「特別扱いしない」「孤立させない」人員配置と職場環境が安定雇用を生む
- 事業所名
- エヌ・エス・ケイ株式会社
- 所在地
- 岐阜県可児郡
- 事業内容
- 電気機械器具製造(自動車用パワーウィンドウスイッチ、ヒーターコントロールスイッチなど)
- 従業員数
- 260名
- うち障害者数
- 5名
障害 人数 従事業務 視覚障害 聴覚・言語障害 肢体不自由 1 品質管理(管理職) 内部障害 知的障害 4 部品空箱清掃・整理 精神障害 発達障害 高次脳機能障害 難病等その他の障害 - 目次
![]() 事業所外観・主要製品 |
1. 事業所の概要
当社は、岐阜県各務原市にある中日本ダイカスト工業株式会社を前身とし、車載用スイッチを担う部門が分社化して、昭和62(1987)年、岐阜県可児市川合に中日本スイッチ株式会社が設立され、平成11(1999)年に社名のイニシャルを取り上げ、エヌ・エス・ケイ株式会社に社名変更し、現在の岐阜県可児郡御嵩町に移転した。
現在は、トヨタ系自動車部品メーカーである株式会社東海理化の完全子会社として、パワーウィンドウスイッチ、ヒーターコントロールスイッチを中心に製造している。パワーウィンドウスイッチに関しては、トヨタ自動車の国内販売車種のほぼ100%を当社で製造している。
当社の製品は、車に乗る人々の目に直接触れるため、より高い品質を追求した生産が行われている。
2. 障害者雇用の経緯
創業当初から障害者の雇用は行われている。当初の雇用の経緯は定かではないが、近年は若年層の受入を積極的に進め、活躍の場を限定することなく、個々のポテンシャルとモチベーションを考慮しながら業務に携わらせている。
また当社ではチームワークを大切にして日々の業務を遂行している。様々な役割を担う者が集まり、ひとりひとりの積み重ねがかたちになって表れる。そのなかではどのような背景をもっている者であっても「仲間」であり、優劣はない。こうした考えのもとで、障害者がより自立していける環境を整えていければよいと考えている。
![]() ![]() 障害者の人々が働く職場風景 |
3. 障害者の従事業務、取組の内容
(1)Oさんの事例
下肢障害をもつOさんは昭和58(1983)年に当社の前身である中日本ダイカスト工業に中途入社し、トータルで30年以上当社に就業している。現在、次長職である。キャリアとしては、当社で生産するために調達した部品や仕上がった製品の品質管理に長く携わっているが、製造部門の管理職として現場の指揮にあたってもらったこともある。同じ職場の同僚や部下でさえ、障害をもっていることを知らない人がいるくらい、仕事において他と違う扱いは何ひとつない。
(2)Hさんの事例
入社6年目のHさんは、知的障害をもっている。入社当初から入出荷部門に配属され、主に部品や製品を詰める通い箱の整理を行っている。
Hさんは、中学卒業後1年間、職業訓練校で職業訓練を受けた後、当社に入社したため入社時の年齢は16歳で、会社としても18歳未満の受入がはじめてであったため、本音を言うと、Hさんを立派な社会人として育てていけるか自信が持てないなかで受入れた。受入前には職場実習として製品空箱の清掃を1週間体験してもらった。その際の職務選定のポイントなどは次のようであった。
- 社内で最も単純な業務
- 屋外と隔てなく接する職場環境。気候変動をまともに受ける(当社が位置する地域は夏の酷暑と冬の厳寒が厳しい)。
- ノルマはないが常にやることがある。ただし、さぼろうと思えばできてしまう。
我々としてHさんに期待したのは、職場環境に関係なく発揮できる「勤勉さ」である。実習期間の様子は、指示された内容を確実にこなしてくれ、期待以上だった。想像以上に周囲のサポートを必要としないことにも、受入への安心感を抱いた。
実習の様子から、Hさんは入社当初から正社員として雇入れることとし、他の新卒入社者と区別することなく対応した。
Hさんは誰と接するときも常に笑顔があり、また、あいさつを忘れないことから、周囲の印象が非常に良く、職場の受入れ環境を意図的につくらなくても自然と面倒を見てくれる環境が整っていったことは我々には大きなメリットだった。
Hさんが入社した時期は、当社は定年後再雇用された嘱託社員が急速に増え、職場の高年齢化が進んでいた。彼らから見たHさんは孫のような存在で、ついかわいがってあげたくなることもあったようで、仕事の伝達や指示も、熟練の経験が生かされ、セカンドステージで働く人たちにもいい刺激になったようだ。ここまで計算して受入れたわけではなかったが、結果として知的障害をもつ若年者の当社としての受入れ方や方向性を見出すことができたのは大きな収穫だった。Hさんにはゆとりのあるペースで仕事の幅を広げさせ、長く会社に貢献してもらえる人物に育てていこうとしているところである。
(3)Sさんの事例
Hさんを受入れた2年後から同じ職場にSさんを受入れた。SさんはHさんの弟で、Sさんも知的障害者である。
受入前に1週間の職場実習を行ったが、兄との違いが多く見られた。そのうえで、兄弟を同一職場にすることを決めたが、はじめからメリットとデメリットがあることを想定したうえで判断した。
○メリット
孤立しない
兄弟間の意思疎通により仕事の習得が早まる
○デメリット
弟が兄に甘える
兄弟の比較
受入後しばらく様子をみていたが、当人や周囲からも悪い声があがってくることもなく、むしろ、互いに競うようにして仕事を進めていく姿に安堵した。また、兄弟をいっしょにしたことで、周囲のフォローは格段に少なく済んだ。
兄弟の仲がよく、もともと手がかからないほうだったが、ふたり一組となると、最悪、ふたり同時に退職となる場合も想定されるため、些細なことでも日常の変化が見受けられたときは声をかけることを怠らないようにした。
弟のSさんが入社するまでの2年間に、職場の適応範囲が広い兄のHさんには複数の業務を習得させたので、今回も同様に進め、少しずつ自立できるよう促していったが問題なく進んだ。逆に、それぞれの特性もわかり、より適した職場、職務を選択して指示できるようになったことは収穫だった。
我々のような在庫をもたない生産管理によって製造を行う場合、日々の出勤率が非常に重要な要素になるが、彼らは当日欠勤がなく、与えられた役割を期待以上に全うしてくれる存在になってくれた。また、HさんとSさんは報告・連絡・相談がわりとよくできることからひとり作業を任せることができ、サポートが必要ないところもスタートラインの教育にかかる手間が大幅に楽だった。起こり得るデメリットと考えていた甘えもなかった。
このようなことから、すべて同じように対応できるわけではないが、適性を見極めて受入れられれば、兄弟の受入は有効だと感じた。
(4)Nさんの事例
先述のSさんの同期のNさんも入社した。Nさんは地元の特別支援学校の新卒者として受入れたため、Sさんより年齢は2歳上である。Nさんは重度の知的障害者であったため、他の人たちと比べ、導入段階のフォローをできるだけ多くとるよう気をつけた。
Nさんは3年生の夏に1ヶ月間の職場実習を行った。Sさんと同様に、最も過酷な時期を体験してもらうことで、体力や忍耐力を確認した。
実習期間中は毎日、実習終了後に面談を行い、いろいろな話をしてコミュニケーションを多くとるようにした。また、保護者や担任の先生との連絡も多くとるようにし、Nさんのことをひとつでも多く知るよう努めた。
Nさんは一つのことに集中すると、とことんやってくれるよさがある反面、悪い言い方をすれば、余裕があるときにはさぼってしまうところがあり、一人で作業を任せることはかなり難しいことがわかった。Nさんのこうした様子を職場に理解させることは、はじめは難しいと思っていたが、定年後に再雇用された嘱託社員が多くいる職場で実習させてみると、双方で補完しあえる関係が築けることがわかり、受入の決断に至った。具体的には、Nさんの職場は2年前にHさんを受入れた空箱清掃を行うところであるが、Hさんのときと異なるのは、
Nさん | (長所)背が高く、体力があるので高所の箱も難なく積み下ろしができる。 |
(短所)ひとりになると作業をやめてしまう。 | |
嘱託社員 | (長所)個々の生産高は低いが、みんなで声をかけあって協力して仕事を進める。 |
(短所)体力面が劣り、高所の箱の積み下ろしは安全面でも危険が伴う。 |
という状況ができたため、Nさんは嘱託社員の人たちが苦労することを難なくこなして自信をつけ、逆にさぼってしまうときにはNさんからするとおじいさんやおばあさんにあたる人たちが優しく指導してくれるので萎縮することもない。嘱託社員の人たちは、孫と接するような感じでいられることで心が和む。
4. 今後の課題
新卒採用者が年齢を重ねていったときに、周囲が今と同じ見方や評価をするとは考えにくい。
職場任せにすることなく、人事担当者が日ごろからコミュニケーションをとって、彼らに何ができるのかを考えながら、仕事の「変化」をつくり、一歩でも成長できる場を設けていく必要がある。
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