職場環境の改善と知的障害者の職域拡大を図る
- 事業所名
- 社会福祉法人福寿会
- 所在地
- 富山県南砺市
- 事業内容
- 第一種社会福祉事業及び第二種社会福祉事業の経営
- 従業員数
- 511名
- うち障害者数
- 10名
障害 人数 従事業務 視覚障害 聴覚・言語障害 肢体不自由 3 内部障害 知的障害 4 清掃、洗濯業務 精神障害 3 発達障害 高次脳機能障害 難病等その他の障害 - 目次
![]() 事業所外観 |
1. 事業所の概要、障害者雇用の経緯と現状
(1)事業所の概要
社会福祉法人福寿会は、砺波市、小矢部市及び南砺市が一体となって社会福祉事業その他の公益事業の経営を適切かつ効率的に行い、利用者の個人の尊厳を保持しつつ、自立した生活を地域社会において営むことができるよう支援することを目的として、設立された。第一種社会福祉事業として特別養護老人ホーム、第二種社会福祉事業として老人デイサービス事業、老人介護支援センター、障害者福祉サービス事業他を運営している。
昭和47(1972)年12月に法人、特別養護老人ホーム福寿園を設立し、事業を開始した。その後、昭和58(1983)年に特別養護老人ホームやすらぎ荘、平成12(2000)年に特別養護老人ホームいなみの事業をそれぞれ開始し、平成26(2014)年4月に社会福祉法人城端福祉会と合併し、特別養護老人ホームきららの事業が加わった。
![]() 福寿園本館リビングルーム |
(2)障害者雇用の経緯と現状
当会では特別養護老人ホームを4施設運営しているが、その内の「特別養護老人ホーム福寿園」での活動を紹介する。この施設は要介護と認定された方で在宅での介護が困難な方の日常生活の支援を行う介護老人福祉施設である。これからの時代に適応した介護サービスのあり方を考えながら、皆様から選ばれる施設づくりを目指している。平成21(2009)年にはユニット型個室を持つ本館の新設工事が終了し、既存の平成館、別館を合わせ3館(定員142名)となった。家族や地域の結びつきを大切にした福祉施設として親しんでいただきたい、と考えている。
福寿園での障害者の雇用は、平成16(2004)年にハローワーク砺波から知的障害者を紹介されたことが始まりであった。当施設は介護を必要とする業務が多く、知的障害者に行ってもらう仕事内容や労働時間がどの程度可能なのかといった点で不安な面があった。しかし、砺波障害者就業・生活支援センターから障害者雇用を始めるに当たっての手順や各種制度について助言をいただき、県の「障害者チャレンジトレーニング事業」を利用し、2週間の職場実習から始めた。その後3ヶ月間、ハローワークの「障害者トライアル雇用」を経て本採用となった。現在では、支援学校等から実習の要請があれば受入れており、平成21(2009)年4月に県立となみ総合支援学校から卒業生を採用した。
2. 取組みの内容と効果
福寿園で働く2人の知的障害者は、いずれも清掃と洗濯業務などを行っている。清掃業務は、塩化ビニールシート貼り床面のモップを掛け、玄関や事務室などのカーペット仕上げ面は電気掃除機を使ってチリを吸い取っている。洗濯業務は、ホーム職員のユニフォームを洗濯機4台使って洗濯した後、職員の名前をハンガーとユニフォームで一致するように気を付けて物干し竿に干す作業をしている。
(1)職場環境の改善 その1・・・Aさんの場合
(ア)人的支援(業務遂行援助者の配置)
Aさんには重度の知的障害があることもあって、職場実習のころから就業支援ワーカーの訪問指導を受けていた。また、平成18(2006)年の本採用後には「業務遂行援助者の配置助成金」を活用し業務遂行援助者を配置して作業能力の向上を目指した。その頃は、利用者の洗濯物のシャツやタオルを畳んでその名前を確認した上で利用者毎の棚に片付けたり、施設全体の手摺を消毒液で拭いたりする作業を業務の手順や見本を見せながら就労支援を図った。本採用から8年が経過し、細かな指示や確認をしなくても支障なく業務を行うことができる様になった。
(イ)物的支援(職域拡大に伴う設備の導入)
平成21(2009)年の本館建設に伴い従来の洗濯業務が無くなることとなり、作業区域・職域を見直すことになった。本人の混乱を招かぬ様に作業区域を本館1階に限定するために、「障害者作業施設設置等助成金」を利用し自動洗濯機、業務用掃除機を導入した。機械の使い方や作業の要領について、実際のやり方を業務遂行援助者と一緒に繰り返すことで、今では自分で段取りができるようになっている。これにより、手作業から機械を使用しての作業へという職場環境の整備を行い、障害者の職域の拡大を図っている。
![]() 掃除機をかけるAさん |
(2)職場環境の改善 その2・・・Bさんの場合
Bさんも重度の知的障害者で、採用されて6年目である。総合支援学校の生徒の時に実習で当施設の作業を経験した。
朝9時にタイムカードを入れ、皆さんに挨拶し日報を受け取って作業を始める。午前中は2階で食器洗いや洗濯、利用者の方の車いすの消毒をする。また、各部屋のベッドのテーブル拭きやおしぼりを置くことも仕事である。これが終わったら3階で清掃を行う。そのときは「3階の掃除に行きます」と指導員に声をかける。3階では電気掃除機で床掃除を行う。この後は2階に戻り、利用者のおやつ用のコップを洗い、洗濯物をたたむとお昼休みになる。
午後も午前中と同じように食器洗い、渡り廊下の掃除、洗濯をする。午後4時になるとその日の出来事を日報で指導員に報告し、皆さんに挨拶して帰る。これがBさんの日々の作業である。
(ア)ジョブコーチによる支援(作業日誌の活用)
本採用後、富山障害者職業センターのジョブコーチから知的障害者との接し方などの指導を受け、業務説明書、業務日報の作成とBさんが目標を持って日々の仕事をする等の提案があった。そこでジョブコーチ、Bさんを交えての話し合いで
・ 朝と帰りに利用者の皆さんに挨拶をする
・ 他の階や棟へ行くとき等の仕事の区切りに指導員に報告をする
・ 分からない時は質問する
・ 正しいやり方を教えてもらい、正しく作業する
を目標とした。作業日誌に「○できた」、「△まあまあ」、「×できなかった」でチェックし、Bさんの「感想・質問」欄を設けた。これに指導員の意見を記入し、家族にも連絡することにして皆でのコミュニケーションを図った。作業日誌は業務日報の裏面を使用していたが、その後は業務日報のみで運用し適宜その内容を見直しており、現在は平成24(2012)年に作ったものを使用している。
![]() 食器を洗うBさん |
(イ)現在の方法(業務説明書の活用)
Bさんには食器の洗い方を写真とイラスト入の業務説明書で教えている。これはBさんにとって「働くこと」が初めての体験であったため、自分のペースで繰り返し作業し覚えてもらうために作ったものである。今は、既に頭の中に入っているが、日報のファイルにこれを閉じておいていつでも確認できる様にしている。また、日々の作業については時間毎に何をするのかを業務説明書で説明し、作業が終わる毎にその項目に○を付けるようにしている。口頭での報告とこの日報を併用し指導員とのコミュニケーションを図っている。
![]() 業務説明書 (イラスト入りなので見て分かるように 工夫されている) | ![]() 業務日報 (仕事の内容が時間帯で分かれている) |
(3)指導員 飯田さんの話
Bさんは特別支援学校を卒業して初めて社会に出て働くということもあり、仕事の教え方の判断に迷うことがあった。ジョブコーチの方や周囲からの支援があって、Bさんは利用者の方と笑顔で会話をしたり、決められた日課を終えることができるようになった。今後は今の業務の中で少しでも働く喜びを見つけてもらえればうれしいと思う。
Aさんは60歳を過ぎ年齢上は高齢者の仲間に入ったが、まだまだ元気である。体を動かすことがその源であるかのように毎日働いているが、Aさんと話し合いの上、可能な限り水曜日の午後は半日休暇を取り休養に充ててもらっている。
![]() 指導員の飯田さん |
3. 今後の方針
障害者雇用については社会福祉法人として、そして人として取り組まなくてはならない事項だと思っている。
当施設は、介護サービスを人から人へ直接提供する事業を展開している。そういう意味では、人に対する思いやりが、業務を実際に行っていくうえで、いちばん大切なことだと感じている。自らハンディを背負っているということは、この思いやりの大切さを実感しやすい環境にあると考えることができる。ハンディの度合いによっては、介護サービスを直接提供できない場合もある、それを支える職種も含めて信頼と協力の関係を築くことが課題である。
障害者が自らの能力を最大限に発揮し、また能力の限界を受入れることができる事業所を目指したいと思っている。
![]() 施設長 下田 正佳さん
|
執筆者: | 富山高齢・障害者雇用支援センター 窓口サービス業務 久保 正春 |
アンケートのお願い
皆さまのお役に立てるホームページにしたいと考えていますので、アンケートへのご協力をお願いします。
なお、事例掲載企業、執筆者等へのお問い合わせや、事例掲載企業の採用情報に関するご質問をいただいても回答できませんので、あらかじめご了承ください。
※アンケートページは、外部サービスとしてMicrosoft社提供のMicrosoft Formsを使用しております。