介護老人保健施設における障害者雇用への取り組み
- 事業所名
- 医療法人徳洲会 介護老人保健施設あかね
- 所在地
- 山形県東田川郡庄内町
- 事業内容
- 医療・保健・福祉
- 従業員数
- 56名(介護老人保健施設あかね)
- うち障害者数
- 1名
障害 人数 従事業務 視覚障害 聴覚・言語障害 肢体不自由 内部障害 知的障害 精神障害 1 清掃業務 発達障害 高次脳機能障害 難病等その他の障害 - 目次
![]() 事業所外観 |
1. 事業所の概要、障害者雇用の経緯
(1)事業所の概要
介護老人保健施設あかね(以下「当事業所」という)は、医療法人徳州会グループが運営する。徳洲会グループは、北海道から沖縄まで全国で256以上の施設を擁し職員数は2万人を超える。
当事業所は、平成9(1997)年に開設され、法人理念の下、自然豊かな場所で利用者が安心して過ごせるようにサービスを展開してきた。施設は、3階建てでゆったりとしたスペースが広がり、利用される方が快適に過ごせるような環境が整っている。
サービスとしては、施設入所サービス(入所定員床80床)、居宅サービスとして短期入所療養介護・通所リハビリテーション(通所定員40名)を展開しており、雇用されている障害者は利用者の活動スペース、居室等の清掃を中心に活動している。
(2)障害者雇用の経緯
平成24(2012)年3月に徳洲会グループの方針で、障害者雇用を実施することになり、当事業所もハローワークへ求人登録を行う。徳洲会グループ内では障害者雇用の実績はあったが、当事業所では、今回の事例が最初の障害者雇用となる。
2. 雇用までの取組の内容
(1)Iさんの雇用支援の取組み
Iさんは、庄内町在住の30代男性である。知的障害と精神障害があり療育手帳と精神保健福祉手帳を所持している。県立の普通高校に入学し2年生の時に不登校になったことをきっかけに通院し、統合失調症と知的障害の診断を受ける。高校は自主退学し地元の作業所へ通所する。その後、障害者自立支援法(現:障害者総合支援法)の施行の関係で、当事例を執筆する私が所属する「多機能型施設ひまわり園」(以下「ひまわり園」という。)の就労移行支援事業を利用する。就労移行支援事業の標準利用期間は2年間であるが、Iさんは利用期間を延長し4年目の訓練を継続していた。
ひまわり園の利用開始当初は、作業を通した労働習慣の確立から支援を行い、労働習慣確立後は、椎茸農家、肥料会社、製縄工場等の外部の事業所で実習体験を積み仕事をするための訓練・体験を繰り返し実施した。利用後半には、庄内町内の町営保育園での現場実習を経て、同保育園で半年間(6月~11月)、町の登録職員として短時間就労することができた。保育園の仕事は午前中のみであったため、保育園の勤務時間以外には、ひまわり園の就労移行支援事業を継続して利用し、長期に安定して就労できることを目指し就職活動を実施した。
保育園では、園内外の清掃の仕事を中心に行っていた。具体的には、園内の掃き掃除、窓磨き、草むしり、給食の配膳などであった。
保育園での雇用期間が満了し、就労状況の振り返りを行った際には、仕事の丁寧さ、仕事として行う清掃の在り方、責任感等の課題点を確認し今後の訓練に取り入れていくこととした。その後、ひまわり園での訓練を続けながら、雇用保険の失業等給付手続きと併せてハローワークにて就職相談を実施した。何度か特別支援部門の担当者と相談し、平成24(2012)年3月に当事業所の求人の紹介を受けた。
当事業所の求人へ応募した際には、当事業所事務長、看護主任、Iさん、ハローワーク担当者、ひまわり園のサービス管理責任者で顔合せを行った。当事業所からは、業務については清掃を考えており、予定としては、現場で実習を行い問題がなければトライアル雇用へ移行し、その結果をもって正式雇用を決定する旨説明を受けた。顔合わせの後、Iさんからぜひ挑戦したいとの意思表示があり保護者より同意をもらい実習を実施することになった。
ア.採用までの取組み
Iさんは庄内町の集落で、母親、祖母、弟とくらしている。職場までは、電車を利用しその後、駅から徒歩で30分程度歩かないといけない。採用の条件が「自力通勤可能な人」ということもあり、実際その手段で通勤できるか練習するところから支援を始めた。
ひまわり園職員と駅や通勤路の地点ごとで待ち合わせをして、道のりを確認しながら通勤練習を実施して始業時間までに通勤できることを確認した。
その後、実際に通勤して清掃業務ができるか、次の業務で職場実習を3日間実施した。
○1階から3階までの掃除機がけ
○各フロアの非常階段の窓ふき
○1階の事務室のゴミ集め
実習期間については、もう少し日程に余裕があれば長期間の設定にしたかったものの、良い人材であれば早めにトライアル雇用へ移行したいと当事業所側の希望もあり3日間に設定した。
イ.定着支援
実習後、通勤してからの勤務も問題なくできるとの判断から、当事業所事務長、本人、母親、ひまわり園サービス管理責任者、障害者就業・生活支援センターのワーカーも含め打合せを実施し、トライアル雇用へ移行した。
基本は徒歩で長時間歩く通勤方法であったため冬場の通勤が心配されたが、冬場の天気の悪いときは、母親が送っていくことになり何とかクリアすることができた。
前述したように、保育園での短時間の就労経験はあったが、長時間の就労は初めてということからトライアル雇用期間中は、就業・生活支援センター、ひまわり園のサービス管理責任者で協力し定着支援・定期訪問を実施することとし、本人には日報を、職場側にも記録や助言を記入してもらい、勤務することでの負担や変化がないか確認しながら支援を行った。
トライアル雇用期間の業務内容については、実習時の業務に加え、車いす磨きが追加になる。
保育園での就労経験があった為、全体の業務を通して基本の掃除動作は大きな問題なく行えるものの、作業をしながら周りの利用者の安全を確認するという部分は、不得意な分野であった。
定着支援時は、事前の説明と作業中の声かけ支援が必要となった。
○掃除機のコードが伸び、目一杯に張ることにより足を引っかけてしまうなど利用者にとって危なくはないか。
○掃除をするために動かした物が危なくないか。
上記の点については掃除に集中すると気が付かないことがあるため、業務の様子を見ながら声かけと環境整備を下記のとおり実施することで克服することができている。
○延長コードを使い余裕を持たせることでコードが張らないようにする。
○定期的な声かけで清掃時に物を動かす場所(危険ではない場所)等を確認する。
その後、トライアル雇用の3か月が経過するが、急な欠勤や遅刻等もなく勤務時間内に仕事を進めることができるようになる。そして、本人の真面目に取り組む姿勢も評価され、平成24(2012)年6月から正式に継続雇用してもらえることになる。
現在は、トライアル雇用時より業務も増えて、仕事のスピード自体も速くなっている。追加された仕事内容は次の業務で、支援としては、年2回程度の巡回支援を実施している。
○居室の清掃(掃除機がけ・ベット柵等の消毒)
○リネン交換
○フロアの手摺等の消毒
○1階トイレ掃除
![]() 非常口窓拭きの様子 | ![]() リネン交換の様子 |
(2)育成、指導について
Iさんは、基本的には本人に任された形で単独で業務をこなしている。専門に職員を配置しての指導はしていないが、仕事が雑になったり、汚れが残っているときには気が付いた職員が教えるようにしている。それぞれの職員がIさんに声をかけることでコミュニケーションを図り、職員全体でIさんが安心して業務をこなせるように支えている。そのような支援のおかげで現在の業務については、安定して行えるようになってきている。今後は、このままでという形よりは可能であれば業務を開拓して本人がさらに成長できるように育成していきたいと当事業所は考えている。
(3)Iさんの談話
Iさんからは「高校をやめた後、福祉施設に通い支援を受けてきましたが、ようやく長期で仕事ができるようになり安心しています。働くことで、利用者さんからきれいになったとお礼を言われたり、毎月給料をいただけることでとてもやりがいを持って仕事ができています。自分がしっかり掃除をしないと、利用者の皆さんが気持ちよく生活できないのでしっかり掃除していきたいです。給料については、自分でジュースやカップラーメンを買ったりしています。時々家族で食事に行って自分がお金を出すこともあります」と楽しみにしていることも教えてくれた。
3. 取組の効果、今後の課題と展望
(1)取組の効果
Iさんの行っている居室清掃や掃除機がけは、今まで介護職員が業務の合間で行っていた仕事で、Iさんが行ってくれることで、利用者への支援に時間を費やすことができサービスの質の向上につながっている。
また、力仕事(物を動かすときなどの補助)などもIさんの仕事の一つとして、積極的に携わっているとのことだった。
(2)今後の課題
仕事を行うにあたり、スピードや取り組む姿勢については安定している。リネン交換や手摺消毒については、スピードを意識すると雑になってしまうこともある。Iさん自身もきれいに行うことの必要性は感じており改善したいと考えているため、今後も継続支援しスピードだけではなく丁寧さも身につけられるように支援していきたい。
(3)今後の展望
障害者雇用について当事業所は、一生懸命働いてくれる方であれば、これからの事業展開を踏まえて可能性を検討したいとのこと。
また、Iさんの仕事については、現在大きな問題はないものの、このままで良いとは考えていない。雇用している以上は、常にIさんの能力が向上するよう一つできるようになったらまた一つ何かできるように業務を考えこれからも育成していきたいとのことであった。
障害者多機能型施設 ひまわり園
園長 佐藤 佳範
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