職場体験実習で適性を見極め採用定着に活かす
- 事業所名
- 株式会社ホンダ四輪販売南九州
- 所在地
- 本社 鹿児島県鹿児島市
- 事業内容
- 本田技研工業製四輪車の新車及び中古車の販売・損保代理店
- 従業員数
- 399名(アルバイト33名含む)
- うち障害者数
- 12名
障害 人数 従事業務 視覚障害 聴覚・言語障害 1 車両清掃 肢体不自由 2 車両清掃、事務職 内部障害 1 事務職 知的障害 6 車両清掃 精神障害 2 車両清掃 発達障害 高次脳機能障害 難病等その他の障害 - 目次
![]() 事業所外観
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1. 事業所の概要、障害者雇用のきっかけ・背景
(1)事業所の概要
本田技研工業グループの国内販売店網再編成に伴い、鹿児島・宮崎両県の販売会社が集約・統合されて平成16(2004)年11月に誕生した。前身の販売会社のうち最も古いものは昭和53(1978)年創業である。
鹿児島・宮崎の両県にまたがるメーカー直系の販売店として、19の営業所(うち、鹿児島8か所)及びメーカーとの窓口を兼ねた物流拠点2か所(うち、鹿児島1か所)を持つ。
ホンダ製の新車・中古車の販売と車検・メンテナンスなどのサービスを中心に、損害保険の代理店業務も行っている。
(2)障害者雇用のきっかけ・背景
今回、取材全般に応じてくださったのは、同社の渡邊総務課長である。
同社における障害者雇用の仕組みは前任者が試行錯誤しながら周囲の協力を得て作り上げていったものであって、自分は敷かれたレールの上をただ走っているだけと謙遜されるが、その精神を引き継ぎ、同社で芽吹いた障害者雇用をさらに大きく育てようと日々奮闘されている。
障害者雇用のきっかけは、端的に言えば障害者の法定雇用率を達成するためであったとのこと。
上記(1)でも簡単に触れたが、同社は複数の会社が一つにまとまって生まれた経緯を持つ。合併前は、各社とも障害者の雇用率をさほど気にする必要はなかったのであるが、統合されて現在の所帯となってからは法定雇用率の達成が経営課題の一つとなったものと思われる。
そのようなことから、同社は法定雇用率の達成に舵を切った。
そこには同社の経営理念と親会社たる本田技研工業株式会社のポリシーが深く関わっている。特に同社4つの経営理念の内の2つ、「人間尊重〈自立・平等・信頼〉」、「三つの喜び〈買う喜び・売る喜び・創る喜び〉」を実践する意味からも雇用率達成の選択は必然であったと言える。「売る喜び」とは本来、同じ職場で共に働く仲間全員(障害者も障害のない者も)で喜びを分かち合うことを意味する。
同時に、障害者雇用が地域貢献やCSR(企業の社会的責任)を果たすことにもつながるものであった。
2. 障害者にどの仕事を任せるか
障害者雇用を進めていく方針が決定されたものの、どういう業務に従事させるか、同社でも問題となった。
障害者雇用を進めていくことに消極的、あるいは否定的な事業所が障害者を雇用できない理由として必ず持ち出すのが、「うちには障害者にやってもらう仕事がない」ということだ。しかし、筆者の私見を述べさせていただくならば、障害者に対する正しい認識が欠落し、かつ自社の職務を調査・分析して十分把握していないからそういう判断になると考える。障害者にも障害のない者と同様に職務遂行能力は備わっているし、これを伸ばしていくことも可能である。また自社における職務をきちんと掌握していれば、職務編成次第では障害者に任せる業務をまとめ上げることは可能である。もちろん、障害の態様によっては物理的に従事不可能な仕事も存在することは確かである。しかしそれは同時に、ある種の障害者には残念ながら無理があるけれどもそれ以外の障害のある人なら従事可能であるということの裏返しではないか。そしてそういった仕事はうちの会社にもあるという場合が多いことも真実である。
同社ではまず、障害者であっても一人の労働者として雇い、賃金を支払う以上は会社の戦力になってもらわなければならないことを基本に据えた。
一見厳しく見えるがこれは当然のことであり、労働力としての障害者を特別扱いするようでは真の平等とは言えず、結果、障害者雇用は失敗する。
障害者雇用がうまくいっている事業所ではすべからく障害者が立派な戦力になっていることからすれば、ここがコツというか真髄なのかもしれない。
次に同社は自社の仕事を徹底的に洗い出すことを始めた。その結果、車両清掃の職務を導き出すこととなった。車両清掃の作業は従来、車両販売業務の一部、車両修理・整備業務の一部として担当者各自で個々に行っていたもので、この作業を分離、車両清掃という一つの業務にまとめることにより、そこに専任の担当者を置くことができる。この職務を障害者に任せることとしたのである。
今回のケースでは、障害者に任せる仕事を社内から探し出すことは比較的容易であったのではないか、また障害者の能力や可能性に鑑みれば、車両清掃以外に障害者が従事する業務が他にいくつもあってしかるべきではないかとの見方もできよう。
しかしながら、同社の障害者雇用は始まって間もないのであり、取組の初期段階としては大成功であって、他の模範となりうるものである。今後さらなるノウハウの蓄積を経て、障害者雇用が広がり、深まっていくことは間違いない。
3. 障害者雇用の取組事例
(1)採用時の工夫
同社におけるこれまでの障害者雇用実績を見ていくと、知的障害者の採用に関して一つのパターンが見られる。
それは、職場体験実習における養護学校(現:特別支援学校)生徒の受け入れをファーストステップとする形である。
同社では毎年職場体験実習を行っており、数名から十数名の実習生を受け入れている。その実習生の中から、高い就労意思を持ち、実習時の評価の高かった生徒をピックアップし、本人・保護者・教師・同社の四者で話し合って採用に結び付けているのだという。
養護学校の教師の方でもかねてから車が好きな生徒、洗車作業の好きな生徒に目星をつけておいて実習につなげている面もあるそうだ。
こうした取組は、職場不適応による障害者の離職のリスクを大幅に減らす、つまり就労継続につながることとなる。
(2)中途障害者Aさんの場合
同社で事務職として就労しているAさんは、以前は障害のない者として同社に勤務していた。数年前にくも膜下出血で倒れ、その後遺症により上肢が不自由となったが、現在でも同社で勤務を継続している。いわゆる中途障害者だ。
Aさんが身体障害者になった後も離職することなく勤務を継続できたのは、本人の努力はもちろんであるが、同社の復職プログラムによるところも大きい。
簡単に紹介すると、
- 休職期間中にリハビリを兼ねて会社に試し出勤してもらう
- 試し出勤は最初は1日2時間だけとし、徐々にその時間を延長していく
- プログラムは、その実施期間によって1か月・2か月・3か月コースの3つからいずれかを選択できる
- 休職期間内なら何回でも挑戦できる
というものである。
本プログラムのポイントは、休職期間の終了後ではなく期間中に行われる点にある。会社の実際の職場を材料にしているから、復職に関する判断も比較的容易である。従前同様の業務に復帰可能か、時間を短縮した勤務とすべきか、担当職務の変更あるいは他への職種転換が必要かといった具体的な判断を行ったうえで復職させることが可能となる。
Aさんはこの復職プログラムを利用して、見事に職場復帰を果たした。
(3)知的障害者の日報
その目的や形式は各社それぞれであろうが、業務日報や営業日報を活用している企業は多いようである。
同社もそうである。そして、車両清掃業務に従事する知的障害者にも記載の義務は課せられていた。
日報の導入当初、知的障害者が大きな負担を感じたり、制約を気にしたりすることがないようにと、あえて特定のフォームを使用せず、罫線が引かれているだけの、いわば便箋状の紙面に自由に記載してもらう方式を採った。
ところが、記載される量は少なく、加えて時間の経過とともに中身がパターン化、連日同じ内容が繰り返されるようになってきた。
これでは日々の報告にも備忘録にもならず、会社としては全く活用のしようがない。それより何より、知的障害者自身が一日を振り返ることで日々の成果を実感し、働く喜びを見出すあるいは自信を持つ、そしてモチベーションの維持向上につなげていくことができなくなる。
こうした状況下で同社が考え出した方策が日報のフォームの大幅変更であった。
具体的には、あらかじめ複数の質問を印字した様式に、数値や○×を記入するだけといった簡便で負担(特に精神的な負担)の少ない方法を採ったのである。
例えば、「対象車両の外側の清掃に要した時間は?」、「ワックスがけにかかった時間は?」、「車内の清掃に何分かかったか?」といった質問が書かれてあり、知的障害者たる労働者は20分、30分といった時間だけを記入する。あるいは、「今日1日、笑顔でお客様への挨拶ができましたか?」という問いかけに、○×で結果を記入させる。もちろん、自由記載欄も設けてある。
この日報の改善は、業務における指示と完了報告の徹底につながった。知的障害者は1日を容易に振り返ることが可能となり、会社は業務遂行状況を確実に確認、障害者に対する教育や指導・助言にこれを活用し、日々の記載を追うことで障害者の調子の変化を読み取る一助ともしたのである。
![]() 車両清掃の様子1
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![]() 車両清掃の様子2
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4. 結びに代えて
「障害者を雇用していることで、何かよかったことはありますか。」
筆者の問いに対する渡邊総務課長の回答は明快だった。
「まずは法律(障害者雇用促進法)を遵守できたこと。次にわが社の経営理念や運営方針を具現化できたこと。そして多少なりとも地域貢献とCSRを果たすことができたこと。それと、やっぱり社内の雰囲気は優しくなりましたね。」
重ねての質問、「御社における障害者雇用の今後の課題と展望は?」。
渡邊総務課長曰く「これからも職場体験実習は継続していきます。実は障害者が複数在籍する事業場においては、障害者が互いに助け合い、知恵を出し合っていて、これはたいへんよいことだと考えています。全ての事業場でそうできればよいのですが、当面は無理でしょうねえ。しかしながら、会社の戦力としての障害者を今後も採用していくことは間違いありません。」
同社の障害者雇用には変な気負いがなく、大上段に構えるところがない。理想でも見栄でもなく常に現実を見据えている。
中途障害者などを除けば、障害者の担当職務は車両清掃や社内清掃、DMの宛名シール貼りなど単純作業がほとんどであって、高度で専門的な能力が求められる業務に配置されてはいない。
職業安定所の障害者専用求人、トライアル雇用制度、各種助成金、ジョブコーチなども積極的に活用し、障害者雇用調整金の受給も考慮して障害者の生産性を考えている。
無理をせず、しかし工夫と努力を惜しまない障害者雇用ではないだろうか。だからいい、それでいいのだと思う。
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