地域社会における共育・共働・共生の実現を目指して
- 事業所名
- 一般社団法人日々木の森
障害者就労継続支援A型事業所「農園カフェ日々木」 - 所在地
- 青森県十和田市
- 事業内容
- (法人全体)障害者就労継続支援A型事業所、障害者就労継続支援B型事業所、児童デイサービス
- 従業員数
- 27名
(支援スタッフ14名(就労支援部門8名、児童デイサービス部門6名)) - うち障害者数
- 13名(A型(雇用))
障害 人数 従事業務 視覚障害 聴覚・言語障害 肢体不自由 2 調理、外庭作業 内部障害 知的障害 1 調理 精神障害 10 接客全般、清掃、調理 発達障害 高次脳機能障害 難病等その他の障害 - 目次
![]() 建物前景 | ![]() カフェ内観 |
1. 事業所の概要、障害者雇用の経緯
(1)事業所の概要
十和田市の郊外に築60年余りの古民家の外観、柱組みをそのまま生かし、内装や照明をモダンなものに改装した木造平屋の建物が一般社団法人日々木の森が運営している「農園カフェ日々木」(以下「カフェ」)である。また、隣接してNPO法人農楽郷hibikiが運営する温室、その向こうにカシス畑とブルーベリー農園が広がっている。
カフェでは、立崎代表以下2名の野菜ソムリエが中心となって、野菜たっぷりで旬を味わえるよう工夫されたオリジナルメニューが提供され、そのおいしさとヘルシーさは評判を呼んでいる。中でも「農園かご盛りランチ」や「野菜スイーツプチケーキセット」は幅広い年齢層から支持される人気商品であり、来客数、販売額ともに年々増加している。
また、カフェでは障害者就労継続支援A型事業所として障害者を雇用し就労継続を支援するほか、法人の理念である「地域社会における共育・共働・共生の実現を目指します」を具現するためにさまざまな活動が展開されており、より多く人々にカフェを認識してもらい、人々の健康や生活向上に貢献したいという思いで運営されている。
平成25(2013)年度には、それまでの活動とその成果が評価され、青森県で実施しているコミュニティビジネス表彰で優秀賞、さらには農山漁村で地域の特産物を活用した起業活動などを通じて地域づくりに貢献している優秀な事例として、第23回食アメニティコンテストにおいて最高賞の農林水産大臣賞を受賞している。
![]() 農園かご盛りランチ
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![]() プチケーキセット
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- ア.沿革
- 平成19(2007)年10月
- 農園カフェ日々木オープン
- 平成20(2008)年 6月
- 農園カフェ日々木において就労支援事業開始
- 平成22(2010)年 4月
- 一般社団法人日々木の森が就労支援事業を引き継ぐ
- 平成25(2013)年 5月
- 放課後等児童デイサービス「てみる」開所
- イ.地域との連携の取組ここで提供されるメニューに使用される野菜の多くは、地域の農家グループから採れたてのものを仕入れている。また、旬を味わえるように、野菜ソムリエが農家等の意見を取り入れ、その内容を2週間毎に変更している。他に、地区のJA野菜センター、農園、野菜センターなどから食材を仕入れ、地域の農業、畜産業との連携を大事にし、安心で安全なメニューを提供している。また、十和田市(とわだ産品販売戦略課)からは新商品開発の支援を受け、逆に当市にはカフェを食育指導の場として提供し、県上北県民局地域農林水産部とは、グリーンツーリズムのルート作成にあたってカフェを食事、体験の場として協力を、十和田市観光協会とは観光商品(観光ルート)の作成(観光ルートに採用)など、様々に、人、地域、企業、行政と連携しながら価値の高いものづくりに努めながら、カフェの存在、役割を積極的にアピールしている。
- ウ.就労継続支援事業所としての取組カフェの運営にあたっては、障害者の就労支援、就労の場の提供という観点から、障害者就労継続支援A型事業所と同B型事業所を開設している。A型事業所は主としてカフェホールにおける清掃・接客・食器洗い、厨房における調理などを担当し、B型事業所は食品加工(お菓子作り、ジャム作り、漬物づくり等)を担当し、二つの事業所が関わりながら「農園カフェ日々木」は運営されている。地元の漬物名人の指導を受け商品を開発したり、県外の著名なパティシエの指導を受け(「テミルプロジェクト」の活用)新たにスウィーツを創作しカフェや売店で提供するなど、他分野で活躍する人の力を借りながら、商品価値を高めるとともに、従業員の技術、能力を高める取組を行っている。また、平成25(2013)年には、障害児童の放課後等デイサービス「てみる」を開所し、支援事業の幅を広げている。
(2)障害者雇用の経緯
隣接するブルーベリー園の農園主が平成15(2003)年にブルーベリーとカシスの栽培を始め、その後、地域の職親会を通して障害者の支援を開始した。現在はNPO法人農楽郷hibikiとして就労継続支援A型事業所と同B型事業所の指定を受け、農作業やジャムなどの加工作業等を行っている。当カフェは平成19(2007)年のオープン時は、障害のない人で運営を開始したのであるが、隣接する農園の活動を通して障害者の雇用機会が乏しい状況に少しでも寄与したいと、就労支援の場としてカフェを活用することとした。
現在、A型事業所の利用者として精神障害者10名、知的障害者1名、身体障害者2名、の計13名の障害者が雇用契約を結び働いている。
2. 障害者の業務内容と支援の工夫
(1)業務内容
障害者の業務は、カフェスタッフとして、店内清掃、開店準備、閉店後片付け、接客全般(案内、オーダー取り、配膳・下膳、デザート盛付け)を行っている。また、食器洗い、片付け、調理、調理補助などの厨房業務を行っている。
![]() ホール 開店前準備 | ![]() 厨房 開店仕込み |
![]() レジ前カウンター | ![]() 配膳 オーダー取り |
その他に、電話対応、予約受付、消耗品、食材買出し、在庫確認、商品発注、パソコン入力作業などの事務管理的な業務を行っている。
(2)就労支援の取組
仕事の上では、A型利用者(従業員)と職員(支援者)という垣根(意識)を捨てて、職員(支援者)はできるだけ裏方に回り、相手を信頼して「仕事を任せる」「できるまで待つ」勇気と忍耐力を持ってあたるようにしている。
業務の進め方については、一通りの業務マニュアルを作成した上で、メンバー間のコミュニケーションを大事にする意味から、メンバー同士の力を頼り、互いに仕事を教えあいながら進めている。
利用者の理解力や理解の仕方は様々であり、本人が上手くできないのは支援者に問題がある場合があるので、「伝え方」「指示の出し方」を工夫している。
始めは本人の障害特性の把握を行うが、あまり特性にとらわれないように思い込みは捨て、本人自身と向き合う姿勢を大事にしている。一つの事例として、「接客はできない、絶対にやらない」と言ってきた利用者がいたが、接客の様子を見ているうちに、やれる自信がもてるようになったのか、あるいは忙しくて自らやらなくてはならないと思ったのか、2、3ヶ月もすると自ら「やってみます」と申し出て、自然と接客をするようになった。そのことはそれでも良いのではと考えている。
また、仕事を細分化し、本人が力を発揮しやすい仕事を組み合わせて、仕事に対する自信をもってもらえるようにしている。仕事を組み合わせることで、利用者が、どの業務でも、どの時間帯でも対応できるようになっている。今まで、遅刻等の問題はない。もし、体調が悪い場合などは、必ず連絡を入れている。シフト表にはその日の団体客予約などが書かれているため、体調が多少悪くても、自分が抜けると他の方が大変になると考え、頑張って出勤してくる。その結果、やりきった自分に自信が持て、来てよかったと話す利用者が多い。出てきても通常業務に入れない利用者には、個室で別作業を用意するようにしている。
出勤が安定しない利用者に対しては、本人の得意な作業を用意し、モチベーションを向上させることを心掛けている。また、病院との連携や毎日記入する日誌などで体調が悪くならないように未然に防ぐ環境作りに取組んでいる。
(まとめ)
就労経験の無い、ないしは失敗した利用者は、経験が乏しい故に働く自信が育っておらず、また働くことへの動機づけがなされていない人が、多く見られる。その利用者を事業所の戦力として育て上げるためには、これまでの保護された環境から、自分自身が率先して仕事に取組めるようにしてあげることが必要である。
福祉的配慮が強いと、居心地がよくなりすぎ、真剣さが失われてくることが多いので、頼りになる戦力としてメンバーを育てる意識を持ち常に一般企業に就労した場合を見据えての支援を心がけている。
そのために、“あれもこれも”ではなく“ひとつずつ”、慌てない・焦らない・諦めない姿勢で向かい合い、必要とされる自分を実感させるために、何よりもまず本人の能力を評価してあげることが大事と考えて支援している。
以上のことを踏まえながら、支援のポイントを以下に集約して取組んでいる。
- ア.福祉的配慮から頼りになる戦力化への視点の転換
- イ.無いものねだりからあるもの探し
- ウ.障害を知る、障害者を知る(想い・不安・不満)
⇒本人を知る(本人の持つ障害を含めて) - エ.できないこと以外はちゃんとできる。できないと決め付けない。
- オ.本気で働きたい人を選ぶ。
- カ.チャンスの提供と弛まぬ動機付けをする。
- キ.時間と手間を惜しまない。
- ク.彼らの成長を確信する。
3. まとめと今後の展望
当カフェのさまざまな取組の根底にある思いについて、立崎代表は次のように語ってくれた。
「人はなぜ働くのでしょうか、働き続けることができるのでしょうか、生活のため、お金を稼ぐため、もちろんそれもありますが、ありがとうと言われること、お客様の笑顔を見て、人の役に立っていると思うからではないでしょうか。働くことが楽しいと思ったときはありませんか、これが『働く喜び』です。障害者の賃金向上に取組むのも、彼らがやりたいと思えるような仕事を作るのも、障害者が幸せに働けるようにする手段です。もちろん、それは障害のある、なしにかかわらず、すべての人が目指すべき働き方ではないでしょうか。障害のある人が『働く』環境をつくっていくためには、支援者自身が、プロとしてサポートするのはもちろんのこと、他分野の様々なプロの方に『足りないところ』や『もっとこうすればいいのに・・・』のところをサポートしてもらい、人、地域、企業、行政と連携しながら価値の高いものづくりやサービスを目指すことを大切と考えています。そして、より多くの地元の人々や観光客に『農園カフェ日々木』を認識してもらい、来客数を増やし、人々の健康や、地域の雇用及び障害者の就労に貢献したいと考えています。」
農園カフェ日々木の森には、立崎代表をはじめとするスタッフの皆さんの熱意が満ち溢れ、テーブルには、その象徴ともいえる「農園かご盛りランチ」と「野菜スイーツプチケーキセット」がおかれていた。
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