「障害=個性」 個性を活かせる職場創りに取り組んでいる
- 事業所名
- 関東エース物流株式会社
- 所在地
- 「本社」 神奈川県川崎市
- 事業内容
- 一般貨物自動車運送事業「(除外率設定業種)」
- 従業員数
- 約450名
- うち障害者数
- 8名(60代 2名、50代以下 6名)
障害 人数 従事業務 視覚障害 聴覚・言語障害 肢体不自由 5 事務業務、清掃業務、倉庫業務 内部障害 知的障害 精神障害 3 事務業務、清掃業務、倉庫業務 発達障害 高次脳機能障害 難病等その他の障害 - 目次
![]() 本社入口 |
1. 会社概要・沿革、障害者雇用の経緯
(1)会社概要
会社名 | 関東エース物流株式会社 |
設立 | 平成16(2004)年4月1日 |
資本金 | 5,000万円(味の素物流株式会社100%出資) |
代表取締役 | 坂本 隆志 |
本社所在地 | 川崎市川崎区鈴木町1番1号(味の素株式会社川崎事業所内) |
従業員 | 約450名 |
保有台数 | <輸送車両台数> ウィング車、タンクローリー車、海上コンテナ、シャーシなど合計111両 <荷役機械台数> フォークリフト、ショベルローダー、ブルドーザー、ホイルローダーなど219台 |
事業案内 | 一般貨物自動車運送事業/第一種利用運送事業/港湾運送事業/倉庫荷役事業/構内作業業務/流通加工業務/放送業務 など |
グループ企業 | 味の素物流株式会社 |
(2)会社沿革
平成7(1995)年4月 | 三宝運輸株式会社 東海横浜営業所として一般貨物運送の営業を開始。 |
平成8(1996)年7月 | 同社より独立し、三宝カーゴシステムズ株式会社として独立(本社・横浜) |
平成8(1996)年10月 | 大手スーパーの農産品配送センターとして船橋営業所を開設。 |
平成9(1997)年5月 | 大黒埠頭内にて倉庫荷役の業務を受託・開始。 |
平成12(2000)年4月 | 親会社の統合を機に社名を関東エース物流株式会社と改め、本社を川崎市に移転。 |
平成14(2002)年4月 | 親会社である味の素物流株式会社より輸送部門を譲り受け、拡充を図る。 |
平成16(2004)年4月 | 味の素物流株式会社の倉庫荷役部門を分社し、関東エースワークス株式会社を設立。 |
平成16(2004)年10月 | 倉庫荷役部門に引き続き千葉港の港湾荷役部門を譲り受け、業務を開始(穀物の船内荷役)。 |
平成17(2005)年10月 | 関東エース物流株式会社と関東エースワークス株式会社の2社を合併し、社名を関東エース物流株式会社とする。 |
平成18(2006)年4月 | 京浜港に於ける一般港湾運送事業、はしけ運送事業を味の素物流株式会社より受ける。 |
平成21(2009)年10月 | カルピス物流サービス株式会社と統合。相模原営業所並びに群馬営業所の業務を受託。 |
平成24(2012)年9月 | カルピス株式会社物流業務がアサヒグループホールディングス株式会社へ移管。 |
味の素物流株式会社の前身時代を含めると、40年以上に亘る永い経験によって培われた食品に対する取扱い、保管、仕分け、配送などのノウハウを受け継ぎ、さらに変化に柔軟・迅速に対応するDNAを取り入れ、その地域で食品物流における品質のナンバー・ワンとなるため取り組んでいる。目指すのはお客様に必要とされる会社になること。そして、私たちのスローガンは【安全・確実・速くて・安い】である。
(3)障害者雇用の取組の経緯
当社は味の素グループの物流会社である味の素物流株式会社の100%出資子会社として、関東地区における輸送・荷役業務を担っている。冒頭の会社概要でも記したが、要員数は450名で、そのうち約300名が現場実務に就労している。本業務で一番優先されるのが「安全」。そして「品質」、「環境」である。
物流現場には数多くのトラックや搬送機器(リフト等)が稼働しており、作業事故を防止するための作業マニュアルや、潜在化しているリスクを顕在化するためのリスクアセスメント、危険予知トレーニングが行われている。しかし事故ゼロとはなっておらず、継続した取組を行っている。そういった現場で障害のある労働者が働くことは、安全配慮義務の観点上、容易ではないというのが実態である。
そこで、現状は事業所内清掃作業や事務補助作業、倉庫内軽作業といった比較的リスクが軽減された業務に就労していただいている。
過去においては法定雇用率を割り込み、障害者雇用納付金を納める年度もあったようだ。
私(筆者)が当社に赴任したのは平成23(2011)年7月、そして障害者雇用担当として障害者雇用に携わるようになった。私が引き継いだ時点での雇用率は1.8%前後と非常に微妙な状態であった。
雇用形態は全員有期契約社員であり、勤務年数も1年未満の人が大半であり、一人退社したら公共職業安定所(ハローワーク)へ求人を出し、面接・採用という状況であった。
2. 取組の内容
(1)採用方法
採用は基本的に公共職業安定所を通して行っている。
求人の際は当社事業所を所轄している公共職業安定所に出向き、求人票を提出している。
所轄の安定所へ出向いているのは、当地域の労働条件等を適正に把握し、求職者の情報を収集することを目的としているためである。当社の求人票をご覧になった養護学校(特別支援学校)の進路指導担当者や、就労支援センターの職員から連絡をいただくことも多く、こういったルートから職場実習生を受け入れ、雇用に繋がったケースもある。
(2)採用基準
特に採用基準はないが、当社の労働条件を満たす方であれば可能である。ただし、雇用に際しては障害のない者・障害のある者に関わらず、契約社員としての雇用が基本である。契約社員として勤務されている人の中から、社員登用されるルールとなっている。
また、当社は60歳定年制となっており、再雇用制度はあるが、65歳が雇い止め年齢となる。
しかし、実際には様々な都合で65歳を超えて勤務している社員も在籍しており、今後の継続雇用の課題であると認識している。
(3)障害者社員の就業時間、休日
前出採用基準で記したが、雇用に際しては契約社員としてスタートするので、就業時間は千差万別である。就業時間の短い人でも週20時間は勤務していただくが、就労に際して時間制限を設けなくてもよい人は、徐々に就業時間を増やして週30時間(1日6時間、週5日勤務)以上となるように指導している。
これは勿論法定雇用率確保という目的もあるが、週30時間以上勤務して、賃金を増やし社会保険も全て入って、生活の基盤を築いていただきたいという強い思いがある。
就業時間の基本パターンは短時間勤務者が1日6時間、月15日勤務、長時間勤務者が1日6時間、月23日勤務だが、このパターンに捉われず、個々の都合等を踏まえて柔軟に就業して出来るようにしている。
休日に関しては、土日祝祭日、その他夏季休暇、年末年始休暇があり、入社して半年勤務後は当社就業規則に則り、有給休暇も支給している。また、慶弔等の特別休暇もある。
因みに正社員の就業時間は事務職・倉庫職が1日7時間45分、乗務職が7時間35分となっており、年間休日は事務職・倉庫職が98日、乗務職が92日で、1年単位の変形労働時間制を導入し、月毎の休日数を定めている。休日に関しては日曜・祝祭日を除いて指定休が月2日程度となっている。
(4)工夫していること
- 全体的に工夫していること
採用に際しては原則として障害のない者・障害のある者に関わらず、まずは履歴書等の送付をお願いしている。これは当社の都合であるが、求職者の方の時間を無駄に拘束しない為でもある。しかしながら、応募者が極端に少なく、いきなり面接というケースもある。物流会社の事業所(倉庫等)は公共交通機関での利便性が良くない所が数多くあり、当社事業所も同様である。従って、公共交通機関での通勤が困難という事情があるエリア(特に北関東エリア)はマイカー通勤が前提となる事業所が大半で、求人を行っても全く応募がない、というケースもある。
しかし、いちばん苦戦しているのが就労可能な業務の創出である。当社は物流会社であるため、現場には多くのトラックが出入りしており、倉庫荷役を行うためのフォークリフトも数多く稼働している。従って労働災害を起こさない為の徹底した安全衛生活動を行っており、安全を確保するための作業マニュアルも詳細に定め、その順守に取り組んでいる。
障害者の中には、その作業マニュアルを順守できない(もしくは順守が困難な)ケースもあり、安全配慮義務の観点から採用に至らないことも多々ある。現場作業は障害のない者にとっても厳しい労働環境であり、残念ながら障害者にとっては更に就労困難な職場であると言わざるを得ない。この作業環境改善(ハード面・ソフト面)は今も継続した大きな課題である。
現在就労していただいている障害者は8名で、その内訳は事務業務2名、清掃業務4名、倉庫業務2名であり、障害別にみると身体障害者(肢体不自由)5名、精神障害者3名となっている。障害を持つ皆さんが継続して就労する為に最も重要なことは、就労開始時の支援体制である。障害の程度によって大きく異なるが、業務遂行が懸念される場合には独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構よりジョブコーチを派遣していただいているケースもある。また、公共職業安定所でも定期的に職場訪問を実施していただいており、定着に大きく寄与している。
- 個別に工夫している事
平成25(2013)年12月より当社北関東エリアで清掃業務に就労していただいているYさんという障害者がおり、決められた作業を決められた順番に則って進めていくことに優れていた。しかし、これまで使っていた作業用チェックリストはA4用紙に箇条書きされていても、作業順序通りではなかったため、Yさんは作業がどこまで進んでいるのか分からなくなり、立ち往生するケースが続いた。そこで、清掃業務作業用チェックリストを上から作業順に並べ替えて、作業を進めると上から順にチェックできるように変更した。
また、Yさんには「文字や口頭での指示が定着しにくく、他者との円滑なコミュニケーションも取りにくい」という個性があった。しかしながら、Yさんには「写真やイラストなど、視覚を通して理解する能力は優れている」という個性もあった。そこで、作業手順書にはデジカメで撮影した作業現場を貼り付け、作業の順番・手順が一目で分かるようなものとした。
就労開始から2週間は、独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構のジョブコーチ若しくは就労支援センターの就労支援員が張り付きで指導したが、2ヶ月経過時点では作業手順書を見なくても一人で就業できるまでになっている。
ある日、私はYさんの就業状況を見るために、当該事業所に出かけた。Yさんは1月の寒風吹きすさぶ中、一所懸命に働いていた。こんな寒い日の構内や水回りの清掃作業が辛くないはずがない。しかし、Yさんは汗をかきながら、時々笑顔を浮かべながら生き生きと働いていた。Yさんにとって何が楽しいのか?私にはわからないが、その姿は私の心に大きく響いた。大げさかもしれないが、「人の幸せって、なんだろう…」と感じた一瞬であった。
個人の都合により退職したが、聴覚障害を持つIさんという方がいた。この方には荷揃え業務を担当していただいた。倉庫現場はフォークリフトが稼働しており、気付かず接触するというリスクが想定されるため、「フォークリフトに移動中はパトライトが作動する装置を設置」し、障害者にはLEDランプが発光するベストを着用させ、お互いの視認性向上を図った。結果、就業期間中の作業事故は無かった。
3. 取組の効果、今後の課題や展望
(1)職場における取組の効果
現在当社には8名の障害者が就労しているが、皆さんの頑張りで徐々に社内での労働力としての評価は高まっていると感じている。こういった積み重ねが新たな雇用創造に繋がるものと考えている。
(2)今後の課題や展望
今年度(平成25(2013)年度)より法定雇用率が2.0%となった。上期に1名が退職し、2.0%の確保が困難かとも思われたが、下期に2名採用ができ、今期も何とか達成することができた。
現在の障害者雇用数(8名)を維持できれば法定雇用率は確保できるが、障害者の中に65歳1名、62歳1名が在籍しており、今後を考えると新たな雇用を確保しなければならない。
また、除外率(当社は「道路貨物運送業」であるため20%)が見直されていく方向であることも視野に入れて考える必要がある。障害(=個性)をお持ちの方に就労していただくための、ハード・ソフト面での改善はこれからも取り組んでいく。しかしながら、最も必要なことは当社の受け入れ体制の改善である。私はこの3年間、障害者雇用の担当者として雇用率確保に取り組んできた。そして、事業所管理者間に障害者雇用に対する考え方の相違があることを常に感じている。「障害者雇用は企業の社会的責任」であり、その責務を果たすためには管理者全員が、その重要性をしっかりと認識する必要がある。そういった観点では当社の実態はまだまだである。これからも「臆せず」「粘り強く」取り組んで行く所存だ。
樋口 利孝
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