事業所名

社会福祉法人やよい福祉会  特別養護老人ホーム「コアトレース厨川」

所在地

岩手県盛岡市

事業内容

特別養護老人施設、ショートステイ、居宅介護支援、デイサービスなど

従業員数

54名（コアトレース厨川の従業員数、パートタイム職員を含む。）

うち障害者数

3名

 

障害	人数	従事業務
視覚障害
聴覚・言語障害
肢体不自由
内部障害
知的障害	3	施設内の清掃、行事等におけるスタッフのサポート等
精神障害
発達障害
高次脳機能障害
難病等その他の障害

その他

障害者職業生活相談員

目次

1. 事業所の概要、障害者雇用の経緯
2. 仕事の内容、取組と効果
3. 今後の課題、障害者の雇用を検討している企業へのアドバイス

事業所外観

1. 事業所の概要、障害者雇用の経緯

（1）事業所の概要

北上川のほとりに建つ「コアトレース厨川」は、社会福祉法人やよい福祉会が運営する特別養護老人ホーム（以下「特養ホーム」という。）で、特養ホームへの入所、ショートステイの受け入れといった施設サービスのほか、居宅介護支援やデイサービスといった在宅サービスも行っている。

法人設立は平成17（2005）年11月で、特養ホームのオープンは翌平成18（2006）年10月である。

「心をこめて、心を尽くして、心を伝える」を基本理念に、「介護が必要になっても、自分らしく生きたい」という利用者の意志・人格を尊重した、自立的な日常生活を送るための介護サービスの提供を目的としている。居室はすべて個室で、3階建の施設にショートステイ7床を含む全60床を設置している。スタッフは、パートタイム職員を含め54名で、うち3名の障害者が職員として働いている。

（2）障害者雇用の経緯

現在働いている3名の障害者は、軽〜中度の知的障害者である。年齢と性別の内訳は28歳（男性）、29歳（男性）、30歳（女性）となっている。主に特養ホームのリビングやトイレ、交流室など共用スペースの清掃を担当している。

障害者雇用のきっかけは、3階建60床という施設の規模からみて、介護スタッフだけで清掃業務をまかなうのは難しいと判断したことと、清掃サービス会社に入ってもらうという選択肢もあったが、福祉施設を運営する社会福祉法人として、障害者の自立を支援したい、との考えから障害者雇用を検討することにした。

そこで、社会福祉法人同士のつながりがあり、盛岡市内で特別養護老人ホームや障害者支援施設を運営している「社会福祉法人千晶会」に相談。千晶会の事業所のひとつである知的障害者授産施設「夢つむぎ城南」を介して働いてくれる人を推薦してもらうこととなった。「夢つむぎ城南」に仕事の内容、希望する人柄や基礎的能力（挨拶や返事ができる、まじめに取り組める人など）を伝え、推薦してもらったのが、現在も勤務している28歳の男性である。

開所当初は利用者の数もそれほど多くなかったため、同時期に知人を介し雇い入れた身体障害者（片手が不自由）の50代男性を清掃主任に据え、2人体制で業務を行っていた。平成19（2007）年に居室が満床となったことから、翌平成20（2008）年に20代男性1人を追加採用し、3人体制に。その後50代男性は定年退職、平成22（2010）年に30代女性（当時は20代）を採用し、現在のメンバーとなった。

2. 仕事の内容、取組と効果

（1）仕事の内容

特養ホームの1階にはエントランス、職員室、医務室、地域交流室などがあり、利用者の居室は2階と3階にある。「居室10床＋リビング、トイレ、リネン室」を1ユニットとして、各階に3ユニット、計6のユニットが配置されている構造で、障害者スタッフは各ユニットのリビングやトイレ、1階エントランス、地域交流室といった「共有スペース」を中心に清掃を行い、行事があるときは会場設営や後片付けなども行う。なお、各居室内の清掃については介護担当のスタッフが行っている。

「その日の体調や気分によって、仕事のスピードや精度に差が出るときもありますが、基本的には皆真面目に仕事に取り組んでいます」と施設長の久保文雄さんは語る。また、一生懸命に取り組んでいる姿が、他のスタッフ達へのいい刺激になっているそうだ。

【主な清掃箇所】

1階地域交流室

ユニット内リビング

ユニット内トイレ

（2）取組と効果

開所と同時に障害者を雇い入れたが、特養ホームは当初からフル稼働だったわけではない。「試運転」も兼ね1ヶ月1ユニットのペースで徐々に利用者を増やしていったため、清掃を担当する障害者スタッフも、少しずつ仕事を覚え、慣れていくことができたのではないか、と久保施設長は振り返る。

指示をどのように伝えればいいか、ミスをしたときにどう接するかなど対応面については、「夢つむぎ城南」からも採用前に事前にアドバイスを受けたが、実際は現場で試行錯誤を繰り返しながら学ぶことの方が大きかったという。 例えば、複数のことを一度に指示したため、そのうちのいくつかが記憶から抜けてしまうことがよくあった。またそれを「やってなかったの？」というような言い回しで確認したため、必要以上に「責められた」と感じてしまい、自信を失わせてしまったこともあった。こうした経験を踏まえ、「指示は1つずつ伝える」、「ネガティブな言葉を使わず、できたところを褒め、感謝を伝える」などを心がけている。

「何より、きれいになったね、助かったよ、といった言葉はとても大きな励みになるようです。表情も明るくなりますね」と久保施設長。褒められることで自信が付き、仕事へのモチベーションが向上。それが表情にも現れ、職場全体の雰囲気を良くすることにもつながっていくと言う。

今は、始業前に「今日の目標を確認」し「誰が、どこを、いつまでに清掃するか」など、やらなければいけない仕事の内容を「見える化」した「作業分担表」、「清掃チェック表」を作成し、それを確認してから仕事に入っている。さらに3人の上司である担当職員（「障害者職業生活相談員」資格認定者）が「業務日誌」で、その日の作業内容や本人たちの様子、気になったことなどを書き出し、仕事の内容や量は適切か、変更や調整をした方が良いかなどについて検討している。「障害者のスタッフに変化を求めるより、彼らができることに合わせて仕組みを見直すことが必要です」と久保施設長は語る。

清掃箇所をリストにし、作業内容を「見える化」している。

3. 今後の課題、障害者の雇用を検討している企業へのアドバイス

（1）今後の課題

障害者に限ったことではないが、異動や退職といった人間関係の変化や、上下関係（特に勤続年数が短い方が年上だった場合など）に戸惑いやストレスを感じてしまうことも少なくない。加えて3人というのは「2対1」という構図になりやすく、さらに男性2人女性1人であることも影響して、女性スタッフが他の2人から辛く当たられる、といったことがあった。

こういった人間関係のストレスから仕事を休みがちになり、休んだ気まずさからますます仕事に行き辛くなる、という悪循環に陥ることも考えられるため、3人でいるときの様子や個々の表情に異変がないか見守り、必要とあれば担当職員が間に入り双方の話を聞くなどしている。それでも改善できない場合は、「夢つなぎ城南」に相談しアドバイスを受けることもあるという。対人コミュニケーションが苦手な傾向にある知的障害者同士が、お互いにストレスなく働ける関係をどう構築していくかが、今後の課題でもある。

また、障害のないスタッフとの関係については、忘年会などの行事に参加したり、職場で会話をするなど比較的良好である一方、「メールアドレスを交換するなど、個人的にコンタクトを取り合うことは注意が必要です」と久保施設長は指摘する。メールの返事が遅い、メールが来ないといった理由で精神的に不安定になり、それがトラブルに発展する恐れもあるからだという。禁止ではないため個人の判断に任せているが「断りきれない」というスタッフもなかにはいる。

3人とも30歳前後になり、恋愛や結婚を考える年頃でもある。そういった相談ごとに乗ったり、見守ったりもしていきたい、という一方で、周りとの「適切な距離感」をどう保つかも、また考えなければいけない課題であるとのことであった。

（2）障害者の雇用を検討している企業へのアドバイス

知的障害者は急に予定が変わることや、その場で判断することが苦手であり、清掃のように「何をするか」が分かりやすい仕事が向いている。清掃は単純作業、誰でもできる、と思われがちだが、手順やコツなど自分なりの創意工夫ができる奥深い仕事でもあり、また、清掃が行き届いているかどうかで施設の印象が決まる、重要な部署でもある。そういう意味でも、清掃を担う障害者スタッフは大事な施設の一員として大きな役割を担っているといえる。

久保施設長は、そのことをきちんと伝え「きれいにしてくれてありがとう」という感謝の言葉を添えることで、障害者も誇りを持って働くことができるし、その一生懸命な姿が、障害のない職員を含む周りのスタッフにも刺激を与えてくれていると言う。障害の特性やその人の個性を引き出す「適材適所」は、障害者の自立支援だけではなく職場の「いい循環」を生みだす可能性も持っている。