地域の就労移行支援事業所との連携で、速やかに業務に適した人材の雇用を実現した例
- 事業所名
- タキゲン製造株式会社 神戸支店
- 所在地
- 兵庫県神戸市
- 事業内容
- 産業用金物の設計・製造・販売
- 従業員数
- 37名(神戸支店)
- うち障害者数
- 2名(神戸支店)
障害 人数 従事業務 視覚障害 聴覚・言語障害 肢体不自由 内部障害 知的障害 精神障害 発達障害 2 商品ピッキング・梱包補助 高次脳機能障害 難病等その他の障害 - 目次
![]() 事業所外観 |
1. 事業所の概要と障害者雇用の経緯
(1)事業所の概要
当社は明治43(1910)年に創業し、本社は東京都品川区五反田。
事業内容は、取手・蝶番・錠前等の設計・製造・販売で、それらの製品は「タキゲンスタンダード」として、インフラ整備等に重用され、今日まで産業用・工業用金物業界をリードしてきた。8千余種類に上る多種多様な製品は、自社工場を持たず、協力工場との連携により製造・提供されている。
確かな技術力に基づき安定した品質と供給を展開してきた一方で、オンリーワンの試作・特注品に至るまで、多岐にわたる顧客ニーズに応え、更なる次世代スタンダードの構築を見据え、維持向上をはかっている。
また、社員・家族・協力工場の全員が、毎日を楽しく円満に、会社も個人も進歩すること。すなわち、「人材育成」を社是に掲げ、豊かな社会の実現を志としている。
今回取材した神戸支店は、平成21(2009)年に開設された組織の中では新しい支店であり、運搬車両部品や新分野である太陽光発電金具といった商品も取り扱っている。
(2)障害者雇用の経緯
当社では平成25(2013)年当時、本社並びに全国各支店をあわせ、7名の障害者を雇用していたものの、法定雇用率の達成に向け、障害者雇用の更なる推進を検討する必要があった。
同じ頃、神戸支店長は慢性的な作業人員の不足に伴い、かねてより、補充人員の要望を本社人事に打診していたところ、神戸支店においては障害者雇用の例がまだなかったこともあり、本社人事からは当要員には障害者の採用を考えてはどうかという返答があった。
神戸支店長がこの返答を受け入れると、本社総務課長がまず、他支店での障害者雇用の経緯実績から、地域の就労移行支援事業所を通じて雇用を進めるようコンタクトを取り、神戸支店長と共に市内の就労移行支援事業所2所(a事業所、b事業所)に就労希望者の人選を依頼した。
2. 初めての採用に向けて
(1)トライアル雇用への準備
今回の募集に当たっては、比較的若年層の人材を求めることとした。障害者と社員がお互いになじみやすい環境となるよう考慮して、支店に占める構成員の過半数と同様の年代が適切と判断したためである。
本社総務課長、神戸支店長と就労移行支援事業所との折衝がすすみ、就労移行支援事業所での人選が図られ、a事業所から推薦のあった3名の就労希望者を迎え入れてトライアル雇用を開始した。
実は、b事業所からもトライアル雇用の参加もあったが、その形態が隔日での就業とし、また、一日の勤務時間については、午前か午後のどちらかという短時間就労の計画で行われたものであったこともあり、採用には至らなかったことから、本事例はa事業所から推薦された3名のトライアル雇用者について紹介するものである。
まず、神戸支店での初めての障害者雇用にあたり、就労移行支援事業所(a事業所)の支援担当者(以下「支援事業担当者」という)より、神戸支店長以下、支店従業員全員に向けて、次の説明が行われた。
- 採用希望者3名それぞれの持つ障害の特性について
3名ともに発達障害を抱えているが、これまでの就業経験やコミュニケーションにおける問題点は、当然のことながら三者三様であった。この点に着目して3名それぞれの障害の特性が伝えられた。例えば、Aさんは表情に乏しく淡々とした口調などから、ややもすれば相手に不快感を与えることもあるかもしれないといった具体例をあらかじめ伝えられた。
- 障害者への基本的な業務の指示について
担当する業務は、顧客からの発注を受けその内容が伝票処理された指示書に基づき、倉庫、陳列棚から商品のピッキングを行う作業であるが、障害者とともに作業をする際には、作業の指示系統は一本化し作業管理者一人が行うこと、また、作業の途中で指示を行わず、必ず一つの作業を終えてから次の指示をすること、という注意事項が伝えられた。
(2)トライアル雇用の実施内容
- 実雇用と同じ就業時間を実践
採用されたAさんとBさんを含む3名の就労希望者に対するトライアル雇用は、実際の雇用条件に従って、フルタイムでの就労とした。
この取り組み方が、結果的に採用の第一の決め手となったという。実際、Aさん、Bさんのトライアル雇用は、フルタイムでの就労をこなし2人が当社での就労を希望したことから、本採用に移行することとなったという。
最初から意欲が違っていたと神戸支店長は受け止め、フルタイム就労の積極性を尊重した。この点について、a事業所の支援担当者からは「企業が採用する際は、想定する就業時間での就労が可能かどうかを判断基準とすることがある。トライアル雇用で、実働と同じ条件を設定したことが、トライアル雇用の意図する『疑問や不安を解消する』ことに繋がったのではないか」との答えがあったが、なんといってもAさん、Bさんの頑張りがあったことが、この結果になったともいえる。
- 支援事業担当者と共に作業の問題点を抽出
ピッキング作業における実際の問題点とその対応について触れると、以下のような例が挙げられた。
ケース1
指示伝票には、商品が保管された棚番と商品のバーコードが記されている。商品が置かれた棚にも、読み取り用のバーコードが張られている。指示伝票と棚にある商品のバーコードを読み取る際に、棚の上段或いは、下段のどちらを読み取るのか。イレギュラーな例があることが判った。判断に迷うことがないよう、指示する際の正確さも、障害者雇用の際の重要なポイントの一つであることを、直属の上司にお願いした。
ケース2
伝票における数量単位について、ねじのような小さな部品は、袋にいくつかまとめられて保管されている場合があり、袋で1とするのか、袋の中の1つを1とするのか判断に困るものがあった。
実際のところ当事業所においては、障害者に限らず新規採用の従業員であれば誰でも同様に問題となる事例であり、多種多様な商品を扱う企業の特性上、全てを均一に管理することはできず、やむを得ない状況であった。
これに対しては、通常、梱包前の検品の際に、商品知識のあるベテラン従業員が点検確認を行っており、ミスと判断された場合は、その都度指摘し対応している。この問題にAさんは、長けた記憶力により、Bさんは、就労移行支援事業所での指導により得られた、習慣化されたメモや自分のマニュアル作成による方法を活用し、一度指導のあった商品に対しては、次は、正しく選択できるよう正確な作業遂行に勤めることができている。
また、棚にある商品と共に別の棚にある付属のパーツを一緒にセットするといった事例なども同様にミスの無いように対応している。
![]() ![]() 整然と多種の商品が並ぶ倉庫内 |
(3)採用にあたって
採用選考に当たっては、支店長は実際に一緒に働いてみた上で、社員一人一人に意見を聴取した。見解は皆ほぼ一致しており、当社での就労を希望したAさんとBさんの2人が採用された。
当初は障害者と働くというイメージが、社員の誰にも思い浮かばず「発達障害者とは、いったいどんな人なのか? 本当に一緒に働くことができるのか?」という心配もあったという。
発達障害について、個別に特性を理解するよう支援者のアドバイスを受けながら、トライアル雇用を通じて、不安を解消できた。
一言で言うのはたやすいが、業務態度は2人共に極めて真面目と評価される。
本採用の後、Aさんは1時間半、Bさんも1時間あまりの通勤時間ながら、欠勤もなく勤務をこなしている。
就業時間中の適度な休憩や昼休みの仮眠など、当初は他の社員から促されていたものが、自発的に取ることができるようになっている。
コミュニケーションについては、率先して話題に入るようなことはないが他の社員と隔たりなく、朝礼での簡単な話題を提供する担当役も務めている。
神戸支店を含め、当社の昼食では、社員が交代で毎日、ご飯とお味噌汁の炊事を担当している。2人も、同じ食堂で昼食をとることができており、アットホームな社風が一層なじみやすい環境の後押しとなっているのかもしれない。
これまで、職場の人と勤務時間外での交流の経験がなかった2人だが、忘年会にも参加した。閉会時刻よりも先に帰宅したことがあったそうだが、理由は翌日が勤務日であったためとのことで納得できる。しかし、別の懇親会では翌日が休日であったので、最後まで一緒に過ごすことができたそうである。
3. 雇用の継続を見据えて
彼らはそれぞれ、月に一度、就労移行支援事業所へ仕事帰りに立ち寄り、近況を報告する。その内容は公私にわたる相談、今後の希望などを含めたものである。
相談の内容によっては、支援担当者から事業主へ伝え、あるいは、家庭での過ごし方が就労に影響する問題となることがあるので、そういった点は家族に伝えることもあるという。相談内容に実作業での問題等がある場合は、支援担当者から伝えられた支店長から、作業管理責任者に改善指示があり、直ちに実行するスタンスで対応している。
また、日常的には、作業中に困った素振りが感じられれば、従業員全員が声掛けする。入社して半年が経ち、業務にも慣れた感があるが、精神(発達障害を含む)障害の雇用においては、長いスパン、少なくとも1年を通して状況の把握が必要であると、支援事業所側もまだまだ見守る姿勢を緩めることはない。
支援担当者に、順調に雇用継続できている理由をさらに伺ってみると、「今回、同じ支店に2人同時に採用してもらえたことが、非常に幸運な例であり大きな要因であった」という。
Aさんは、電気関係の多くの資格を所持している。そのため周囲から常に歓迎されるものの、彼の持つスキルには、同時に責任と指導力並びにコミュニケーション力等が要求されてきた。そのためAさんは、なかなか思うような就職にたどり着くことができない状況を重ねていた。しかし、当社で扱う商品は工業製品パーツであり、Aさんにとってなじみやすいものであったが、やはり、人との関わりを気にせず淡々とこなせる業務が、本人に適していたといえる。
Bさんは、笑顔で人をほっとさせるようなキャラクターで、周囲に可愛がられる面があるという。就労移行支援事業所に通所して半年程度で当社での就職がかなったが、就労の経験は乏しい。
事前の具体的な情報から、どの社員もこれまでのところ、特に気にかかることも無く、こういった個性の人であるという風に理解して接しているという。
入社の際には本社総務課長から2人に対し「スタートは同じであるが、日々の少しずつの取組の努力や、忙しそうな社員を手伝おうとする声がけなど、わずかな周囲への心配りが、今後のそれぞれの評価につながる」と激励があり、各人の評価規定、ベースアップの査定など、実社会への厳しさにもふれたという。
ピッキングは単調な作業であるが、神戸支店においては全ての社員が自分の受けた受注については、自らピッキング作業を行っている。
2人は手隙の際、梱包の補助などの業務も徐々に手伝いつつある。
今後は、さらに、本人らの希望するパソコンを使った業務等への職域拡大について、どういった処理作業が向くのか、PCスキルのレベル等を合わせ判断が難しい部分もあるので、支援担当者のアドバイスを受けながら、慎重に検討する予定である。
障害者雇用に直面し初めての雇用実践を強いられた支店長だが、現在は支店長会議の場等を通じて、支店間での障害者雇用の積極的な情報共有をはかっている。
その穏やかな話しぶりからは、障害者と共に働くことに対する手応えと、今後の障害者雇用と継続に着実に取り組む自信が感じられた。
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