラットで車いす通行でも問題ないほど広めに設計してある。基本的にバリアフリー構造になっており、現状では車いすを利用する職員は在籍していないが、今後そのような職員が働くことになっても環境整備に必要なのは机の位置を多少動かすといった程度だと思われる。
本所の総務課庶務係には下肢障害をもつ職員が勤務しているが、「特に困っていることはない」と語る。その業務の中には、重い物が持てないといったこともあるが、その様なことは、現場の職員同士による気配り等によってカバーできているという。障害者雇用が円滑に行われている職場ではよく耳にすることである。中尾総務課長は次のように語ってくれた。「例えばヘルパーの誰かが急に休まなければならなくなった時に、同僚同士でカバーし合うようなもので、ごく普通の職場の対応だと思います。当たり前のことが当たり前にできるように、と考えています。障害者も障害がない者も働きやすい職場であれば長く勤務できるでしょう。当社協は勤務年数が長いのですが、みんな長く働いてくれているのはきっと当たり前のことができているからだろうと思っています。」
(2)障害者雇用と社協の地域づくり
一般的に、社協においては、障害者雇用をしている所が少ないと言われる。
社協の業務は直接的に要介護者を介護するという仕事が多く、そこには入浴介助や車の運転業務等、肉体的・精神的な負荷が高い業務が少なくない。以前ならホームヘルパー2級、今は介護職員初任者課程の修了者と呼ぶが、このような資格を有していることが職員応募の条件となることも多く、そもそも障害を持つ人が応募しにくい業種と言えるのかもしれない。
では、なぜ当社協では障害者雇用の垣根が低いのかといえば、「地域に密着せざるを得ない環境」が大きく影響していると思われる。過疎化や高齢化が進む当市のような地域では、例えば65歳以上は雇用しないといった規則を作ったとしたら、地域密着の組織運営は成立しないであろう。当然ながら、地域に密着し、地域に必要な役割を果たしていこうという社協本来の意志をも果たすことはできない。若年者から高齢者まで積極的に雇用しようとするのも必然であろうし、障害者雇用の垣根を意識しないことも、このような地域に生きる組織であれば当然の「雇用のあり方」であろう。
4. 障害者雇用を超えた、地域との関わりへ
障害者雇用という側面からのみ当社協を語るのはたいへん難しい。前述してきたように、当社協ではこれまでもごく当たり前のように障害者雇用を行い、自然と当たり前の環境づくりができているので、特筆するような障害者雇用の工夫といったものを紹介できないからである。
障害者という切り口で当社協を取り上げるにあたっては、まず「当社協と地域コミュニティのあり方」を見る必要がある。具体的な「障害者雇用の有り方」や「地域の障害者との関わり方」を見分しながらも、結局のところ「地域との関わり方」に戻ることになる。
当社協が取り組んでいる事業の一つに「生活困窮者総合相談支援モデル事業」がある。
増加する生活保護者の相談に応じて、就労支援や成年後見制度、あるいはハローワークとの連携をしたり、多面的に「生活困窮からの脱却」をサポートしていこうという事業である。この事業は「生活の困窮者」が対象になるが、中には障害を持つ人も対象に含まれるかもしれない。当然、当社協だけの支援では自立には及ばず、地域との連携がどうしても必要になる。当市内302名の民生委員との連携による情報の収集、当社協が受託している地域包括支援センター及び当社協の10支所等が情報を収集して、生活困窮者の発見と自立支援を行っていきたいと当社協は考えている。
また、「地域のみまもり隊」という組織もある。
高齢化が進んでいる地域では高齢者が高齢者を見守ることになるが、実際には高齢者が地域を巡回することは困難や危険等を伴う。近隣住民を始めとして、一方では、新聞販売店や宅配業者は個人宅を訪問する機会が多い。このように多様な事業所や団体等と連携し、高齢者宅等で異変を察知した場合には当社協が窓口となり、当社協から関係各所に連絡や手配をし、しかるべき対応をするという「地域のみまもり隊」の見守りシステムに期待するところは大きい。実際に、新聞配達員が新聞が溜まっている家に気づき、当社協に連絡。当社協の担当者が訪問したところ、家の中で倒れている高齢者を発見、緊急搬送して助かった事例もあるという。
ここまで見てきたように、当社協の障害者雇用とはこれからの時代の地域づくり、とりわけ社会的弱者をサポートしていく地域の仕組みのひとつの要素であって、特別なものではない。それは言うまでもなく、「障害者」を特別視しない、同じ「市民」であるという認識に支えられているからに他ならない。このことは福祉団体という社会福祉協議会の特質をはなれ、我々みんなが学んでゆくべきことだと言える。
中尾総務課長は「市民のためにできることをやっていこう、と。市民から必要とされる事業を実施していきたいのです」と締めくくった。
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