すべての皆様の心に「あかり」を灯したいという理念に支えられた事業所
- 事業所名
- 社会福祉法人博愛会 特別養護老人ホーム防府あかり園
- 所在地
- 山口県防府市
- 事業内容
- 特別養護老人ホーム他、介護保険サービス事業および公益事業
- 従業員数
- 99名(特別養護老人ホーム防府あかり園)
- うち障害者数
- 3名
障害 人数 従事業務 視覚障害 聴覚・言語障害 2 介護職、洗濯 肢体不自由 内部障害 知的障害 1 食器洗浄他 精神障害 発達障害 高次脳機能障害 難病等その他の障害 - 目次
![]() 特別養護老人ホーム防府あかり園外観 |
1. 事業所の概要
(1)特別養護老人ホーム防府あかり園
特別養護老人ホーム防府あかり園は、入所定員132名、ショートステイ定員10名の規模を有し、その運営主体は社会福祉法人博愛会である。
当法人は、山口県内の六つの地区(防府地区、宇部地区(片倉)、宇部西地区(際波)、山口地区、秋穂地区、鋳銭司地区)を中心に、地域から信頼される高齢者福祉サービスの向上に向けた事業を鋭意展開している。当法人は「障害者雇用は地域貢献の一環である」との方針のもと、積極的な障害者雇用に力を入れてきた。現時点での障害者雇用率は2.3%である(平成26(2014)年6月現在)。高齢者福祉サービスとともに、障害者雇用に関しても、地域のモデル的な社会福祉法人となった。
特別養護老人ホーム防府あかり園(以下「当園」という。)は、防府地区にある九つの事業所(特別養護老人ホーム防府あかり園、軽費老人ホーム防府温泉ホーム、通所介護事業所防府あかり園デイサービスセンター、防府あかり園在宅介護支援センター等)の拠点として、ご利用者、ご家族、そして地域の一人一人のニーズに添った高齢者福祉サービスに力を入れている。この「あかり園」という名称は、高齢者福祉サービスの活動を通し、事業所を取り巻くすべての皆様の心にあかりを灯したいという願いから生まれた。
(2)朗らかさに満ちた園
当園内の廊下を歩くと、業務にあたる数多くの職員から「こんにちは」という朗らかな声と笑顔が筆者に返ってきた。皆の心にあかりを灯したいという理念が、職員一人一人の姿からあたたかく伝わってくる。
![]() 防府あかり園に隣接している軽費老人ホーム 防府温泉ホーム |
2. 法人の方針としての障害者雇用
当園ホームでは障害のある従業員3名が勤務している。
当園の施設長の福嶋太郎氏と事務長の角田眞二氏に障害者雇用について話を伺った。
![]() 施設長の福嶋太郎氏(左)と事務長の角田眞二氏 |
「私たちは、障害に負けずに一生懸命頑張っている人々に手をさしのべる必要があると考えています。障害のある人を積極的に雇用することは、当法人の方針となっています。法定雇用率を十分オーバーするよう取り組んでいるところです」と福嶋施設長は語る。
「先日も、法人の理事長を囲んでの会合があり、そこにハローワークの職員を招いて学習会をしました。この場で、今後も障害者雇用を進めていくことを皆で確認したところです。」
角田事務長も「当法人にとって、障害者雇用は地域貢献の一環です。平成24(2012)年度以降、法定雇用率をクリアすることができました」と、これまでの歩みを語る。
また、福嶋施設長は「障害のある方々の就職活動にとって、ジョブコーチの果たす役割には、とても大きなものがありますね」と、ジョブコーチからの支援の意義を感慨深く語る。
「ジョブコーチは、障害のある本人だけでなく、その家族も支えていくという方針のもとで取り組みを続けています。ですから、何か問題が生じたときに、ジョブコーチが本人と家族の間に入ってくださると、両者の関係がとても円滑になるのです。また、当園の職員の悩みにも対応してくれます。」
当園で働く知的障害のある従業員は、就職の時点より、このジョブコーチからの支援を受け続けており(後述)、本人にも当園にも心強い存在となっている。ジョブコーチは、障害のある従業員、家族、事業所を支えることで、安定した就労を促していることが伺われる。
3. 3名の従業員への支援の様子
当園で働く障害のある従業員は、身体障害者(聴覚障害)2名と知的障害者1名である。3名への個別支援の様子をそれぞれ紹介しよう。
(1)Aさん(聴覚障害・身体障害者手帳「3級」判定)
Aさんは、両側混合性難聴のある女性である。現在、防府市内の自宅から自家用車で通勤している。Aさんは県内の私立高等学校を卒業の後、他の事業所に就職した。その後、要約筆記奉仕員の支援を受けてヘルパーの資格取得講座を受講し、2級の資格を取得した。その後、当園に就職し、介護職として既に13年の安定就労が続いている(平成26(2014)年7月現在)。
Aさんは補聴器を着用しており、他者との会話は可能である。また、相手の唇の動きを見て発話内容を理解する読唇により、周囲の人たちと意思疎通を図っている。そのため、園内では手話を使用していない。
![]() 利用者からのコールをPHSで感知し、利用者の個室に赴くAさん |
当園では、利用者10名を1ユニット(単位)とし、そこに5名の職員が対応するかたちをとっている。この5名の職員は相互に協力しつつ、24時間体制で利用者へのケアにあたっており、Aさんはその中の一人である。利用者の食事、入浴、排泄介助、行事の企画運営など、介護の内容は多岐にわたっているが、それら一つひとつに、Aさんはきびきびと対応している。園内では、利用者から時々ナースコールが入る。利用者がコールスイッチを押すと、コール音とともに廊下側のドア上部のランプが点灯するため、職員はその部屋を特定できる仕組みになっている。Aさんは、このコール音を感知できないこともあるため、利用者からのコールを機械振動に変えるPHSを常に腰にあてて携行している。そして、PHSの機械振動を感知すれば、Aさんはランプが点灯した部屋を特定し、入室して利用者へのケアにあたっている。
さて当園では、衛生管理のために職員はマスクを着用しているため、Aさんはミーティング等の場で相手の唇の動きを読み取りにくい。また、マスクを通した声はAさんに聞き取りにくい。そこで、そばにいる職員のノートに綴られたメモを横から読み取り、理解することもある。
![]() 職員を指揮する介護主任の能美智江氏 |
Aさんの上司である介護主任の能美智江氏は、目を細めつつ、Aさんの働きぶりを次のように語る。
「性格的にも明るいAさんは、自分から皆の中に入っていきます。当園の利用者さんの中には音声のはっきりしない方がおられますが、Aさんは読唇の力でその方の思いを理解しようとしています。」
筆者からAさんに「お仕事は大変ですか?」と問いかけてみたところ、Aさんは微笑みながら、「好きでこの仕事をやっています。自分では気づけないこともありますが、皆さんからのアドバイスのもとで働いています。皆さんからの支えあっての自分だと思っています」と、周囲の職員への感謝の言葉が返ってきた。
(2)Bさん(聴覚障害・身体障害者手帳「4級」判定)
Bさんは、両側感音性難聴のある女性である。現在、防府市内の自宅から電車と自転車で通勤している。Bさんは県内の公立中学校を卒業の後、他の事業所での勤務を経て、当園に就職した。既に8年の安定就労が続いている(平成26(2014)年7月現在)。利用者の食器の準備、洗浄、清掃、シーツ交換、そして利用者の話し相手などの役割をBさんは担っており、勤務時間は8時30分から17時30分までである。
Bさんは、Aさんと同じく、相手の唇の動きを見て発話内容を理解する読唇により、周囲の人たちと意思疎通を図っている。そのため、補聴器は着用せず、手話も使用していない。そこで、Bさんが読唇しやすいように、周囲の職員はBさんの前面に立ち、自身の唇をBさんに見えるよう配慮している。また、背後から急に声をかけられたような場合、Bさんはその声を感知できず、読唇も不可能なため、初対面の人(当園で研修する実習生など)に対しては、「私に後ろから声をかけないでください。前から話してください。」と事前に伝え、円滑な意思疎通が図れるようにしている。
また、衛生管理のためにマスクを着用している職員は、Bさんとの会話の時にはいったんマスクを外して話すようにしている。また、伝達内容によっては筆談を用いることもある。
![]() 昼食時に、利用者への配膳をするBさん |
介護主任の能美智江氏は、Bさんの働きぶりを次のように語る。
「当園の利用者さんのなかには、認知症ゆえにコミュニケーションをとりにくい方がおられますが、こうした方たちがBさんの前では不思議と落ち着かれるのです。Bさんには聴覚障害というハンディがあるゆえ、認知症の方々に優しい心情を抱くことができ、その心情が利用者さんに伝わるからではないでしょうか。」
筆者からBさんに、筆談で「お仕事で、大変なことや辛いことはありませんか?」と問いかけてみたところ、Bさんはすぐに、「周囲の皆さんが優しいから、辛いことはありません。年休もいただいています。だから、8年もこの仕事が続いているのだと思います。」と、Aさんと同じく、周囲の職員への感謝の言葉が返ってきた。
(3)Cさん(知的障害・療育手帳「B」判定)
Cさんは、県内の特別支援学校高等部の現場実習で当園の業務を体験し、卒業後に当園に就職することができた。勤務5年目(平成26(2014)年7月現在)を迎えたCさんは、防府市内の自宅から自家用車で通勤している。
Cさんは、利用者の食器の洗浄や、朝食・昼食の準備などの役割を担っている。勤務時間は8時30分から13時までである。
Cさんの業務を詳しく紹介しよう。
出勤すると園内の洗浄室で食器洗浄業務が始まる。大型の洗浄機から、利用者の湯飲み、茶碗、汁椀、皿、盆などが次々に流れ出てくる。それらを両手で集め、カゴに整然と並べ、満杯になると乾燥器に運び込む。同僚の女性と協力しながら、この洗浄作業が1時間以上続く。
![]() 食器洗浄に取り組むCさん | ![]() 洗浄した食器を乾燥器に入れるCさん |
食器洗浄が全て終了すると、Cさんは引き続き当園の近隣にある「通所介護事業所 防府あかり園デイサービスセンター」利用者への食事(昼食)準備の業務に移る。
まず、利用者一人ひとりの食事形態(ご飯、粥、常菜、きざみ食、ミキサー食、ペースト食など)とその必要数が記載された食事伝票が厨房に届くので、その伝票に記載された数値をCさんは室内のホワイトボードに転記する。続いて、食事を搬送する温冷配膳車の中の盆の上に、利用者の氏名と食事情報(食事形態、食材の好みなど)が記載されたカードを一枚一枚置く。これらにより厨房の職員全員が情報を共有できる。
![]() 食事伝票の数値をホワイトボードに転記するCさん | ![]() 食事情報が記載されたカードを盆の上に置くCさん |
以上の業務が全て終了すると、Cさんは、当園に隣接する「軽費老人ホーム 防府温泉ホーム」利用者への食事(昼食)準備の業務に移る。
![]() 利用者の盆に湯飲みや汁椀などを置くCさん |
食堂の棚には、利用者用の盆が整然と並んでいる。Cさんは盆の一つ一つに湯飲み、汁椀などを置いていく。
Cさんの上司である栄養課主任の小田澄江氏は、Cさんの働きぶりを次のように語る。
![]() 栄養課主任の小田澄江氏 |
「Cさんは、当園に就職して5年になりますが、この間に成長したと思います。初めの頃には、仕事を休みたいといった訴えがよくありましたが、近頃はなくなってきました。」
「また、『Cさん、もう少しこの仕事を続けてよ』などのなにげない周囲からの依頼や指示が、Cさんの心に重い負荷を与え、落ち込ませてしまうことが以前はありました。今では周囲の職員は言葉がけに気を遣っていますので、以前のような落ち込みは少なくなりました。」
Cさんが仕事上のミスをしたり、仕事の進み具合が遅いような時にも、当園ではCさんに対して、そのことに必要以上の言及をしないよう気をつけている。また、Cさんに対して矢継ぎ早に仕事の要求をしないように周囲は配慮している。
Cさんは、就職時からジョブコーチの支援を受けていた。今でも関係は続いているが、その支援は仕事上の内容よりも、心情面の内容にシフトしてきた。現在でも、Cさんは電話でジョブコーチに相談をもちかけることがあり、その度にコーチからの支援(アドバイス等)がなされている。ジョブコーチの存在は、Cさんの精神的安定にとって不可欠であり、安定就労を支える要因の一つになっているといえよう。
このCさんの特技は、陸上競技(100メートルなどの短距離走)である。仕事の終了後、市内にある陸上競技場を中心に、ほぼ毎日トレーニングに汗を流している。平成23~25年度の全国障害者スポーツ大会では、山口県選手団の一員として活躍し、見事メダルを獲得した。そして当園の職員にこのメダルを披露することもできた。陸上競技は、Cさんの就労生活を支える心の励みや潤いとなっていることが伺われる。
![]() Cさんが全国障害者スポーツ大会で獲得してきた金、銀、銅メダル |
4. 心にあかりを灯すという理念が、従業員を支えている事業所
周囲の上司や同僚からの心身両面の支えがあるがゆえの安定就労であろう。すべての皆様の心に「あかり」を灯す対応を理念に掲げてきた当園の実践は、当園の利用者のみならず、障害のある従業員の就労を継続的に支える取組に結実している。
特別養護老人ホーム防府あかり園では、きめ細かな支えのもとで従業員全員が今日も朗らかに働き続けている。そして、事業所としての社会的責任を果たす経営を今日も目指している。
アンケートのお願い
皆さまのお役に立てるホームページにしたいと考えていますので、アンケートへのご協力をお願いします。
なお、事例掲載企業、執筆者等へのお問い合わせや、事例掲載企業の採用情報に関するご質問をいただいても回答できませんので、あらかじめご了承ください。
※アンケートページは、外部サービスとしてMicrosoft社提供のMicrosoft Formsを使用しております。