地元を大切に思う気持ちが、障害者雇用に結び付き、それを発展し続けている事例
- 事業所名
- ジット株式会社
- 所在地
- 山梨県南アルプス市
- 事業内容
- インクカートリッジの製造販売
- 従業員数
- 144名
- うち障害者数
- 4名
障害 人数 従事業務 視覚障害 聴覚・言語障害 1 カートリッジ選別、仕分け、準備 肢体不自由 1 キャップ選別、インク抜き 内部障害 知的障害 2 カートリッジ穴開け、ラベル剥がし 精神障害 発達障害 高次脳機能障害 難病等その他の障害 - 目次
![]() 事業所外観 |
1. 事業所概要
(1)事業内容
ジット株式会社は品質を最優先にお客様に満足していただける商品とサービスを提供し、社会に貢献することを使命とした会社である。日々一歩の改善やサービス向上を目指し、地域の皆様とのふれあいを大切にしている。
主に、通信販売業務、半導体製造装置の出荷業務、検査調整業務、事務用品の企画販売及びリサイクル商品の製造販売、託児所・保育所の経営、プリンター及び特殊プリンターの開発・製造・販売、エネルギーの開発・製造・販売に関する業務を事業内容としている。
なお、障害者雇用の精神にもつながる当社の「創業の精神」は、次のとおりである。
- 人様に役立つ仕事とサービスで生かされている命を燃やします。
- 人に対して素直で、熱い思いがほとばしる集団をつくります。
- 胸を張って「ジットの社員」と言えるでっかい夢のある会社をつくります。
- スピードが命、時代のニーズにタイムリーに応えられる会社をつくります。
- 私達は逆境には絶対負けない。思いは必ず成し遂げる。可能性に限界はない。
- 私達を信頼し、ついて来てくれる社員、パートさんを絶対に幸せにする。
(2)経営理念等
「OA機器の製造販売事業、リサイクル事業、冠婚葬祭事業を通して、社会に貢献します。」
この「経営理念」は、「創業の精神」をベースにして、社長の経営哲学・生き方・価値観を表現したものである。創業の精神が誕生時期の願いや思いだとすれば、「経営理念」はジットグループの使命・目標・方向性を定めたものである。これから、この理念を基本にして事業を展開していく。
21世紀に入って、世の中の変化はますますスピードを上げている。激しい変化の中で、時代に合わせて経営の舵取りをすることも重要であろう。しかし変化を繰返していく過程で経営の根幹がそのたびにぶれてしまえば、あふれる情報の海の中で方向を見失い、漂流することになってしまう。
激しい変化の中でぶれない基軸や価値観として、この「経営理念」は制定された。ジットグループはこの「経営理念」を地でいく企業でありたいし、その方向で戦略・戦術も立案していく。消費者本位を基本理念とし、地球社会にとって存在意義のある企業をめざしている。
なお、以下に、目標と障害者雇用の精神につながる行動指針を紹介する。
「私たちの目標」
私たちは、商品とサービスの信頼性・安心感・スピードにおいて世界に通用するジットブランドを確立します。
「私たちの行動指針」
- 私たちは、当たり前のことを当たり前に行動できるよう、自己の人間力に磨きをかけます。
- 私たちは、どこよりも早く確実な情報を入手し、素速い判断で行動します。
- 私たちは、積極的に改善改革に取り組み、品質最優先でお客様に満足していただける商品とサービスを創造します。
- 私たちは、全ての問題を自分の問題として捉え、自分に負けずに、夢に挑戦していきます。
- 会社は、働いてくれる人を「なくてはならない存在」として大切にし、スタッフとその家族が心豊かで幸せな人生を送れるよう、全面的に支援します。
(3)組織構成
大きくは、営業部(東日本支社、西日本支社、WEBマーケティング課)、業務課、製造課、管理課で構成されている。
![]() お話を伺った管理課 総務・人事Group主任の長田さん
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(4)障害者雇用の理念
あくまでCSR(企業の社会的責任)としての地元への貢献等が目的であり、法定雇用率の問題ではない。というのも、創業の精神の一つである「私達を信頼し、ついて来てくれる社員、パートさんを絶対に幸せにする」や行動指針の一つである「会社は、働いてくれる人を「なくてはならない存在」として大切にし、スタッフとその家族が心豊かで幸せな人生を送れるよう、全面的に支援します」に即して、働く場を設けることで、障害のある者も障害のない者も、生き生きと社会生活を送ることができるように、社会貢献することが根源的な理念となっている。
2. 取組の経緯、背景、きっかけ
10年程前(平成16(2004)年頃)に、社長の知り合いである地元の方から、障害のある家族の就職について相談されたことが直接のきっかけで障害者雇用がスタートした。その障害者は、現在も活躍しており、その後は、社会貢献の一環として、特別支援学校からの職場実習も受け入れており、その中から障害者の雇用を実現している。それらを通じ、現場としても、ノウハウや雰囲気を含めて土台が整備されたといえるであろう。
また、直接の雇用ではないが、地元から障害をもったが働く場所がないと相談を受け、当社でも仕事を委託することで、平成20(2008)年5月に就労継続B型事業所としてNPO法人南風会ステップ増穂(以下、「ステップ増穂」という。)が開所したことが特筆に値する。当初は20人から始めた施設だが、今では50名以上の皆さんが通い作業をしており、これは、間接的な障害者雇用と言っても過言ではないと思われる。そして、当社社員がステップ増穂に顔を見せると利用者からは笑顔で元気な挨拶が返ってきて、保護者からも「毎日元気に家を出て、いきいきと働く姿を見られて本当に嬉しい」という声をたくさんいただくことが、当社社員にとってやりがいになり、力となっている。
ステップ増穂に回収したインクカートリッジの選別の作業を委託をして2年が経つが、以前自社で行っていた時のパートさんと同じ、もしくはそれ以上の手際の良さである。ジットの回収ボックスに集められた使用済みインクカートリッジは、ステップ増穂の利用者によって価値ある宝として蘇っている。したがって、今のジットグループがあるのはステップ増穂が所在する富士川町をはじめ多くの関係者の方々、またステップ増穂で働く利用者たちの協力があってこそと、本当に感謝している。もっと社会に貢献し、地元の皆さんに恩返しをしたいとあらためて実感している。即ち、企業と地域、人と人とが繋がり、リサイクルインクカートリッジを全国の皆様にお届けできることを誇りに、今後もここ富士川町から全国の皆さんに笑顔を発信していきたいと考えている。
3. 取組の具体的な内容と効果
(1)取組の具体的な内容
当社が雇用する障害者の仕事の内容は、主に、カートリッジやキャップの選別、インク抜き、カートリッジの穴開け、ラベル剥がしである。また、キャップの選別とインク抜きを担当する1人を除き、3人でカートリッジの選別、カートリッジの穴開け、ラベル剥がしの作業をローテーションして担当している。
- 労働条件等
労働条件等は、次のようにしている。
- ①期間
半年間の有期労働契約を更新する仕組みである。
- ②場所
工場内の作業場となっている。
- ③時間
パートタイムであり、基本的には午前8時55分から午後3時の実働5時間となっている。
- ④賃金
時給制であり、最低賃金以上の設定となっている。
- ⑤通勤
自転車等を利用している。
カートリッジの選別の様子1カートリッジの選別の様子2カートリッジの選別を行っている工場の外観 - ①期間
- 助成金等の活用
助成金に関しては、ハローワーク等の助言もあり、特定求職者雇用開発助成金を平成22(2010)年度~平成24(2012)年度にかけて活用している。
- 労務管理上の工夫
- ①採用について
特別支援学校の職場実習等を積極的に受け入れ、マッチングを丁寧に行っている。実習を通じて、適性や対人関係、能力、仕事内容等を確認し、お互いに判断材料としている。
- ②業務について
肢体不自由者に対する配慮としては、誰が担当ということではなく、職場全体で、気が付いた人が備品の移動や片付け等をフォローして、当事者の負担を軽減し、生産性を高めている点が挙げられる。
知的障害者に対する労務管理の配慮については次のとおりである。なお、「調子はどう」、「疲れていないか」など、とにかく一言でも声をかけることが、継続して力を発揮してもらうポイントである。
- 作業指示等は丁寧にわかりやすく、確認しながら実施する。
- 指導役を一人に限定し、混乱しないようにする。
- 一度にレベルアップするのではなく、ステップアップしながら作業範囲を広げることでモチベーションを高める。
- ③施設・設備面について
肢体不自由者については、作業を工場内入り口付近で行い、バリアフリーのトイレを完備している。また、階段の昇り降りも、昇降機を利用して移動することが可能となっている。
- ④エピソード
入社時は内気な性格であった社員も、今では、自分から周りの人たちに元気よく挨拶できるようになり、大変明るくなった。
また、花火大会などの社内行事には、積極的に参加し、職業生活を楽しんでいる。
さらに、一人暮らしを始めるなど、自立した生活をしており、時間管理でうっかりすることもあるが、職業人としての自覚は確実に芽生えている。
- ①採用について
(2)取組の効果
取組の効果として、職場が上手く回っていることが挙げられる。これは障害者を雇用することで人間関係が円滑化されているためと考えられる。
障害者と共に働くことにより、気配りや、支え合う姿勢などが自然と身につき、職場全体が和やかになっていることが感じられる。特に、人を助けることが、ごく普通にできるようになったことが大きなメリットの一つと思われる。即ち、社員の人間的成長が認められる。また、障害者が誠実に仕事をする姿を目の当たりにすることで、障害のない者に対し奮起を促す刺激になっている。
4. 今後の課題と対策・展望
(1)課題
特に課題はないが、特別支援学校の先生や地元との連携を深めることが重要と考えている。
(2)対策・展望
今後は、障害者雇用における地域貢献の拡大のため、自社独自で、障害者の指導を担当していた社員を責任者とするNPO法人を年内に立ち上げ、そこでインク注入やパッケ-ジングまで行えるようにすることで、より一層、障害者の働く場を確保していく予定である。
(3)総括
最後に、今後障害者雇用に取り組む企業に対してアドバイスするとすれば、まずは働く場を提供するということである。身体の一部が不自由であっても、仕事に対する姿勢は障害のない者と変わらない。企業が働く場を提供することで、障害のある者も生き生きとした生活を送ることが可能となり、会社にも貢献できるようになる。その際の労務管理上のポイントは次のとおりである。
- 本人ができることから始め、徐々にステップアップしていく。(成功体験が重要)
- 周りが勝手に、仕事として可能な範囲を決めつけない。(職業人としての可能性を閉ざさない)
- 本人にチャレンジする気持ちを持ってもらう。(最初からあきらめない)
以上であるが、会社として地元に対する社会貢献を目的としながら障害者の働く場を設けるという社会的責任を果たし、そこでは社員の人間的成長を初めとして、職場全体も活性化しているなどの効果が認められる事例となっている。
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