支援機関との連携で特例子会社を設立した事例
- 事業所名
- MCSハートフル株式会社
- 所在地
- 埼玉県上尾市
- 事業内容
- サービス業
- 従業員数
- 82名(平成26(2014)年5月現在)
- うち障害者数
- 56名
障害 人数 従事業務 視覚障害 聴覚・言語障害 肢体不自由 6 PC関連業務、印刷関連業務 内部障害 知的障害 41 巡回清掃業務、厨房補助業務 精神障害 9 PC関連業務、印刷関連業務 発達障害 高次脳機能障害 難病等その他の障害 - 目次
![]() 上尾事務所外観〔拠点事務所〕 |
1. 事業所の概要、障害者雇用の経緯
(1)事業所の概要
MCSハートフル株式会社は認知症高齢者のグループホームの運営を中心に、全国27都道府県、253箇所の拠点で活動するメディカル・ケア・サービス株式会社の特例子会社として、平成22(2010)年10月に埼玉県17番目の特例子会社として認定された。
MCSハートフル株式会社の会社案内では、「私達の役割は、会社を明るく、元気にすることと定め、『障害のあるなしに関わらず、一人でも多くの人が働く喜びを実感できる企業であり続けること』を目指して、毎日、元気に仕事に取り組んでいます。MCSハートフルの仕事は、『清掃』『印刷』『PC』『総務』の4つのグループに分かれています。それぞれのグループは、業務の内容こそ違いますが、共通することは、メディカル・ケア・サービス株式会社が運営する愛の家グループホーム(認知症対応型共同生活介護施設)や介護付有料老人ホームで行われている良質な介護のお手伝いをすることです。ご入居者様や介護スタッフに喜んでいただけるよう、一生懸命取り組んでいます」とされている。
(2)障害者雇用の経緯
MCSハートフル株式会社を立ち上げた経緯は、行政からのたびたびの指導や、障害者雇用納付金の増加(当時同社の障害者雇用率は0.5%をやや上回る様な状況)を踏まえてのものである。社内でも障害者をどの様に雇用するのかをめぐって幾多の会議が持たれたが、役員の意識に温度差等もあり、なかなか方向性が決まらないという状況にあった。
ところがある日、当時本社総務課長であった今野氏(現:MCSハートフル株式会社代表取締役)が社長に呼ばれ、障害者雇用に向けて特例子会社を設立するようにとの命令がくだる。突然の発言に戸惑う今野氏に向かって、大山泰弘氏著作の「働く幸せ」を差し出して、「この本を読んで感銘を受けた、直ちに設立に向けた準備を開始するように」と、その場で今野氏を障害者雇用プロジェクトリーダーに任命した。
「設立の時期は?」との今野氏の問いかけに、「9月1日」との答えが返ってくる。それはゴールデンウィークを間近にひかえた4月の下旬のことであり、設立に向けての時間はとても少なかった。そこから今野氏の特例子会社設立に向けての必死の準備が始まる。
2. 取組の開始から採用へ
動き始めた今野氏は、まず会社の設立計画書を作成することから始める。勿論、役員会への提示の必要性もあったが、同時にどのような障害者雇用の会社を目指すのかの具体的な認識を持つ重要性もあった。そこに示されている設立の目的を紹介したい。
「働く意思と能力を有する障害をもつ人に対して、生き甲斐のある、働き甲斐のある職業生活の場(チャンス)を与えることは、企業としての社会的使命であり、その社会的使命を果たすことは、わが社が掲げる「MCSグループ企業行動原則」にも示されているとおりである。障害をもつ人が地域と一体となって、ともに歩み続ける職業的自立と、障害をもつ人の社会参加の場の創出を図るため、メディカル・ケア・サービス株式会社は、ノーマライゼーションの理念に基づいて雇用の創出を図るとともに、障害をもつ人が働く喜びを実感できる企業グループの構築を目指したい。」
この設立の目的を踏まえ、計画書には会社の概要(事業内容、人事体制、施設の概要、従業員規模、採用計画、労働条件、5年間の事業計画等、貸借対照表・損益計算書)を含め数値計画も綿密に示されている。また、特例子会社設立の要件をはじめとして、事業・運営上のリスク、特例子会社設立のメリット、デメリット、今後設立までのスケジュール等、およそ考えられる総ての事項が網羅されている。現在、この設立計画書は筆者が所属する「埼玉県障害者雇用サポートセンター」が、企業から特例子会社の設立の相談を受けた時のバイブルになっている次第である。今野氏は設立計画書を作ると共に、この書に上げた次の(1)~(5)の事業内容について、埼玉県障害者雇用サポートセンターを通じて紹介を受けた実際に障害者雇用をしている埼玉県はもとより東京、千葉、神奈川の企業見学に出向き、より具体的なイメージとヒントを攫み取るとともに、その企業での現状、抱えている問題点の聞き取りなどからも多くのサジェスション(示唆)を受けた。
(1) | 事務系業務(PCセットアップ、ヘルプデスク、人事情報入力) |
(2) | 清掃業務(埼玉県内グループホーム巡回清掃:グループホーム周辺、室内(トイレ、窓、空調機フィルター等)) |
(3) | 営繕、緑化、水やり等業務 |
(4) | 厨房補助業務 |
(5) | 印刷業務 |
企業見学と並行した採用活動では、時期的なことから、埼玉県内各市町村が運営する障害者就労支援センターを中心に組み立てを行った。そして、ハローワークに出した求人の採用条件としては、
(1) | 挨拶ができること |
(2) | 自力で出勤できること |
(3) | 自分の事は自分でできること |
というシンプルなものを掲げた。
![]() ![]() 事務系業務 PCセットアップ ヘルプデスク 人事情報入力
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![]() 清掃業務 グループホーム巡回清掃(岐阜)
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![]() 清掃業務 空調機フィルター清掃
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![]() 清掃業務 アパート等外廻り清掃
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![]() 清掃業務 グループホーム床・ワックス清掃
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![]() 清掃業務 グループホーム窓清掃
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![]() 厨房補助業務
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こうして始まった採用活動と特例子会社の設立は短期間に結実し、平成22(2010)年9月1日に無事に会社設立を果たした。同時に3名の障害者を含む4名の社員を採用し、同年10月1日には更に9名の障害者を雇用して、上尾事務所を拠点としてスタートをきることになる。
上尾市でスタートしたMCSハートフル株式会社の事業は順調に進み、埼玉で培った巡回清掃のノウハウを移転する形で、平成25(2013)年1月には6名の障害者を雇用して岐阜県に岐阜事業所を開設し、同様に平成26(2014)年2月に神奈川県の川崎市に5名の障害者を雇用して川崎事業所を開設する。
淀みなく雇用の拡大を図るMCSハートフル株式会社であるが、平成26(2014)年4月より1年にわたり厚生労働省からの精神障害者雇用促進モデル事業を受託している。事業の目的は、「精神障害者等の雇用継続(定着)のための仕組みづくりと、新規雇用による雇用拡大を可能とする仕組みをそれぞれ構築するとともに、双方が綿密に連携しながら、好循環を生み出せる管理体制を構築する」というものである。そのための支援体制として、社内でジョブコーチ1名、精神保健福祉士1名、臨床心理士1名を配置し、万全の体制をしいている。その中で精神障害者雇用・定着のための、以下(1)~(3)の取組みを行うとともに、他にもいくつかの課題を掲げ、モデル事業を行っている。
(1) | 職場内の理解促進に資する事業として
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(2) | 精神障害者等が働きやすい雇用管理制度の導入 |
(3) | 精神障害者等の障害特性に応じた職域の開拓 |
また、MCSハートフル株式会社はあらゆる場面を通じて、障害者雇用を図っており、その雇用のためのスキームを数多く持っている。県下の特別支援学校からの定期的な採用スキーム、県下の障害者就業・生活支援センター、障害者就労支援センター等の機関から日常的な採用スキーム、ハローワークを通じての幅広い採用スキーム等、設立4年目にしては非常に強固な採用スキームが構築されている。その時の置かれた状況において、不断の採用活動から学び取った実践に即したスキームで雇用の形を選び取ることができる方法が構築されている。
3. 今後の展望と課題
MCSハートフル株式会社が今後の目標として掲げているものは、「介護業界での障害者雇用日本一を目指す」であり、介護業界として相応しい雇用のあり方、本業とリンクした業務、親会社以外から収入を得る手立て、働く障害者のキャリアアップ、働く障害者の収入アップを図ることで、障害者雇用が企業の将来を決定づけると位置づけている。
今、障害者雇用を取り巻く状況は法定雇用率2.0%時代を迎えるとともに、平成27(2015)年4月から改正障害者雇用納付金制度がスタートし、常時雇用している労働者数が100人を超え200人以下の中小企業事業主も納付金の申告が必要となるなど、障害者雇用は追い風である。なかでも、産業別の雇用者の実績は高齢化社会の現実を受け、介護業界は拡大の一途である。ここ数年のメディカル・ケア・サービスグループの伸長も目覚ましいものがあるが、その中でMCSハートフル株式会社が担う役割は非常に重要であり、そこに向けての新たな事業の準備も考えられている。例えば、特定有料老人ホームで働く障害者の増員〔施設の増設に応じて〕、一般賃貸物件の巡回清掃〔グループホームの巡回清掃のノウハウを活かして、アパート・マンション等の共有部の清掃を行う〕、他エリアへの進出〔MCSグループの運営するグループホームの多い地域への進出〕、障害者グループホームの運営等である。筆者も今野社長とは長いお付き合いをさせていただいているが、生来の明るさ、積極性、事業に対する思い入れ、社員への気配り、何より自分で立ち上げた会社への愛情を深く感じられる。また、毎年、秋に会社設立記念のバーベキューパーティーが行われるが、その時の全社員の招待客に対する接遇も素晴らしく、社員教育の良さがうかがえる。これからもグループ会社を支える重要な企業として、目標に掲げた日本一を目指しどこまで発展した姿を見せてくれるのか目が離せない企業であるし、楽しみにしている企業でもある。
企業支援アドバイザー 石川 眞太郎
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