障害度合に配慮した仕事づくり、環境づくりの事例
- 事業所名
- 日ノ丸西濃運輸株式会社
- 所在地
- 鳥取県鳥取市
- 事業内容
- 貨物自動車運送業、貨物運送取扱事業、損害保険代理業、産直品その他販売事業、倉庫業、一般廃棄物収集運搬業務、産業廃棄物収集運搬業務
「(除外率設定業種)」 - 従業員数
- 502名
- うち障害者数
- 7名
障害 人数 従事業務 視覚障害 聴覚・言語障害 肢体不自由 3 長距離運転業務、窓口対応、オンライン入力 内部障害 3 資材管理、産直品販売の受注・精算管理業務など 知的障害 1 夜間荷物仕分け作業 精神障害 発達障害 高次脳機能障害 難病等その他の障害 - 目次
![]() 事業所外観 |
1. 事業所の概要と障害者雇用の経緯と背景
(1)事業所の概要
昭和32(1957)年、日ノ丸自動車株式会社のトラック部門より分離独立し、株式会社日ノ丸トラックとして発足した。その後、昭和50(1975)年12月に西濃運輸株式会社と資本及び業務提携を行い、日ノ丸西濃運輸株式会社と社名変更し業務を営む。
業務は、路線業界最大手のセイノーホールディングス株式会社のグループ会社として、山陰地区を担当し、鳥取県3店、島根県5店、大阪府1店の9店(所)で営業を行い、産業構造改革の中、単に輸送だけにとどまらず、時代の流れを的確にとらえ、顧客ニーズにマッチした提案を進めていくため、「輸送」「情報」「販売」の総合物流商社として「物流を通して、お客様に喜んでいただける最高のサービスを常に提供し、国家社会に貢献する」を基本方針として、高度で良質のサービスを提供し、地域社会へ貢献している。
(2)障害者雇用の経緯と背景
当社は、「会社を発展させ、社員を幸福にする」を経営理念として掲げ、地域経済社会へ貢献していく「誇り」、未来を拓いていく「将来性」を基本に据えている。そのため、障害者雇用に関しても、地域に根ざしていく企業として、障害のある人も地域を支える貴重な労働力であると考えていたが、以前は、内臓疾患を患い障害を受障した従業員がいた程度で、新規の障害者の採用実績がなかった。
運送業という事業の性質上、従業員の多くは重量物を扱う運転業務や仕分け作業などの重労働に従事しているため、そのような業務の中で障害のある人にさせる仕事を、どのようにつくり出せばよいのか等の不安から障害者雇用にためらいを感じており、法定雇用率をぎりぎり達成している状況であった。
そのような中、中途障害者が退職したことを機に職場で障害者雇用の担当者を決め、経営幹部とこの担当者で内勤事務、仕分け軽作業、障害程度に配慮した運転業務等の可能性を探り、これらの職務をベースにハローワーク鳥取に相談、障害者専用求人を出すことになった。
このような経緯から段階的に障害者雇用を進め、平成26(2014)年10月現在、肢体不自由者3名、内部障害者3名、知的障害者1名の雇用就業を実現しており、実雇用率は2.63%と法定雇用率(2.0%)を上回る水準に達している。
2. 取組みの内容と効果
(1)取組みの内容
初めて採用したのは、ペースメーカーを入れている内部障害のあるAさん(心臓機能障害1級)である。Aさんは本社総務部資材販売課に配属、勤務形態はフルタイム(8:30~17:30)で、資材管理、産直品販売の受注・精算管理業務を担当し、現在では9年のキャリアになる。
当初は仕事がしやすいようにとの考えから、就業規則以外の休憩時間の取得を許可し、周囲も寒い時期には顔色の変化の様子をうかがうようにするなど、スタッフによる観察や声かけ、フォローを実施してきた。
主な業務は、コンピュータ入力、印刷業務などであるが、長い立ち時間の作業は、心臓に負担がかかるなどの課題があったことから、立ち作業時間を短時間化していくため、印刷輪転機を補助金で導入するなど、担当業務における身体的負担の軽減策を実施した。
また、主治医との連携を図り、ペースメーカーの点検、精密検査時間等を付与している。
現在、Aさんはすっかり仕事に慣れ、担当者の目配り、気配りの必要もほとんどなく、ペースメーカーを入れていることを忘れているくらい、障害のない者と同じように仕事を行っている。
そのほかの障害者も無断欠勤もなく、仕事には確実に取り組んでおり、当社の大きな戦力となっている。
![]() 荷物仕分け作業 |
![]() 修理部品の注文・在庫管理 オンライン入力 | ![]() 内勤事務 |
(2)取組みの効果
障害のある人の特徴として、これまで職場生活をあまり経験していないため、職場生活に慣れていないといった点が挙げられる。
周りの障害のない社員は、障害者に対して、どういう障害だろうか、どう対応したら良いのだろうかなど、障害特性に関心を寄せ、これらのことが職場に目配り、気配り、心配りの気持ちが広がり、障害者に対する気遣いが社内に浸透し、以前と比べて職場全体の人間関係が優しくなったと感じている。
障害者にとって他者の協力が必要な場面も少なからずある。
不慣れな職場生活で、そういう人達への支援はゼロからのスタートであったものの、仕事や人間関係等で挫折しないよう、自律した社会人となるよう精神的に気遣ってきた。
紆余曲折はあったものの、そうした陰の努力が実って、障害者も自覚と役割の中から自分も社会の一員として自律して社会に役立っているという存在感が醸成され、自信が着実に育ちつつある。
会社が掲げる「住み良い社会づくり」「明るい職場づくり」といった点が、地域経済、地域文化への貢献という形で着実に実りつつある中、鳥取高齢・障害者雇用支援センターより、障害者雇用優良事業所として独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構理事長努力賞表彰に推薦、受賞の連絡があった。
障害者雇用は間違いなく、職場に良い影響を与えている。
その効果は大きいと感じている。
![]() 表彰状授与 |
3. 今後の展望と課題
(1)共生の職場づくり
障害者には、障害のない者と同じことを求めても難しい点がある。
例えば内部障害者などは外見では分からないが、そうした点を周りの障害のない人達から理解を得なければならない。
基本は、その人にふさわしい仕事を選んで担当させていくことであり、周囲の理解が必要不可欠である。
そのためには、障害者の求める自己実現を良く理解し、求めているライフスタイルの向上を支援、その前提の一つになる仕事の充実をステップアップしていく支援の責務が雇用者側に課せられている。
障害者自身も一人の成長する人間として取り組んでいかねばならない。
心臓機能障害の社員には、冬場には足元にストーブを置くなどの配慮をし、様子を見ながら気遣いをしていた。
このような気遣いをするうちに、本人も体に負担になる力仕事は「これはできません」とはっきり言う動きも見られるようになった。
こちらの方が却って違和感はなく、できること、できないことをはっきりと言うことにより、自分の体をコントロールすることになり、周りも心配しなくて良いということになる。自己管理である。
作業量も障害のない社員と比べると劣るが、こうした点も周りの人や管理者が理解し、職場全体でスタッフへの啓発と理解も欠かせない。
(2)鳥取県施策に呼応
鳥取県は「障がいを知り、共に生きる」のスローガンのもと、障害者にやさしい県づくりを行っている。
その一つとして、鳥取県手話言語条例が全国に先駆けて施行され、本年は「あいサポート・アートとっとりフェスタ」が約4カ月にわたり開催されている。
当社は、鳥取県の動きと当社の障害者に対する基本的な考えを踏まえ、障害のない者と障害者が共生できるような職場を作りたいと社員教育も手掛けている。
その第一段として、もっと障害についてより広い知識を得るため、本社及び鳥取支店全従業員が「あいサポート研修」(変則勤務などに対応するため、5回実施)に参加することにより、障害の特性についての理解を深めた。
障害のない者も障害者も同じという視点、まわりから積極的な声かけなどのアプローチを行い、スタッフの一員であることに、自信をもたせるように心がけている。
こうした地道な実践活動を通じて、仕事がステップアップできるように仕事の内容も考えていくことが大切である。
(3)生産性向上と重量物作業の軽作業化
運送業は、商品の仕分け、商品の積み降ろし、運搬など重量物の扱いが基本となる。
そういう面から障害者就労にはマイナス面も少なくない、これを解決していくためには安全に配慮した機械設備の導入や器具・機材の使い勝手の良い改良による作業の軽量化、軽減化が求められる、また企業として生産性の課題も伴ってくる。
それらを推し進めるには観察力と技術力、設備投資が伴う。この点を今後解決していかなければ、障害者の成長やさらなる雇用を生み出していくことは困難となる。
これらの課題が解決できるまでは、運送業での障害者就労はPC業務や軽作業業務に限られてくる。
今後、こうした課題を何処と連携して、どのように改善していくかが障害者雇用の増加に繋がっていく。
(4)障害者職業生活相談員を配置
障害のない者も障害者も一緒になって、ともに学び合いながら、お客様に喜んで頂く運送業を目指して励んでいくことが障害者雇用をし続けるための条件となる。
こういう考えのもと、障害者に対する安心・安全の職場づくりをきちんと行っていくために、障害者の職業生活の充実を図ることが重要と認識し、職業生活全般にわたる相談・指導についての知識を習得すべく、平成26(2014)年10月の障害者職業生活相談員資格認定講習を受講し、障害者職業生活相談員として選任を計画している。
4. 障害者雇用のまとめ
障害者雇用に当たって、次の点を配慮してきたことが、円滑な職場づくりにつながっていると考えられる。
- ①障害者雇用の担当者を決める。
- ②社内で必要な障害者の従事業務の検討と可能性を検討する。
- ③働ける職務リストを用意して、ハローワークへ障害区分と仕事従事の可能性について相談する。
- ④採用手続き、面接、採用業務などの際、仕事の環境と仕事の内容を充分に説明する。
- ⑤現場で働く人々へ障害者雇用の必要性を説明し、職場内で障害の特性を情報提供する。
- ⑥障害の基本的な予兆・悪化のケースを習得し、連絡体制を整備する。
- ⑦障害者が従事する業務の適切な時間を段階的に設定する。
- ⑧周辺のスタッフは、日ごろから障害者に対する観察、声かけ、対応、フォローを行う。
- ⑨障害者は、自分の健康状態を把握し、調子の悪いときは遠慮せず申し出ること。
- ⑩周りのスタッフは極端に神経質にならない。
- ⑪かかりつけ医療機関への通院には配慮するとともに、障害者担当は医療機関との連携を図る。
- ⑫障害者職業生活相談員を選任し、より効果的な障害者雇用に結びつけていく。
今後、ダイバーシティ社会、ノーマライゼーションの時代を想定すると、障害のない者と障害者が職場で共生し、連携とコラボ(共同作業)をより前進させていくことが企業発展に繋がっていくと考えられる。
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