障害者職業カウンセラーとの連携による精神障害者の新規雇用と雇用の定着
- 事業所名
- 沼津信用金庫
- 所在地
- 静岡県沼津市
- 事業内容
- 金融・保険業
- 従業員数
- 418名
- うち障害者数
- 7名
障害 人数 従事業務 視覚障害 聴覚・言語障害 肢体不自由 2 事務補助 内部障害 3 事務補助 知的障害 精神障害 2 事務補助 発達障害 高次脳機能障害 難病等その他の障害 - 目次
![]() 事業所外観 |
1. 事業所の概要、障害者雇用の経緯
(1)事業所の概要
沼津信用金庫(以下「当金庫」という。)は、昭和25(1950)年4月20日に静岡県沼津市内で沼津信用組合として創立、翌昭和26(1951)年12月10日に組織変更し、名称も「沼津信用金庫」となる。
平成20(2008)年1月15日に駿河信用金庫と対等合併(存続金庫は沼津信用金庫)する。静岡県東部地域を中心に30店舗を構え、金融機関の健全性を表す自己資本比率は14.21%(平成26(2014)年3月現在)で、国内基準4%を大幅に上回り、経営の安全性や健全性の高さを示している。
当金庫の取引先は、地元の中小企業や住民がメインだ。地域に密着し、各種情報やサービスの提供など、個々のニーズに対してきめ細かな応対を図り、人と人との対話と信頼関係を軸に地域と共に発展していくことを企業理念とし運営している相互扶助型の金融機関だ。金融機能の提供だけでなく、文化、環境、教育など幅広い分野での“つながり”も多岐にわたり、地元催事や行事、ボランティア活動、本店ロビーをストリートギャラリーとして市民開放するなど、地域社会の活性化へ積極的に取り組んでいる。
(2)障害者雇用の経緯
当金庫の障害者雇用は、プロパー職員が体調を崩した結果障害者手帳を取得し、その人ができる仕事の範囲の中で雇用の継続を図ってきたことが始まりである。
障害者の新規雇用を始めたのは平成14(2002)年からだが、平成14(2002)年に新規に採用した人の雇用は継続には至らなかった。その後、平成21(2009)年の障害者就職面接会で、精神障害のあるAさんの人柄に触れることができ、Aさんを雇用することができた。
Aさんの雇用後も、毎年障害者就職面接会には参加するものの雇用機会には恵まれなかったが、平成24(2012)年5月にハローワークの紹介により、内部障害のあるBさんをトライアル雇用から受け入れ、仕事に対する姿勢が前向きだったため、8月から正式雇用とした。平成26(2014)年の2月に開催された障害者就職面接会では、業務内容及び雇用条件面で互いの希望がマッチングしたため、肢体不自由のあるCさんと精神障害のあるDさんを雇用することにした。
Cさんは股関節に軽度の障害があるが、面接会でバリアフリー対策が十分でないことを説明し、了承の上雇用した。Dさんについては、プロフィールファイルに、人柄やパソコンスキルをはじめとする詳細が明記されていたことがきっかけとなり、障害者職業センターの障害者職業カウンセラーのフォローもあり、雇用に結びついた。
現在、プロパー職員で障害者となった方を含め7名の障害者を雇用している。
2. 取組の内容と効果
(1)取組の内容
- ア.精神障害のあるAさんとDさんに対する取組精神障害のある、入社5年目のAさんと平成26(2014)年4月入社のDさんは、外見上では周囲から障害のない人と変わりなく映る。それだけに、いろいろな面で難しさがあった。
- (ア)Aさんへの取組初めての精神障害者の雇用であったAさんを雇用したときは、精神障害の症状や対応策等を十分に把握しておらず、障害について理解不足の状況下での雇用だった。支援機関に支援を依頼しようとしたが、どの機関へ相談したらよいか分からなかったため、人事課内にAさんの業務遂行を援助する担当者を配置した。担当者は障害者と一緒に仕事をすることは初めてだったため、Aさんの席は担当者の目の届く面前の席とし、できるだけ声をかけること、作業を選びながら作業指示を出すことから始めた。日によっては、作業が集中しすぎパニック状態になったり、作業が少なく空白時間が発生し不安になったりするため、担当者が、作業の指示を出すタイミングと作業の量を考えて対応したり、今後の作業見込みなどを具体的に伝えたりしてきた。また、季節の変わり目や、日々の中でも気分の浮き沈みが垣間見えることもあり、細かな対応を心がけてきた。
- (イ)Dさんへの取組Dさんについては、パソコンのスキルが活かせるよう、配属はAさんと同じ人事課とした。さらに、家庭訪問を行い、家族が安心できるよう事業所の概要、配属先の業務内容等を細かく説明し、雇用の定着にも努力した。また、障害者職業カウンセラーから、就業場所でジョブコーチによる直接支援の申出もあったが、個人情報が大量にある金融業務であることや、本人がジョブコーチ支援はなくても大丈夫という意思を示したため、ジョブコーチ支援は受けていないが、障害者職業カウンセラーから、精神障害の症状を踏まえ、(ア)一度に大量の仕事を与えないこと、(イ)仕事をいつまでに完了して欲しいと言わないこと、(ウ)終業後の帰り支度は急がせず本人のペースを尊重すること等のアドバイスをいただいた。Dさんの席の配置については、Aさんの雇用を継続してきた中での経験を活かし、職場環境に溶け込んでいるAさんを担当者の面前から目が届く範囲で少し離れた場所へと座席替えし、Dさんの席は担当者の面前の席とした。その後、Aさん同様、作業の指示を出すタイミングと作業量の調整は担当者が対応しているが、昼休みになると必ず30分ほどトイレに閉じこもることが日常化していた。金融機関として、外部に漏らしてはいけない情報がたくさんあるだけに、違う行動を取る職員がいれば注意を促さなければならない。そこで、障害者職業カウンセラーに来訪してもらい、トイレの件やこれまでの取組状況を相談し、職場関係者、障害者職業カウンセラーとDさんとの面接を数回実施した。その結果、気持ちを落ち着かせるためにトイレにこもるという、Dさんの気持ちに接することができたので、現在も障害者職業カウンセラーが架け橋となり、経緯を見守っているところである。
Dさんの就業の様子 - イ.内部障害のBさんへの取組Bさんは、総務で書類整理とパソコン使用の業務を担当しているが、体調面から階段の昇り降りが厳しいため、各フロアの昇降はエレベーターを使用している。金庫では、職員のエレベーター使用を禁止しているが、Bさんには自由に使用するよう伝え、それを全社の職員に周知して、Bさんの身体への負担が少ないよう対応している。
- ウ.肢体不自由のCさんへの取組肢体不自由のあるCさんは、本部でデスクワーク業務に就いているが、家庭の事情による短時間労働を希望したため、それを受け入れ、午後3時までの勤務としている。
(2)取組の効果
肢体不自由のあるCさんは、外見上で状況を把握することが可能なだけに、職場へも自然の流れで溶け込むことが容易である。
一方、精神障害者の場合は外見上、障害のない人と変わりないため、周囲の理解を得るまでに時間を要する。5年目のAさんは、この間における担当者の指導、本人の努力に加えて人柄もあり、現在では毎日の業務の流れを把握し、職場に馴染んでおり、通常業務以外の作業が発生した場合のみ、パニックに陥らないよう担当者が作業量を調整する程度になっている。また、Dさんは、任されている作業を十分認識し、現在ではDさんのパソコンスキルを知った他部署からも作業の依頼があるほど金庫に必要とされる存在になってきている。
3. 今後の展望と課題
新規の障害者雇用について、特例子会社を設立して障害者を雇用するという考え方もあるが、できれば同じフロアで障害者も障害のない者も一緒に働きながら、一体感を持って楽しいと思ってくれるような状況を構築したいという思いがある。
また、雇用の継続ついては、障害者の持っている能力を引き出せるかという部分と、障害者の雇用を増やすためにも仕事を整理し、他部署との調整が今後の課題でもある。
様々な障害者の雇用の継続に努力されているが、職場の人間関係などに左右されやすい精神障害者に対する雇用定着に力を注ぐ沼津信用金庫の将来に期待したい。
執筆者: | 静岡高齢・障害者雇用支援センター 原川 幸男 |
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