事業所の取組と障害者本人の努力が相乗効果を生んでいる事例
- 事業所名
- 社会福祉法人ぎんが福祉会 障害者支援施設コスモス
- 所在地
- 山梨県甲斐市
- 事業内容
- 障害者福祉サービス事業
- 従業員数
- 53名(障害者支援施設コスモス)
- うち障害者数
- 1名
障害 人数 従事業務 視覚障害 聴覚・言語障害 1 生活支援員 肢体不自由 内部障害 知的障害 精神障害 発達障害 高次脳機能障害 難病等その他の障害 - 目次
![]() 事業所外観 |
1. 事業所概要
(1)事業所の概要
ぎんが福祉会は、平成3(1991)年より重い障がいを持つ仲間とその家族が中心となり、地域の中での普通の生活を目指し活動を開始した。
地域で暮らす方の要望や自立生活を支援するため、一人一人の願いを受けとめ、共感的に理解しながらケアができるように小規模で多機能な役割を発揮できる施設づくりを行っている。
これまでに、今回紹介する「障害者支援施設コスモス」(施設入所支援・生活介護事業所)、をはじめ、「ぎんが工房」(多機能型事業所:就労移行支援、就労継続支援B型、生活介護)、「雀のお宿」(障害者グループホーム・認知症高齢者グループホーム)、「びゅー」(居宅介護事業所)、「きららベーカリー」(就労継続支援A型事業所)、「雀」(高齢者相談・通所介護事業所)、「きらり」(放課後等デイサービス事業所)と施設づくりを展開し、これらの施設が連帯して重いハンディがある方達も住み慣れた地域で自立した生活を目指していけるよう積極的に支援を進めている。
利用者の人権や生活が守られ前進していけるように取組を重ね、利用者が主人公となれる運営を心掛け、福祉の街づくりの輪を拡げている。
なお、経営方針は次のとおりである(原文のまま)。
〔利用者が主体の普通の暮らし〕
普通の生活が送れるよう施設は小規模で個室を確保し、人権とプライバシーを守り、利用者が主人公となる運営を目指します。
〔自己決定と自立生活〕
生活目標を明確にし、自らの人生を主体的に切り開いていけるよう自立した生活を目指して積極的に支援します。
〔地域の福祉を共に支える〕
地域に開かれた施設を目指し、地域の人々やボランティアの参加を大切にし、福祉の街づくりに協力します。
(2)障害者支援施設コスモスの概要
ぎんが福祉会障害者支援施設コスモスは、身体障がい者を主な利用者として、長期・短期の入所支援及び在宅障害者の通所支援を行っているほか、在宅サービス(居宅介護)や障害児者相談支援事業なども展開している。
![]() お話を伺った施設長の望月さん |
(3)障害者雇用の理念
法人設立以来、地域で暮らす障がいを持つ方々が自立した生活を送れるように支援を続けている。重度の障がいを持つ方々にも可能な限り、就労継続支援事業所の設置により福祉的就労ができる施設づくりを行い、軽度の障がいの方々には、本法人の施設事業所ごとに、障がい者雇用を行っている。したがって、障害の有無というよりも、本人の能力に応じた雇用を基本に考えている。
2. 取組の経緯と具体的な内容
(1)取組の経緯
当法人の障がい者雇用は、障がい者向けの介護ヘルパー養成講座の実習先として実習生の受入れなどを経て、平成17(2005)年山梨県聴覚障害者ホームヘルパー2級養成講座を修了した聴覚に障がいのある方を採用し、障害者支援施設コスモスに配属したのが、初めての障がい者雇用である。それ以降も、前向きに取組を行ってきた。
また、その方は離職することなく現在も活躍し、真摯に業務に携わる姿勢で模範的な職員ともなっている。そのことが、他の事業所の障がい者雇用の理解にもつながっている。
(2)取組の具体的な内容
- ア.労働条件等
- (ア)期間
1年ごとの有期労働契約(原則更新)。 - (イ)勤務場所
障害者支援施設コスモス内。 - (ウ)勤務時間
パートタイムで、基本的には9:30~16:00の時間帯の実働5.75時間となっている。 - (エ)賃金
時給制。他の非常勤職員と同様に定期昇給を毎年4月に行っている。
また、賞与を年間2回支給している。
- (ア)期間
- イ.仕事の内容
主に、施設入所者や短期入所者への生活支援(身体介護も含む)が中心の業務内容である(食事介助、排泄介助、入浴介助、施設内の清掃業務など)。
食事介助の様子1食事介助の様子2 - ウ.助成金等の活用
助成金に関しては、トライアル雇用奨励金、特定求職者雇用開発助成金(特定求職困難者雇用開発助成金)、重度障害者等雇用促進助成金(山梨県の条例に基づく助成金)などを活用している。 - エ.労務管理上の工夫
- (ア)コミュニケーションについて
介護ミーテング(毎月1回(16時~18時))と職員内部研修会(不定期、年6回位)の際に、複数の手話通訳者の派遣を依頼し、意思疎通を確実なものとしている。
また、職員の中に、自主的に手話を勉強している者が5、6名おり、コミュニケーションの向上に一役買っている。 - (イ)業務について
聴覚に障がいがあるため、利用者居室などからの呼出しなどは、スタッフルームのカウンター上にパトライト(黄色の回点灯)を設置することで、当事者が目視で確認できるようにしている。
また、身体障がい者の生活支援は利用者に密接に関わる業務であり、利用者の職員に対する理解が不可欠となる。そのため、当事者の障がい(聴覚障がい)については、本人の承諾を得て、利用者に説明し理解を得ている。
設置されているパトライト - (ア)コミュニケーションについて
- オ.本人・上司の談話、エピソード等
- (ア)本人の談話、エピソード
- ● コスモスで働いているなかで、思っていること
「障がい者が働きやすい環境づくりをして下さっているので長く働きたいと思っている。」
「人間関係がうまくいっているので、働きがいを感じている。」 - ● 勤務上で、心がけていること
「利用者の一人一人のペースに合わせて介助する。」
「あわてない、あせらないように心がけている。」
「その人らしさを傷つけない、尊重する。」 - ● 利用者や同僚とのコミュニケーションなどで気を付けていること
「オウム返しをして、内容を確認する。」
「解らないことは、そのまま放置しない。」
「利用者とのコミュニケーションで、むずかしい時は、他の職員に代わってもらう。また、代弁をしてもらうこと等をお願いしている。」 - ● 仕事上のエピソードなど
「手話を学ぼうとしてくれる職員が増えて嬉しい。」
「私の幼少時に、お姉さんと呼んでいた方が、コスモス通所の利用者だったので、お会いした時は、びっくりした。また、懐かしく感じた。」
- ● コスモスで働いているなかで、思っていること
- (イ)上司の談話
「聴覚に障がいのある方を雇用した当初は、業務上、入所者の生活支援(身体介護)などが主な業務になるため、利用者や職員間のコミュニケーションに不安がありました。しかし、その不安は、本人の持ち前の明るさと頑張りによって、時間はかかりましたが解消されています。さらに、本人は、国家資格の介護福祉士にも挑戦し、資格を取得しました。仕事に対する向上心が強く、更に次の資格に向けて努力を重ねている姿は、他の職員も認めるところです。本人が、現在まで継続して力が発揮できているのは、周りの環境が良いこともありましょうが、なにより自身の努力の賜物と言えます。一方で、得意なボーリングでは、全国大会に参加して好成績を収めるなど、充実したプライベートを過ごされており、ワーク・ライフ・バランスを実現しているようです。」
- (ア)本人の談話、エピソード
3. 取組の効果、今後の課題と対策・展望
(1)取組の効果
当初、聴覚障がいなどから、利用者とのコミュニケーションや対応などに、不安があったが、本人を含め職場全体で積極的に相互理解を図ったことで、徐々に利用者の理解が得られ、それと同時に特に問題なく利用者にサービスを提供できるようになっている。
また、同僚の後押しもあり、現場で試行錯誤を重ねてきたが、これらの工夫がノウハウとなり、本人や障がいのない職員双方にとって今の働きやすい職場環境をつくりだしている。特に、「何ができるか」「何が必要か」を職員間で確認し、的確に把握することで、提供するサービスのレベルアップにつながっている。コミュニケーションを積極的に行ったことで人間関係が円滑化され、職場が和やかになった。さらに、本人の障がいを感じさせない仕事ぶりを目の当たりにすることは、障がいのない職員にとっても刺激となっており、職場全体が活性化されている。
(2)今後の課題と対策・展望
- ア.課題
部署内のコミュニケーションは、周囲の理解と本人の努力で、ある程度は行えると感じている。しかし、業務上での悩みや相談事に関しては、日々のコミュニケーションでは解消できないこともあるので、今後も特に意識をして上司が面談機会などを設ける必要があると考えている。 - イ.対策・展望
障がい者の福祉施設での業務は、利用者の生活支援が中心となっている。将来的には、現在、高齢者を雇用し従事してもらっている清掃や洗濯などの業務についても、本人の能力に応じて障がい者を雇用して従事してもらえる可能性があると考えている。
さらに、障がい者雇用を進めていく上で、可能性を含め「できること」を増やしていくというプラス思考で、障がい者が活躍できる場の提供を積極的に検討したいと考えている。 - ウ.総括
最後に、今後、障がい者雇用に取り組む企業に対してアドバイスするとすれば、次のとおりである。- (ア)障がいを持つ職員の障がい特性を、全職員が理解し、職場の一員として力が発揮できるようにチームワークを大切に職場環境を整えること。
- (イ)職場適応などが不安な場合には、ジョブコーチ支援やトライアル雇用など、支援機関の制度を効果的に活用すること。
- (ウ)障がいによって、できないことを数えるのではなく、できることを拾い上げて考えていくと雇用形態の幅も広がっていくので、プラスの発想から入ること。
また、当事例は、事業所の取組と本人の努力が実を結んでいる好事例として、特に、これから障がい者雇用に取り組む事業所にとって、大変参考になるものと思われる。
執筆者: | 雨宮労務管理事務所 所長 雨宮 隆浩 |
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