障害者の頑張る姿に接して、社員みんなのモチベーションが高まる!
- 事業所名
- 株式会社房総カントリークラブ
- 所在地
- 千葉県長生郡
- 事業内容
- ゴルフ場経営
- 従業員数
- 189名
- うち障害者数
- 3名
障害 人数 従事業務 視覚障害 聴覚・言語障害 1(重度) コース管理に関わる屋外作業(カップ切り、散水、雑草取り等) 肢体不自由 1 レストランの厨房で調理(和食全般) 内部障害 知的障害 1(重度) クラブハウスでリネン全般を担当(浴室へ配置、収集、洗濯、在庫管理等) 精神障害 発達障害 高次脳機能障害 難病等その他の障害 - 目次
1. 事業所の概要、障害者雇用の経緯
(1)事業所の概要
房総半島の中央部、俗に「ゴルフ銀座」と呼ばれる丘陵地帯の東の一角にあって、JR茂原駅から車で約30分、こんもりとした山中にある美しい林間コースが「株式会社房総カントリークラブ」である。総面積75万坪、それぞれに特徴の有る3つのコース「上質の54ホールズ」を誇る格調高い名門ゴルフ場である。特に「東コース」は一般社団法人日本ゴルフツアー機構〔JGTO〕公認の「ツアーチャンピオンズクラブ」に名を連ね、プロゴルファーにとってツアー競技大会への登竜門となる「チャレンジ・カップ」が毎年ここで開催されている。当ゴルフ場は、当初「富士カントリーグループの一員」として昭和50(1975)年に開場したが、その後独立し今日に至っている。長い年月のなかで熟成した広く雄大な景観を有し、会員数4千人、年間13万人以上が訪れる正統派のゴルフコースとして親しまれている。
取締役総支配人の吉野潤一氏は、富士カントリーグループの社員であったが、平成11(1999)年以降は、房総カントリークラブの幹部として経営にあたっている。
当社が障害者雇用を志したのは「人と人との直接的な触れ合いを大切にし、」「地元地域との繋がりを大切にし、」また「直接、相対してコミュニケーションをとる社風」を推進してきた、主として吉野氏の経営思想とそれによる運営方針によるところが大きい。
当社内では、電子メールや電話などのツールによる会話や情報のやり取りではなく、「お客様には直接、お話して喜んでいただく」ことをモットーに、社員同士も「お互い顔を合わせて意思を伝え合う」ことを励行している。それに応じて、当社の職制も「階層の無いフラットな組織体」となっている。総支配人以下、「ハウス部門」「レストラン部門」「コース管理部門」「キャディ部門」「営業部門」の5部門があり、それぞれに部門長がいるだけの組織になっている。社員は各自、所属する部門長から直接口頭にて業務上の指示を受けたり、また総支配人とも気軽に会話ができたりするような組織風土が育まれている。したがって、当社の社員の方と接すると「人間的な風通しの良さ」を通して、形式的なところがまったく無い、本音で率直に話し合えるような雰囲気が感じとれる。
(2)障害者雇用の経緯
当社の障害者雇用に対する前向きな取組みは、そんな雰囲気の中から生まれてきたように思われる。吉野氏にとって、上記の経営思想とそれによる運営方針とともに、「障害者にも雇用の門戸を開くことは社会貢献になる」との強い思いがあった。これを公言し行動に移したことが当社の障害者雇用の契機になる。
平成16(2004)年、吉野氏が千葉ポート・アリーナで開催された障害者雇用促進面接会に初めて参加したことが、当社第1号となるTさん(30代男性、重度知的障害、フルタイム勤務)との出会いに繋がるのである。面接会場にて、吉野氏は「自宅から自転車で通えるゴルフ場で働いてみたい」との希望を直接Tさんから申し込まれ、言語表現に難はあるものの、自ら自分の意思を明確に伝えようとする真摯な態度をみて採用を決意した。Tさんとは、その後茂原のハローワークを通してパート採用に至り、現在では契約社員待遇になっている。
二人目となるOさん(30代女性、重度聴覚障害、フルタイム勤務)との出会いも吉野氏による情報発信の産物である。平成23(2011)年、当社が障害者雇用を行っていることを知った「NPO法人 日本デフゴルフ協会」(筆者注:聴力障害を持つゴルフ会員のみで組織する競技団体)の会員であるOさんが、「働きながらゴルフができる職場」として自ら勤務を希望してきたのである。全身で自分の思いを語りかける彼女の明るい性格に惚れ込んだ吉野氏は直ぐに採用を決めた。当時県外に住んでいた彼女はそれから千葉県に転居し、現在アパ-ト住まいをしながら車で通勤している。
同様に三人目となるFさん(40代男性、右下肢障害、フルタイム勤務)の場合も、ご本人からの希望があり面談の結果採用に至ったものである。つい3ヶ月前までは勝浦市内の割烹料理店で板前として働いていたFさんは、かねてからゴルフ場勤務を希望しており、茂原のハローワークを通じて当社を紹介されたものである。車で通勤し、クラブハウスのレストランの厨房で和食料理を担当している。包丁捌きが大変器用な方で、特に魚を捌く能力が抜群のため料理長に重宝がられている。
2. 取組の内容
当社の場合、障害者雇用の導入にあたって特別の受け入れ準備はしていない。障害のない者を採用する場合と同様、半月前に吉野氏から配属先の部門長に採用の通知をしただけである。
Tさんの場合、ハローワークの担当者からジョブコーチをつける話があったがその申し出を断った。本人の態度と現場の状況からみて、第三者の介在無しで乗り越えられると判断したからである。当人への指示はハウス部門長が直接行い、勤務条件や待遇についても障害のない者と全く同じ扱いである。そして現場への適応は全て部門長の裁量とされる。敢えて障害のない者の場合と差をつけなかったところに当社における対応の特徴を見出すことができる。
採用当初は言語表現の難しさから、Tさんと部門長をはじめとする職場の社員双方にとって意思疎通に支障をきたすことが多々あったようである。しかし、時間が経つにつれ必要最小限の言葉でお互い不自由無く意思疎通できるようになっていった。その間の過程をみると、周囲もさることながら、障害者の側により多くの努力が払われたように思われる。例えば、Tさんはリネン担当であるが、クラブハウスの浴場脱衣室の一角に置いてある使用済みのリネンを洗濯した新しいものに置き換えるため、洗濯機があるバックヤードと脱衣室とを往復する際、お客様と直接顔を合わせる機会がある。そのような場合、お客様から話しかけられることがあり、やむを得ず言葉を交わさなければならなくなって、言葉を探すのに苦労したと語っている。Tさんに「最もつらいことは何か?」と尋ねたところ、「当初は、『トイレはどこ?』などとお客様から聞かれるとき」との返事が返ってきた。Tさんの働き振りを毎日見ている脱衣室の清掃担当の方からは「真面目で障害のない者より良く働いている」との評価が聞かれた。
屋外でコース整備に従事するOさんの場合は、「言葉を発する話し手の唇の動きをみて相手の言葉を読み取る」努力により自ら意思の疎通を図るようになった。また、話し手の方もOさんにそのような能力があることが分かると、口を大きく動かし、ゆっくり話し掛けるようになってきた。特に、Oさんの場合は、ゴルフが好きで志望してきただけに、働けることの嬉しさを体全体で表現しているのが見て取れる。OさんにもTさんと同様の質問を投げかけたところ「辛いことは無い。冬は寒いけれど、頑張った後が楽しい」また「一番楽しいことは何か?」との質問に対しては、「コースの手入れをすると芝が元気になるなど『仕事の成果が直ぐに出る』ことが楽しい」との返事が返ってきた。
一方、周囲にとってはむしろ障害者の安全衛生管理が重要なテーマになっている。例えばコース整備のため毎日ゴルフ場の全コースを一人で回って歩くOさんにとって、付近のコースでプレーしているボ-ルが飛んでくることがあり、音を聞いてとっさに身をかわすことができない。そのため、管理者としては当日のプレーの予定を毎朝正確に本人に知らせておくことが不可欠になる。また、変更があればその都度連絡に足を運ぶことも必要になる。このような場合には、全社的な安全衛生委員会が労災防止や健康管理面に機能している。当社では「社員全員がおのずから障害者を分け隔てなく、温かい目で見守る」習慣ができつつあるように思われる。
3. 取組の効果、今後の展望と課題
(1)取組の効果
障害者の配属に当たっては、障害のない者を採用する場合と同様、半月前に吉野氏から配属先の部門長に採用の通知をしただけで、現場への適応は全て部門長の裁量とされ、敢えて障害のない者の場合と差をつけなかったが、「障害のない者と同様に障害者を組織ラインに送り込むことについては困難が伴う」ことを吉野氏は百も承知している。敢えてそうしたのは、「その困難を乗り越えることによって現場がより活性化する」という信念があったからである。だから、「障害者雇用の困難を乗り越えられた現場は『モラールの高い職場』として評価する」と言ってはばからない。
「ゴルフ場の経営者は障害者を雇用することが経営面でプラスになることを知って欲しい」と吉野氏は言う。
「プラスの面」とは何か。第一に「障害者が気持を前面に押し出して頑張ろうとする姿をみることが、社員個々人に好影響を及ぼしている」という。したがって「そうした障害者の姿に接することで社員のモチベーションが上がる」。
第二に「障害者は素直で嘘をつかないので、障害者の顔色と働きぶりを見ればその職場がうまくいっているかどうか一目瞭然である」という。したがって「障害者を受け入れられる職場は良い職場であることの証明になる」。
これらの言葉は「障害者雇用が管理者のリーダーシップ能力を高めるための良い刺激になる」との意味に受け取れる。当社が採用した3名の障害者はいずれもそうした条件に合致し、問題なく現場への適応がなされていることから、「吉野氏の狙いは見事に的中した」と言ってよいと思える。
実は吉野氏にとって障害者との出会いは今回が初めてではない。当社が独立する以前、吉野氏がまだ富士カントリーグループの社員であったころ、厨房に精神障害者が働いていたが突然出社しなくなり、電話連絡さえとれなかった苦い経験があったという。したがって、この度の3名の採用面接において「この人と一緒にやっていけるかどうか」という点に関して注意を払ったが、障害者個々人の人間性を見抜く目ができていたように思われる。
「ゴルフ場経営者は率先して障害者と触れ合う機会を持つべきである」と吉野氏は語る。この言葉は、食わず嫌いで折角の機会を逸しているゴルフ場経営者に対するアドバイスとも受け取れる。
(2)今後の展望と課題
当社は既に障害者の法定雇用率を充足したが、「ゴルフ場で働きたい意欲のある障害者には常に門戸を開いており、雇用する人数に限度は設けない」と吉野氏は言う。給与の支給基準等、処遇に関しては障害のない者と変らず、身分についても、本人の希望や能力に応じ「パート」から「契約社員」そして「正社員」への登用を行っていく方針である。
思うに、ゴルフ場は障害者にとっても魅力のある職場のようである。当社が率先して障害者雇用に取組み、雇用の方針を公示することによって、それを見た障害者側において積極的な意欲を引き出させることに成功し、そしてそれを活用したところに注目したい。
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