知的障害者雇用 ~一緒に学び、共に成長~
- 事業所名
- 富士屋ホテル株式会社 湯本富士屋ホテル
- 所在地
- 神奈川県足柄下郡
- 事業内容
- ホテル業
- 従業員数
- 189名
- うち障害者数
- 6名
障害 人数 従事業務 視覚障害 1 施設管理 聴覚・言語障害 2 調理/営繕 肢体不自由 内部障害 知的障害 3 料飲サービス/調理補助 精神障害 発達障害 高次脳機能障害 難病等その他の障害 - 目次
![]() 事業所外観 |
1. 事業所の概要、障害者雇用の経緯
(1)事業所の概要
富士屋ホテル株式会社は明治11(1878)年7月15日に創業した、日本を代表する本格的リゾートホテルチェーンである。箱根の玄関口・箱根湯本駅から箱根登山電車で25分、箱根宮ノ下に拠点をおく「富士屋ホテル」は、箱根の歴史を支えてきたクラッシックホテルの草分けとして、各界の著名人も含め、古くから多くのお客様に訪れていただいている。
富士屋ホテルの社是は「至誠」。このうえなく誠実なこと、まごころ・・・。創業した明治11(1878)年以来、私達の心にしっかりと刻みこまれている。日本のホテル史に画期的な第一歩を記した富士屋ホテル。歴史と伝統に培われたおもてなしの心は、現在もそしてこれからも変わりない。
富士屋ホテル株式会社の企業理念である「わたしたちは、お客様が過ごしたいと思う空気、癒されたいと思うおもてなしを、常にお客様の視点に立って最良の方法で提供するプロであり続けます」という言葉を胸に抱き、日々お客様満足度の向上に努めている。
本事例で紹介する「湯本富士屋ホテル」は箱根の玄関口・箱根湯本駅から徒歩3分という好立地なロケーション、地区最大のコンベンションホールを有した機能的なアーバンリゾートホテルである。豊富な湯量を誇る湯本温泉をゆっくりと満喫し、和洋中の各種レストランでお食事をお楽しみいただきながら、カップル、家族連れ、団体のお客様問わずおくつろぎいただける施設となっている。
(2)障害者雇用の経緯
平成26(2014)年6月現在の雇用障害者数は富士屋ホテル株式会社全社で18名(男性10名/女性8名)、近年は知的障害者の雇用数が多くなってきている(知的障害者11名/身体・その他の障害者7名)。
うち、湯本富士屋ホテルの雇用障害者数は6名(男性5名/女性1名)、知的障害者と身体障害者が各々3名となっている。
湯本富士屋ホテルの障害者雇用の取組として強化したのは「知的障害者の雇用」で、平成20(2008)年から現在に至るまで3名を雇用している。公共職業安定所との緊密な関係の強化、地域の障害者関係の機関(就労移行支援事業所)との連携が強くなっていったことが大きな要因として挙げられる。
以前からも障害者雇用について取り組んでいたが、より専門的な立場の方との情報交換を行うことによって、知的障害者の特性を理解していった。そして、現場とのコミュニケーションをより一層深めたことで、知的障害者を雇用することへの不安などを払拭して、安定した雇用につなげていくことができた。
2. 取組の内容
(1)知的障害の特性を活かしたK君の雇用
平成19(2007)年に雇用を開始したK君は、神奈川県西地区の一般企業を退職後、地域の社会福祉法人で就労支援を受け、我々の企業に来られた。
湯本富士屋ホテルとして初めての知的障害者雇用ということで、様々な支援制度を活用させていただいた。その中でも特に効果的と思われたのが「ジョブコーチ(職場適応援助者)」の存在である。実際の現場で起こった様々な事象を相談することができ、また解決方法などを親身になって検討してくれる存在であるジョブコーチは、時には我々企業の一員となってK君の指導育成の一翼を担っていただいた。
K君の職場を選定するに当たっては、現場との意見交換を綿密に行った。結果、レストランサービス部門で、食器の洗浄前の選別業務(グラスやお皿、シルバー類の分別業務)や、レストランホール内の清掃・必要備品(テーブルナプキンやクロス等)の整理整頓・補充業務を担当していただくことにした。
現場で困っていることをヒアリング(採用した障害者の方に何をやって欲しいのか?どういった業務に人手がかかるのか?etc.)することで、K君に主に行って欲しい業務と周囲で支えながら行っていく業務とを細分化していった。
![]() 食器類の洗浄前仕分業務① | ![]() 食器類の洗浄前仕分業務② |
![]() 食器類の洗浄前仕分業務③ | ![]() 食器類の洗浄前仕分業務④ |
以前、知的障害者雇用に積極的に取り組んでいる企業を見学した際、知的障害者は繰り返し業務(定型業務)や反復して行う業務が向いているのではないか?そういった特性があるのではないか?という印象を受けた。K君についてもその時の印象をヒントに業務を見出していった。一生懸命、黙々と業務に取り組んでいく姿に期待を込めて、仕事の幅も徐々に広げていった。
各レストランで使用するナプキン折り業務は、入社当初に覚えてもらった業務のひとつである。当時より作業効率も格段にあがり、自分自身がお休みの日の使用量も考慮して事前に在庫の準備(ストック)をしてくれるまで成長した。
![]() テーブルナプキン折り業務① | ![]() テーブルナプキン 折り業務② |
K君は既に入社から7年が経過した。様々な課題と向き合いながら、時には家庭の援助をいただきながら進んできた。職場定着のために、公共職業安定所の雇用指導官との意見交換やジョブコーチの定期的な訪問・アドバイスを活用しながら、今後もより一層K君に期待するところである。
![]() おしぼり業務① | ![]() おしぼり業務② |
(2)明るく優しいN君の雇用
K君の雇用から6年が経った平成25(2013)年11月、新たにN君を採用することとなった。地域の養護学校を卒業した後、社会福祉法人が運営する通所施設に通っていたN君は、明るい青年である。人なつっこい笑顔で楽しそうに趣味のマラソンの話をしながら面談したのを記憶している。
N君の採用に関しては、神奈川障害者職業センターのジョブコーチの支援は元より、ご紹介をいただいた社会福祉法人の職員(通所施設のジョブコーチ)にも支援にご協力いただいた。
通所施設での作業内容やN君自身の就労に対する希望を考慮し、我々の現場との職業選定の話合いの後、調理部門で調理補助業務を担っていただくことにした。
ダウン症に加えて聴覚障害を持つN君に職場定着で配慮したことは、目の行き届く労務管理だった。具体的には周囲に現場指導者や同僚を配置することで、N君とのコミュニケーションを活性化させ、N君の業務遂行の様子を見ながら仕事を進めることを行った。
また、N君には「扱っている食材はお客様が飲食するものだから、品質管理はしっかりと行わなければならない」ことを伝えた。食材の完成形を見せて、実際にやらせてみて、そのでき上がり内容を確認し、不具合箇所を修正し次に活かす、いわゆる「PDCAサイクル」を基本とした指導育成に取り組んだ。
![]() 調理食材の準備① | ![]() 調理食材の準備② |
![]() 調理食材の準備③ | ![]() 調理食材の準備④ |
(3)初の女性Mさんを採用
N君の採用から遅れること約半年。初の女性の採用となるMさんはN君と同じ養護学校を卒業し、同じ通所施設に通っていた経緯もあり、またチームとして協働いただいたジョブコーチの支援も円滑に行えたため、スムーズな採用活動となった。
3名の採用活動に共通する「雇用前実習」を約2週間行い、通所施設で業務として行っていた調理業務(サンドイッチ作り)を参考に、ホテルブレッドの梱包業務・仕分け業務をメインにレストラン部門に従事してもらうことに決定した。年齢も若いMさんは、平成26(2014)年度採用した新入社員と同じ年頃であることもあって、スタッフとの連携もスムーズにいき、自然に現場に溶け込んでいった。
パンの梱包業務は朝早くから行う。店頭に並ぶまでに数十種類のパンを梱包する業務は開店時間との戦いでもある。Mさんは早朝の業務にもかかわらず、現在まで無遅刻無欠勤を続けている。体調面の不安等も周囲のスタッフとよく話し合うことで解決し、またスタッフ間の意思疎通も図れており、採用から9ヶ月を経過した今では無くてはならない存在となっている。
![]() パンの梱包① | ![]() パンの梱包② |
3. 今後の展望と課題
障害者雇用で大切なのは、「受け入れること(寛容)」ではないかと考えている。障害のない者との能力比較をするのではなく、各個人の置かれた状況をできる限り理解するように努め、その特性に応じた対応をとることが大事なのではないか。
「ノーマライゼーション」・・・障害者を排除するのではなく、障害があっても障害のない者と均等に当たり前に(ノーマルに)生活できるような社会こそがあるべき社会の姿であるとの理念に沿って、障害者の方達と分け隔てなく接していくことが大切なことと考える。
また、障害者を含む高齢者等が、社会生活に参加する上で困難なことや、精神的な壁を取り除くための様々な施策を更に進めて、「心のバリアフリー」を展開していかなければならないと思う。
言葉で表すのは簡単だが、私も実践していくにつれて様々な壁にぶつかったことも事実である。現場社員との対話を増やしながら、また雇用障害者とのコミュニケーションを活発にして、より多くの障害者雇用の創出をしていきたいと思う。
来る平成30(2018)年には精神障害者の雇用も義務付けられることとなっている。より一層、障害者雇用に対する社会的偏見を無くし、障害者の良き理解者(パートナー)となり、共に学び、共に成長していく必要があるのではないかと思う。
執筆者: | 富士屋ホテル株式会社 湯本富士屋ホテル 総務課長 雨宮 敏 |
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