障害者が障害者のために設立した企業
~障害に対する固定概念を捨て、ひとりの個人として向き合う~
- 事業所名
- 株式会社障がい者つくし更生会
- 所在地
- 福岡県大野城市
- 事業内容
- 不燃性一般廃棄物中間処理施設全般の運転・管理等
- 従業員数
- 38名
- うち障害者数
- 31名
障害 人数 従事業務 視覚障害 聴覚・言語障害 4 不燃性ゴミの選別作業、クレーン及び機械選別時機械操作 肢体不自由 17 ゴミの持込み時の誘導・説明、不燃性ゴミの選別作業、クレーン及び機械選別時機械操作、残渣処理、資源物や可燃物の搬出作業、事務 内部障害 1 不燃性ゴミの選別作業、クレーン及び機械選別時機械操作 知的障害 4 不燃性ゴミの選別作業、資源物や可燃物の搬出作業 精神障害 4 不燃性ゴミの選別作業、夜間帯のゴミの持込み時の誘導 発達障害 1 不燃性ゴミの選別作業 高次脳機能障害 難病等その他の障害 - 目次
![]() 本社屋外観 | ![]() 工場外観及び処分場 |
1. 事業所の概要、事業所設立の経緯
(1)事業所の概要
- 事業所の特徴
株式会社障がい者つくし更生会(以下「つくし更生会」という。)は、職につくことの難しかった障害者のために、仕事を創り出し、働く場を確保するために設立された企業である。昭和59(1984)年3月に設立され、今年平成26(2014)年で30年目を迎えた。
春日市と大野城市より委託を受け、不燃性一般廃棄物中間処理施設の運転・管理を行っている。従業員のほとんどが障害者であり、さらにその多くが業務に必要な資格を有する。また、障害のある従業員の障害種別は、聴覚障害、肢体不自由、内部障害、知的障害、精神障害、発達障害とさまざまであり、うち8人が重度障害者である。
- 設立趣旨・使命
つくし更生会は、その設立趣旨を「障がい者が自ら雇用の場を創造・開拓し、以って障がい者の自立更生を図る」とし、実践してきた。これは自身も障害者であるが故に、就職することができなかった現在顧問を務める小早川氏の実体験から、障害者が働く会社を自ら立ち上げたことに端を発する。
また、「障がいがあっても、物心両面の環境が整えば、一人前の仕事ができる。障がい者と健常者は一体となれる。それを証明し伝えること」を使命として掲げ、日々その証明のために一丸となって取り組んでいる。
*「」はつくし更生会概要の資料より抜粋。
(2)事業所設立の経緯
顧問の小早川氏は、20代で重度の結核を患い、治療のため片側の肋骨を6本切除するという大手術を受けた。その効果もあり病状は回復したが、かわりに左上肢機能障害が残ってしまった。長い闘病生活の末、病気も完治し就職活動を始めるが、元結核患者ということと、左上肢機能障害があるということで、当時小早川氏を雇ってくれる企業はなかった。このような経験を通して、もう誰にも自分と同じような苦しみやつらさを味わってほしくないとの気持ちが芽生え、小早川氏は障害者雇用に携わることになるのである。
小早川氏が60歳を迎えようとする直前、春日市と大野城市で不燃物処理工場を作る計画が持ち上がり、そのことを耳にした小早川氏は、早速両市に働きかける。障害者による手選別方式を用いた環境にやさしい処理施設の建設を提案し、障害者の働く場を作ってほしいと陳情したのである。その陳情を受けたそれぞれの市長は参考になりそうな他県施設へ視察に行く、議会を説得するなどして、その陳情を受け入れるとともに、小早川氏たちに手選別方式を用いた処理業務を委託することを決定したのである。そこで急遽、業務委託を受けるための組織作りが必要となり、株式会社身体障害者つくし更生会(後に現社名に変更)が設立された。
設立に当たり、障害者やその家族、支援者に呼びかけ1,000万円の資金を調達した。障害者の雇用の場を確保するのが目的の会社であるため、利益が出ても配当はない。それでも志を同じくする多くの賛同者を得ることができ、無事に会社を興すことができたのである。ここに、自己利益のためではなく、障害者のためにと考える小早川氏の人望の厚さと信念を感じることができる。
2. 障害者の従事内容
(1)資源処理ライン
- 第一選別班(下肢障害者、聴覚障害者、精神障害者、発達障害者)
市内より回収された指定のゴミ袋を破り、中身を取り出し、指定ゴミ袋や混入してしまっている可燃性のものを除去する。さらにアルミ缶とビン以外の不燃物も取り除き、第二選別班へ送る。
- 第二選別班(上肢障害者、下肢障害者、知的障害者、聴覚障害者、内部障害者)
ここではビンの色選別を行う。無色、茶、その他(黒、青、緑)と色ごとに担当を決め、割れて小さくなったものもなるべく回収する。また、中身の入っているビンについては、別取りをして、中身を出してから色選別を行う。
- ペットボトル選別工場(知的障害者、その他シルバー人材センターより18名)
ペットボトルと白色トレーの選別を行う。ペットボトルは選別後に圧縮し、保管する。
(2)破砕処理ライン
- プラットホーム(下肢障害者)
処理施設に直接持ち込む市民に対し、選別の種類・方法、当施設で取扱いできない物等の説明を行うと同時に、資源ゴミを適切に取り扱ってもらえるよう啓発活動も行っている。
- 第三選別班(聴覚障害者、精神障害者、知的障害者)
「その他の不燃物」「陶器・金属類」の選別を行う。ここでは指定ゴミ袋に収まる大きさのトースターやアイロン、電気コード、電気製品などを扱うことが多い。
- 中央操作室(下肢障害者、聴覚障害者)
クレーンや機械選別時の機械操作を行う。クレーンで不燃物を掴み、再資源化するために機械で細かく砕く作業を行う。クレーンや破砕機械の操作は、主に障害者が担当している。また、こうした機械のメンテナンスも障害者を含む従業員で行い、日ごろから自分たちで管理することで、機械の不調にも気づくことができ、機械の故障や事故を未然に防ぐ努力を行っている。
- 搬出班(下肢障害者、上肢障害者)
各部署で選別された不燃物を各貯溜場に運んだり、各専門業者への搬出を行う。さらに、処理して出た残渣(リサイクルできない状態の不燃物)を最終処分場に運び、埋め立てや整地を行う。埋め立てや整地にショベルカーなどの重機を使用する必要があるが、これらの運転・管理も障害者が資格を取得し行っている。
(3)総務
- 総務部総務課(下肢障害者)
事務を行う。
![]() 第一選別班 | ![]() 中央操作室 | ![]() 搬出班 |
3. 具体的な取組とその効果
(1)固定概念を捨てる
専務取締役の那波氏に障害者雇用の取組についてお話を伺った。その中で見学者からの質問について話題になった。「なぜ障害種別ごとに部署を割り当てないのか」「障害者でも資格が取れるのか」等についてよく質問を受けるとのこと。障害種別ごとに部署を割り当てるということは、作業の構造化や支援をする際に障害種別ごとに担当が決まっている方が支援しやすいという雇用者側、支援する専門職側の発想である。また、障害者だから資格が取れないということも、私たちの思い込みによるところが大きい。確かに能力によって難しいこともあるが、逆に言えば能力があれば障害は関係ないことも多いのである。現につくし更生会の障害をもつ従業員31名のうち、23名が資格を有しており、そのことを証明している。
固定概念を捨てるということは、我々の中に存在する思い込みや枠組みを壊し、取り払うことである。
那波氏は見学者からの質問に対し「なぜ障害種別ごとに割り当てた方がいいのですか」「なぜ障害者は資格が取れないと思うのですか」と逆に質問を返すという。見学者の多くはその質問に対し戸惑い、やがて自分の中にある固定概念に気づくのである。
障害者だからできない、障害があるから難しいといった思い込みをすることで、個人としての能力を客観的に判断することが難しくなっていることはないだろうか。
那波氏の「我々は専門職ではないですから。素人でもこれだけできるのです」という言葉が印象的である。それは“障害”に焦点を当てるのではなく、“障害をもつ個人”に焦点を当てることで、その人がもつ能力をより引き出すことができているのではないだろうか。
(2)ひとりの個人として向き合い、良好な人間関係を築く
つくし更生会で最も大切にしていることは、障害の有無に関係なく、ひとりの個人として向き合い、関わることである。
精神障害者であるI氏は、つくし更生会に入社して5年目の従業員である。つくし更生会に入社する前は、いくつかの会社に精神障害者であることを隠して就職し、対人トラブルを起こしたり、薬を飲んでいることが会社にばれて退職を迫られたりしたこともあったという。その度に将来に対する不安や孤独感を味わったと話す。このままではどのような仕事、職場であっても続けることが難しいと考えたI氏は、障害者であることを隠さずに就職することを決め、その時にハローワークで見つけたのがつくし更生会であった。
入社した当時は、「誰も自分のことを分かってくれない」という気持ちから他の従業員に対し攻撃的、批判的な言動がありトラブルになることもあったという。そのような時、ひとりの聴覚障害をもつ従業員から「誰も分かってくれないと君は言うけれど、逆に君は僕の障害を理解してくれているのか」と言われ、はっとしたとのこと。障害を抱えた仲間が頑張って仕事をしている姿を改めて見て、周りに負担をかけていることに気づいたという。それから他の従業員の障害について勉強し、手話も学ぶようになった。
I氏によると、これまでの人生の中でこんなにも自分のことを気にかけて根気強く接してくれた経験はほかにないという。従業員の多くが障害を抱え、それぞれに大変さ、困難さを経験している。それまでは「自分だけ」と被害的に物事を捉えていたが、周りの従業員の働く姿を見て、またI氏と関わろうとしてくれる周りの姿勢から、「みんなが見てくれている」と感じることができ、やっと自分の居場所を見つけることができたと語る。さらにI氏は、「毎日、仕事があることが幸せ」「自分の存在意義を見つけることができた」と話す。責任のある仕事を担っているという想いと、他者から認められるという経験を通して、自信とやりがい、仕事の楽しさを取り戻すことができたようだ。
このようにつくし更生会では、ひとりひとりの従業員と根気強く向き合うことで個人のやる気を引き出し、能力を最大限に発揮してもらえるよう環境作りに取り組んでいる。那波氏は「どんな職場であっても、良好な人間関係が築けていなかったら従業員は気持ちよく働けないですよね」と語る。業務の効率化を図るためにも従業員がチームとして機能していることが重要であり、そのためには日ごろから円滑な人間関係を築いていることが必要なのだ。
(3)見学者や実習生の積極的な受け入れ
つくし更生会では積極的に見学者や実習生の受け入れを行っている。とくに実習生の受け入れについては、実習生を指導することで従業員のスキルアップにつながるので、力を入れている。実習生の指導については、まず従業員一名を指導係とし、その指導係と那波氏で指導する。指導する中で指導係となる従業員自らが自分の得意なこと、苦手なことを自覚するとともに、実習生が成長し、変化していく過程を見ることで、職業人としての自覚や自信につながっていく。
また、見学者の対応も部署ごとに障害のある従業員が担当しており、業務内容の説明や質問への応答を行っている。自信にあふれた笑顔や仕事に誇りを持つ姿勢からは、障害者ということを一切感じさせず、見学者の多くが驚くそうだ。また、障害者自身も、多くの人に自分たちの働く姿を見てもらい、評価を受けることで仕事に対する誇りと自尊心の回復につながっている。
つくし更生会への見学者は、障害者、保護者、支援者、教育者、企業、一般と多岐にわたっている。中には障害者雇用を検討する企業もあり、障害者と障害のない者が共に働く姿を見て、取組の考え方を知ることで障害者の可能性を感じ大切なことに気づかされている。
4. 今後の課題と展望
処理施設で行う事業が増え、その都度、委託業務が増えるごとに従業員数も増えてきたつくし更生会、那波氏に今後の展望について伺うと、意外な答えが返ってきた。それは、この処理施設や企業としての規模を拡大することは考えていないというものであった。施設や企業規模を拡大するよりも、見学者や実習生の受け入れを積極的に行い、つくし更生会が行っている取組を広く世間に知ってもらい役に立つこと、従業員教育に力点を置き、企業としての価値を高めることが、つくし更生会がこれからも必要とされ、企業として生き残っていく術だと話す。
先のことを考えた上で目の前のことを着実にこなし業績を上げてきたつくし更生会の今後に、行政だけでなく、障害者、保護者、支援者らの大きな期待が寄せられている。
アンケートのお願い
皆さまのお役に立てるホームページにしたいと考えていますので、アンケートへのご協力をお願いします。
なお、事例掲載企業、執筆者等へのお問い合わせや、事例掲載企業の採用情報に関するご質問をいただいても回答できませんので、あらかじめご了承ください。
※アンケートページは、外部サービスとしてMicrosoft社提供のMicrosoft Formsを使用しております。