「特別扱い」はせず、一社会人としての成長をサポートする
![]() 事業所外観 |
1. 事業所の内容
(1)事業所の内容
社会福祉法人千晶会(以下「当会」という。)は、昭和60(1985)年に法人設立認可を受け、翌昭和61(1986)年10月、盛岡市上太田に「精神薄弱者更生施設太田の園」を開設(その後、法改正により「精神薄弱者更生施設」は「知的障害者更生施設」そして「障害者支援施設」へ改称)。昭和63(1988)年には「特別養護老人ホーム千年苑」を開設し、現在は、「太田の園」をはじめとする障害者支援施設と「千年苑」を中心とする高齢者ケア施設に加え、障害者・高齢者向けの支援事業をひとつに集約した複合施設「夢つむぎ城南」「夢つむぎ三ツ割」など、盛岡市内を中心に12施設を運営している。
当会の基本理念は、「子供から高齢者まで、弱い立場にある人をも含めて皆で支えあう、人にやさしい社会づくりを目指し、地域に愛される法人となる」である。
(2)障害者は特別な存在ではない
当会では、「障害者支援」と「高齢者支援」の二事業を運営している。
「『介護を必要とする』という視点で捉えれば、高齢者も障害者も同じであるといえます。」
そう話すのは、当会の西﨑多尋理事長。岩手県内で発行されている身体障害者手帳の取得者のうち、およそ70%は65歳以上の高齢者で、18歳未満の「障害児」は2%にも満たないという。障害のない幼少時を過ごし、事故や病気をしても、障害にならず過ごすことができたとしても、「人はいずれ年を重ね介護が必要になることがある」という。しかし、年を重ね介護が必要になった高齢者が身体障害者手帳を持っていても、高齢者(やその家族)の多くは、自分(やその家族である高齢者)のことを「障害者」とは認めたがらないのだという。
西﨑理事長は次のように話す。
「多くの人びとにとって障害者は、自分とはかけ離れた、違う世界にいる存在のように感じているのでしょう。障害をもつことになった人は特別な存在ではないのだということを、広く知っていただきたい。私たちは一人ひとり、性格や能力の違いがあります。『障害のある、なし』だけに囚われず、それぞれが異なる個性を持って生きています。千晶会では、障害者を支援するだけでなく、障害を持たない人にもそのことを伝えていきたいと考えています。」
こうした思いを形にしたのが、平成16(2004)年に開設した複合施設「夢つむぎ城南」である。1階にデイサービスなどの高齢者の支援施設、2階には就労移行支援、就労継続支援などの障害者支援施設が入居している。また、地域住民が気軽に利用できる喫茶室や会議室も設け、障害者と高齢者、そして地域の人びとがゆるやかにつながり、上記のことを、ことばで表現しなくとも理解していただくことを目的に設立した。
同じ考え方で平成26(2014)年11月には、盛岡市内の三ツ割に「夢つむぎ三ツ割」を開設した。こちらも「高齢者デイサービス施設」「居宅介護支援事業所」「放課後等デイサービス」「障害者のグループホーム」からなっている。
![]() 夢つむぎ城南 |
2. 障害者雇用の経緯
当会では現在、次に紹介するAさん~Fさんまで、6名の障害者が職員として勤務している。
(1)初めの雇用
初めに雇用したのは、障害者支援施設「太田の園」に入居(利用)していた女性3人であった(高齢になったため、現在は3人とも退職)。障害者の就労移行支援なども行っている事業所として「まずは自分のところで」と平成7(1995)年より雇用した。3人は採用の前年から1年間の実習を行い、適性や仕事内容を検討したうえで、施設内の掃除や洗濯を担当する職員として採用した。
(2)現在勤務する障害者
ア.Aさん
Aさんは現在働いている6名のうち、一番勤務期間が長い。Aさんは、知的障害のある(B判定)40代の男性で、平成10(1998)年に「太田の園」職員として採用された。Aさんは「太田の園」利用者の職場実習先である農場に赴き、実習助手及び利用者の引率を担当している。Aさんはもともと「太田の園」の利用者で、当時は無断外出などさまざまな課題を抱えていたが、家族の努力と職員の根気づよい支援で徐々に行動が落ち着いてきたという。職場実習で体験した農業に適性があると判断したこと、ちょうど実習助手を雇用しようと考えていたタイミングも重なったことから採用になった。
イ.Bさん
Bさんは、知的障害のある(B判定)30代後半の男性で、Aさんと同じく「太田の園」でクリーニング(洗濯)の仕事を担当している。平成11(1999)年、公共職業安定所に出した求人を見て応募し採用された。他所でのクリーニング業務経験もあり、1日400kgもの洗濯物を手際よくこなす。作業マニュアルの通りに行動するだけでなく、時間があるときは機械のメンテナンスをするなど、周りの状況を見て考え、行動する能力もある。「彼がいなければこの業務は回らないのでは」と担当者が語るほど、居なくてはならない存在である。
ウ.Cさん
同じく「太田の園」には、子どもの頃から下肢障害により車いすを利用している60代後半男性、Cさんも働いている。以前はシステム会社に勤務していたCさんは、平成18(2006)年に採用された。若手の多い「太田の園」の職員にとって、頼りになる存在である。事務を中心に担当していたが、豊富な人生経験や同じ「障害者」の視点に基づいたアドバイスができる面を期待され、平成26(2014)年11月からは相談支援専門員に任用された。利用者にとっても頼りがいのある相談相手だ。
エ.Dさん・Eさん
「太田の園」の隣に建つ「特別養護老人ホーム千年苑」では、30代前半の女性Dさんと30代後半の男性Eさんの二人が働いている。どちらも知的障害者(B判定)で、複合施設「夢つむぎ城南」の就労支援事業所のOBである。Dさんは平成22(2010)年、Eさんは平成25(2013)年に採用された。
施設内の清掃や衣類等のクリーニング(洗濯)担当として、近隣に住む女性職員をリーダーに、3人で業務をこなしている。「とても働き者」と評価が高く、施設の入居者(高齢者)とにこやかに話をすることもあるという。また、知的障害者は一般的に「突発的なことに対応するのが苦手」と言われるが、このふたりの場合は、作業の途中でほかの作業の指示を出しても、経験を重ねてきたことでパニックになることはないという。
オ.Fさん
6人目に紹介するFさんは、「夢つむぎ城南」で働く20代後半の女性である。特別支援学校高等部を卒業後、ここに就職した。高校在学中に当会が主催した「3級ヘルパー研修」を受講し、資格を取得した頑張り屋である。その後「特別養護老人ホーム千年苑」へ介護職員として採用されたが「もっと幅広い業務ができるのでは」という事業所の判断から、「夢つむぎ城南」の喫茶部門へ異動になった。お店での接客、店頭で販売するコーヒーの豆挽きや計量のほか、移動販売先で売り子をする利用者たちを取りまとめるリーダーなど、一人何役もこなす。最近では車の免許も取得したという。
![]() クリーニング業務 | ![]() 夢つむぎ城南(喫茶) |
3. 障害者が持つ可能性
これまで障害者を雇い入れたことのない事業所は「接し方がわからない」「何をしてもらったらいいかわからない」「どんなトラブルや課題が出てくるか見当がつかない」といった「わからない」ことによる不安を抱えるところが多いのではないだろうか。
その点で言えば、当会は障害者支援施設としてスタートし、障害者向けの就労支援事業等も行っているため、障害者(主に知的障害)への接し方や留意点などについての知識や経験が豊富である。一般企業等ほかの事業所が障害者を雇用するのとは、ハードルの高さが違うのかもしれない。
しかし「障害者は特別な存在ではない」と西﨑多尋理事長が話したように、障害者も障害のない人も、同じように得意なこと、苦手なことを持ち、他者との関わりの中で悩み、葛藤しながら成長していくひとりの人間である。「障害者だからこうするべき」と決めつけることをせず、個人が持つ能力や可能性を見てもらいたい、と当会では考えている。
当会の主任生活支援員で、ジョブコーチ(職場適応援助者)でもある難波英二さんは次のように話す。
「障害のあるなしに関わらず『この人は何が得意か、何ができるのか』という視点を持って接していただければ。適性を活かし、少しずつ課題を克服することで彼らが持つ能力や可能性がぐんと広がりますし、その成長ぶりから教わることがたくさんあるんです。」
たとえば、「夢つむぎ城南」の喫茶部門で働くFさんは、当初人と接することがあまり得意ではなかった。また、少し体調がすぐれない、気分が落ち込むと仕事を休むなど、利用者であるほかの障害者が職員にやさしく接してもらうのを見て、それを望むところもあったという。担当職員はそれを「障害者だから」と特別扱いすることなく、「多少辛くても働かなければいけない」「あなたは職員であり、利用者とは立場が違う」など、働くことの厳しさを伝え続け、一方で、頑張ったことに対して必ず評価することも心がけた。すると本人に「働く責任と自覚」が生まれ、今では喫茶部門の仕事や移動販売先で実習をする利用者のフォローも一人でこなす。また、苦手だった接客もおどおどせず、平成25(2013)年の障害者技能競技大会(アビリンピック)県大会では、喫茶サービス部門で準優勝するまでに成長した。
彼女の可能性を広げたのは、嫌いなことや苦手なことから逃げず、あえて挑戦し乗り越えたことへの自信である。難波さんは語る。
「彼らはとても優しくて、真面目。一生懸命仕事をしてくれます。失敗したらどうしよう、パニックになったらどうしよう、と先回りしすぎず、まずは彼らにやらせてみてほしい。そして、障害者と雇用先がお互いに学び合えるような『プラスの関係』が理想。そのためにはインターンとして実習をしてもらうなど、事前にお互いの相性、適性と仕事内容のマッチングを見るための仕組みや制度を積極的に活用してほしい」と。
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