4人の“愛始発”
—社会性を養う訓練で次々に自立者が飛び立つ—
- 事業所名
- 社会福祉法人朝日会 愛の里
- 所在地
- 茨城県笠間市
- 事業内容
- 障害者支援施設
- 従業員数
- 43名(施設利用障害者数)
- うち障害者数
- 4名(今回紹介する一般企業就職者数)
障害 人数 従事業務 視覚障害 聴覚・言語障害 肢体不自由 内部障害 知的障害 4 飲食店の食器洗い、スーパーのカートの回収・整理 精神障害 発達障害 高次脳機能障害 難病その他の障害 - 目次
![]() 事業所の外観 |
1. 事業所の概要
(1)入所者が大きく育つ歴史と伝統
社会福祉法人朝日会は昭和55(1980)年12月15日に設立、障害福祉サービス(生活介護、入所支援、グループホーム及び短期入所)の提供を業務内容として、豊かな自然環境と家庭的な雰囲気の中で介護を必要とする人に、食事・入浴・排せつなどの介護を行うとともに、創作的活動や作業活動(農作物の栽培、販売及びビニール製品加工、フルーツキャップ等の内職作業)の機会を提供して、障害者の自立と社会参加を支援している。
愛の里は、昭和56(1981)年4月に開設された障害者支援施設で、社会性を養う訓練を行い、自立できるようになった人はグループホームに移り、さらに外部で働けるようになった人は就職できるよう支援している。このように障害を持っている人も社会に出て働き、社会の役に立つことを実感し、喜びを味わう。こういう人を1人でも多く生み出すことをめざしているが、33年の歴史と伝統を感じさせるように、すべてのことにゆったり構えている。
グループホームは、食費、家賃、光熱費等すべてを含めて4万円で生活できる。時には、世話人がボランティアとして同行し祭りや買い物に行くこともある。これは社会性を身につける点からも重要な体験である。
本事例において紹介する内容は、愛の里における社会性を養う訓練を経て、グループホームで生活し、次の2で紹介する会社で働くようになった4名を紹介するものである。
(2)芸術家も輩出
愛の里には、働くばかりでなく、芸術に目覚めた人もいる。創作活動の一環として、陶芸、手工芸、再生和紙の作成等を行っているが、切り絵作家の野内照夫さんは、当施設の紙芝居の絵を担当したことがきっかけで、才能を見出された。
切り絵作家の冨山明峰氏の弟子となり、才能が花開いた。最初の作品の「自画像」がNHK主催の絵画展に入選し、続いて茨城県障害者の文化祭で金賞を受賞。その後も多くの展覧会に入選している。
最近では、独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構が発刊する障害者雇用に関する機関紙『働く広場』(2014年9月号)の表紙を飾っている。野内さんのほかにもユニークな絵を描く、谷口勝幸さん、椎名昭次さんがいる。何ごとも大らかであり、制限を最小限にして自由にし、大きく育てることにより、芸術家や企業の即戦力になる人材を輩出している。
また、入居者に対する思いやりばかりでなく、当法人の定年は65歳、継続雇用は、基準付きの70歳であり、従業員は老後を安心して暮らせるようになっており、弱者にやさしい施設といえる。
![]() 森 重正理事長(右)と 森 昌子事務長 |
2. 「愛の里」から社会に飛び立った人々
愛の里における社会性を養う訓練を経て、グループホームで生活し、次の会社で働くようになった4名を紹介する。
年齢 | 施設入所年数 | 会社での勤続年数 | 勤務する会社名 | |
Aさん | 51歳 | 12年 | 3年 | (1)株式会社タナカ「やっこ凧」 |
Bさん | 61歳 | 33年 | 16年 | (2)イオンリテール株式会社 「イオン笠間店」 |
Cさん | 41歳 | 30年 | 2年 | |
Dさん | 47歳 | 21年 | 2年 |
(1)Aさんのケース(勤務先:株式会社タナカ「やっこ凧」)
- 指導内容と成長の要因
- ①「愛の里」 森 重正理事長、森 昌子事務長の話
●体で覚えるまで根気よく指導
Aさんは比較的理解力はあったが、愛の里入所当初はおっとりしていて、社会性に疑問符がついた。しかし、根気よく指導した甲斐があって、愛の里の農作業の貴重な戦力となった。
また、誰にでもやさしい包容力のあるところに磨きがかかり、相談役的な役割を果たすまでになり、外部で働くことに自信を持った。そんな矢先、飲食店の「やっこ凧」で食器洗いをしていたグループホームの入居者が平成23(2011)年の東日本大震災でパニック症状が出て、急に退職したため、後を継いだ。
●仕事内容も勤務時間も本人向き
愛の里ではマイペースのところもあったが、食器洗いはのんびりしていると食器が山積みになるので、自分のペースでは仕事はできない。よい仕事についたといえる。また、勤務時間は10:30~17:00のうち、昼休みを挟んで午前、午後とも各2時間と短時間勤務であることも、集中力を持続できるのでラッキーであった。
- ②「やっこ凧」石川静江店長の話
●事前に本を読んで対応を勉強
誤った対応をしないよう事前に知的障害に関する本を読んで障害の特性等について勉強した。基本的には、障害の特性(知的障害であり、覚えるまでに時間がかかる等)以外は、障害のない人と同じ対応をするよう事前に従業員全員に徹底した。
●家庭の仕事は問題ない
結果的には、Aさんの能力が高く、また、仕事は家庭で日常行われている食器洗いとテーブル拭きであり、短期間で仕事をマスターした。Aさんの特によい点はきれい好きであることであり、食器を完璧に洗うのは当然として、寸暇を惜しんで厨房内をぴかぴかに磨き上げるし、テーブルも磨く。飲食店として大切な店内の清潔感は、Aさんの努力の賜物と言ってもよいほどである。
若干発達障害の症状があり、お客様をじっと見つめることがある。これについてはお客様に不快感を与える恐れがあるので、その都度注意をするようにしている。また、お客様と話すことが好きで、話に夢中になることがあり、食器がたまってしまうこともあるので、その都度注意している。まとめて注意するのではなく、「その都度、その都度」を心がけている。
丁寧に食器洗いをするAさん - ③Aさんの話
施設の農業の仕事も楽しかったが、この仕事はいろいろな人と接することができるし、食器や厨房がきれになるので気持ちがいい。お客様に「ごちそうさま、おいしかったよ」と言われると、世の中の役に立っているような気がしてうれしい。休みは、DVDや自転車の遠乗りを楽しんでいる。
- ①「愛の里」 森 重正理事長、森 昌子事務長の話
- 今後の課題と展望
- ①「愛の里」 森 重正理事長、森 昌子事務長の話
まだ若いので、健康に気を付けて仕事を続けてほしい。時々施設に顔を出し、会社でがんばっている話をして、後輩のみなさんをリードしてくれることはありがたい。施設にとっても、Aさんの“生きた実話”は勉強になるし、刺激になる。
まわりのみなさまのおかげで仕事が続けられることに感謝して、バトンタッチできる後輩が育つまでがんばってほしい。
障害者優先調達推進法が施行され、草取りや公共施設の清掃等が障害者就労施設等に優先して発注されることになったので期待している。社会性を身につけるためには、外に出ることが効果的であり、この制度を活用して愛の里でも新しい仕事を創出し、障害者の経済的自立に一層貢献したい。
- ②「やっこ凧」 石川静江店長の話
気力、体力が衰えないかぎり定年の65歳まで働くことができる。Aさんは、無遅刻、無欠勤で元気に働いている。これからも体が資本と考え、健康に留意してがんばってほしい。
トップ(社長)は障害者雇用に理解があり、やっこ凧の1名は障害者の指定席と考えている。Aさんの定年後も、「愛の里」から3代目がやってくることを期待している。
店長の石川静江さんハンディキャップ部分以外は障害のない人と同じように接し、厳しい注意もする。妙に構えることなく、自然体で接していることが、長続きする要因と考える。また、トップ(社長)の考えが従業員に伝播し、障害者に対する言動となって表れてくる。トップの理解は重要である。
- ①「愛の里」 森 重正理事長、森 昌子事務長の話
(2)Bさん、Cさん、Dさんのケース(勤務先:イオンリテール株式会社「イオン笠間店」)
- 指導内容と成長の要因
- ①「愛の里」 森 重正理事長、森 昌子事務長の話
〇3本の矢は折れず!
Bさんは、若いころは自宅に帰ったまま行方不明になったり、お騒がせのところもあったが、今は落ち着いている。器用であり、農作業では大変貢献してくれた。イオン笠間店での勤続も長く、大先輩であり、模範的な働きを期待している。
Cさんは若干の怠け癖とおしゃべりが心配であるが、面倒見がよくて、気働きもあり、感謝される仕事をしている。若いので体力もあり、これからもますます期待できる。
Dさんはおとなしいが、意外と主張を曲げないときがある。仕切り屋的なところもあるが、それだけにがんばり屋であり、忙しいときや困ったときは大いに頼りになる。
このように3人とも一長一短はあるが、3人が助け合い、励まし合ってよいところを引き出している。
〇さりげない注意や励ましが成長の糧
いろいろ失敗もしていると思うが、上司や従業員のみなさまが長い目で見てくれているので、委縮することなく成長している。また、みなさまのさりげない注意や励ましが成長の糧になっていることは確かであり、感謝している。
- ②「イオン笠間店」 外山純一店長の話
〇1人でないという気持ちが支え
3人でチームを組み、2人1組となって仕事をしている。夏の暑さや冬の寒さの中、1日5時間もカートを押し続けることは大変であるが、無遅刻、無欠勤でがんばっている。やはり励まし合い、自分1人ではないという気持ちが支えになっていると思う。
間に合わないときは、店長や総務課長が2、3時間応援することもあるが、翌日は足腰が痛くなって、大変さがよくわかる。
〇店内全員で目配り気配り
守備範囲が店内全域なので、目が届かない。店内の従業員に目配り気配りしてもらうため、全従業員に声をかけている。従業員がその都度、注意したり、激励していることが成長のあと押しをしていると思う。
〇失敗から学ぶ
過去の事故としては、一度に運ぶカートは、多くても6台を限度にするよう徹底しているが、混雑がひどいとき、混乱してカートを12台も力任せに押して自動ドアにぶつけ、ガラスを割ったことがある。また、あわてて、お客様にカートをぶつけてしまったこともある。このときは、本人にしっかり注意し、また、周辺の従業員にも忙しいときは、「ひと呼吸してから仕事をするよう」声をかけるようお願いした。
失敗から学ぶことが大事である。同じ過ちを何度も繰り返す人はいないので、安心している。基本的には、アニュアルどおりに作業しており、これまで本人たちやお客様のケガはない。
カート押しにも心を込めて! - ③Bさん、Cさん、Dさんの話
カートは200台あり、雨のときは、カートを拭く仕事が入るので大変である。また、忙しいときは、あっちが不足、こっちが余るといった具合で対応に追われる。しかし、お客様や従業員のみなさんから「ご苦労さま」と言われると、疲れも吹き飛ぶ。カートを乱暴に扱って事故を起こさないよう、心を込めてカートを押したい。
- ①「愛の里」 森 重正理事長、森 昌子事務長の話
- 今後の課題と展望
- ①「愛の里」森 重正理事長、森 昌子事務長の話
障害者でもできるということを証明しながら信用を築いている。愛の里施設内で3人の話がよく出るが、お互いに助け合い、励まし合っていることがよくわかる。これからも3本の矢をしっかり束ねて、お客様から感謝される仕事を続けてほしい。
- ②「イオン笠間店」外山純一店長の話
最初のころは、どこに何が展示されているかわからないので、お客様に説明できなくて困っていたが、今は概ね説明できるようになった。カートの回収・整理が仕事であるが、お客様のちょっとした質問に答えられるようになると、販売促進のお手伝いをすることになる。店内は日々変身しているので大変であるが努力したい。
店長の外山純一さんまた、当社は、障害者の雇用率を各店舗3%に設定しているが、当店舗は目標を達成している。雇用率ばかりでなく、障害者が何の違和感もなく溶け込んで仕事をしている職場作りめざしている。この理想に向けて、これからも全従業員が一致してバックアップしていくので、障害を持つみなさんも、これまで同様、健康第一でがんばってほしい。」
- ①「愛の里」森 重正理事長、森 昌子事務長の話
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