「障害は個性」と捉え、職場の一員として活躍できる環境づくりを
- 事業所名
- 東北資材工業株式会社
- 所在地
- 岩手県花巻市
- 事業内容
- 発泡スチロール製品の生産
- 従業員数
- 135名
- うち障害者数
- 6名
障害 人数 従事業務 視覚障害 聴覚・言語障害 肢体不自由 内部障害 1 営業 知的障害 5 製品の梱包、整理など 精神障害 発達障害 高次脳機能障害 難病等その他の障害 - 目次
![]() 事業所外観 |
1. 事業所の概要、障害者雇用の経緯
(1)事業所の概要
東北資材工業株式会社は昭和41(1966)年創業。現会長である藤原俊郎氏が、当時誰も手がけていなかったポリエチレンペーパー(PSP)の成型加工(食品トレー)を主目的として設立した。以来発泡スチロール製品(EPS)の生産パイオニアとして50年近い実績を持つ。
軽くて持ち運びが楽、断熱効果が高いといった利点を持つ発泡スチロールは時代とともに需要が増加。拡大するニーズに対応するため、設備の増設や更新、営業拠点の拡大、新技術の開発などに努めてきた。平成19(2007)年4月には、東北最大級の規模となる工場を現住所に移転新築。漁港に水揚げされる魚介類の運搬に使う「魚函」をメインに、流通、建築、土木など幅広い分野で使われる発泡スチロール製品を生産している。
平成23(2011)年の東日本大震災で沿岸部の漁港が被災し、メイン製品である魚函の需要がダウン。一時は5割減まで落ち込んだが、現在は8割程度まで回復。現在は復興住宅の断熱用建材や三陸道の土木用ブロックの生産も手がけており、当社の製品は復興を推進するうえで重要なものとなっている。
また、環境の保全活動にも積極的に取り組んでおり、自社内の発泡スチロール(不良品など)は100%リサイクルを実施。有害物質をほとんど排出しない液化天然ガスを使用した高効率ボイラーの導入や温水の再利用なども行っている。
(2)障害者雇用の経緯
平成26(2014)年7月現在、当社が雇用している障害者は6名。うち5人は知的障害者で、残る1人は入社後、心臓疾患により人工弁手術を受け、身体障害者の手帳を取得した。しかし現在は障害のない従業員と変わらない業務(営業)を担当し、問題なく遂行していることから、ここでは特に触れないこととする。
知的障害のある従業員の内訳は以下の通り。
入社年 | 性別 | 年齢 | 備考 | |
1 | 昭和62(1987)年 | 男 | 46 | 重度 |
2 | 昭和62(1987)年 | 男 | 46 | |
3 | 平成2(1990)年 | 男 | 43 | |
4 | 平成9(1997)年 | 男 | 40 | |
5 | 平成15(2003)年 | 男 | 31 | 重度 |
(年齢は平成26(2014)年7月現在)
上記の表から分かるように、昭和62(1987)年入社の2人を筆頭に、全員が勤続10年以上のベテランである。
障害者を雇用した経緯について、取材に対応してくださった総務部の大和朋幸部長は、「当時は他の部署にいたため、詳しい経緯はわからない」としながらも「役員の家族が障害を持っており、その就労先として雇い入れたのがきっかけと聞いている」と話す。そのほか、以前工場があった場所の近所に住んでいたことが縁で(おそらく家族、あるいは施設・学校から「雇ってもらえないか」という申し入れがあって)、入社した従業員もいるという。
27年もの長年に渡り、継続して障害者を雇用している。その取組は、他企業の模範となるものと評価され、平成24(2012)年度の「障害者雇用優良事業所等表彰」において、厚生労働大臣表彰を受賞した。
2. 取組の内容と効果
(1)取組の内容
5人の主な仕事は、できあがった発泡スチロール製品の梱包や、倉庫への収納・整理などである。入社以来ずっと同じ作業に従事していることもあって一通りの仕事はでき、「今日何をするか」等の指示がきちんと伝わっていれば、あとは黙々と作業に取り組むという。
「私にはとてもできないような難しい作業もこなしているんですよ」と話す大和部長に案内され、作業の様子を見学させてもらった。何段にも重ねた発泡スチロールの箱をひとりで持ち上げ、うず高く積み上げるなど、一朝一夕にはできない難しそうな作業を手慣れた様子でこなす姿は「ベテランの風格」を感じる頼もしい仕事ぶりだった。
就業時間は朝7時から16時まで(交代制で夜勤もあり)。11時30分~12時10分のお昼時間のほかに、10時と15時に10分ずつ休憩している。障害のない従業員と同じ条件で働き、休憩時間もみんなと同じ場所。ほかの従業員たちと談笑をすることもあれば、思い思いの時間を過ごすときもあるようだ。
「知的障害者とのコミュニケーションは、障害のない従業員同士のそれとは少し違います。特に重度知的障害の人は挨拶が苦手だったり、会話を成立させるのが難しかったりしますが、それをなんとか改善しよう、こちらに合わせてもらおう、とするのではなく「それぞれの個性」として受け入れています」そう話すのは、5人の直接の上司にあたる、製造部の照井和也次長だ。
「何をするべきか」が分かればコツコツと真面目に作業に取り組んでくれる反面、不意な変更などがあると戸惑い、パニックを起こすこともあるという。そのため「急な予定変更はなるべく避け、朝のミーティングで伝えた通りの作業をしてもらう」ことを心がけている。万が一パニックを起こしそうになったら、少し休憩させて落ち着かせるなど、周囲が早めに気づき対処するようにしている、と照井次長はいう。
なお、東日本大震災を引き起こした地震が発生した時には、内陸にある同社もかなり大きく揺れ、停電などのトラブルに見舞われたが、周りの従業員のケアもあり、大きなパニックには至らなかったそうだ。
また、ミスやトラブルを防ぐための工夫として、障害のない従業員をサポートに付けるといった体制もとっている。作業の進み具合を「チェックシート」に記入し、ベテラン従業員がそれを確認。どこで間違ったかを理解しやすいよう「その都度きちんと指摘する」のも、心がけていることのひとつだという。そのミスに対するフォローやアドバイスは、終礼後に時間をかけ丁寧に説明し、同じミスを繰り返さないためのサポートも忘れない。さらに、機械の導入による作業の効率化で障害者、障害のない従業員に限らず従業員の負担を軽減する、といった工夫も併せて行っている。
5人とも大変真面目で、一生懸命作業仕事に取り組む。5人のうち3人は自宅から同社が運行する送迎バスで通勤していることもあり、無断欠勤や遅刻もほとんどない。勤続年数が長く、大きなトラブルもこれまでなかったため、家族との連絡のやりとりなども特にはしていないそうだ。
![]() さまざまな製品が整然と並ぶ倉庫 | ![]() ミスを防ぐための作業チェックシート |
![]() 商品を高く積み上げる作業 |
(2)取組の効果
当時を知る者がいないため詳細については分からないが、同社では27年前に障害者の雇用を受け入れて以来、さまざまな試みを繰り返しながら職場環境の整備に取り組んできた。当初はいろいろな葛藤があったかもしれないが、今は障害者も障害のない従業員も、同じ職場の仲間としてお互いを自然に受け入れている、と大和部長。遅刻や欠勤をせず、毎日黙々と一生懸命作業に取り組む5人の仕事ぶりは、周囲の従業員にとっても刺激になっているようだ。
3. 今後の展望と課題等
(1)今後の展望と課題
現在の生産量と生産体制のバランスからみて、しばらくは従業員を増やす必要性がないという判断から、新たに雇い入れる予定は今の所はないとのこと。将来的に障害者の雇用を減らすというのではなく、「現在働いている5人に、まだまだ活躍してもらいたい」という意向のようだ。
(2)障害者の雇用を検討している企業へのアドバイス
障害を持つ人が、障害のない人と同じペースややり方で仕事をすることは難しく、「受け入れ体制を整える」ことは必須である。
「これから初めて障害者を雇い入れる企業は勝手がわからず、最初はいろんなトラブルや苦労があるかもしれない。しかしそれを乗り越え、障害者も職場の雰囲気や仕事に慣れてくれば、きっとこちらの期待以上の活躍をしてくれる」と話す大和部長。「障害は個性のひとつ」という言葉があったとおり、当社では、障害のある従業員を「お客さん扱い」するのではなく、その個性や能力を発揮し、職場の一員として活躍できるよう受け入れ環境を整えている。「働く喜び」を実感することでモチベーションがあがり、一生懸命働く姿が障害のない従業員にとっても仕事に対する意欲を刺激してくれる。障害者雇用によって生まれる「プラスの循環」を、東北資材工業は長年にわたる経験と継続的な取組みによって実現している。
アンケートのお願い
皆さまのお役に立てるホームページにしたいと考えていますので、アンケートへのご協力をお願いします。
なお、事例掲載企業、執筆者等へのお問い合わせや、事例掲載企業の採用情報に関するご質問をいただいても回答できませんので、あらかじめご了承ください。
※アンケートページは、外部サービスとしてMicrosoft社提供のMicrosoft Formsを使用しております。