就労支援事業所との連携で雇用拡大を実現
- 事業所名
- 太平ビルサービス株式会社(青森)
- 所在地
- 青森県青森市
- 事業内容
- 総合ビル管理(設備保守管理、清掃、警備、建設、マンション管理他)
- 従業員数
- 1,565名
- うち障害者数
- 25名
障害 人数 従事業務 視覚障害 聴覚・言語障害 1 清掃業務 肢体不自由 8 清掃業務 内部障害 知的障害 13 清掃業務、設備管理 精神障害 3 清掃業務 発達障害 高次脳機能障害 難病等その他の障害 - 目次
1. 事業所の概要
太平ビルサービス株式会社は総本社を東京に置き、全国8地域に36の支店(うち現地法人6)、84の営業所のネットワークを活かして、高度化・複雑化するビル機能を掌握したエキスパートによる設備保守管理、施設それぞれの仕様・用途に応じた適切な清掃業務による施設環境の維持管理、ハイテクノロジーとマンパワーを一体化した高品質の安全を提供する警備を初めとしてあらゆるニーズに対応している「トータルソリューション・カンパニー」であり、「お客さま側の立場で お客さま第一主義に」「より美しく誠実に」を企業理念とし運営している。
青森県にある現地法人太平ビルサービス株式会社(以下「当社」という)は、昭和35(1960)年10月1日創業、昭和53(1978)年1月4日設立である。本社を青森市に置き、県内の1支店、今回事例紹介する六ヶ所営業所を含む6営業所を統括している。
当社では、平成22(2010)年度の県内特別支援学校で行われた「キャリア教育充実事業」に協力し、青森第一高等養護学校(肢体不自由・知的障害)、弘前第一養護学校(知的障害)、青森若葉養護学校(病弱・虚弱)において清掃業務の実習を行い、生徒たちの就労意識の高揚、就労意欲の向上に一役を果たした。清掃業務の実習は現在も継続して行われている。
また、独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構青森障害者職業センターが青森県と共催で行っているあおもりアビリンピック(青森県障害者技能競技大会)にも、一般社団法人青森県ビルメンテナンス協会の一員として積極的に係わり、競技・審判委員を派遣するとともに、雇用障害者を選手として参加させるなど、障害者の雇用促進、雇用支援事業には大いに貢献している。
今回は、平成24(2012)年度において当社の実雇用率の大幅な改善に貢献した六ヶ所営業所における事例について取材した。同営業所においては、六ヶ所げんねん企画株式会社が運営する「スパハウスろっかぽっか」での施設内清掃作業及び設備点検業務、並びに六ヶ所村が運営する「泊ふれあいセンター」では浴場部分に係る指定管理を受託し、その2か所の清掃作業に就く障害者を雇用している。
2. 障害者雇用の経緯と雇用状況
当社の障害者雇用は、平成13(2001)年、身体障害者1名、知的障害者1名を採用したことから始まり、その後、毎年、障害者雇用を行い、雇用数を増やしてきた。しかし、法定雇用率に達することは無く推移してきた。そのような折の平成20(2008)年、総本社からグループ会社全体に対して、障害者雇用を積極的に進めるよう方針が打ち出された。当社においても、その方針に従って、平成20(2008)年には4名、翌21(2009)年には3名を雇用し、平成21(2009)年度の納付金申告では除外率の適用もあって納付金申告額がゼロ円となる申告を果たした。
しかし、平成22(2010)年度に退職者が多くあったこと、短時間労働者の算入の開始、除外率の10%削減により除外率がゼロとなったことの影響を大きく受け、その後補充したものの退職者もあり、法定雇用率を下回って推移した。
平成24(2012)年に入り、前述した「スパハウスろっかぽっか」と「泊ふれあいセンター」の指定管理業務等を受託することができ、当社は両施設内の清掃作業及び設備点検業務を行うことになった。また、それぞれ委託側の積極的な理解もあり、清掃業務に障害者を雇用することになった。
障害者の採用については、村内にある社会福祉法人松緑福祉会が運営する障害者就労継続支援B型事業所「かけはし」(以下「かけはし」)での取組が、「泊ふれあいセンター」の委託元である六ヶ所村から紹介され、同事業所の協力・支援を受けることになった。「かけはし」では、従前から村内の地域交流ホームなどでの清掃業務を施設外就労の一つとしていて、利用者に対して清掃業務を指導しており、基本を既に身につけている利用者が多かった。
当社担当者は「かけはし」と連携し、受託業務に必要な能力、技能を把握し、指導しなければならない点などを確認するために、初めに、「かけはし」利用者の中から、4名を選抜し、2名、2名の交代で実習を行った。その結果、4名とも充分な能力を有すると判断され、一日4時間午前中の業務を組み立て採用した。
その後、1名の退職があったものの、当初に採用した4名の業務能力が高いことから、平成25(2013)年には障害者の雇用数を拡大し業務を行うこととして、さらに3名を採用し、2ヶ所の現場に配属し、一般パート職員と共に業務を進める体制を整えた。さらに、平成26(2014)年11月から2名が増員され、現在、「かけはし」から8名が雇用され2か所の現場で勤務している。
3. 取組と業務内容
「ろっかぽっか」では、一般パート職員4人と障害者4名が勤務している。一般パート職員はそれぞれ責任領域の清掃を担当しているが、障害者4名には、チームとしての作業が組み立てられている。
最初、全員で下駄箱を一斉に拭き清掃し、その後、2名は掃除機で床清掃、2名は自動販売機、ソファー、椅子、棚・テーブル等の拭き作業を行い、最後に全員で休憩室の座布団を整える作業を行い、施設の開場時刻前に終了する工程としている。
また、「泊ふれあいセンター」では、障害者4名で脱衣所の清掃管理を主に行っていて、男女に分かれて脱衣場の床面、洗面所、脱衣かごを拭く掃除を30分毎に行っている。特に、営業時間内は利用客の邪魔にならないよう気を配りながら業務を進めている。
8名の業務担当は原則一定であるが、それぞれの現場の休業日と勤務シフトの都合上、週に一度、勤務場所を交代し、補完しあっている。
共に働く一般パート職員は、当初は障害者への業務指導を行っていたが、現在では確認のみとなっている。また、一般パート職員からの評価は挨拶が一番のポイントとなっていて、挨拶がいいと関係性が良くなり業務面でも良い影響を及ぼしている。当社では、現場での業務の品質は高いものを求めているが、短い期間で全ての障害者はその要求に応えており、今では無くてはならない戦力となっている。
さらにここまでになるには「かけはし」からの一般パート職員に対する説明会や情報交換会の開催によるところが大きく、障害についての理解を促進するとともに、就労状況、問題点の把握に努めてきている。さらに、8名のうち7名は「かけはし」の運営母体である社会福祉法人松緑福祉会が運営する3か所のグループホームで生活しながら勤務していることから、生活面の支援が行われており、結果として就労と生活の両面からの就労継続支援に積極的に関わっており、その効果は大きいものがある。
4. 取組の効果、まとめ
(1)取組の効果
就職後は、得た賃金で買い物や貯金を始め、休日などの余暇の過ごしかたが多彩になってきた。なかには、ボーリングの愛好者同士でクラブを結成し楽しむなど、潤いのある生活を満喫するようになっている。
そのなかで、特に大きく変化のあったのは、現在48歳になるTMさんである。TMさんは、かつて就労していた職場で、コミュニケーションがうまくとれず不適応状態になり、退職を余儀なくされたことが心の傷となっていた。そのことで、自分の気持ちを表現することが益々できなくなり、一般就労ができず在宅生活をしながら「かけはし」を利用していた。その後、在宅からグループホームに生活の場を移し、生活のリズムを整えながら就労の機会を窺っていた。そして、平成26(2014)年11月に当社の増員にあたって採用された。業務はグループホームの仲間と一緒ということもあり、コミュニケーションでの不適応は無く、仕事の成果が見え、仲間同志で認め合えることで働くことのモチベーションが高まり、仕事が楽しく生き生きとした表情で業務に当たるようになってきた。
仕事に就き、仕事が認められることが、これほどにも人を変えるものかと、これまでの状況に心を痛めていた家族が一番喜んでいたということであった。
(2)まとめ
清掃業務が委託され、障害者を派遣する場合、その委託元の理解がなかなか得られないという状況の中で、当社が「泊ふれあいセンター」施設の指定管理を受諾した際に、村内の公共施設での清掃業務を施設外就労として取組み、村当局との協力関係が成立していた「かけはし」を村から紹介されたことは、福祉的就労と企業就労の間を取り持つ役割を行政機関が持っていることを示す一つの好事例である。
また、採用された清掃員が当該「かけはし」の運営法人のグループホームを利用しており、そこでは利用者同士の人間関係が成立している上に、体調、コミュニケーション等への支援体制が築かれていること。さらに、当社の一般職員に対して障害理解のために説明会や話し合いを「かけはし」が協力しながら行っていることは、障害者が生活をしながら就労を継続していくにあたっての支援機関の役割を存分に示している。
さらに、当該業務の工程が固定化されており、反復して行われるうちに習熟度が増し、その品質が向上し、その業務結果が評価を受けていることは、知的障害者に対する業務指示・指導の好事例であり、職務創出のあり方の一つの方法を示している。
以上のように、この事例は、当社が推し進めている障害者雇用促進、雇用支援事業への惜しまない協力姿勢と発注側の障害者雇用への理解、福祉的就労へ関わっている行政、社会福祉法人等の福祉サービス提供者の熱意が相まっており、地域社会全体が障害者雇用に取組むことが大切であることを教えてくれた。
執筆者: | 青森高齢・障害者雇用支援センター 八木澤 充 |
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