障害者の従業員満足度の向上による「働きがい」の創出を目指して
![]() 事業所の外観 |
1. 事業所の概要
(1)概要
当行は、明治32(1899)年12月に当時隆盛に向かっていた織物業界を中心に資金を供給し、地場産業を育成・発展させることを目的として設立された。平成24(2012)年4月には、地域のみなさまに「いつも、いつでも、いつまでも」地域社会とともに在り続けることを宣言し、創立以来、初めてコーポレートブランドマーク及びスローガンを制定した。
現在(平成26(2014)年)は、創立115周年を迎え、引き続き地域経済に広く貢献すべくあらゆる金融サービスを通じて、地域のお客さまのライフステージに応じた解決策を提供できるよう、リレーションシップバンキング(地域密着型金融)の実践に全力で取り組んでいる。その継続的な取組によって地域のお客さまから最も信頼され、支持される銀行として“お客さまが「そばにいてほしい」と思う日本一の銀行”を目指している。
![]() 当行のコーポレートブランドマーク及びスローガン |
(2)経営理念
金融サービスのご提供を通じ「お客さま(地域)のご満足」、「株主の方々(投資家のみなさま)のご満足」、「銀行(グループ)の満足」をバランス良く高める経営を目指し「トライアングルバランスの堅持」を経営理念に掲げている。
(3)CSRへの取組
「地域社会への感謝と恩返し」をCSRの基本方針とし、「教育」「環境」「歴史・文化」の3点を柱にさまざまな社会貢献活動を行っている。
ア.教育
教育機関への講師派遣や職場体験の受入れ等を通して、地域の明日を担う人材の育成支援に取り組んでいる。例年、12月に福井県金融広報委員会との連携による「金融機関見学会」を実施しており、県内の特別支援学校高等部の生徒を対象とした端末操作体験(銀行窓口での口座開設、入出金の疑似体験や、ATMによる入出金の体験)や職場見学などを通して、充実した金融経済教育活動を行っている。
また、平成24(2012)年度より、県内の銀行では初めてサービス・ケア・アテンダント資格(SCA)を導入し、障害者や高齢者の疑似体験などを通して、障害者や高齢者への理解を深めることができるよう職員の接客サービスの向上に努めている。
イ.環境
環境に配慮した事業展開や環境・景観形成活動を通して、豊かな自然環境の保全に努めている。その取組としては、平成25(2013)年4月より福井市の「フラワータワー里親事業」へ参画し、福井駅前にフラワータワーを設置することによって来福者を始め、市民に対し、美しい花の景観を提供している。また平成25(2013)年10月より、「ふくぎんの森づくり活動」を実施し、役職員による植樹活動を行っている。
ウ.歴史・文化
地域社会の一員として、地域行事への積極的な参加を通して、地域の歴史・文化の振興を図り、地域経済の活性化に取り組んでいる。その取組としては、来店されたお客さまに、地域のみなさまの各種作品を店舗内に展示する「ロビー展」を随時開催している。
また、地域ごとに開催されるお祭りなどのイベントに職員が積極的に参加し、地域のみなさまとの親睦を深めている。
2. 障害者雇用の取組
(1)障害者採用と雇用後のサポート体制
当行は、これまで築き上げてきた地域間ネットワークを活用し、ハローワーク、外部支援機関、特別支援学校などの各関係機関からの紹介を通して、公平な採用基準に基づき積極的に障害者を採用している。近年においては、身体障害者に限定することなく知的障害者及び精神障害者の特徴・留意点について行内の理解を深めるとともに、障害の種類や適性・能力などに応じて、職務と職場のマッチングを図ることで雇用につなげている。
また、雇用前後においては、雇用の機会創出及び拡大や職場の早期定着のために、障害者職業センターのジョブコーチ支援やリワーク支援など各種支援制度を利用するとともに、障害者の負担を軽減し働きやすい環境を維持するために、ご家族、医療関係者、外部支援関係者と連携したサポート体制を確立している。
(2)新部署の開設と事務集中化による職務開発
下記3点の課題を解決すべく、平成24(2012)年7月に本部(事務企画グループ)に「ビジネスセンター」を新設するとともに、営業店における相続事務、融資事務などの事務に、為替事務、契約書集中事務を加えた事務処理の一部を本部に集中化させた。これらの事務は一般的に障害者にとっても取り組みやすい定型的な作業が含まれ、障害者の職務の創出につなげることができた。
ア.社会的背景
「障害者の雇用の促進等に関する法律」の改正に伴い、障害者雇用の拡大や質の向上を目的とした社会的要請が高まっていた。
イ.銀行業務とのミスマッチ
銀行業務は究極のサービス業といっても過言ではない。現に職員は、複雑かつ多様な業務を遂行し、法規定の遵守を前提として、お客さまの要望・意向に沿った判断が求められている。その一方で、障害者は一般的に、定型的な事務やその他専門的な事務などを希望する者が多く、両者にはミスマッチが発生していた。
ウ.生産性の向上
金融の規制緩和やお客さまのニーズの多様化によって、特に営業店における銀行業務はますます複雑化しており、業務の見直しによる生産性の向上が課題となっていた。
(3)事例紹介
上記(1)及び(2)の取組が実を結んだ発達障害者Aさんの雇用事例を紹介する。本事例でのポイントは2点ある。1点目は、企業が障害者の障害特性・適性・能力を正確に把握し、ご家族や外部支援機関と連携しながら、いかに本人に適合する職務を提供できるかということである。2点目は、雇用後においても各関係者との連絡を密にとることにより、勤務状況を把握し問題が生じた場合は改善できるよう、きめ細かいサポート体制を確立することである。
ア.雇用までの取組
本事例は、下記(ア)~(オ)のスキームを経て、雇用につなげている。
(ア)本人、ご家族、外部支援機関から情報収集し、障害特性・適性・能力を把握
Aさんは、周囲とのコミュニケーションや共同作業を苦手としており、定期的に通院するなど、周囲からのサポートが必要であった。特技としては、特定の物事に対して記憶力が良く、特にパソコンスキルにおいては各種IT資格を取得するなど、特筆すべき能力がうかがえた。また性格も素直で真面目であり、指示された業務に対して堅実に取り組む能力が高いという特徴もあった。
(イ)適合する業務の検討
Aさん本人の特性をいかすことができ、且つ働きがいにつながる業務として、パソコンを使用した定型的な反復業務を想定した。その後、行内の業務内容を調査し、ビジネスセンターにおける「為替データ入力業務」が適合するのではないかという仮説を立てた。
(ウ)所属長と面談
ビジネスセンターの所属長との面談を通して、本人の意向を確認し、適合する業務の検討を重ねた。
(エ)ご家族、所属長、保健師と相談
育成リーダーの選定や今後のサポート体制について確認し合った。
(オ)配属先、担当業務等の決定
ビジネスセンターにおいて、為替データ入力業務担当として配属した。本人の意向にも沿っており、順調に業務を習得していった。
![]() 内容を確認するAさん | ![]() データを入力するAさん |
イ.雇用後の取組
雇用後においても、各関係者(主治医、保健師、所属長、人事担当者)が本人と定期的に面談し勤務状況や問題点を把握できるよう、きめ細かなサポート体制を敷いていた。
そのような状況のなか、15:30以降の勤務時間において、集中力が切れ体調不良となる問題が顕在化した。この問題を解決すべく、ご家族や各関係者へ相談するとともに、本人の了解を得て、9:00~17:00の勤務時間を9:00~15:30に短縮した。
さらに、仕事がない状況に不安を感じ悩んでしまう一面もあったことから、育成リーダーが常に声掛けを行い、業務が途切れないように努めた。
これらの対応により、Aさん本人の精神的負担の軽減を図り、雇用の安定化につなげた。現在、Aさんは体調も安定し、勤務振りも良く、いきいきと業務に邁進されており、周囲の職員からは、「データ入力スピードが特に優れており、非常に助かっている」との声が挙がっている。
![]() 保健師、所属長と面談するAさん(写真右側) |
3. 今後の展望と課題
(1)障害者のES(従業員満足度)向上
当行の障害者雇用のスタンスは、「法定雇用率を遵守すること」だけに留まらない。量的施策に基づく雇用は、後々に障害者の就業観のギャップや意向の相違が生じる可能性が大きいことから、必ずしも障害者の満足には至らず、社会に対しても真に責任を果たしたとは言えないと考えている。したがって、当行の障害者雇用の在り方は、単に法定雇用率の遵守に留まらず、下記3点を捉え、いかに障害者のES(従業員満足度)を高めていくかという質的向上を目的とした取組にある。
ア.障害の種類・適性・能力等に応じた更なる職務開発
銀行業務は多岐にわたり専門的な業務が混在する状況のなかで、障害の種類・適性・能力等に応じて業務を見直すとともに、職務を開発していくことよって、障害者がいきいきと業務に取り組むことができる「働きがい」を提供していく必要がある。
イ.評価制度・賃金体系の整備
評価制度・賃金体系は、職員のやる気や向上心に大きな影響を与える重要なファクター(要因)である。評価については、障害の種類・適性・能力等に応じた役割や目標を明確化し、その達成度に対しての具体的な評価制度を設けるとともに、賃金については、障害者が担うであろう主な業務に対する組織貢献度を賃金として体系化していく必要がある。
ウ.キャリアプランの設計と人財育成
「企業はヒトなり」と呼ばれるように、銀行はまさに「ヒト(従業員)」で成り立つ組織である。当行は現在、「人材」を「人財」として捉え、地域経済の活性化につながるよう職員一人ひとりの「人間力」の向上を重点施策としてさまざまな取組を行っている。
障害者が担う業務については、障害の種類によって限定される可能性があるものの、この考え方は不変であり、職員と同様、人財育成に努める必要がある。その前提として、障害者が現担当業務に長期間留まることがないよう、可能な範囲でジョブローテーションを計画するとともに、業務の幅を広げながら知識やスキルの習得につながるよう将来のキャリアプランを個別に設計していく取組が必要である。
(2)職場への理解促進
障害者雇用のポイントのひとつには、単にインフラ面の整備に留まらず、職員に対して、障害の特性や各人の性格、配慮する点などの正しい情報を伝え、理解促進を図ることによって、障害者を含むすべての職員が働きやすい職場環境を整備していくことがあげられる。当行においては、職員に対する今後の施策として、障害に関するセミナーや研修を外部支援機関と連携しながら継続的に実施していく必要がある。
(3)地域社会へのアプローチ
当行は、地域のリーディングバンクとして、地域社会に広く貢献していく使命を帯びている。その活動範囲は当行のみに限定することなく、今後は地域社会全体に対して、障害者雇用の促進や自立支援につながっていくような主体的活動が必要である。
執筆者: | 株式会社福井銀行 経営企画グループ人事企画チーム 大平 則之 |
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