医療業界でいち早く法人グループ双方向で障害者支援や雇用を実践する団体
- 事業所名
- 医療法人社団嬉泉会 嬉泉病院
- 所在地
- 東京都葛飾区
- 事業内容
- 医療業
- 従業員数
- 213名(平成26(2014)年6月1日現在)
- うち障害者数
- 5名
障害 人数 従事業務 視覚障害 聴覚・言語障害 肢体不自由 1 リハビリ補助、事務、臨床工学技士 内部障害 知的障害 4 清掃、厨房業務 精神障害 発達障害 高次脳機能障害 難病等その他の障害 - 目次
![]() 嬉泉病院 | ![]() きせん事業所 |
1. 嬉泉病院及びきせん事業所の概要と障害者雇用の経緯等
(1)嬉泉病院及びきせん事業所の概要
嬉泉病院は、当法人が運営する医療機関であるが、きせん事業所は当法人のグループ法人となる「特定非営利活動法人嬉泉会」が運営する就労継続支援A型事業所で、肉まん等の製造販売、カフェ事業をしている。「きせん事業所」のホームページでは、同事業所について次のように解説されている。
「医療法人社団嬉泉会の須藤祐司理事長は、自ら経営する病院に前々から多数の障がいをもつ方々を雇用され、その経験を広めるため各地で障がい者雇用のための講演も行っております。しかし、院内では障がいをもつ方々に向く仕事に限りがあるため、新たに障がいをもつ方々の働く場をつくろうと決意され、きせん事業所の設立を支援していただくことになりました。また、須藤理事長は、広く障がい者施設を運営する社会福祉法人嬉泉会の理事長も担われており、きせん事業所はこうした須藤理事長の熱情と経験を受け継いで、これからも嬉泉グループの一員として運営されていく施設です。」
このように当法人と当法人グループが双方向から障害者を支援、そして雇用している。当事例は、嬉泉病院の取組を中心にきせん事業所の取組を交えながら紹介するものである。
- ア.嬉泉病院の概要
- (ア)病院の設立等
嬉泉病院の設立は、昭和48(1973)年2月。そして昭和50(1975)年には医療法人社団嬉泉会を設立し、同法人立にした。同法人は現在、埼玉県春日部市、千葉県船橋市にも病院を運営し、3施設はそれぞれの地域における医療連携の下に、各施設ともにスキルアップと医療機器の整備に努め地域のニーズに誠心誠意お応えしていきたいとする。 - (イ)病院の理念
「私たちは患者さんと共に力を合わせ、安心で安全な信頼される質の高い医療を行います」 - (ウ)嬉泉病院の事業概要
- 事業内容:
- 内科、消化器科、循環器科、腎臓内科等に関する医療事業
- 事業規模:
- 60床(一般病棟26床、療養病棟34床)
職員数 平成26(2014)年6月1日時点
常勤医師 4人 常勤歯科医師 1人 看護職 52人 歯科衛生士 3人
医療技術職 47人 事務職 27人 労務 52人
- (ア)病院の設立等
- イ.きせん事業所(就労継続支援A型事業所)の概要
きせん事業所は、医療法人社団嬉泉会の全面的な支援のもとで、平成24(2012)年3月に開設された、障害者自立支援法(現 障害者総合支援法)に基づく就労継続支援A型事業所である。企業で働く為の力を身に付けて一般企業へ就労する者も徐々に輩出している。- (ア)事業内容
嬉泉病院のある敷地と隣合せにある建物で、肉まん等の製造販売、カフェ事業を行っている。 - (イ)運営法人
運営は医療法人社団嬉泉会とは別法人である「特定非営利活動法人嬉泉会」が行っている。 - (ウ)事業規模
職員数:15名(うち10名障害者:知的5名、精神5名)
- (ア)事業内容
(2)障害者雇用の経緯と推移(嬉泉病院について)
嬉泉病院の障害者雇用は、平成15(2003)年10月、障害者雇用の取組みとして初めて特別支援学校の現場実習を9日間受入れ、翌平成16(2004)年4月に特別支援学校から2名を採用した。その後、継続的に実習を通じた採用を行い、平成26(2014)年6月1日現在、身体障害者(肢体不自由)1人と知的障害者4人(うち重度 4人)が就労している。
*障害者雇用率の推移(嬉泉病院)各年6月現在
平成22(2010)年 | 平成23(2011)年 | 平成24(2012)年 | 平成25(2013)年 | 平成26(2014)年 | |||||
障害者数(人) | 雇用率(%) | 障害者数(人) | 雇用率(%) | 障害者数(人) | 雇用率(%) | 障害者数(人) | 雇用率(%) | 障害者数(人) | 雇用率(%) |
4 | 3.37 | 5 | 3.63 | 5 | 3.65 | 5 | 3.75 | 5 | 3.85 |
*除外率:30%
*上表に含まれない短時間(4時間未満/日)未満の障害者が4名(下記)在籍している。
身体:2人(重度)、知的:1人(重度)、精神:1人
2. 取組の内容
(1)障害者雇用の取組
- ア.実習の受入れ及び採用について
- (ア)基本的に特別支援学校の現場実習を通じて採用を行っている。
- (イ)近年、障害者の新規雇用は行っていないが、特に重度知的障害者の職場定着に重点を置き、地域就労・支援機関との連携を強化している。
- (ウ)採用時に重視していることは、「礼儀作法」「仕事の適性」「短時間での進歩の度合」「本人の一所懸命な姿」「特別支援学校、就労・生活支援機関との信頼関係」である。
- イ.労働条件について
- (ア)雇用形態 : パートタイマー
- (イ)労働時間 : 本人の希望により、多様性をもって対応している。
例)週2日勤務、勤務時間5.5時間/日
週5日勤務、勤務時間8時間/日 - (ウ)その他 : 交通費全額支給、雇用保険、社会保険加入
- ウ.職務内容と指導法(表には短時間未満で就労する者を含む。)
作業名 作業内容 指導法 嬉
泉
病
院院内清掃業務 病室、待合所、廊下、階段、トイレ、患者休憩室等の清掃 実施要領、作業工程、注意事項
などを所属長が直接OJTで指導。
指導期間は、職種によって異なる。OJT終了後も適宜継続的に指導を行っている。厨房業務 調理補助、食器洗浄、弁当配膳 リハビリ科補助 受付業務 事務業務 パソコンによる入力、FAX・コピー業務など 病棟補助業務 滅菌されたガーゼ等を滅菌パックに入れ加熱シール、タオル収納など 臨床工学業務 患者への透析対応 き
せ
ん
事
業
所製造販売業務 肉まんの製造販売など
上表の作業風景
病棟補助業務院内清掃業務(病室清掃)院内清掃業務(休憩室清掃)厨房業務(弁当配膳) - エ.指導員体制について
業務遂行援助者(ジョブコーチ)を2名配置している。 - オ.教育訓練(キャリアアップについて)
- (ア)ジョブコーチの社内育成
今後の障害者雇用の状況に応じ、外部研修等を受講し育成に努めていく。 - (イ)障害者教育
各職場の所属長が中心になって行っており、年1回の地域の就労・生活支援センターとの話し合いにより策定した評価表に基づき指導を行い、同時に職域拡大、スキルアップ指導も行っている。また、課題がある場合には、その都度基本に戻り指導を行っている。
- (ア)ジョブコーチの社内育成
- カ.作業意欲の醸成
仕事意欲を喚起するために各担当業務毎にユニフォームを作っているが、その作成においては、色や形など障害者の意見も取り入れ、反映している。 - キ.職域開拓
きせん事業所(就労継続支援A型事業所)で就労していた精神障害者を事務職員として雇用、パソコン入力業務や病棟補助業務として滅菌されたガーゼ等を滅菌バックに入れ加熱シール(封をする)作業を行っている。
(2)支援の受入れ
- ア.家族の支援
年に1回程度、家族が就業の様子を見学している。 - イ.地域就労・生活支援機関等の支援
年に1回、各支援機関の就労支援員が就労状況や職場環境を見学し、勤怠・体調・就労意欲・職場の人間関係等、また、家族からの相談ごと等の情報をもとに各職場の所属長と情報を共有し話し合いを行っている。結果については、評価表に記録し本人指導に活用している。
(3)障害者雇用のメリット
各種助成金の受給により施設改善、障害者職業指導等、経営面、職場の障害者雇用の理解・啓発に繋がり、さらに障害者のひたむきに仕事をする姿勢に、他職員の就労意識の高揚をもたらしている。
(4)助成金の活用(下記の助成金を活用した)
- ア.ハローワーク関係 : 障害者トライアル雇用奨励金、特定求職者雇用開発助成金
- イ.独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構関係 : 第1種作業施設設置等助成金、職場適応援助者助成金、業務遂行援助者の配置助成金、報奨金
(5)嬉泉病院及びきせん事業所の障害者雇用のポリシー
- ア.嬉泉病院は、経営トップが私心を捨てて地域に貢献する病院として運営しており、きせん事業所を運営する特定非営利活動法人のほか、社会福祉法人嬉泉会も設立している。いずれも地域の皆様と共に歩むという精神が障害者雇用の根底に流れ、実践されている。
- イ.きせん事業所は、働く意欲があり、働ける可能性のある障害者に適した訓練の場を提供し、職業指導と就労先の確保を目的に設立され、「葛飾区産業フェア」「花・楽・カフェ」「葛飾区消費生活展」「東立石緑地祭」等のイベントでの出張販売の取組により障害を持つ人たちの自立と社会参加の支援・地域住民との交流にも大きな成果をもたらしている。特に将来一般就労し、地域で自立した生活を実現することに注力している。
3. 今後の展望と課題
(1)嬉泉病院として
嬉泉病院としては、きせん事業所との連携をもとに知的及び精神障害者の人事交流を図り、本人の適性 を活かした職域の拡大を図っていく。
(2)きせん事業所として
きせん事業所については、現状の製造施設では生産量に限界があるが、商品の人気もあり販路拡大が期待できることから障害者雇用が増加する可能性もある。今後の事業計画を精査し、事業の拡大と更なる障害者の雇用に努め、一人でも多くの障害者の自立に寄与したい。
執筆者: | NPO法人障害者就業生活支援開発センター GreenWork21 副理事長 小林 幸夫 |
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