各支援機関との協働で進める障害者雇用と職場定着
- 事業所名
- みやぎ生活協同組合
- 所在地
- 宮城県仙台市(本部)、宮城県内48店舗、10共同購入センター、生産工場、リサイクルセンター、宅配水センター(子会社)
- 事業内容
- 供給事業(店舗・共同購入)、文化サービス事業、福祉事業、受託共済事業、貸付相談事業
- 従業員数
- 6,590名
- うち障害者数
- 43名
障害 人数 従事業務 視覚障害 聴覚・言語障害 肢体不自由 7 事務、店舗検収 内部障害 4 事務、本部スタッフ 知的障害 26 店舗農産部門加工・品出し、ドライ部門前出し、品出し 精神障害 発達障害 5 店舗農産部門加工・品出し、宅配水センター製造部門、
本部事務補助・清掃高次脳機能障害 難病等その他の障害 1 店舗水産部門 - この事例の対象となる障害
- 発達障害
- 目次
![]() 八乙女本部 ![]() 店舗 事業所外観 |
1. 事業所の概要、障害者雇用の経緯
(1)事業所の概要
みやぎ生活協同組合(以下「みやぎ生協」という。)は、昭和57(1982)年に宮城県学校生協と宮城県民生協の2つの生協が合併して誕生した。平成25(2013)年度では組合員(メンバー)数67万7千人で宮城県内世帯数の71%となり、全国で最も高い加入率を維持し、供給高は1,022億円となった。県内に48店舗、共同購入配送センター10ヶ所を展開しながら、くらしに役立つさまざまな事業を行っている。
みやぎ生協のめざすものとして、「わたしたちは、協同の力で、人間らしいくらしを創造し、平和で持続可能な社会を実現します」を掲げ、平成23(2011)年から被災者・被災地支援の取組み、食品の安全を確保し安心して利用していただく事業活動、産消直結「みやぎ野」の事業、環境を守るための取組み、食生活・福祉・子育て応援・平和の活動等を進めている。
(2)障害者雇用の経緯
障害者雇用を開始したのはみやぎ生協創立3年後の昭和60(1985)年で、障害者雇用率が未達成であったことから、身体障害者を複数名雇用した。その後、平成8(1996)年に宮城障害者職業センターからの紹介により知的障害者の職場実習の受入れを開始し、店舗業務の遂行が十分可能と判断し、以降、みやぎ生協で職場実習を経験した支援学校生徒、就労経験者等から各年複数の知的障害者の雇用を店舗・その他の事業所で進め、現在26名が勤務している。
一方、平成24(2012)年には、宮城障害者職業センターで実施する発達障害者就労支援カリキュラムの事業所実習を引き受けたことがきっかけで発達障害者の雇用が進み、現在5名の職員(療育手帳または精神障害者保健福祉手帳を所持)が本部、店舗、宅配水センターで勤務している。
「障害があって働きたいと考えている人に対して、近隣の店舗やその他の事業所で受け入れる条件が整えば、可能な限り職場を提供する」を方針として、現在、障害のある職員43名を雇用するに至っている。
その他、仙台市手をつなぐ育成会との業務委託契約により、成田セットセンター(共同購入センターの物流部門)では、就労支援事業の施設外就労の場として知的障害者が指導員とともに働いている。
2. 障害者の従事業務、職場配置
障害のある職員が従事する業務内容と配置場所は下表の通りである。
【仕事内容】
部署 | 業務内容 |
本部 | 総務部・経理部・生活文化部の事務、商務、事務補助・清掃等 |
リサイクルセンター | 店舗から回収した野菜くずや発泡スチロール容器の選別作業 |
店舗 | 農産部門の野菜・果物のパック・値付け作業、品出し等 |
ドライ(食品・雑貨)部門の前出し・品出し作業 | |
共同購入センター | セットセンター(物流部門)内のシッパー等の洗浄や回収作業、配送センター用かご車の運搬 |
生産部 | フィッシュセンター内の魚加工作業 |
ミートセンター内の加工パッケージ作業 | |
揚げ工場の油揚げ製造ライン作業 | |
サービス事業 | 保険営業業務、宅配水センターの荷捌き室業務 |
【配置部署】
障害区分 | ||||||||||
身体障害 | 知的障害 | 精神障害 | ||||||||
配置部署 | 女性 | 男性 | 総計 | 重度 以外 |
重度 | 計 | 重度 以外 |
重度 | 計 | |
本部 | 5 | 5 | 10 | 2 | 7 | 9 | 1 | 1 | ||
リサイクルセンター | 2 | 2 | 2 | 2 | ||||||
店舗 | 7 | 15 | 22 | 2 | 2 | 18 | 1 | 19 | 1 | |
セットセンター | 2 | 2 | 2 | 2 | ||||||
生産部 | 4 | 4 | 4 | 4 | ||||||
サービス事業部 | 1 | 2 | 3 | 1 | 1 | 1 | 1 | 1 | ||
総計 | 13 | 30 | 43 | 3 | 9 | 12 | 28 | 1 | 29 | 2 |
注:発達障害者及び難病者については所持している障害者手帳の種類によって障害区分を計上している。
3. 取組の内容
これまで多くの知的障害者を店舗中心に雇用してきたが、ここ数年はその経験をいかして発達障害者の雇用も進めている。自力通勤できる事業所への配置と担当業務を個別に検討し、それぞれの職場定着を図っている。その際には、宮城障害者職業センター、就労移行支援施設、障害者就業・生活支援センター及びハローワーク等の関係機関との連携により、障害者職業カウンセラーやジョブコーチの人的支援、トライアル雇用、特定求職者雇用開発助成金等の支援制度を活用した。次に発達障害者5名のうちAさんからCさんの3名について、紹介する。
(1)Aさんの事例
- ア 宮城障害者職業センターの発達障害者就労支援カリキュラムを受講した発達障害のAさん(高学歴)を雇用した。知的障害はなく、一見して障害はわからない。本人の了解を得て、障害特性について誤解されないよう、採用前に事業所職員全員に学習会を実施した(講師:宮城障害者職業センターの障害者職業カウンセラー)。
- イ ジョブコーチ支援を受けたが、Aさんは業務遂行に自信がなく判断に迷いがあることから、何度も現場のリーダーに確認する場面があった。さらに本人は、帰宅してからも業務が頭から離れず、緊張が途切れないことから、支援するリーダーは何度もOJTを繰り返すなどの苦労が続いた。
Aさんの長所は真面目で責任感が強いことだが、一方で仕事を覚えるとそのやり方に固執し、その都度必要となる変更指示に対応できないことがあった。 - ウ 入協から1年後に、現場のリーダーは宮城障害者職業センターの主催する障害者職業生活相談員資格認定講習(2日間)を受講し、障害者雇用に関する理解をさらに深めた。発達障害の特性を踏まえて、どのようにAさんに接し指導を進めればよいかについて学んだことを職場に持ち帰り、支援を続けている。Aさんは仕事熱心で、今では評価されるようになった。
(2)Bさんの事例
- ア コミュニケーションが苦手な発達障害のBさんを雇用し、事務所内の事務補助作業(コピー、集計・集約作業、発送業務、伝票書き、パソコン入力等)と清掃を組み合わせて業務を組み立てた。
- イ Bさんの雇用に当たり、事前にBさんの障害の特性と指導方法に関する学習会を事業所全職員に対して実施した(講師:宮城障害者職業センターの障害者職業カウンセラー)。
- ウ 視覚的な情報が正確に入る特性をいかして、同じグループの職員が、(1)1週間の作業スケジュール表を前週に作成して活用、(2)イラスト入りの指示書の作成、(3)事前に作業しやすいように段取りをしたうえでの整理作業や集計作業指示等の創意工夫を重ねた。障害特性と対応方法を理解し、職場内で適切にサポートできる体制(ナチュラルサポート)を整えられたことにより、2年間でBさんの業務遂行能力を大幅に引き上げることができた。
(3)Cさんの事例
- ア 発達障害のあるCさん(写真)は、2年間就労支援施設(就労継続支援B型)へ通所し、弁当の盛り付け・販売などを訓練後、みやぎ生協での職場実習を経て、平成26(2014)年度店舗に雇用となった。店舗の農産チーフからの要請により、本人へのOJTの際に、Cさんが通所していた就労支援施設からジョブコーチが支援に入った。
- イ トライアル雇用制度を利用し、3ヶ月後にCさん、ご家族、ジョブコーチ、障害者職業カウンセラー、店長、農産チーフ、総務部担当によるケース会議を開催し、Cさんの職場定着の状況を確認した。農産チーフより野菜のカット(2分割)等の作業の処理速度が非常に遅いとの指摘を受けたが、Cさんは、2分の1の解釈を厳密に考えカットに苦労していたことがわかり、その後の3ヶ月で処理スピードは改善された。長所として、同じ作業を長時間繰り返してもCさん本人は苦にせず落ち着いて取り組めることがあげられた。
- ウ 6ヶ月後の面談では、Cさんから「作業内容の確認を怠らず、質問している。できるだけ早く効率よく仕事ができるようやっていきたい。自分自身もより上を目指せるよう頑張りたい。大変だが、働くという実感があり、充実感がある」とのコメントがあった。
- エ 農産チーフからは「加工スピードは徐々に速くなっている。その一方で、慣れてくると最初にできていたことができなくなる。日付・品名を書いて確認できるようになると、以前に覚えた蘇生庫での先入れ・先出しを忘れる。何度も聞くことを悪いと思って聞かなくなるようだ。私からは、何度でも質問するように指示している」とのコメントがあった。
- オ ジョブコーチから「特性上、業務理解について理屈ではわかっていても定着していないため、周囲に作業内容及び手順を確認する人が必要だ。リセットしてもう一度指示すると見直しでき、繰り返すうちに安定してできるようになる」と関係する職員への助言があった。
- カ 以上のような面談を繰り返しつつ、Cさんは店舗で活躍している。
![]() 農産部門での加工作業
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4. 取組の効果、障害者雇用のメリット
- (1) 障害のある人の特性にはそれぞれ個性があり、長所・短所の把握がその後の業務遂行能力を伸ばすための重要な鍵となる。関係諸機関と連携を取ることができ、発達障害を始め障害者の就労支援の専門家であるジョブコーチからの助言を得ながら、課題をひとつずつクリアしていく職員の姿を見ることができた。
- (2) 職場の多くの職員が障害のある人とともに働くことで、ナチュラルサポートに必要なコミュニケーションの力、人を育てる力を伸ばしていくことができる。障害者本人の頑張る姿をみて、多くの職員が自然にサポートできる職場環境が徐々に整っていく様子が見て取れた。
- (3) 店舗では「利用しやすい地域一番の店をつくる。地域で一番高齢者や身体の不自由な方々にサービスする店」を目指して全店の店長・副店長・レジチーフが「サービス・ケア・アテンダント」の資格を取得し、サービスの向上を図っている。職場内においても障害のある人が障害のない人等とともに働き、お互いの思いや業務を理解し合うことで、より一層組合員メンバーの思いを汲み取る力をつけ、生協事業に貢献している。
総務部 人事教育課 産業カウンセラー 笹 由紀子
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