全社をあげての積極的な雇用へ
- 事業所名
- 朝日航洋株式会社
- 所在地
- 本社:東京都江東区
空間情報事業本社:埼玉県川越市(人事部所在地)
川越メンテナンスセンター:埼玉県川越市 - 事業内容
- 航空・運輸業、測量業「(除外率設定業種)」
- 従業員数
- 1,380名
- うち障害者数
- 18名
障害 人数 従事業務 視覚障害 1 営業支援業務(PC業務) 聴覚・言語障害 2 営業事務全般・人事関連業務全般 肢体不自由 4 PCを操作しての技術職としての業務 内部障害 6 同上 知的障害 2 川越メンテナンスセンターでの業務 精神障害 1 PCを操作しての技術職としての業務 発達障害 2 PCを操作しての業務・事務業務全般 高次脳機能障害 難病等その他の障害 - 目次
![]() 川越空間情報事業本社全景 |
1. 事業所の概要、障害者雇用の経緯
(1)事業所の概要
朝日航洋株式会社は、昭和30(1955)年創業のトヨタ自動車株式会社が99.59%を出資する連結子会社である。事業としては、主にドクターヘリの運航や報道取材やドラマ収録時などに使用されるヘリコプター運航など、ヘリコプターやビジネスジェット機を軸にした「航空運輸事業」と、固定資産税評価の基となる土地図面の作成・修正や防災業務に関わる上空からの最先端の計測・解析などの技術を活かしたSDS(空間情報サービス)による「空間情報事業」を、全国54拠点で展開している。
(2)障害者雇用の経緯
- 初めての知的障害者の雇用まで
平成22(2010)年度までは、社内で働く障害者は中途障害を負った身体障害者のみであったが、除外率(15%)設定業種であったため、雇用率は常に1.8%前後を維持していた。
また、「障害者=車いす」というイメージが強く、「環境が整備されていない(例えば、エレベーターが設置されていない・・・)から障害者雇用は難しい」という認識が強く、新たに障害者(特に、知的障害者や精神障害者)の雇用を進めようという社内環境はなかった。ところが、平成23(2011)年に入ると、会社を取り巻く環境は大きく変化することとなった。
まず、平成23(2011)年には除外率が15%から5%に削減された。さらに、平成25(2013)年には、法定雇用率が2.0%に上昇することとなり、定年退職者の与件も加わり、平成25(2013)年には、大幅に雇用率を割り込むことが予想され、その対応を迫られる状況となった。そういう中、平成24(2012)年3月にハローワークの雇用指導官から「このままでは、雇入れ計画書の提出、そして最悪の場合には社名の公表もあり得る」という指導があった。
今まで人事と現場での対応で受動的な障害者雇用を進めてきたが、従来の進め方では限界が見えていたため、「障害者雇用は社会的な責任として全社を挙げて進める必要性がある経営課題である」という共通認識を作ることを目的に、平成24(2012)年4月に開催された「経営会議」で報告し、能動的な障害者雇用活動へ切り替えることについて承認を得た。ここから、「全社をあげての積極的な障害者雇用」への歩みがスタートすることとなったのである。
しかし担当者は「どのような職種でどのような障害の方の受け入れが可能か?」などいろいろと検討をしたが、イメージのみ先行し、なかなか具体的な行動にまでたどり着けなかった。「これから具体的にどのように進めていけばいいのか?」と自問自答する日々が続く中、同年6月に開催された「役員・幹部会」の場で、障害者雇用への協力を要請したところ、「川越メンテナンスセンター営繕部門」が、既に近隣の障害者施設の「施設外就労」により障害者の働く場を提供していたことが判明した。そこで、同年10月「施設外就労」に実際に従事していた知的障害者1名を当該川越メンテナンスセンターで直接雇用することとした。これが、会社として初めての知的障害者の受け入れとなり、障害者の雇用が現実に一歩前に進む契機となった。
- さまざまな資源を活用した障害者雇用への取組
- ①サポートセンターを仲介した雇用
その後、企業の障害者雇用・定着支援を主な事業とする「埼玉県障害者雇用サポートセンター」(以下「サポートセンター」という。)の支援を受ける機会を得、ようやく本格的な雇用に向けた活動が進むこととなった。その主な経緯は次のとおりである。
平成24(2012)年10月 サポートセンター及び埼玉県産業労働部就業支援課担当者による現況と課題・今後の進め方 同年10月 両者による職場見学と業務の切り出し
*空間情報事業本社内のパソコンを使用した業務に障害者雇用の可能性があることを提言同年11月 総務部長・人事部長・人事担当による特例子会社見学
*実際に職場で働く障害者の姿と雇用するうえでの留意点を、今後雇用を進める中核となるキーパーソンが学んだ同年11月 就労支援機関(5機関参加)による職場見学会実施 同年12月 サポートセンター主催の「障害者雇用企業見学会」に担当者が参加 同年12月 就労支援機関から8名の就労希望者(上下肢障害1名・内部障害1名、精神障害3名・発達障害3名)参加による職場見学会実施 同年12月 関係機関(会社、サポートセンター、県就業支援課、就労支援機関)による実習に向けた打合せ実施 平成25(2013)年1月 実習及び評価会の実施
*空間情報事業本社内の4部門で4名(内部障害1名、精神障害2名、発達障害1名)が10日間の職場実習を実施その後評価会を経て採用決定。
当初は2名程度の採用を想定していたが、実習の結果受け入れた職場からの評価がそれぞれ高く、4名全員の採用を決定した。しかしながら、その後、精神障害者1名が辞退し、結果として3名の採用が確定した。同年2月 3名入社(内部障害1名、精神障害1名、発達障害1名)
*これが、初めての精神・発達障害者の受け入れとなった。同年3月 第1回支援者会議開催 同年7月 第2回支援者会議開催
*1回目、2回目は今回関わった全支援機関による全体支援者会議として開催された。2回目の会議において、今後は個別の支援者会議に移行することとなった。 - ②合同面接会による雇用
平成25(2013)年1月に開催された埼玉県の合同面接会に参加し2名(聴覚障害者1名、知的障害者1名)を採用することができた。
- ③国立職業リハビリテーションセンター受講生の雇用
平成24(2012)年12月には、国立職業リハビリテーションセンターを見学、平成25(2013)年1月には同センターが主催する「受け入れ準備講座」に参加し、同センター受講生からの就労希望者を募っていたところ、同年9月になって、「希望者がいる」の連絡を受けた。その後、当該希望者は、同年11月に3週間の職場実習を経た後、平成26(2014)年4月に採用された。
このように、採用にあたっては、障害者雇用にかかわる様々な手法を担当者自らが工夫しながら、職場に合わせた雇用活動を進めている。
- ①サポートセンターを仲介した雇用
2. 障害者の職務内容
(1)川越メンテナンスセンターの営繕業務(平成24(2012)年10月から)
- 配置障害者:2名(知的障害2名)
- 業務内容
メンテナンスセンター内の芝刈り、草刈り、フェンスの補修、ペンキ塗り等の営繕業務、ヘリコプターの梱包材の解体業務、さび落とし等
川越メンテナンスセンターで作業するAさん(知的障害者)
(2)川越空間情報事業本社の技術的な業務(新規雇用3名は平成25(2013)年2月から)
- 配置障害者:7名(肢体不自由1名、内部障害4名、精神障害1名、発達障害1名)
- 業務内容
固定資産税に関するデータ入力や図面のチェック、防災業務でのCAD操作、航空写真画像のチェック、図化作業などパソコンを操作しての技術職としての業務を担当
川越空間情報事業本社でPC業務に従事するBさん(精神障害者)
(3)川越空間情報事業本社の事務業務(視覚障害者は従来から、聴覚障害者は平成25(2013)年3月から)
- 配置障害者:2名(視覚障害1名、聴覚障害1名)
- 業務内容
入札資格の資料作成等の営業支援業務及びグループ全7社社員の入社から退職までの諸手続きなど人事関連業務全般を担当している。音声入力でパソコン操作するCさんのスピードはまさにプロ級の腕前。
川越空間情報事業本社でパソコン入力するCさん(視覚障害者)
3. 今後の就労拡大と定着に向けて
このように、全社をあげての雇用に舵を切ってから短期間で大きな成果を得たが、全社的な理解と定着に向けてはさまざまな課題(例えば、「どこまで障害を社内にオープンにしたら良いか?」、「これは障害特性なのか?それとも単なる個性なのか?」、「受け入れ現場は本人とどのように接していいのかわからない?」等々)を抱えている。
また、この2年間で新たに9名(内部障害1名、聴覚障害2名、知的障害2名、精神障害2名、発達障害2名)を採用、さらに2名が中途障害(内部障害1名、肢体不自由1名)により障害者手帳を取得したが、一方、4名(内部障害2名、聴覚障害1名、精神障害1名)が退職している。退職者4名の中には、定年退職によるものもあるが、体調不良やドクターストップなどによる退職もあり、職場での工夫次第で雇用継続ができたのではないかという事例もあった。また、障害者を初めて受け入れた職場からは、障害者と一緒に働くことに対するとまどいの声などもあった。担当者は、これらの課題に対して日々模索しながら対応しているのが現状である。
まず、採用については、これまでの2年間に取り組んできた、①「ハローワーク主催の合同面接会参加」、②「就労支援センター等の各支援機関からの紹介」、③「国立職業リハビリテーションセンター受講生の受け入れ」などに加え、④「特別支援学校生徒の受け入れ」、⑤「インターンシップの受け入れ」や⑥「各障害者能力開発校からの受け入れ」など、障害者の雇用を支援する様々な方法を積極的に活用した採用活動を検討している。既に、④「特別支援学校生徒の受け入れ」に向けては、平成25(2013)年12月に東京都内の特別支援学校5校の教員に対する会社見学会を行った。また、就労後の定着活動については、①支援者会議の定期的な開催、②雇い入れ時の産業医との面談、③各階層での社内勉強会の開催などを積極的に行う予定である。
このように、担当者自らが、障害者の雇用と定着に向けて主体的に行動し、利用できる資源を有効に活用しようと努力し、常に前向きに活動している姿に感銘を受けるとともに、今後、これらの取り組みがどのような形で結実していくか楽しみである。
精神障害者雇用アドバイザー 鍵和田 幹夫
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