不安要素を抱えながらも職場定着を目指す職場
- 事業所名
- 北関東綜合警備保障株式会社
- 所在地
- 栃木県宇都宮市
- 事業内容
- 各種セキュリティーサービス及びセキュリティーシステムの企画・開発・販売
- 従業員数
- 850名
- うち障害者数
- 9名
障害 人数 従事業務 視覚障害 聴覚・言語障害 肢体不自由 5 事務職 警備職 内部障害 3 事務職 警備職 知的障害 精神障害 発達障害 1 事務職 高次脳機能障害 難病等その他の障害 - 目次
![]() 事業所外観 |
1. 事業所の概要、障害者雇用の経緯と背景
(1)事業所の概要
北関東綜合警備保障株式会社は、ALSOKの系列会社として昭和43(1968)年に創業し、栃木県全域、茨城県西部地区、群馬県東毛地区をサービスエリアとする、北関東最大のセキュリティーサービス会社へと発展してきた。宇都宮市に本社を構え、平成26(2014)年現在支社9か所、営業所4か所を有している。
創立以来、技術開発部門を強化し機械警備の開発に力を注ぎ、わが国最大の警備会社であるALSOKの系列会社中、第1位の業績を誇っている。
(2)障害者雇用の経緯と背景
当社では病気等で障害者手帳を交付された社員が以前から在籍していたが、障害者雇用の取組としては、障害者合同就職面接会に参加するものの条件に合う方の応募が少なく、法定雇用者数を達成するまでには至らなかった。
そのような中で、平成25(2013)年、公共職業安定所から栃木障害者職業センター(以下「職業センター」という。)の見学を勧められ職業センターが行っている職業準備支援の訓練作業風景を見学した。
その結果、今後は身体障害者だけではなく、精神障害者・発達障害者の雇用も考える必要があるとして社内で検討会議を開き、障害の特性、作業のレベル等、様々なことを議論した上で、ジョブコーチ支援を活用していた発達障害者の雇用を始めた。現在、雇用されている障害者9名のうち、身体障害者が8名、発達障害者が1名である。
以下、社内で開かれた検討会議の開催により雇用した発達障害のあるHさんの雇用に当たっての取組と、現在雇用されている身体障害者8名(AさんからIさん)の雇用の取組を次の2で紹介する。
2. 具体的な取組の内容
(1)発達障害のあるHさんの雇用の取組
(広汎性発達障害 アスペルガー症候群・精神障害者保健福祉手帳2級)
ア.学生時代
Hさんには中学時代、イライラして物に当たったり他者に手を出す等の行動があり、スクールカウンセラーの紹介で専門病院を受診し、「アスペルガー症候群」と診断される。高校は一般校へ進学するが、不適応行動がみられ、発達障害者支援センターへ相談し、大学病院への通院及び服薬が始まる。通院・服薬を開始してから不適応行動はみられなくなったが、通っていた高校へは復学せず単位制の高校へ編入し卒業する。
都内の専門学校へ進学し一人暮らしを始めるが、家事や授業の段取りをつけられず、自宅に戻り片道3時間かけて通学する。授業についていけない、グループ活動がうまくいかない等の理由から、専門学校の配慮を得て個別指導を受ける。卒業後の就職について発達障害者支援センターに相談、同センターから職業センターを紹介される。
イ.職業センターの関わり
(ア)就職への課題
平成24(2012)年9月に職業センターで面談(職業相談・職業評価)が行われ、Hさんの特性として見られる対人関係の苦手さに配慮した職場環境であれば適応できる可能性は高く、簡単な内容でも生じるうっかりミスや、2つ以上の作業を同時に伝えると手順を間違えるなど、ミスの傾向をHさんに自覚してもらうこと及び複雑な業務は避けたり、丁寧に教えてもらうなどの配慮が必要との評価が出された。
(イ)就職への準備
Hさんは、平成25(2013)年5~6月職業センターの職業準備支援を利用した。職業準備支援では作業中に助言された内容をメモに書いて読み返すなど、一生懸命作業に取り組んだ。自身の特性(話すことが苦手、場の空気が読めない、人間関係をうまく築けない、新しい環境になじむまでに時間がかかる等)について自覚できたことから、接客を避け、人と係わることの少ない仕事が望ましいと思うようになった。
ウ.当社への就職
公共職業安定所の紹介で当社人事部担当者が職業センターでトレーニング中のHさんの様子を見学する。ジョブコーチ支援を活用し2週間の実習を行い、検討会議により雇用となった。
Hさんの特性から配慮事項として、次の事項が挙げられ、作業に取り掛かる際、指示・説明は解りやすく工夫する必要があった。
(ア) 「適度」「適切」「適当」という言葉の示す内容が、しばしば理解できない。
(イ) 指示後・説明後、理解の程度を本人に確認する。
(ウ) 指示をする者は一人。AができたらB、そしてCの順に行う。実際に、受入先の部署の指導員は十分に理解して業務にあたるが、他のスタッフが同じような指示をした時に、スムーズに対応できないことがあった。
また、Hさんは障害者のグループホーム(以下「GH」という。)で生活しているため、GHの職員、家族、支援機関との意見交換(ケース会議)を定期的に行っている。会社側から見ると、馴染もう・溶け込もうと無理をしているように感じられたが、家族側は社員の方や会社のことを楽しそうに話してくれて、今までで一番イキイキしているように感じていた。しかし、GHでは同居人とはコミュニケーションを取ろうとはしないという状況もあった。
入社当初は各部署の業務を曜日毎、午前・午後に振り分けて作業していたが、真面目な仕事振りが評価され、現在は主に技術部の業務を行っている。技術部の担当者から、データ入力作業では集中して取り組めており間違いはほとんどなく、資材作業では検品、出庫、発送、入庫を自ら率先して行い、指示・注意したことは、業務日誌の注意点等の欄に必ず記入している。
技術部担当者から、「出勤したら、明るく元気に挨拶をしており、明朗はつらつでテキパキと仕事を楽しそうにしており、悪いイメージは全くないです」と評価され、人事部担当者からは「障害者雇用に関して、身体障害者の受入れは一般的ですが、当社において発達障害者の受入れは経験がなく、積極的ではありませんでした。しかし、個人の特性を理解して作業の進め方を工夫すれば、『戦力の一員』となり、Hさんの『誠実さ』・『素直さ』・『真面目さ』・『一生懸命さ』を肌で感じることができました」とのコメントをいただいている。
![]() データ入力をするHさん
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![]() 倉庫作業中のHさん
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(2)身体障害者雇用の取組
ア.Aさん(右下肢機能全廃(交通事故)・身体障害者手帳3級)
Aさんは平成元(1989)年3月に入社し警送部(警送隊:現金輸送)に配属された。通勤途上の交通事故で障害を負い、手帳の交付を受ける。現在は事務職に職種変更し、警送部資金管理センターで精査業務を担当している。
Aさんのコメント
「障害を残しながら職場復帰し、業務に携わっておりますが、事故以前と全く同様とはいかず悩んだこともありました。しかし、上司や先輩達から助けられ励まされながら、何の隔たりもなく仕事ができることを幸せに思っております。」
所属の上司のコメント
「約15年前、障害を抱え資金管理業務に就いた時はとても心配でしたが、本人の頑張りと同僚の励ましにより、現在では他の社員同様の仕事をこなし、長年勤務している経験を活かして仕事を行なっています。」
![]() ![]() Aさんの作業風景
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イ.Bさん(腎機能障害(糖尿病)・身体障害者手帳1級)
Bさんは平成2(1990)年5月に中途入社。持病の糖尿病が悪化し、平成22(2010)年12月に手帳を交付される。現在はN営業所警備課所属で常駐警備に従事し、主に24時間体制の勤務シフトに入りながら週3回の人工透析を行っている。
Bさんのコメント
「夜の勤務が中心なので人工透析の日に勤務を休むことはありませんが、極力身体に負担を掛けない勤務を上司と相談しながら行っています。所属長、同僚の理解に感謝し、可能な限り仕事を続けていければと思います。」
所属長のコメント
「当営業所においては、警備先の勤務内容をよく確認し、過度な勤務で体調を崩すことのないよう、勤務日程を計画しております。お客様からの評価も高く、今後も業務に精励してくれることでしょう。」
ウ.Cさん(腎機能障害(糖尿病)・身体障害者手帳1級)
Cさんは平成3(1991)年2月に中途入社で警送部に配属となり警送隊(現金輸送)として勤務していた。持病の糖尿病が悪化し、平成14(2002)年6月に手帳を交付される。その後、血行障害により片足を切断し車いす使用となる。車いす使用となってからは事務職に職種変更し、警送運用課事務の業務を行っている。職場内施設は車いすで出入りができるように整備を行い、通勤は自家用車で行っている。
Cさんのコメント
「週に3回、午後3時から午後9時(5時間)まで透析していますが、就業時間を調整していただき透析には問題ありません。また社内の入退室は、車いす用電動エレベーターを設置していただき支障はありません。事務所内が少し狭く、以前は電話線等の配線で移動に不便を生じることがありましたが、今は改善されてスムーズに動くことができます。」
上司のコメント
「警送業務で発生する報告書は膨大な数になり、種類ごとに分類しファイルに綴じます。Cさんは手際よく仕分け・綴じ込みをして、過去の報告書が必要となればすぐに出してくれ、安心して業務をお願いできます。備品の管理もすぐに手配してくれ業務が円滑に進められます。」
![]() 電話対応中のCさん
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![]() 車いす用エレベーター使用中の
Cさん |
エ.Dさん(腎機能障害(糖尿病)・身体障害者手帳1級)
Dさんは平成3(1991)年4月に入社し、機動隊・統制司令室勤務等をしていたが、持病の糖尿病悪化により平成25(2013)年10月に手帳の交付を受ける。週3回の人工透析を行いながら、現在はO支社警備課係長として運行管理や警備手配等を担当している。
Dさんのコメント
「管理事務をしているため体への負担はありません。緊急業務が入った時は、休日・夜間に係わらず勤務する場合が時々あります。負担なく勤務できるよう職場環境及び勤務形態に配慮していただいております。」
先輩のコメント
「常に危機感を持ち何事も積極的に行う姿勢から、上司・部下からの信頼も厚く、大型の臨時警備の際には持ち前のリーダーシップを発揮し部隊の指揮を取るなど、やる気に満ちた社員です。」
オ.Eさん(右上肢指全欠損(作業事故)・身体障害者手帳3級)
Eさんは平成22(2010)年8月に、M市の緊急雇用対策事業の防犯パトロールにおいて、一般応募にて入社(入社時には手帳は交付されていた)。緊急雇用対策事業での期間終了後、M市で独自に防犯パトロール事業を継続して行うこととなり、同事業の運営を委託された当社の社員として現在は同受託事業の責任者として勤務している。
Eさんのコメント
「自分だけ障害者と意識したことは無く、上司・先輩・同僚も同じ考えでいてくれています。筆記に関して、同僚に協力していただいており、とても感謝しています。」
同僚のコメント
「指導的立場で精励し、業務を通じて顧客との信頼関係の維持向上に努め、継続した成約に貢献されてきました。今後も防パト隊の先頭に立って活躍されることを期待しております。」
![]() パトロールに向かうEさん
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カ.Fさん(一片下肢が健足に比して10cm短い(交通事故)・身体障害者手帳4級)
Fさんは平成24(2012)年10月の合同就職面接会で面接を受け、同年11月に入社した。現在、警送部資金管理センターで精査業務を担当している。入社当時は、足首下から義足のため重い物(30kg以上)は持てないとの申し出があり受入先の部署に伝えていたが、持てそうな荷物でも一切持たなかったり、作業中に座り込んだりと、担当者を悩ませることがあった。座ってできる作業等を取り入れるなど作業分担を変更し、改善を図った。
![]() 作業中のFさん
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キ.Gさん(下肢関節軽度(先天性股関節脱臼)・身体障害者手帳2級)
Gさんは平成24(2012)年に某県の緊急雇用対策事業の防犯パトロール隊として、期限付き雇用で入社。平成25(2013)年3月契約満了で退職し、同年8月にA支社警備課に再雇用となりA市内の学校の登下校時のパトロール勤務に従事している。
支社長のコメント
「真面目で几帳面なため事案等が発生した際、詳細な報告を速やかに実践し、日々業務に励んでいただいております。周囲の信頼も厚く、大変貴重な人材です。」
ク.Iさん(体幹機能障害(脳性麻痺)・身体障害者手帳3級)
Iさんは、発達障害のあるHさんの雇用後になる平成25(2013)年10月の合同就職面接会で面接を受け、同年12月に入社した。現在は、技術部資材管理課に勤務している。脳性麻痺により、自立歩行は可能だが走ったり重量物を持つことは困難である。デスクワークの際業務に集中できていない様子が見られ、本人に確認したところ就寝時間が遅いことが分かった。生活改善の指導後は、勤務に集中できるようになった。
3. 今後の課題と展望
平成26(2014)年6月1日現在の障害者雇用状況は、法定雇用数12名に対して11.5名まで改善されてきたが、不安要素として腎機能障害の方が3名在籍していることが挙げられる。人事部担当者は次のように語る。
「今は体調的に安定しているが、1年後にはどのように変わるか分かりません。企業も健康管理には十分に気を配り、障害者雇用の安定と継続を図る上でも、会社全体で理解と受入れが十分に可能になったことから、積極的に障害者雇用に取り組んでいきたいと考えています。」
障害者雇用にはいくつもの課題が必ず起こり得る。何よりも個々の障害者に対しての企業側の理解に勝るものはないが、その課題を関係機関と連携を取り合って解決していきながら、職場定着へつなげたい。
県南圏域障害者就業・生活支援センター「めーぷる」
就業支援ワーカー 眞板 邦江
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