会社の経営理念等を背景とした社員の自発的な取組により、自然で円滑な障がい者雇用を実現している事例
- 事業所名
- 住友電工デバイス・イノベーション株式会社
- 所在地
- 山梨県中巨摩郡
- 事業内容
- 化合物半導体デバイス開発製造
- 従業員数
- 835名
- うち障がい者数
- 11名
障がい 人数 従事業務 視覚障がい 聴覚・言語障がい 3 製造オペレーション、製造支援 肢体不自由 3 製造オペレーション 内部障がい 4 事務 知的障がい 精神障がい 1 製造オペレーション 発達障がい 高次脳機能障がい 難病等その他の障がい - 目次
![]() 事業所外観 |
1. 事業所の概要、取組の経緯
(1)事業所の概要
- 事業内容
住友電工デバイス・イノベーション株式会社は、化合物半導体を使用した光デバイスと電子デバイス、そしてこれらの応用製品の開発・製造を手がけるメーカーとして、住友電工グループの光・電子デバイス事業の中核を担っている。
また、光デバイスと電子デバイスの両方の開発・製造を手がける世界でも数少ないメーカーで、このシナジー効果が強みとなっている。
- 経営理念等
住友電工グループは、基本精神である「住友事業精神」と「経営理念」に基づく高い企業倫理の下、公正な事業活動を行うことを不変の基本方針としており、当社も、この基本方針に則り経営を推進している。
- ①住友事業精神
「住友事業精神」とは、住友家初代・住友政友(1585年~1652年)が後生に遺した商いの心得『文殊院旨意書』(もんじゅいんしいがき)を基盤とし、住友の先人により何代にも亘って発展・深化を遂げてきたもので、その要諦は明治15(1882)年に制定された住友家法の中で初めて条文化され、明治24(1891)年に家法の中の「営業ノ要旨」として2箇条に取り纏められた。「営業ノ要旨」は、その後若干の字句修正はあったが、内容は全く変更されることなく今日に受け継がれている。
第一条 我が住友の営業は、信用を重んじ確実を旨とし、以てその鞏固隆盛(きょうこりゅうせい)を期すべし 第二条 我が住友の営業は、時勢の変遷、理財の得失を計り、弛張興廃(しちょうこうはい)することあるべしと雖(いえど)も、苟(いやしく)も浮利(ふり)に趨(はし)り、軽進(けいしん)すべからず ※住友合資会社社則(昭和3(1928)年制定)より
- ②経営理念(1997年6月制定)
創業100周年を機に、住友電工グループの一層の飛躍のため、住友事業精神を踏まえて「経営理念」を次のように明文化した。
「住友電工グループは
顧客の要望に応え、最も優れた製品・サービスを提供します
技術を創造し、変革を生み出し、絶えざる成長に努めます
社会的責任を自覚し、よりよい社会、環境づくりに貢献します
高い企業倫理を保持し、常に信頼される会社を目指します
自己実現を可能にする、生き生きとした企業風土を育みます」(原文のまま)
- ①住友事業精神
- 組織構成
大きく分けると、事業部門としては「光部品事業部」及び「電子デバイス事業部」、共通部門としては「人事総務部」、「経理部」、「業務部」、「資材・物流部」、「情報システム部」、「安全環境部」、「品質保証部」、「施設・設備部」及び「技術部」で構成されている。
お話を伺った人事総務部担当部長の功刀さん(左)、人事総務部長の薩川さん(中央)、人事総務部マネージャーの安藤さん(右) - 障がい者雇用の理念
障がい者雇用に関し、特に明文化された「理念」はない。住友電工グループの基本方針に則り、法令遵守・コンプライアンスを基本として経営を行っているだけであるが、下記のように脈々と受け継がれている考え方があり、障がい者雇用につながっていると理解できる。
『人材の尊重』
企業を守り立てていくのは人材です。優秀な人材の発掘と育成は歴代経営の最重要事項として位置づけられており、「事業は人なり」の精神は住友の伝統として今に受け継がれています。(原文のまま)
『自利利他、公私一如』
明治期の第2代住友総理事・伊庭貞剛の「住友の事業は住友自身を利するとともに、国家を利し社会を利する底の事業でなければならぬ」という言葉に代表されるように、常に公益との調和を図る経営姿勢も住友の伝統であり、その根底には「社会への報恩」の精神があります。(原文のまま)
住友電工グループの事業活動は、技術、市場、地域とも多様な広がりを見せており、世界30カ国以上で18万人以上の人材が活躍している。そして、住友電工グループがさらにグローバルに発展し、社会に貢献していくためには、技術、製品、ビジネスモデルをはじめとしたグループ全てのリソースをフルに活用していくことが不可欠であり、それらを支えるのが人材である。
人材や組織のグローバル化を一層加速し、自社グループのあらゆる人材に対し、国籍、人種、性別、年齢などにかかわらず、様々なキャリア機会を提供し、適材適所の人員配置やダイバーシティを実現していくため、平成23(2011)年9月に、人材マネジメントに関する全世界共通の基本方針「Global Human Resource Management Policy」を制定した。また、ポリシーの実現に向け、国境を越えた人材の交流や育成、配置等に関する全世界共通のガイドラインを整備しているところである。
住友電工グループは、もともと大阪で事業を開始したが、今では、世界30カ国で約18万人の人材が活躍しているが、そのうち約8割が日本国外で働いている。当社は、多様な人材が持てる能力を発揮すれば、その多様さが新たな活力を生み出すと信じ、ダイバーシティの推進に取り組んでおり、障がい者雇用もダイバーシティの不可欠な要素である。
(2)取組の経緯
当社の障がい者雇用は社会貢献としての法令遵守の障がい者雇用率の達成が、主なきっかけとなっている。その始まりは約30年前に遡るが、一期生として聴覚障がい者を雇用したことからスタートしている。その社員は現在も在籍しており、障がい者雇用に関し、一人目の成功が大きく影響している。現在では、トライアル雇用等を活用し、主にハローワークを通じて、障がい者を採用している。
2. 取組の具体的な内容
(1)労働条件等
基本的に正社員であるため、障がいのない人との違いはない。
- 期間
正社員であり、期間の定めはない。
- 就業場所
正社員であり、特に限定はない。
- 労働時間
正社員であり、フルタイムである。
- 賃金
正社員であり、自社の賃金制度に基づいている。
(2)仕事の内容
障がいのない人と同じであり、主に、製造オペレーションや製造支援、事務を担当している。
![]() クリーンルーム用作業服着用の様子
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![]() クリーンルーム入室前確認の様子
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![]() 出荷作業の様子
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(3)助成金等の活用
助成金に関しては、障害者トライアル雇用奨励金などを活用している。
(4)労務管理上の工夫
- 労働時間について
労働時間の設定について、以下のような配慮を行っている。
- 透析医療を受けている人の場合、必要な時間を確保できるよう、フレックスタイム制を活用することも可能となっている。
- 体に負担がかからないように、障がいの種類や程度に応じて、交代勤務制の適用を定めている。
- 就業場所について
障がいの種類や程度に応じて、階段を使わないですむように、配置及び就業場所を定めている。
- 施設・設備面について
障がいの種類や程度に応じて、移動の負担がかからないよう、ロッカーや駐車場を近くに配置している。
玄関に設置されたスロープ - コミュニケーションについて
主に聴覚障がいの場合に、以下のような配慮を行っている。特筆すべきは、上司や同僚が自発的に手話の資格取得に取り組んでいる点である。特に強制されたわけではなく、コミュニケーションの円滑化のために、自主的に勉強し、確実に効果を上げている。これは、まさに、経営理念やダイバーシティの表れと思われる。
- 筆談のためのメモ用紙を準備している。
- 必要に応じてFAXやメールを活用している。
- 非常事態等の安否確認は、本人との直接コンタクトを原則にしている。
- 福利厚生について
職場独自で自発的に定年セレモニーを実施し、モチベーションの維持や向上を実現している。
- エピソード等
聴覚障がいのある羽田さんとその上司のお二人にお話を伺うことができたので、以下に紹介する。羽田さんは、当社で最初に雇用された障がい者であり、勤続約30年である。今回、上司のお一人班長の河野さんに手話通訳をしていただいた。河野さんは、自発的に手話通訳の資格を取得した一人である。三人とは本当にコミュニケーションが上手くとれており、和気あいあいとしている職場が目に浮かぶようであった。
エピソードを伺った主任の真壁さん(左)、聴覚に障がいのある羽田さん(中央)、班長の河野さん(右)『羽田さんへのインタビュー』
-入社のきっかけは?
「新聞の求人広告を見て応募しました。」
-楽しい思い出は?
「会社の部活の野球が楽しかったです。」
-仕事の心構えは?
「耳が聞こえる人にも負けないように努力することです。それがやりがいにもつながります。」
-苦労している点は?
「入社当初は会話等で大変でしたが、今は全く問題ありません。特に、会社で手話ができる人が増えて、本当に助かります。」
-今後の抱負は?
「できるだけ長く今の会社に勤めたいです。また、電気工事士や危険物取扱者の資格を取りたいと考えています。ただ、試験に関して、聴覚障がい者向けの支援があればと思います。」
『上司の真壁さん、河野さんへのインタビュー』
-自発的に手話を勉強した理由は?
河野さん
「単純に、羽田さんと、もっとコミュニケーションをとりたいと考えたからです。意思の疎通が深まることは、仕事、教育、人間関係等全ての面でプラスになると思います。私以外にも4、5名の社員が手話通訳ができます。」-羽田さんはどんな存在ですか?
真壁さん
「冗談を言ったり、よく話しかけることで、皆がコミュニケーションを密にしようと心がけることにより、職場全体が円滑になっています。それが、生産性の向上にもつながっていますので、いないと困ります。羽田さんが他の人に仕事を教えることもあります。」
3. 取組の効果、今後の課題と対策・展望
(1)取組の効果
取組の効果は、次のとおりである。
- コミュニケーションの重要性に気づき、コミュニケーションを大切にするので、職場の雰囲気が良くなり、和やかになっている。
- 障がい者が懸命に仕事をする姿を目の当たりにすることで、障がいのない人にとって奮起を促す刺激となり、仕事への意欲が高まっている。
- コミュニケーションの大変さを通じ、相手を思いやる気持ちなどが醸成され、職場全体が、人間的に成長している。
- 仕事への意欲が高まることで、キャリア形成が促進されるので、長期雇用につながっている。
(2)今後の課題と対策・展望
- 課題
平均年齢が高齢化しているので、若年者の雇用の必要性を感じている。また、聴覚障がい者に対する教育訓練に関し、コミュニケーションが十分に確保できるように、手話通訳者の活用なども検討に値すると考えている。
- 対策・展望
今後は、障がい者雇用の拡大を視野に入れ、特に、聴覚障がい者に関しては経験もあるので、特別支援学校経由の採用などを検討したいと考えている。
- 総括
最後に、今後障がい者雇用に取り組む企業に対してアドバイスするとすれば、とりあえずやってみるということである。というのも、できる範囲でやってみて、とりあえず採用してみれば、職場自体でそれなりに工夫もし、自発的に動き出すからである。なお、実務的には、職種に即して採用することが効果的である。
以上であるが、ダイバーシティとして、障がいの有無に関係なく、正社員としての労働条件を設定していること、また、職場及び周りの社員が、強制ではなく、自発的に、障がい者雇用と向き合うことで、ごく自然な形で障がい者雇用を実現し、社員の人間的成長と生産性の向上を両立している事例として大変参考になるものと思われる。
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