「障害」ではなく、それぞれの特性を活かした仕事作り
- 事業所名
- 四国管財株式会社
- 所在地
- 高知県高知市
- 事業内容
- ビルメンテナンス業
- 従業員数
- 330名
- うち障害者数
- 8名
障害 人数 従事業務 視覚障害 聴覚・言語障害 2 病院・結婚式場の清掃 肢体不自由 1 本社清掃支援 内部障害 知的障害 2 病院・本社清掃支援 精神障害 3 病院の清掃 発達障害 高次脳機能障害 難病等その他の障害 - 目次
![]() 事業所外観 |
1. 事業所の概要、障害者雇用の経緯・理念
(1)事業所の概要
四国管財株式会社(以下「当社」という)は、清掃をメインに警備・設備業務といったビルメンテナンス、メディカルクラークや病棟アテンダント・夜間受付の代行など病院サポート業務等を行っている、創業52年の会社である。
「私達は自分達の夢の実現の手段として、四国管財において、お客様に、笑顔と挨拶と報連相と環境を意識した丁寧な仕事の実践により、自分を含め全ての人々に感動を提供いたします」という経営理念を基に、社員が働きやすい=仕事以外の個人的な悩みも相談しやすい職場を徹底的に追求している。
また、当社では、クレームを「ラッキーコール」と呼び、クレームが出るのは会社に問題があるのであって、社員個人が叱られるのではなく、会社が責任を取るという考えを社内外に何度も伝えてきた。そういった信頼関係のもと、社員とお客様から報告しやすい体制を構築し、今ではラッキーコール全体の70%が社員からの自己申告、30%を直接お客様からいただいている(統計学的にはクレームを実際に申告する人は1%と言われている)。そして、ひとつひとつのラッキーコールに誠実に対応した結果、新しい顧客の紹介や更なる業務拡大に繋がっている。
(2)障害者雇用の経緯
最初に障害者雇用に関心を持ったのは、社長が公益社団法人高知青年会議所の理事を務めていた平成12(2000)年に、肢体不自由者で車いすを利用している人を雇って欲しいという相談があり、高知青年会議所主催の障害者雇用の勉強会に参加したことがきっかけだった。
しかし雇い始め当初は、戸惑うこともあったという。
例えば、ある障害者を採用した時には、トイレ使用後に水を流さなかったり、頭がぶつかっても謝ることができなかったりと、業務以外のことでも問題にぶつかり、雇用の継続が難しかった。
また業務に関しても仕事の教え方などで、障害のある従業員と障害のない従業員が揉めることも少なくなかった。例えばある障害のある社員Aさんについては、次のようなことがあった。
Aさんは、障害のない社員Yさんとはよく衝突するが、別の社員Zさんとは楽しく仕事ができているようだった。社長がYさんとZさんの2人から話を聴くと、YさんとZさんのAさんに対する指導や助言の仕方に違いがあることがわかった。これはYさんの指導の仕方が下手だったわけではなく、どうやらYさんとZさんの年齢の違いに因るものらしい。YさんはAさんの「母親」の世代で、ZさんはAさんの「祖母」の世代なのだ。母親目線のYさんは、Aさんが早く一人前になれるようにと、Aさんに対してついつい言葉が厳しくなってしまい、祖母目線のZさんは、かわいい孫に対するようにAさんと接していた。そして、Aさんにとっては、Zさんの教え方の方が合っていたのである。
これは障害のある者と障害のない者の間だけの特別な話ではない。障害のない者同士にも相性があるのは自明であるし、Aさんとは別の障害のある社員にとっては、ZさんよりYさんのやり方の方が合って、仕事の効率が上がることもあるだろう。
また、人間同士の相性の良し悪しもあれば、人と仕事の相性もある。例えば、ダウン症候群のBさんは、たたむことが誰よりも丁寧なので、社内報『つもろう』の製本や洗濯・乾燥した後の業務用タオルをたたむことがBさんの仕事になっている。一方で社長は、ご自身は整理整頓が苦手で、Bさんのように人を気持ちよくさせる片付けはできないと言う。このことについて社長は次のように話す。
![]() ![]() 仕事中のBさんとBさんのたたんだタオル |
「当社では障害ではなく「特性」と認識し、呼んでいる。障害の有無に関わらず、障害も私が整理整頓が苦手なことと同様に、ひとりひとりの得手不得手と同じという認識だ。」
当社では障害は「障害」ではなく「特性」という認識を社員全員が持ち、仕事に関しても、個人個人の向き不向きを話し合いながら見極めている。つまり、障害者の有無に関わらず、入社後も働きながら、それぞれが各々の特性に合った、「あなたがいるから助かる」と思われるような仕事に就けるよう模索しているのだ。このように、当社では、温情ではない障害者雇用に日々挑戦し続けている。
2. 取り組みの内容
(1)取り組みの姿勢
当社は、障害者雇用を推進していこうという何か特別な取り組みは、これといってしていない。ただ入社希望の者や、社内外から雇えないかという相談があれば、産業カウンセラーの資格や障害者雇用のスキルを身に着けた社員が30分以上、本人とじっくり時間をかけて面接をすることにしている。
入社後は3日間の社内研修を通し、何のために仕事をするのかを理解し、社員同士で価値観を共有することを目的とし、個人個人の「夢」を書いたドリームカードを作る。当社の業務の中でその人自身の「仕事」を見つけ、何よりそれによって「夢」に近付いていくことができたなら長く働いていくだろうし、どうしてもその人の特性に合う仕事が無ければ、新たな職場を探すことになる。これは障害のない者を雇う場合と同様なのである。
(2)障害者の従事業務・工夫等
当社の主な業務は清掃である。いろいろな道具や技を駆使して、お客様の空間を掃除するが、それら用具の片付けは、掃除そのものと同じくらい手間がかかり重労働だ。
例えば、清掃用のモップである。清掃用モップは毎日150本以上、多い時は500本近く使用する。以前はそれを全てモップ洗い場に持ち帰り、手で洗浄・漂白を行っていたのだが、一本一本汚れをきれいに落とすとなると、体力は要るし時間も10本で10分かかる。
そこで、障害のある社員の1人を、現場の清掃スタッフの後方支援としてモップ洗い専門のスタッフに任命したところ、現場清掃スタッフの負担が大幅に減り、作業効率が向上した。次第に、お客様のビル内に専用のモップ洗い場を設けることもでき、お客様にとっては節水、当社にとっては現場スタッフの負担軽減、障害者にとっては仕事をして賃金を稼ぐことができ、全体にメリットがもたらされた。
また、当初は手作業だったモップ洗浄にジェットガンがついた高圧洗浄用のホースを使うようになったのだが、作業を担当する障害者から放水の勢いが強過ぎてモップが飛んでしまったりと使い勝手に難があるという相談を受け、すぐにそのジェットガンを改良した。その結果、さらなる効率の改善につながった。
このように清掃業務の一部を専門化することで、障害者の仕事の創出になった経験を活かし、他にも、モップやタオルを干すだけだったり、タオルをたたむだけの後方支援作業を、前述のダウン症候群のBさんのように、特性上、短時間でしか働けない障害者の仕事にしている。
![]() 後方支援でタオルを干している岡崎さん |
一方で、清掃の仕事は空間を清潔にすることはもちろんだが、単に掃除をするだけではプロフェッショナルとは言えない。例えば、笑顔や挨拶もなくただ黙々と掃除に集中していてお客様の仕事の邪魔になっているのに気付かなかったり、床に落ちていた紙をゴミだと思って捨てたら実は大事な書類だったりして、お客様に迷惑をかけたり不快な思いをさせてはならない。
お客様に快適に仕事をしていただけるようサポートすることが、当社の業務の目的である。そのためには、スタッフ全員が笑顔と挨拶を心懸け、お客様が電話中であれば掃除機を止めるなど気を配り、積極的にお客様とコミュニケーションを図ることが大事だ。
お客様とのコミュニケーションが取れているということはつまり、お客様から遠慮なく相談やラッキーコールをいただけるということである。ラッキーコールは現場の失敗へのお叱りの言葉であると同時に、問題改善のチャンスでもある。多くのラッキーコールをいただくためには、お客様と当社スタッフの間に信頼関係を構築しなければならず、信頼関係を築くには、その問題が次も起こらないよう、当社の対処が迅速である必要がある。言えばすぐに改善されるとお客様に認識してもらえれば、次もラッキーコールをいただけるからだ。
ラッキーコールをいただいた時には、その対応を早くするために、ラッキーコールを受け付けるお客様係と現場スタッフの間でミーティングをする。ミーティングでは報告・連絡・相談(ホウ・レン・ソウ)を徹底し、再発防止のための解決策を一緒に考えている。
もちろんそのミーティングには、現場で働いている聴覚に障害のある社員も、読唇術やボディランゲージ、筆談も交えて参加し、積極的に意見を交わしている。障害者も臆さず意見できるということは、それだけ社員同士も信頼し合っている証拠だ。
繰り返しになるが、信頼し合うということは、何でも相談できるということである。先に挙げたモップ洗浄を担当しているCさんは、うつ病を患っているのだが、気持ちがしんどくなってきたらきちんとスタッフに伝えてくれる。すると、上司はすぐにCさんの勤務時間を調整するので、Cさんが急に欠勤して他のスタッフに迷惑が掛かることはないし、Cさんが休むことに余計な負担を感じることも軽減されている。
Cさんだけでなく、当社では社員それぞれの悩みを、社員みんなで本気で相談に乗る。これは、会社の資本である社員の、仕事に関することはもちろん友人関係や家庭の悩みに至るまでケアをするのが会社だという社長の信念があり、それが社内に浸透しているからである。
3. 取り組みの効果と今後の展望
こうして、社員一人一人が気兼ねなくお互いに相談し合えるようになると、障害者の退職は少なくなり、障害のない社員の障害者に対する偏見もなくなった。そして次第に他者への配慮が自然とできるようになり、障害者と障害のない社員間のサポートも円滑になっていき、お客様から感謝の言葉をいただくことも多くなった。
また、聴覚に障害のある社員、岡野智子さんは今年度の『アビリンピック高知大会』のビルクリーニング競技に初めて参加した。これまで、自身が日頃から業務で磨いてきた技術に加え、他の社員も協力して大会前日まで何度もトレーニングを積み、岡野さんは大会に臨んだ。大会当日、岡野さんには内緒で作成した、社員全員の気持ちがこもった大きな横断幕を社長自らも掲げ、業務のため来られなかった他の社員の分まで応援した。
そうした結果、岡野さんは見事、金賞を受賞し、これまでに自身が培った技術に対する自信をより深めた。また会社としても、社内で改めて表彰を行うなど、岡野さんへのサポートと喜びを分かち合ったことを通じ、社員同士の結びつきも改めて強く感じることができた。
![]() アビリンピック競技中
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![]() 横断幕
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ビルメンテナンス業界も、労働者の人手不足は課題になっているが、障害者雇用に関しては、先にも述べたとおり、障害者雇用促進法の改正により法定雇用率が上がったからといって、特別視するつもりはない。希望や相談があれば、その都度対応していく。
年々、件数は減っているがまだまだラッキーコールをたくさんいただくし、未熟な組織ではあるが、これからも社長含め社員全員が「特性」を活かした仕事を続けていき、お客様の快適さを追求していく所存だ。
障害者助成金等担当相談員 濱口
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