「地域に開かれた企業理念」と「職場体験の受入れ」が障害者雇用の成功へ!
- 事業所名
- 株式会社ザ・マンハッタン(ホテル ザ・マンハッタン)
- 所在地
- 千葉県千葉市
- 事業内容
- ホテル、ウエディング、宴会、レストランの経営
- 従業員数
- 230名
- うち障害者数
- 1名
障害 人数 従事業務 視覚障害 聴覚・言語障害 1 スチュワード(食器類の洗浄・管理)業務 肢体不自由 内部障害 知的障害 精神障害 発達障害 高次脳機能障害 難病等その他の障害 - 目次
1. 事業所の概要、障害者雇用の経緯
(1)事業所の概要
東京湾に面した幕張新都心の一角に、地元資本の「ホテル ザ・マンハッタン」がある。地上21階建、客室数130のスモールラグジュアリーホテルである。アールデコ調のインテリアで統一された館内は1920~40年代アメリカの旧き良き時代の邸宅をイメージし、客室には自然光をたくさん取り入れるための広い窓と総大理石のバスルームを備え、非日常の優雅なひとときを提供している。
当ホテルは当初、国際展示場「幕張メッセ」に来訪する海外のビジネス来訪客をターゲットとした都市型ホテルとして平成3(1991)年に開業した。しかしその後、バブル崩壊による経済変動などの影響を受け、平成13(2001)年以降はそれまでの高級志向から地元に目を向けた経営へと方針転換し、「VIP相手のホテル」ではなく、「地域住民のためのホテル」として再スタートしたのである。
「地域の文化発信基地でありたい!」とのオーナーの願いから、ホテル内にはオーナー所蔵の美術品を常時展示するとともに、入場無料のサロンコンサートを年間7回開催するなど、地域に密着したサービスに努めている。従業員は、正社員約150名、様々な働き方のパート職を含めると230名になる。
(2)障害者雇用の経緯
当社が障害者雇用に取組む契機となったのは、オーナーの経営方針に加え、推進役となった現副総支配人兼管理部長であるT氏に依るところが大きい。T氏は地元銀行の出身で、平成21(2009)年以来、人事・総務・経理部門の責任者として経営の一翼を担っている。
T氏は銀行マンの時代から「地域の中で商売をするためには、その中でしかるべき役割を果たす必要がある」との「地域立脚企業としての役割意識」を強く持っており、障害者雇用についても当初から目を向けていた。そうした中で、地元の障害者就業・生活支援センターである「千葉障害者キャリアセンター」から勧められて、障害者雇用の先進的事例見学会に参加した。その後も障害者合同面接会等に参加し、福祉施設の方と名刺交換などをして見聞を広め、当ホテルにおける障害者雇用の受け入れ業務を「スチュワード(食器類の洗浄・管理)業務」とする方針が次第に固まっていった。
そんな折、平成23(2011)年春、千葉県総合教育センターからの依頼に応じ、県立千葉聾学校の教員を企業派遣研修として4ヶ月に亘り受け入れた。その際、派遣された研修教員の教え子数人(県立千葉聾学校高等部3年生)を職場体験実習生として受け入れることになった。実習業務は当然スチュワード業務である。
その結果、実習生の一人、重度聴覚障害者のOさんが当ホテルに就職の希望を申し出てきてくれたのである。Oさんは翌平成24(2012)年4月に臨時従業員として採用することになり、以来Oさんは障害のない従業員と変わりない仕事ぶりで職場の信頼を得ており、現在ではフルタイムの勤務時間で自ら職域を拡げるに至っている。
2. 取組の内容と効果
(1)取組の内容
当ホテルが障害者受入れの対象にしているのは現在のところスチュワード業務である。具体的には宴会場および3箇所あるホテル内のレストランにおけるサービス業務のうち、直接お客様と接することはないが、お客様へのおもてなしにはなくてはならない専門職ともいえる業務で、「バック・ヤードにおける食器の洗い・磨き上げそして管理」や「当日の料理内容に応じた食器の準備、お客様が入場する前の配膳準備」である。
宴会場と3つのレストランに分かれ、利用客数も多い日には各レストラン200名以上に及び、それらの作業量はフルタイムで数人分に及ぶ。特に和食のレストランでの食器洗いには細かな配慮が必要で、「手洗い」が中心となる。また、時間に追われる仕事であり、遅刻や無断欠勤は絶対に許されない職場でもある。
スチュワード業務には各レストランの正社員の他、パート職数名が従事しており、組織上「料飲部長」が統括している。Oさんの受入れに当たっては、料飲部長を責任者とし、「今日Oさんにはどの場所で勤務してもらうか」という日々の配置を料飲部長が決め、各場所での具体的な作業指示は、宴会場と3つのレストランそれぞれのチーフが直接本人に対して行う体制を取っている。
Oさんの受入れ前には聴覚障害者と働く上での注意点等を記載したマニュアルをプリントして関係者に配布するとともに、聴覚障害に伴うコミュニケーション不足への対応として、ホワイトボードを館内数箇所に常備し、「ホワイトボードによる会話」を行うことにした。しかしながら、実際にはホワイトボードに手書きで書くより、パソコンのワープロ機能を用いてキーボード操作する方が、容易に意思疎通できることが分かってきた。そのうえ、書いたもので伝わらない細かなニュアンスなどは、ゆっくりと言葉にすることで、Oさんは話し手の唇の形から言葉を理解できることも分かってきた。また、当初は、受入れ準備として、関係者の間では手話も学習し始めたが、結局その必要は無く挨拶ができる程度で終了し、更には職場体験時にお願いしたジョブコーチも、採用が決まってから以降は支援をお願いする必要が無かった。
(2)取組の効果
元々、ホテルの従業員は人に興味を持ち、思い遣り、ホスピタリティを持った人が多いので、Oさんを受入れた当ホテルの現場に障害者雇用に対する抵抗感は無かった。また、違和感無く職場に溶け込み、指示されたこと以外にも自分の仕事を見付けて取り組んでいくOさんの仕事ぶりとその成果に対しては関係者全員が満足感を抱いている。
敢えてOさん本人に、「上司とのコミュニケーションに不自由は無いか?」「細かなニュアンスを伝え合いたい時どうしているか?」と質問してみたところ、「紙に描いて伝え合うことで不自由は無い」、「細かなニュアンスは言葉で補う」との返事が返ってきた。見方を変えれば、上司の側が辛抱強く働き掛け、積極的に会話を交わすなど、Oさんとのコミュニケーションに意を用いていることが窺い知れるのである。
更に仕事以外でも、Oさんが学生時代から野球をしていることを知り、ホテルの野球チームへの参加を持ちかけ、本人も積極的に参加し、持ち前のガッツと俊足を活かしてチームの主力メンバーとして活躍している。そうしたこともあり、普段仕事であまり接触することがない他部署の従業員とも親しくなり、仕事がより円滑に行われている。
このように、当初予想した以上にスムースな受入れができたのは、Oさんの潜在的能力と本人の努力によるところが非常に大きい。それは、入社前の職場体験の折、Oさんが自ら当社への就職を希望してきたことからも明らかだ。「本人の意思が入社後の受入れ体制以上に重要な意味を持っている」ことを関係者は等しく感じている。つまり、障害者自身を含め、「意欲をもって働ける最適な働き場所を真剣に探している人が必ずいる」という事実である。そうであれば、受入れる側としては「職を求める障害者やその関係者と接する機会を数多く持つこと」が障害者との“より良いマッチング”を得るために極めて有効であり、具体的には、たとえば「積極的に実習の受入れに応じる」ということになる。
3. 今後の展望と課題
当ホテルとしては、当面スチュワード業務を中心とした接客以外の裏方業務に限定して障害者を受入れていく方針に変わりは無いが、宴会の準備作業や厨房での補助的作業など、新たに取り込んでいける業務も残されていると考えている。
これからも聴覚障害者の採用に関して積極的に採用を進めていきたいが、仕事をきちんとやってくれるならば障害特性についての希望は無い。特に軽度の知的障害の方であればスチュワード業務で働けるのではないかとも考えはじめている。
今後も就業支援機関や特別支援学校等と緊密な関係を維持し、色々な障害者の方々と接しながら職場体験実習生を受け入れつつ、「本人の意欲と業務への取り組む姿勢」を評価し、採用に係る職域の拡大が図られていくことを期待したい。
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