障害者雇用により、「点ではなく線となって」付加価値のある雇用展開へ
- 事業所名
- 社会福祉法人紀伊松風苑
- 所在地
- 和歌山県和歌山市
- 事業内容
- 介護事業
- 従業員数
- 232名
- うち障害者数
- 5名
障害 人数 従事業務 視覚障害 聴覚・言語障害 肢体不自由 内部障害 1 医療業務職員 知的障害 2 介護補助員 精神障害 1 介護補助員 発達障害 1 介護補助員 高次脳機能障害 難病等その他の障害 - 目次
![]() 事業所外観 |
1. 事業所の概要、障害者雇用の経緯、背景
(1)事業所概要
- 事業所経歴
昭和41(1966)年11月22日 特別養護老人ホーム 紀伊松風苑 開設 昭和55(1980)年4月1日 紀伊松風苑ショートステイ 開設 平成元(1989)年11月15日 紀伊松風苑ホームヘルプサービス 開設 平成4(1992)年4月1日 紀伊松風苑デイサービスセンタ- 開設 平成11(1999)年10月1日 居宅介護支援事業所 開設 平成18(2006)年4月1日 第3圏地域包括支援センター 開設 平成18(2006)年10月1日 救護施設かつらぎ園 開設 平成22(2010)年2月1日 グループホーム紀伊松風苑なるたきのさと 開設
デイサービスなるたきのさと 開設平成24(2012)年11月1日 事業所内保育施設『まつかぜ保育園』 開設 平成25(2013)年12月1日 グループホーム紀伊松風苑ひだまりの家 開設
小規模多機能型ホーム紀伊松風苑そのべの丘 開設 - 主な業務内容
- 社会福祉法人紀伊松風苑として、次の施設の運営等の業務を実施。
- 介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム)紀伊松風苑
- 紀伊松風苑ホームヘルプサービス
- 紀伊松風苑デイサービスセンター
- 居宅介護支援事業所「社会福祉法人 紀伊松風苑」
- 第3圏域地域包括支援センター
- 救護施設 かつらぎ園
- グループホーム紀伊松風苑なるたきのさと・デイサービスなるたきのさと
- グループホーム紀伊松風苑ひだまりの家
- 小規模多機能型ホーム紀伊松風苑そのべの丘
- 社会福祉法人紀伊松風苑として、次の施設の運営等の業務を実施。
- 経営理念
寝たきりになっておられる高齢者、またはその介護をされておられる家族に幸せを、との創業の精神にのっとり、家族にかわってホーム利用者が安らかに楽しく老後を過ごすことができる施設運営を行う。
(2)障害者雇用の経緯、背景
- 障害者雇用までの経緯
当事業所では、昭和62(1987)年4月1日から身体障害者であるAさんを採用していた経緯があり、障害者雇用とはまったく無縁ではなかったが、近年においては障害者雇用の経験は無かった。
よって、障害者雇用に関し大きな不安感が先行していたが、昨今の全般的な障害者雇用情勢の推移の中で、職員数が200人を超えることが予想され、平成24(2012)年4月になって、当事業所においても障害者雇用の具体的な取組を開始することになった。ただ、当初は、障害者雇用は、「コストがかかる」、「労力がかかる」、「担当業務の選定が困難」、「周囲とのコミュニケーションへの不安」、「サポートの有無」とのネガティブな思いが強くあったこと、その他わからないことが多く、その対策及び準備にいろいろな試行錯誤を行ってきた。その時、障害者雇用は『点ではなく線となるような雇用に繋げたい~付加価値のある雇用へ~』との考え方を基本として、何があっても譲ってはいけない主軸と位置付けた。
まず、法人トップより取組宣言を行った。次に、職員の意識改革(職員のコンセンサスを得る)、障害者就職面接会参加、支援学校見学、法人内外研修会・勉強会(雇用事例、障害の特性、雇用の必要性)、担当業務の検討、業務の見直し⇒マニュアルの整備等の作業・準備を行った。
以上のように、考えられる万全の体制・準備で臨み、表のとおり3名の障害者をいずれも介護補助員として採用するに至った。
採用日 障害(性別) 勤務時間 勤務日数 Bさん 平成24(2012)年11月19日 知的障害者(女性) 10:00~14:10 週5日 Cさん 平成24(2012)年11月22日 知的障害者(女性) 9:00~16:00 週5日 Dさん 平成24(2012)年12月3日 精神障害者(男性) 9:00~13:00 週5日
採用から約3カ月が経ったとき、障害者の仕事に対する悩み等の相談対応が事業所として結果的に上手くできていなかったことが要因と考えられるのだが、Bさん、Dさんの2名が退職されることとなり、Cさんのみが残ることとなった。事前の体制・準備を万全に行ったにもかかわらず、2名の退職に至ったことは、障害者雇用に対する難しさをあらためて痛感した。
そうした障害者雇用に対する自信を失いかけていた時、退職されたBさんから「大変お世話になった、また、期待に応えることができなくて申し訳なかった」旨のお手紙をいただいた。この手紙を読んだとき、障害者本人の純真な気持ちに触れ、もう一度、障害者雇用にチャレンジしてみたいとの強い思いを事業所職員の全員が共有するようになった。このことは、事業所職員全員が同じ職場で働く仲間として、お互いに助け合う・支えあうことの大切さを学ぶ、大きなきっかけになった。
また、障害者雇用の推進には、インターンシップ事業・ジョブコーチ支援を活用し、次のような効果があった。
- 実際の職場を体験してもらえるのでミスマッチが防げる。
- 障害の特性等を把握できる。
- ジョブコーチ等の支援により実習終了後においてスムーズな就労移行ができる。
- 事業所としての姿勢
当事業所では、障害者の方には介護補助員として勤務してもらいますと説明している。それは、ゆくゆくは介護職員とした職務まで仕事の質を向上していただき、自立した「人材」に育ってほしいとの願いがある。それは、まさに「点ではなく線となるような雇用に繋げたい」との思いを具現化したものである。
また、障害者雇用を考える場合、ただ単に「点」としての障害者雇用だけでなく、「線」として、大きく事業所全体にどのような効果を及ぼすかを考えてみる必要がある。以下の表は当事業所の離職者数の推移であるが、平成24(2012)年度(障害者雇用取組開始)以降、離職率の割合が激減しているのがわかる。
離職者数の推移H17(2005)年度 H18(2006)年度 H19(2007)年度 H20(2008)~H23(2011)年度 H24(2012)年度 H25(2013)年度 離職率 20.3% 27.8% 19.3% 20%前後 12.5% 9.4% ※H24(2012)年度→障害者雇用取組開始
2. 取組の内容
(1)障害者の配置状況
採用年月日 | 障害の種類等 | 職種 | 勤務時間等 | |
Aさん | 昭和62(1987)年4月1日 | 身体障害者(内部)・男性 | 医療業務職員 | 9:00~18:00 週5日 |
Cさん | 平成24(2012)年11月22日 | 知的障害者・女性 | 介護補助員 | 9:00~16:00 週5日 |
Eさん | 平成25(2013)年7月1日 | 知的障害者・女性 | 介護補助員 | 13:40~17:00 週6日 ※雇入時:週20時間勤務 |
Fさん | 平成25年7月16日 | 精神障害者・男性 | 介護補助員 | 8:30~15:30 週5日 ※雇入時:週20時間勤務 ※現在:週30時間勤務 |
Gさん | 平成26年6月18日 | 精神障害者(発達障害)・男性 | 介護補助員 | 9:00~13:00 週5日 |
![]() Fさんの職場風景
採用時より目標を持って業務に取り組んでいる。 |
![]() Eさんの職場風景
当法人事業運営施設「救護施設かつらぎ園」の入所者であったが、自立支援を目的として、雇用を行った。 |
(2)就業実践をスムーズに行うためのフォロー
当事業所での「介護補助員」である障害者の業務内容は、①ベッドメイキング、②車いすの掃除、③手すり等の消毒、④トイレの掃除、⑤下膳である。当事業所では各業務内容の手順(マニュアル)の策定に力を注いだ。
また、それらの業務を確立するまでは、現在行っている、業務内容をすべて洗い出し、障害者に適した業務を選定し、その業務の作業手順の明確化を行った。このことは、現在、すべての職員においても、担当している業務内容を精査することにより、業務遂行で「ムダ・ムリ・ムラ」の排除に繋がるという、副次的効果をもたらした。
また、平成24(2012)年11月・12月に採用したBさん、Dさんが、いずれも約3カ月で退職されるという事態を招いたが、その要因の大きなものとして、お互いのコミュニケーションの不足があった。そのため、現在では、障害者に対して、マンツーマン体制で、指導員を配置しており、障害者の「特性」を理解し、わずかな(小さな)「SOSサイン」にも、対応できるようにしている。ツール的には、「業務日誌」等の活用も積極的に行っているが、障害者個々の性格により、「業務日誌」に記入することそのものが、精神的負担をかけるマイナス面もあるので、その運用には、柔軟な対応を心掛けている。
(3)指導担当者からの生の声(アンケートより)
当事業所では、障害者雇用は「点ではなく線である」との認識の実現のため、各指導員から生の声をアンケート方式で回答してもらったという。その一部を紹介しよう。
◆共に業務を行う上で難しいなと感じた事は?
- 仕事をしてもらう配分(量、速さ)が難しい。
- 指導のやり方が正しいのか不安。
- 説明をどこまで理解できたのかがわからない。
- 落ち込んだりしないかと不安で、話をする際、慎重になってしまう。
- 精神的な浮き沈みがある場合の対応。
◆各関係機関に求めること。
- 各関係機関の役割をもう少し事業所に広報して欲しい。
- 業務中におけるサポートはできるが、私生活においてのサポートを充実させて欲しい。
- ジョブコーチ支援が終了していた場合でも、障害者の方が不安定になった場合などは、早めの再支援を検討して欲しい。
◆障害者雇用を行ったことで何か変化があったか。
- 環境面での仕事をしてくれるので、介護職員は利用者様の直接的な援助に専念できるので助かっている。
- これまでも、人材育成に取り組んできたが、障害者の方を雇用することにより、一層、育成の難しさや必要性を感じることができた。
- 初めて指導担当者となり、悪戦苦闘したが自分自身も成長できたと思う。
- 環境整備の手順や基準などが明確になり、他の教育においても使用できるようになった。
- 誰にも得意、不得意、できる、できないことがあることを理解し、チームとしてフォローしなくてはという一体感が生まれた。
- 人にやさしく接することができるようになった。
◆現時点での課題
- 次の段階へのステップアップ
≪本人の意欲、タイミング、業務内容(介護へ)、労働時間・・・≫ - 短時間勤務の場合、どうしてもコミュニケーションが不足してしまうため、精神面でのケアができているかが分かりづらい。
- 就業時間以外のフォローをどのように行うか。
3. 障害者の将来的な処遇と職場の意識変化
当事業所は、障害者を「介護補助員」として採用している。その業務内容は「環境整備」として、「清掃作業」が中心となる。基本的には、採用当初は週20時間~30時間未満となるが、週30時間勤務へのステップアップを計画し、「介護補助員」から「介護職員」へのレベルアップを目指している。そのためには、本人の意欲・そのタイミング・介護職種へのステップアップのための業務内容、労働時間等々が、大きな課題となり、当事業所にとっては、経験のない「領域」になり心配な面もあるが、指導担当者とのコミュニケーションを基本に、日々の業務内容の見直し、人材育成のノウハウの蓄積、働く職場仲間としての助け合い精神の醸成等が、事業所の意識改革につながり、そうした「職場の風土」になれば、そのことも大きく乗り越えられ、その実現を可能とすると考える。
4. 今後の課題と展望
平成24(2012)年4月に障害者雇用を本格的に取り入れると決定したとき、「障害者雇用は『大変』そうだな・・・。」という思いで頭がいっぱいであった。そうして、タイムスケジュールにそって準備を進め、万全の体制にて平成24(2012)年の秋に3名を雇用したが、そのうち2名が3カ月にて退職するという「挫折感」を経験した。その「挫折」感が職場全体にまで大きく影響を及ぼしていた時、退職された方から1通の手紙が郵送されてきた。その手紙には、本人の率直で純真な「事業所に大変ご迷惑をおかけして、すみませんでした。」との文章が綴られていた。そのお手紙に接して、当事業所の職員全体からもう一度障害者雇用について挑戦しようとの熱い「思い」が沸き起こってきた。このことは、障害者雇用を契機に「点から線に・・・付加価値のある雇用へ」との当初の精神が、職員全体に受け入れられたと強く感じた瞬間でもあった。現在では上述した指導担当者からの生の声(アンケートより)をまとめ、次なる障害者雇用に対してその精神をさらに続けていきたいと決意している。
障害者雇用を単なる「コスト」と捉えるのではなく、きめ細かにその対応をとれば、障害のあるスタッフも大きく「職場の戦力」になりうることが、今回の経験として明確になった。
「あくまで戦力」としての障害者雇用を実現するため、「様々な工夫」「行政への要望」「職場の意識改革」が必要だが、継続していく決意をもった。
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