事業所名

社会福祉法人大阪府社会福祉事業団

所在地

大阪府箕面市

事業内容

高齢者福祉施設等の運営

従業員数

1,771名（平成26（2014）年6月現在）

うち障害者数

35名

 

障害	人数	従事業務・職種
視覚障害	1	機能訓練指導員
聴覚・言語障害
肢体不自由	6	生活相談員、看護職員、送迎、清掃、洗濯、事務補助等
内部障害	2	技術員、介護職員
知的障害	20	介護職員、清掃、洗濯、事務補助等
精神障害	6	介護職員、清掃、洗濯、事務補助等
発達障害
高次脳機能障害
難病等その他の障害

その他

障害者職業生活相談員

目次

1. 事業所の概要、障害者雇用の経緯と現状
2. 障害者雇用にむけて～仕事の選定～、障害者雇用に対する現場の理解
3. 職場実習の活用と定着に向けて
4. 今後について、最後に

軽費老人ホーム（ケアハウス）豊寿荘

1. 事業所の概要、障害者雇用の経緯と現状

（1）事業所の概要

大阪府社会福祉事業団は、21世紀の新しい社会福祉の体系づくりを担う『自立した社会福祉法人』を目指し、高齢者等に対する支援を含め広く社会福祉の増進に寄与することを目的とする社会福祉法人である。

大阪府各地に老人ホーム等高齢者福祉施設を運営するほか、障害者の就労継続支援事業所や福祉の人材育成のための研修施設なども手がけている。昭和46（1971）年に設立された大阪府社会福祉事業団（以下「法人」という。）は、大阪府7施設の受託経営を開始、平成14（2002）年からは各施設の土地、建物の譲渡を受け、順次自主運営を開始し、現在では大阪府下に9つの特別養護老人ホーム、13のデイサービスセンター、8つの訪問介護事業所、10の居宅介護支援事業所などを運営し、平成27（2015）年度には新たに3つの施設を開所する予定もある。

数ある施設の中でも、今回訪問した豊中市にある「豊寿荘」は、軽費老人ホーム（ケアハウス）、特別養護老人ホーム、デイサービスセンター、居宅介護支援事業所、訪問介護事業所、さらに診療所を備えている高齢者の総合福祉施設である。豊寿荘にて、事務局総務グループ主任の板野宮子さん、主事の井上雄太さん、そして豊寿荘在宅サービス科長の上中智子さんに障害者雇用の取組についてお話しをお伺いした。

（2）障害者雇用の経緯と現状

1. 障害者雇用の経緯

   平成26（2014）年度の障害者雇用率は2.33％と法定雇用率を大きく上回る障害者雇用をすすめているが、本格的に障害者雇用に取り組み始めたのは平成20（2008）年を過ぎたあたりからである。

   平成23（2011）年から平成32（2020）年にかけて10年間の中長期経営計画を策定した。

   この計画では、以下の4点を重点項目とした。

   
   
   • ①介護、生活支援サービスの充実
   • ②経営基盤の安定に向けた取り組みの推進
   • ③人材育成と職場環境の整備
   • ④地域社会との連携
   
   

   その中の「③人材育成と職場環境の整備」で障害者雇用についての項目を取り上げたことが、本格的に障害者雇用に取組み始めた契機となる。この計画の中で、平成27（2015）年度までの5年間で障害者の雇用率2.5％を目指すこととしたのである。

2. 障害者雇用状況

   現在、1,771名の常用雇用者のうち35名の障害者が雇用されており、介護職員、機能訓練指導員、生活相談員、看護職員、送迎、清掃、洗濯、事務補助、技術員等の業務に従事している。知的障害者以外にも精神障害者や肢体不自由者が雇用されている。

   
   

   なお、豊寿荘では、次表のように4名の知的障害者と1名の精神障害者、計5名（A～E）の障害者を雇用している。

2. 障害者雇用にむけて～仕事の選定～、障害者雇用に対する現場の理解

（1）障害者雇用にむけて～仕事の選定～

障害者雇用率2.5％という大きな目標を掲げたとはいえ、それまで本格的に障害者雇用に取り組んだことがなく、どのように進めていけばよいのか、暗中模索の状態であった。

そこで、平成22（2010）年度に職員が豊中市と「とよなか障害者就業・生活支援センター」が主催する「ジョブライフサポーター養成講座」に参加することにした。この講座に参加した豊寿荘の上中さんは「この講座への参加がその後の障害者雇用にとても有用でした」と話す。

この講座を通し、様々な支援団体、特に職場では支えることが難しい生活面での支援を行う機関とのつながりができたという。このことが障害者雇用に対する不安の軽減につながっていった。また、ジョブコーチ支援という制度の知識を得たことも、法人にとっては大きな収穫であった。法人はジョブコーチや支援機関との相談のもと、着実に障害者の雇用定着の取組を進めていった。まず、障害者雇用に関するチームを作った。そして、それぞれの部署において、対応可能な作業が、どの時間帯にあるのか、という業務の洗いだしをすすめていった。下表を基に障害者の作業内容をリストアップし、清掃作業を中心にいくつかの作業が選定された。

各部署から提案された対応可能な仕事とその時間帯

（2）障害者雇用に対する現場の理解

法人は障害者雇用に先立ち、現場の職員に障害者雇用に関するアンケートを実施した。その結果では「指導に割く時間がない」「どのように指導したらよいか分からない」など現場の職員たちはそれまで経験のない障害者雇用について、マイナス的な反応であった。

実際、知らないこと、経験のないことをやってみるというのは勇気のいることである。しかも、その取組がうまくいかなかった時に、自分だけでなく施設の利用者（以下「利用者」という。）や周囲の人に迷惑をかけるかもしれないとなると、なおさらである。仕事について責任をもって取り組んでいればいるほど、職員たちの中には、障害者雇用という見えないものに対して敏感に反応してしまったのであろう。

そこで、ジョブコーチを通し、障害の特性や指導方法などについて職場教育をしてもらい、現場の職員が教えたくても時間がないというジレンマを解消していった。

また、職員にも専門職としての責任感を再度見つめ直すように働きかけた。それは「その業務に集中して取り組むためにも、清掃等の仕事を専門にしてくれる人がいたほうが助かるという意識を向上させる」といったことという。実際、豊寿荘ではトイレだけでも約160か所あり、手すりも数えきれないほどある。廊下も広くて長い。また、利用者の憩いの場（談話室）も数多くある。それまでは、介護職員がそのような場所の清掃なども行っていたわけだが、清掃の専門の職員がいることで本来の業務に集中して取り組めるというわけである。

さらに、障害者雇用は他の職員にとっても日頃の業務を振り返るきっかけにもなったという。上中さんは一つの例を提示してくださった。

ある時、清掃道具が一定の場所にない状況が、障害者にとって混乱のもととなった。この件に関し、豊寿荘では「これは混乱した障害者の側に問題があるのではなく、同じ場所に片づける習慣がなかった職場全体の問題である」と振り返り、以後、障害者のためだけではなく、職場全体のひいては利用者へのよりよいサービスの充実として、道具を所定の場所に片づける習慣を徹底したという。

「障害者が働きやすい場は誰にとっても心地よい場である」との信念のもと、豊寿荘は成長してきたのである。

3. 職場実習の活用と定着に向けて

（1）職場実習

法人ではジョブコーチの支援のもと採用に向けた実習を行っている。

実習は本人が高齢者福祉施設という職場で働くために自分が合っているかどうかを考えるだけでなく、ジョブコーチ支援のもと共に働く職員が本人を理解するのにも有用な期間となっている。

また、実習期間は雇用に際し、本人が対応可能な作業内容や時間について検討する機会ともなっている。ある障害者は清掃作業で実習を始めたが、本人の希望により事務的な作業もしてみたいということになり、作業を組み替えて適性をみたり、短時間から始めたほうがよいと判断された障害者の場合には、短時間から始め徐々に実習時間を伸ばし、本人の就業可能な時間を確認するなどしている。その他、ある障害者はどうしても掃除の際に掃除機を壁にぶつけてしまうということがあった。そこで、ジョブコーチと相談し、作業の時間帯をずらすことで、利用者に迷惑がかからないようにしたという。

（2）職場定着に向けて

雇用をしてからも職場定着のために取り組んでいる。本人が仕事や体調について日誌を書き、職場で確認できるようにしたり、ジョブコーチや支援者も含めた会議を行うなどしている。また、豊寿荘には障害者職業生活相談員・精神障害者職業訓練指導員を配置しており、法人内の他の1施設にも障害者職業生活相談員の資格をもつ職員を配置している。順次各施設に障害者職業生活相談員を配置していく予定である。

職業生活相談員は本人の状況を周囲が共有して、本人も職員も安心して仕事に取り組めるように働く。例えば、障害者がやりたい作業があるが、その作業には不向きで従事させることができない場合、現状で何ができ、何ができていないからその作業にはすぐに従事させられない旨の明確な説明が必要になってくることもある。障害者に対する偏見がある社会の中で生活してきた障害者の場合「自分が障害者だからさせてもらえないのではないか」という思いをいだき、本来見つめるべき自身の課題が見えにくくなることもある。本人に分かりやすく現状を伝えることと、コミュニケーションをもつことが安心を生むのではないだろうか。

また、高齢者施設では、介護、生活支援サービスの仕事について明確な意識を持たなければ、利用者との関係などでも混乱が生じてしまう。本人自身が判断できない場合には、周囲が仕事の意識を本人に明示する必要がある。

豊寿荘で働くBさんの作業状況の一部。時間がかかっていたシーツ交換も職員やジョブコーチの指導により今では手際よくこなせるようになった。

4. 今後について、最後に

（1）今後について

当法人は、障害者雇用率2.5％を目指し取り組んではいるが「雇用率2.5％にこだわるものではなく、さらに職場環境の整備に努め、誰もが働きやすい職場となるように努力していきます」と法人事務局の井上さんは語る。

（2）最後に

当法人の障害者雇用の取組を通して、まず会社としての目標を明確にすることの大切さを改めて思わされた。目標を明確にすることで、何を取組むべきかという職員の意思統一が図れ、何か問題があった時にも、その目標に立ち返り、目標達成のためによりよい方策を検討していくことが可能となる。

また、ただ目標を示すだけではともすれば、トップダウン的な「言われたから、仕方なくする」という職員のモチベーションの低下につながる可能性もある。当法人では現場の職員にアンケートをとり、職員の不安を明らかにした上で、ジョブコーチ支援を利用するなどその具体的な解決に取り組んでいる。

製造業の印象が強い障害者雇用の中で、福祉・サービス業を行う事業所での障害者雇用のヒントが、この取組の中に見出せるのではないだろうか。