製造現場への知的障害者受入れを推進中!
- 事業所名
- TOTOバスクリエイト株式会社 本社工場
- 所在地
- 千葉県佐倉市
- 事業内容
- ユニットバスルームの製造
- 従業員数
- 全社:613名(当該事業所:598名)
- うち障害者数
- 全社:13名(当該事業所:13名)
障害 人数 従事業務 視覚障害 聴覚・言語障害 2 FAX問い合せ内容データ入力作業及び分析作業、CADによる設計業務 肢体不自由 5 CADによる設計業務、守衛業務 内部障害 1 設計業務 知的障害 3 出荷部品の検査を兼ねた情報ラベル貼り、浴室天井部品の成型・組立・梱包 精神障害 2 ショールームの管理、部材のピッキング 発達障害 高次脳機能障害 難病等その他の障害 - 目次
![]() 事業所外観 |
1. 事業所の概要
「TOTOのバスタブ(浴槽)」と言えば、日本人に最もなじみのある生活製品の一つであろう。そのバスタブを含む「ユニットバス・ルーム」を1日1,000個以上も製造・出荷しているのが、緑豊かな佐倉第三工業団地の一角にある当社の本社工場である。延べ床面積88千㎡(26.7千坪)の工場建屋に大型プレス6台を設置し、24時間体制の生産を行っている。
また、「ユニットバスのパイオニアとして生活の豊かさに貢献する」という社是のもと新商品の開発にも注力している。
バス・ルームの仕様も客先ごとに異なるため、部品点数は膨大な数に及び、102千㎡(30千坪)の敷地は出荷を待つ製品群で常に溢れている。重量物を運ぶ100台の大型フォークリフトが動き回る中、協力企業を含む約1,000人が安全第一で作業を行っている。これら出荷部品の全てに「部品情報ラベル」を付しコンピューターで一元管理しており、多くはQRコード(二次元バーコード)を自動添付しているが、中には例外もあって、その場合には人の手でQRコード以外のコード・ラベルを添付している。
3年後の平成29(2017)年に「TOTO創立100周年」を迎えるにあたり、CSR(企業の社会的責任)の観点から、当社では約7年前より夏冬の年2回、それぞれ「夏祭り」「リモデルフェア」という名前のイベントを開催して地域住民との交流を深めている。夏祭りではレンジャーショーや花火、飲食やゲームなどの露店、リモデルフェアでは工場見学やどんぐり工作などの各種イベント、豚汁などの飲食露店を用意し、延べ年6,000人に及ぶ地域住民の方にご来場いただいている。
障害者雇用についても、TOTOグループ全体として法定雇用率の達成・維持・継続を必達目標として取り組んでおり、「平成30(2018)年3月雇用率2.5%達成」を目指している。
2. 障害者雇用の経緯
当社はこれまで主として身体障害者の雇用を進めてきた。そのため障害者が安全に働ける業務としては、身体障害者が就業可能なCAD設計業務が選ばれた。そして、毎年開催されるマッチング・イベントに参加し、雇用率達成に必要な人数を採用してきたが、数年前から即戦力となる身体障害者の採用が困難になった。
そんな時、たまたま印旛特別支援学校のM先生が来られ、「知的障害者は決められたことを黙々とする作業に向いており、仕事によっては能力を発揮できる」とお話いただいたことを契機に、特別支援学校との関わりが始まった。M先生に当社の現場をみていただき、当方からも何度か学校を訪問して幾人かの候補者にも会った。そうして何とか可能性を見出したところで、現場の所属長40名を集め、受け入れを前提とした説明会を平成24(2012)年の秋に開催したのである。
その説明会では、千葉障害者職業センターからも障害者職業カウンセラーであるY氏に来ていただき、DVDによって知的障害者の特性を専門的見地から解説していただくと共に、各生産現場に対して「対象業務の洗い出しヒアリング」を行い、受入れに当たっての工夫についてもアドバイスをいただいたが、正直なところ出席者の反応は、「(知的障害者を生産現場に受け入れることについては、)総論賛成であるが自分の職場へはどうも‥」という感触であった。そこで、Y氏にお願いして候補となる48職場を巡回してみていただいた。その結果、「適応可能な作業自体はあるが、1日分の纏まった仕事量が無い」ということ、またそれらを組み合わせて1日分の仕事量を創ることも不可能ではないが、「複数の職場を渡り歩くことに伴う実施上の難しさがある」という問題点も明らかになった。
一方、現場管理者に知的障害者の働きを実際に見て貰う目的から、平成24(2012)11月に印旛特別支援学校の生徒を2名職場実習として受け入れることにした。学校に何度か足を運び、対象者の授業風景や部活動の様子を視察した上で、各人に実習業務を用意した。一つは従来シルバー人材センターに依頼していた「工場内緑地管理の業務(植木の剪定)」であり、もう一つは、もともと、構内業者が担当していたものを取り込み、忙しい中、社員がメイン業務と並行して対応していた「ユニットバスの排水管となる塩化ビニル製部品に部品情報コードを記載したラベルを貼る業務」であり、出荷前検査を兼ねている。
結果的に後者の業務を担当したTさんが、翌年(平成25(2013)年)4月に正式採用されることになった。Tさんは冬の2週間、集中力を切らさず期待したパーフォーマンスを出せたので、コミュニケーションの面で多少の不安はあったが、採用に踏み切ったのである。
Tさんの成功を機に、この年新たに2名の実習生を受け入れ、今年(平成26(2014)年)4月採用したところである。一人はTさんと同様の「部品情報ラベル貼り」の業務、もう一人は「ホチキスによる浴室天井板の成型組立」および「天井点検口の梱包」業務であり、従来は請負あるいは派遣作業として社外に出していた業務を取り込んだものである。
3. 取組の内容と効果
(1)取組の内容
「製造現場への知的障害者の受入れについては職場の理解が鍵になる」ことは当初から予想されており、準備段階として、推進部門である総務部総務課の課長以下3名が各職場を啓蒙・説得に回って歩いた。結果としてTさんの成功が職場から評価を受け、新たに2名の実習生の受け入れに繋がったわけである。そこで、ここでは専らTさんの事例を中心に取組の内容を紹介したい。
Tさんの雇用に当たって先ず心掛けたのは、「最初の一人の導入を成功に導く」ことであった。そのため、専門家の助けを最大限に借りながら、慎重に受入れ現場との折衝を進めていったのである。そして、現場には知的障害者の実像を知って貰うため、職場実習の受入れについて提案して了解をもらい、現場において敢えてTさんのための担当作業を作っていただいた。Tさんはその作業について、この実習期間の2週間、集中力を切らさず期待したパーフォーマンスを出せたことが奏功しているわけであるが、一方、障害者雇用の推進部門である総務部総務課では、「人事部門は面倒なことを他人に押し付けておいて後は知らぬ振りをしている」と現場からクレームの出ないように、生活面でのフォローを引き受けた。実際のところ、Tさんを雇用するに当たっては、身体障害者とは異なって配慮しなければならないことがらが山ほどあった。
「一人通勤ができること」を条件に採用しているので、通勤に不安は無かったものの、「長時間にわたるフルタイム勤務への不安」、冷房設備の無い倉庫内作業であるため「夏の暑さへの不安」があり、それとなく頻繁に現場に赴いて直接本人と顔を合わせるよう心掛けた。また、「万が一、家族からの支援が得られなくなった場合、雇用を継続できるだろうか」という不安があり、特に家族とは密接な連携をとるよう心掛けた。こうした不安がひとまず解消されたのは、最初の一夏を無事に過ぎてからであった。
現場ではどのような取組をしたかといえば、先ずは仕事の切り分けであった。Tさんの場合、「中口径長尺塩ビパイプの情報ラベルの貼り付け」という、「時間の制限はあるが、一人だけで比較的自由にできる業務」を担当してもらった。
具体的には、フォークリフトで運ばれてきた塩ビパイプを大きな箱から取り出し、目視で切り口の検査をした後、出荷ロットごとの開放ラック(棚)に収め、パイプ一本一本に決められた情報ラベルを貼り付ける作業である。1日の作業量は平均450本程度であるが当初は一定していない日々が続いた。現場担当の社員はTさんに「異常を見つけたら直ちに報告する」よう指示してあるが、1時間おきにTさんの様子を見に行くようにしてきた。Tさんの勤務時間は実働7時間55分、休憩50分のフルタイム勤務であるが、過去1年間、Tさんは無遅刻無欠勤で与えられた仕事をこなし、最近では従来の業務に加えて準備工程である「当日に貼り付ける分のラベルをパソコンからアウトプットする作業」も取り込めるようになった。また、心配されたコミュニケーション能力も向上し、徐々にではあるが、思ったことを自分から口に出せるようになってきた。これらは、本人の努力もさることながら、現場担当者の木目細かい心配りで、Tさんを観察し、無理のないよう仕事の与え方に工夫を加えていった結果に他ならない。
![]() Tさんの作業風景 |
(2)取組の効果
現場サイドからすると、Tさんを通じたこの度の取組は「製造工程への知的障害者受入れ」の第一歩に過ぎない。しかしながら、「Tさんの仕事ぶりと成果に対する満足感」が得られたことによって、「知的障害者に対して当初抱いていた想像(イメージ)と実像とのギャップが縮まり、知的障害者雇用に対する抵抗感が払拭された」効果は大きかったといえよう。またTさん本人にしてみても、与えられた仕事を成し遂げようと精一杯努力した跡が窺われる。特に「通常より大幅に増加した数量をこなしたときの満足感」は大きかったと思われる。それは、本人に、「過去1年間を振り返っての思い」を語って貰ったところ、開口一番「一日600本の仕事を与えられた時が一番つらかった」という答えが返ってきたことからも窺える。
いずれにせよ、Tさんが当社における知的障害者雇用に先鞭をつけたことは間違いない。Tさんを通じて、当社と印旛特別支援学校との絆が強くなり、今後双方の相互理解の下に、より良いマッチングができるようになるであろうことは想像に難くない。
4. 今後の展望と課題
印旛特別支援学校からの実習生受入れ、その中から、知的障害者1~2名の採用を今後数年続けることで、「平成30(2018)年3月雇用率2.5%達成」の目標はクリアできる目処はついたが、一方では、定年を迎える身体障害者が出てきており、その後も目標の雇用率を維持していくには、今後将来に亘って知的障害者の採用を継続していく必要性を感じている。そのためには、「コミュニケーション能力の開発」を通じて「知的障害者の職務拡大」を図り、「製造工程への知的障害者受入れ」を更に推進していく必要がある。特に、補助作業にせよ「障害のない者との協同作業」が可能になれば、知的障害者を雇用できる製造現場は格段に拡がるであろうと考えている。
しかし、もう少し中長期の視点で考えると、更に幾つかの課題が見えてくる。ユニットバスの生産はフル・モデルチェンジがあり、一つのライン全体が無くなることも珍しくない。そうした時の対応が課題となる。
また、今後知的障害者を定年まで雇用するにあたって、現在、若い知的障害者を精神面・生活面から支えている保護者がいずれはお亡くなりになることを考えておかなければならない。それまでには彼等が自立できる力をつけておく必要があり、そのためには、彼等に人間としての自立・成長を促していく特別の教育が望まれる。
知的障害者の雇用に関して職場間の理解度に温度差があることは事実であり、特に間接部門における理解度の低さが目立つ。当社としては、今後更に実績を積み重ねることでこうした温度差を無くし、知的障害者雇用への理解を深めていく必要性を強く感じている。
アンケートのお願い
皆さまのお役に立てるホームページにしたいと考えていますので、アンケートへのご協力をお願いします。
なお、事例掲載企業、執筆者等へのお問い合わせや、事例掲載企業の採用情報に関するご質問をいただいても回答できませんので、あらかじめご了承ください。
※アンケートページは、外部サービスとしてMicrosoft社提供のMicrosoft Formsを使用しております。