障害者が長く働き続けることができる企業を目指して
- 事業所名
- 藤原製麺株式会社
- 所在地
- 北海道旭川市
- 事業内容
- うどん、そば、ラーメン等麺類の製造及び販売
- 従業員数
- 196名
- うち障害者数
- 7名
障害 人数 従事業務 視覚障害 聴覚・言語障害 1(1) 麺の包装ライン 肢体不自由 内部障害 知的障害 6(1) 麺の包装ライン 精神障害 発達障害 高次脳機能障害 難病等その他の障害 ( )内は、うち重度の人数
- 目次
![]() 事業所外観 |
1. 事業所の概要、経営理念、障害者雇用の経緯
(1)事業所の概要
藤原製麺株式会社は、昭和23(1948)年に乾麺の製造業として旭川市で創業、昭和32(1957)年 株式会社に組織変更する。創業以来66年各種麺類の製造・販売業として成長を遂げている。
株式会社に組織変更してから5年後(昭和37(1962)年)に、工場を新設してラーメンの製造を始める。その後、商品開発を進め、茹麺、生麺、乾燥ラーメン、調理麺など多様な麺の製造・販売も行っている。この間、麺の増産のため製麺工場の新築・移転を行い、現在、旭川市内に4か所の工場(第1、第2、第5、第6工場)がある。
昭和59(1984)年に札幌営業所を開設したのを皮切りに、2支店(道内1、本州1)1営業所(道内)を構えている。
平成5(1993)年、株式会社永谷園の「煮込みラーメンシリーズ」の製造協力企業となり、同社が扱う乾燥ラーメンも製造することになる。そして、平成20(2008)年に株式会社永谷園グループ傘下に入る。
販売先は北海道内のコンビニエンスストア、業務専門店(食堂)、空港の売店、デパート、スーパーマーケット、食品問屋などであるが、今後は、本州—関東・東海・関西方面を重点—に軸足を移し生麺及び乾燥ラーメンの販路を広げていくことを考えている。
(2)経営理念
会社の経営理念として、食を通じておいしいものを食卓に提供し消費者から愛される企業を目ざしている。「誠実」を基本理念として、独自の旭川ラーメンの味を守りながら、地域社会に貢献できるように、北海道に根ざした安心安全な商品作りをモットーにしている。
(3)障害者雇用の経緯
障害者雇用の経緯については資料が無く、当時の担当者もいない状況で詳しくは不明であるが、創業者自身が障害者雇用に積極的であり、経営理念にある地域社会への貢献や会社の社会的責任の考えが背景にあったことは確かであるとのこと。
事実、昭和37(1962)年に設立された旭川市職親会(「心身障害者等の社会的自立を図るため、その雇用の拡大と定着を推進すること」を目的として設立)の創立20周年記念誌「明るい希望」(昭和57(1982)年発行)に当社がすでに会員として載っている。旭川市職親会からは、それ以前の資料が手に入らず確かなことはわからないが、創業以来、資料のある昭和57(1982)年まで30年以上にわたり障害者の雇用に関心を持ち、活動をしてきていることがわかる。そして、その以後も障害者雇用が続けられている。
また、当社は勤続年数の長い障害者が多いのが特徴といえるが、現在(平成26(2014)年)雇用する障害者7名の内、勤続年数が23年の1名を始め、4名がそれぞれ19年、18年、15年、12年である。
7名のうち勤続年数が現在23年になる人が、平成24(2012)年に旭川市職親会の優良従業員賞表彰の20年表彰で表彰されている。表彰された人は、「これまで20年間仕事ができたのも会社・親の協力と指導のもとできました」と旭川市職親会50周年記念誌にお礼の言葉を載せている。
また、当社は長年の障害者雇用の実績により、平成25(2013)年11月に「平成25年度障害者雇用優良事業所 独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構理事長努力賞」を受賞している。
2. 具体的な取組
(1)障害者の業務・職場配置
障害者は、茹麺・生麺製造を行っている第2工場に次のAさん、Bさんの2名、乾燥ラーメン製造の第5工場に次のCさんからGさんの5名が配置されている。第2・第5工場ともに、それぞれ50名以上の従業員が働いており、第5工場では1日最高で5万食の乾燥ラーメンを製造している。
Aさん(女性): | 知的障害(重度)平成3(1991)年9月入社、43歳。第2工場で袋詰めされた麺のパッケージ作業に従事。 |
Bさん(女性): | 知的障害 平成14(2002)年4月入社 44歳。第2工場で袋詰めされた麺のパッケージ作業に従事。 |
Cさん(男性): | 知的障害 平成8(1996)年10月入社 38歳。第5工場の乾燥ラーメンの包装ラインで梱包段ボール箱の搬送業務に従事。 |
Dさん(男性): | 知的障害 平成7(1995)年3月入社 38歳。第5工場の乾燥ラーメンの包装ラインで梱包段ボール箱の搬送業務に従事。 |
Eさん(女性): | 聴覚障害(重度)平成11(1999)年7月入社 37歳。系列会社より異動。第5工場で乾燥ラーメンの包装ラインの業務に従事。 |
Fさん(男性): | 知的障害 平成25(2013)年4月入社 19歳。特別支援学校3年生のときの職場実習を経て、卒業後入社。第5工場の乾燥ラーメンの包装ラインで梱包段ボール箱の搬送業務に従事。 |
Gさん(男性): | 知的障害 平成21(2009)年10月入社 36歳。派遣社員として仕事をしていたが、本人が当社での雇用を希望し採用された。採用後知的障害であることが判明した。第5工場の乾燥ラーメンの包装ラインで梱包段ボール箱の搬送業務に従事。 |
(2)業務上の配慮や処遇
ア.職場配置への配慮等
工場での作業はきまりきった仕事が多いが、いくつかの部署を経験させて障害者それぞれの個性や特性とマッチした仕事に就かせるように配慮し、判断を伴うような作業や機械操作などは避けて、麺入れなどの単純作業へ配置している。5人から6人のグループに障害者を1名配置し、障害のある従業員と障害のない従業員との人数的バランスをとり、事故防止と障害のない従業員との連携・融合を目指している。
以前、障害のある従業員の工場内の作業配置を1ヶ月ごとに転換していたことがあるが、作業についていけないなどの相談を受けたことがあり、現在は本人の意見を尊重した形をとっている。
障害者の雇用に当たり作業環境や設備の工夫は特段ないが、工場内は機械化が進んでいるため聴覚障害者への配慮として、機械の操作時・停止時の声かけが聞こえないため目視確認やコミュニケーションを十分行うようにし、注意喚起をしている。
イ.通勤・勤務時間等
障害者全員が自宅から通勤し、一人暮らしの人が2名、その他の5名は家族と暮らしている。通勤方法は、公共交通機関を利用している人、自家用車通勤の人、当社の巡回バスを利用している人、親の送迎などである。勤務時間は8:30から17:30までの1日8時間勤務である。ラーメンの生産量が増える秋口から冬場は深夜業務があり、自家用車通勤の障害者には従事してもらっている。健康診断は年1回実施、深夜業務従事者には年2回実施している。
ウ.作業指導・雇用管理
障害者の作業指導、雇用管理はそれぞれの工場長が行うこととしている。問題が発生した時や困った時は直接工場長へ相談する体制になっている。忙しい時や精神状態が不安定な時、障害者の中には言葉で相手に説明することや上手な対応ができず、奇声を発したり物にあたったりする行動が見られることもある。また、障害者同士のトラブルも散見される。そのような時は、障害のない従業員の理解を求め、その都度解決するようにしている。障害者の職場適応に向けた支援がまだ整っていなかった時代から、工場長がジョブコーチの役割をして、障害者が仕事や人間関係に適応できる体制が整備されて、今日に至っていると考えられる。
賃金、定期昇給、賞与の支給率については、障害者と障害のない従業員は同じであり、障害があることで差はつけていない。障害のない従業員からの不満が無いわけでは無いが、障害者の雇用や障害者の職場定着に積極的に取組んでいる企業であるとの外部の評価が企業のイメージアップにつながり、それが会社内の理解につながると考えている。
また、年に2~3回、業務が忙しくない時期にホテルで親睦会を開催している。旭川市内で働く従業員が70~80名出席し、障害者もほとんどの人が参加し、食事やゲームを楽しんでいる。
3. 現場の声
それぞれの工場で働く障害者の様子を見せていただく。工場は衛生面に非常に気を遣っており、工場で働いている人はもちろん、工場へ出入りする人もすべて白衣、帽子、マスクを着け、靴も履き替える。手を消毒し、白衣に粘着ローラをかけて埃や髪の毛を取り生産現場へ入る。
![]() 工場外観(ア) | ![]() 工場外観(イ) |
(1)第2工場の様子
茹麺、生麺製造の第2工場で働くBさんについて、同工場で働く2名の障害者の指導に当たっている工場長から話を聞く。
【Bさんの作業風景】
機械が作動するとプラスチックの容器がベルトコンベアの上に置かれていく。その容器に袋詰めされたラーメンとタレを詰めていくのがBさんの仕事である。この仕事はBさんが希望した仕事で、本年(平成26(2014)年)の5月16日から従事している。
![]() 作業中の様子(ア) |
【工場長から】
Bさんは欠勤がなく、真面目に仕事をする。静かで自分から話さないタイプであるが、努力家である。5~6人で作っている梱包ラインの中の年上の人がBさんを良く面倒を見てくれている。
以前、Bさんは、メモを書いた紙きれを作業着のポケットなどにたくさん持っていた。それを見て、工場内の全従業員にA6版のノートを配って、そのノートに仕事で気付いたことがあればメモするよう指導してみた。今ではBさんも仕事の内容やわからないこと、自分に必要なこと、気づいたことなどをそのノートに記入し備忘録などとして利用している。
(2)第5工場の様子
乾燥ラーメン製造の第5工場で働くFさんは、特別支援学校の卒業生で、職場実習を経て採用される。雇用管理を任されている第5工場の工場長は、第2工場の工場長として障害者の指導の経験が3年あり、本年(平成26(2014)年)4月1日に同工場長として着任した方である。
【Fさんの作業風景】
第5工場で生産される乾燥ラーメンは生ラーメンを2日間自然乾燥させたもので、その乾燥ラーメンを収納したラックが並んでいる工場内でFさんは働く。
包装された乾燥ラーメンが入った梱包段ボール箱が流れてくる。商品として出荷される最終段階のものである。Fさんはその段ボール箱の重さを測っている。段ボール箱の重さを測ることで、箱の中に入っているラーメンの数量が正しいかを確認しているのである。そして、確認された段ボール箱を台車に積んで製造ラインから離れた場所へ運んでいく。
![]() 作業中の様子(イ) |
【Fさんのコメント】
両親と3人暮らしで、大学生の兄がいる。自宅は工場の近くにあり、夏は自転車で10分、冬は徒歩で20分ほどかけて通勤している。仕事をしていてうれしいときは給料を貰うとき。給料の内3万円は食費として家に入れ、貯金もしている。仕事が休みのときはパソコンでのゲームや、ジョギング、学生のときサッカーをしていたので、障害者福祉センターの体育館でフットサルをする。仕事で困ったことがあった時は、職場の先輩に昼休みなどを利用して相談する。梱包段ボール箱を持って行ってはいけないところへ持って行った失敗もあったが、今の仕事を頑張り将来は別の作業もいろいろやってみたい。
![]() インタビュー中のFさん |
【工場長から】
Fさんは明るく素直な性格で工場内のだれからも愛されている。朝、Fさんが元気な声で挨拶をして職場に入って来ると、職場がいっぺんに明るく、良い雰囲気になる。作業能力が高く、社会性も備わっており、Fさんを高く評価している。本人の希望があれば、今後いろいろな仕事を経験させたい。
4. 総括
当社には聴覚障害者と知的障害者が働いているが、いくつかの部署を経験させて障害者それぞれの個性や特性に適合した業務に配置し、また障害者の意見を取り入れた作業配置にすることにより、障害者が長く働き続けることができる体制ができている。
障害者には働きやすい職場であるとともに、当社にとっては安定的な労働者の確保につながっている。障害のない従業員にとっても、障害者と共に働くことにより障害者の抱えている困難さや生活のしづらさを自然と理解することができるようになる。障害などの多様な特性のある人への配慮を当たり前と考える社風が職場の雰囲気に良い影響を与えているといえる。
一般に、聴覚障害者は情報伝達の難しさが業務遂行や人間関係構築の壁になると言われる。しかし、当社で働く聴覚障害のEさんは、コミュニケーションは口話で行い、作業能力が非常に高いと評価されている。Eさん自身の努力とEさんの障害特性を理解した職場の配慮がコミュニケーションの壁を低くしていると考える。
今回の取材で協力していただいた総務部長、総務課長、工場長の皆さんは、職場や仕事に適応し、職場内のコミュニケーションもうまくとることができ、大きな声で気持ちの良い挨拶ができるFさんをとても高く評価している。また、特別支援学校の進路指導の教師が時々巡回に来ることも、障害者の職場定着支援の一つになっていると思われる。特別支援学校卒業生のFさんの雇用は当社の今後の障害者雇用に、より前向きな姿勢をもたらしたといえる。
今後、発達障害、精神障害を持った人についての雇用拡大を考えているのかお聞きしたところ、指示を受けて行動ができ、作業内容と特性が一致し、職場になじむことができ、コミュニケーションがとれる、などの資質があれば障害の種別は問題にしないとのことで、今後も障害者雇用に前向きな企業として歩んでいきたいとのことであった。
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